お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第十七旋律 『ニュー・ダーリントン(2)』

 

 

上層に向かうにつれて檻の中に入っているのは人間モースから通常のモースに変わっていく、どちらにせよ檻に入っている量のモースが地上に出るだけで被害は計り知れないので僕とアルトリアで分担して消滅させてきた。

 

「結構歩いたけど、そろそろ地上かな?」

 

「もう3階は上がったか、大規模な魔術工房的に見てもこの広さならもう地上に出れるはずだ」

 

やはりというかなんというか、ここまで同じようにアルトリアとモースを消滅させて歩いてきたが全くもってへばる様子がない。

魔力の総量もかなり上昇しているのは分かっていたけれど、楽園の妖精の制限解除がここまで強烈なものだとは思っていなかった。

 

「アルトリアとレインさんが強すぎてやることないですねぺぺさん」

 

「そりゃ亜麗クラスの妖精が2人そろえばそうよぉ〜!」

 

大火力の魔術を扱える僕とアルトリアが先陣を切って立香ちゃんを真ん中、最後尾の警戒をペペロンチーノが行っているおかげで目に映るモースを片っ端から消滅させるだけでいいのは正直楽な作業だった。

 

ここにくるまでに祓ったモースは通常型、人間型を含めておおよそ800ほどでよくここまで溜め込んだものだと思わず感心してしまう。

とはいえ、妖精が変化するモースを増やすの自体は簡単だ。

なにせモースを一匹捕獲して適当に誘拐してきた妖精を感染させればいい。

ニュー・ダーリントンの殺戮劇場で瀕死になった妖精でもここに連れてくるだけでモースは増やせるのだから。

 

それから10分ほど歩いて、階段を登ったところが僕たちの目指したゴール地点だった。

重たい鉄の扉、妖精にとっては毒となり得るその扉を開ければ目の前に広がるのは質素な教会だった。

 

「よお、レインフォート」

 

教会の入り口、その近くの長椅子に座る男。

僕たちを視界に収めるのと同時に椅子から立ち上がり、中央の通路へ歩いていく。

 

「オレが後輩と遊んでる間に地下水道からここまで来るとはなぁ?ぺぺの奴も一緒だから流石のオレも驚いたぜ」

 

「良い趣味の研究とは言えなかったんじゃないの?アレ」

 

「ああ、まあそれはどうでも良いんだ。どっちにしてもレインフォートにモース毒が効かないんじゃなんの意味もない」

 

『まあ、良い暇つぶしにはなったか』と付け足して、ベリルは嗤う。

ゆっくりと、一歩一歩こちらへ歩み寄りながらベリルは懐かしむように口を開いた。

 

「なあ、覚えてるかレインフォート。オマエと初めて会った時、お前は死ぬほど嫌そうな顔をしてオレと握手をしたよな?」

 

「そうだったか、嫌いな奴すぎてもう覚えていないよ」

 

「ハッ!そういうところだぜ?オマエのその眼、現世ではあり得ないランクの妖精眼が原因なのはなんとなく気が付いてたさ。結局、カルデアでは仲良くなれなかったよなぁ?」

 

「何が言いたい?」

 

「まあ、聴けよ」

 

ピタリ、とベリルの歩みが止まる。

距離にして5メートルほど、魔術師にとっては一瞬で詰められる致死の距離感。

そんな中で、ベリルは僕の目をまっすぐに見ていつもの薄ら笑いが鳴りをひそめ、悲観に満ちた表情のまま語り始める。

 

「オレはオマエたちみたいなほぼ妖精みたいな存在の“魔女”から産まれ、オレの母親はオレを産んだことで醜い姿になった。死んだほうがマシ、オマエのせいだと責められたと思ったら今度は泣きながら謝って“愛してる”と来たもんだ」

 

「そんな風に育った子供は愛が分からなくてな、醜い魔女に育てられた子供は美しいものを傷つけることを愛だと認識するようになった。まあ、殺しってのはそのための手段ってわけだな」

 

「魔女を愛する者はいない、魔女に愛される者はいない。魔女の子なんて愛するものはそれこそいないってのがオレにとっての常識でオレにとっての世界だった」

 

「でもよ、この世界に来て調べれば調べるほどオレの世界は壊れていった。あの稀代の魔女モルガンのことを本気で愛した男がいた。汎人類史でアーサー王の治世をぶっ壊した“最低最悪の魔女”を自分の命も国も捨てて愛した奴がいた」

 

「オマエだよ、レインフォート。おまえだ」

 

「…………だからなんだって?モルガンを愛した僕ならお前のことを愛してくれるとでも思ったのか?」

 

