お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
「でも、オレが殺したいのは“今”のお前じゃない。お前、聖剣使いなんだってな。全力じゃないお前を殺しても、全力じゃないお前に殺されても意味がないんだ」
「そうか、なら今すぐに死ね」
「あのアルビオンの残骸を抜けばこのブリテンで最強の霊基を持つオレにフィジカルで勝てると思ってるのか?剣を持たない魔術師の真似事をしてる聖剣使いじゃ無理だぜ?」
ベリルのいうことは確かだ。
僕の生きていた時代の牙の氏族長もその強力な力でその武勇を轟かせていた。
それに、オークニーが滅びたあの日に僕の片腕を持っていったのも当時の牙の氏族長であった男だったのだから。
「だから剣を持ってこいよレインフォート。今のお前じゃオレには勝てない。これはフェアな戦いにしたいんだ、お互いに本気の戦いでなきゃならない」
「随分と傲慢だな、借り物の力で偉くなったつもりか?」
「