沈黙が教会に広がる。

ベリルの境遇についてはカルデアに関わる上位スタッフとして把握していた。

あのマシュを傷つけた事件でその歪んだ癖があるのも理解していた。

だからこそ、僕が彼に向けるのは嫌悪と侮蔑の感情だけだった。

 

だから、この妖精國で奴が何かしていると気が付いてから調査を進めてやっと離れたタイミングでここを訪れたというのだから。

 

「今更お前に感情を向けられるとは思ってないさ。だけどよ……お前の大事なモン、全部奪ったらどうだ?」

 

「……人間であるお前が僕に勝てると思ってるのか?」

 

「地下のモースはちまちま駆除してくれたみたいだけどよ?結局アレは実験で使った奴らでちゃんと“使える奴”ってのは自分で保管するものだろ?」

 

僕らの背後にある地下へ通じる扉、それ以外の扉から勢いよく飛び出してくる人間型のモースと一般型モースの群れ。

 

「地下にいたモースの駆除ご苦労さん。これが完成体のお披露目ってわけだ。通常、人間型合わせて500体……お前1人ならなんとかなるかもしれないがモースを討伐した後の呪詛にお前の娘も後輩もぺぺも耐えられるか?」

 

教会を埋め尽くす漆黒の群れ。

その中を掻き分けて教会の外へ向かうベリル。

僕たちにとっての退路はただ一つ、背後にある地下へ繋がる扉だけ。

全員生き残るために、やることは一つしかないだろう。

 

「ぺぺ、アルトリアと立香ちゃんを頼めるか?」

 

「それはモチロン、死ぬつもりってワケでもないんでしょ?」

 

「当然だ、モース500体くらいすぐに払ってみせるさ」

 

ぺぺの問いかけに不敵に笑う。

ペペロンチーノにもおそらくこの展開を打破できる手段はある。

そして、それを為した時ペペロンチーノの身体はモースの毒に耐えきれない。

彼にだってベリルに思うところがあってここに来たのはわかっている。

分かっているけれど、この呪いが僕に向けられたものならばその責任は取るべきだろう。

 

「ふぅん?じゃあ、そういうわけだから一旦下がるわよふたりとも」

 

「え……あっ、ちょっと!レイン!」

 

「無事で戻るんですよね!?」

 

「大丈夫、ただ同じ場所にいたら危ないってだけだよ」

 

アルトリアと立香ちゃんの腕を掴み、そのままついさっき通ってきた扉の先へ向かうペペロンチーノを見送り、扉が閉まったのを確認する。

そして、そのまま視線を目の前に蠢くモースの群れに向け……。

 

「出来れば“これ”は大切にしたかったんだけどな」

 

僕が汎人類史に生まれた時に付与されていた人としての属性。

時間神殿で聖剣を使った時に偏った妖精と人としての属性。

妖精炉と呼ばれる亜麗として生まれた僕に許された“竜の炉心”に似通った無制限の魔力炉心を使えば、当然“ヒト”としての属性は塗りつぶされていく。

 

「まあどのみち、アルトリア相手に使う予定だったから純妖精に戻るのは時間の問題だったか」

 

胸の奥、その最奥に宿る炉心に接続する。

ドクンッ、と莫大な魔力が魔術回路に満ちる。

 

全身に満ちる全能感、それと同時にかつてこのブリテンに存在した亜鈴として生きていたレインフォートの肉体が帰ってきた。

 

「───あぁ、この感覚も懐かしいな」

 

聖剣を持たない僕の最高値の肉体スペックに当時は存在しなかった妖精炉。

1000年以上何度も厄災を祓った雨の国の王子が本当の意味でブリテンに帰還したのだ。

 

右手を胸の高さまであげ、パチンッとフィンガースナップが響く。

それと同時に弾け飛ぶ数百のモースたち。

純粋な魔力放出に耐えきれず消滅していき、教会の通路ど真ん中がまるで海が割れたように道が開いた。

それと同時に所狭しと蠢いていたモースが一気に動き出す。

こちらを押しつぶさんとする勢いそのままに、モースが巨大な波となって僕を押し潰そうとして───

 

「───モルゴース」

 

巨大な漆黒の波が、突如僕の背後から現れた大波に押し流される。

ただの大波ではない、僕の魔力で練り上げた高純度の魔力が精製した波の形をした溶岩と言っても良い。

飲み込まれたモースが次々消滅をしていき、放たれた濃密な瘴気が教会を満たしていく。

 

「モース500体分の瘴気と言ってもこの程度か、大穴の際に立っていた時の方が気が狂いそうなものだったんだけどな」

 

しかし、それはそれ。

人間すらモースに変えてしまうものから生まれた瘴気は消してしまう方がいいだろう。

呪いや瘴気を祓う魔術を教会全域にかければ綺麗さっぱり、敬虔な信徒がいるのならば祈りの一つくらいは出来そうなものへ逆戻りだ。

 

「……ほら、終わったよ。もう大丈夫だ」

 

扉の向こうにいる3人へ声をかける。

幾分も待たずに鉄の扉が開いて立香ちゃんとアルトリアとペペロンチーノが出てきて、何事もなかったかのように綺麗になった教会を見て驚きの声をあげた。

 

「レイン……」

 

「どうした?」

 

「……人間の要素、捨てちゃったの?」

 

アルトリアの問いかけに首を縦に振る。

 

「まあどの道いつかは、と思っていたんだ。それが少し早まっただけのことだよ。汎人類史に生まれた時に与えられた向こう側で生きる権利と言ってもいい」

 

「じ、じゃあレインは……!」

 

「アルトリアが気にすることじゃないよ。元々中途半端な状態だったのがちゃんとした形に戻っただけ、どちらにせよ必要なことだった」

 

今にも泣き出してしまいそうなアルトリアを宥める為に言葉を尽くしてみようとは思うものの、僕がヒトとしての要素を大切にしていたのがわかっていたからだろう、嘘を話していないと分かっていてもそれが彼女にとっては僕が自分たちのために大切なものを無くしたという認識はきっと変わらない。

 

「たとえ、僕が大事にしてたものだとしてもそれで娘と同僚を守れたならそれでいいさ。それに…………」

 

教会の扉が開く。

僕たちの目線の先には拍手をしながら教会へ戻ってきたベリルの姿。

 

「やっぱすげぇよな、亜麗ってやつはよ。完璧に調整したモース500体を瞬殺した挙句、瘴気まで祓っちまうとは」

 

パチパチと教会に響くベリルの拍手。

その瞳にはおそらく様々な感情が渦巻いているのだろう。

羨望、渇望、そして決して叶うことのない感情。

 

「まあさっきも言ったけどよ、アレは所詮おもちゃでしかないわけだ」

 

「ベリル、貴方の目的はなに?」

 

「それはついさっきも聞いたぜ後輩。だが、ここまで来たからには教えてやってもいい」

 

獰猛な笑み、まるで獲物をとらえた肉食獣のような顔だった。

戦力はこちらの方が圧倒的に上、それなのにベリルの表情からは余裕すら感じ取れる。

まるで狩るのはお前たちではなく、オレだと言っているかのようで。

 

「……待って、どうして気がつかなかったんだろう」

 

「アルトリア……?」

 

「よく見てレイン!あいつ……アイツの霊基!」

 

アルトリアに言われるまま、妖精眼でベリルを直視する。

魂の情報、つまり人間にも存在する霊基を深くまで見ようとして……。

 

「ウッドワス!アレは『牙の氏族』、ウッドワスの霊基だ!!」

 

「ご名答、今のオレはお前たち亜麗と同じ霊基を持ってる……!」

 

ベリルの姿が変質していく。

まるで初めからそうであったかのように、人の姿からこの妖精國で知らぬものはいない牙の氏族長の姿へと。

 

女王モルガンに仕える第一の牙、妖精騎士長と肩を並べるこの妖精國における絶対の忠義の片翼。

 

亜鈴百選・排熱大公ウッドワスの霊基をその身に宿した男がその姿を現したのだ。

 

「これでお前とオレは同等だ。なあ、そうだろ?レインフォート」

 

漆黒の狼が、獰猛に嗤った。

 




ここが終われば過去編を挟んでついにオークニーですね。
この小説で書きたかったところがここから波のようにくるおかげで筆が速いです。
もちろん、皆さんからの高評価も影響してますしUAもうなぎのぼり……っと、あぶないあぶない。

それはそれとして、本編の方はベリルがついにブラックウルフとしての姿を現しましたね。
お兄様もそれに伴って人間としての属性を全て取り払った全盛期まで性能が戻りました。
以下、マテリアル的なものを投下してお別れといたします。
それでは次回でまたお会いしましょう!


マテリアル解放

『ベリルがマシュに向けた歪な愛、それとは別にレインフォートに特別な感情を向けて欲しいというものが追加されました。
アーサー王伝説における敵役の魔女モルガンを世界は違えど本気で愛した男がいた。
その人物は自分の目の前にやってきて、手に届く手段が自分にはあった。

ベリル・ガットの目的。
それはレインフォートと殺し合うこと。
殺し合うその瞬間だけは、その美しさはその輝きは全て自分に向けられるのだから。

だから、そのためならなんだってする。
女王の娘を使い潰して、かつての同僚やレインフォートの娘だって傷つけてやる。

だからオレを見ろ。』


余談ではありますが、あと少しで何とは言いませんが9って数字が400になりそうだったりします。いや、何とは言いませんけどね?【高評価】【感想】のリンクがたまたまここにあったりするのは偶然ですや偶然。(チラチラ)

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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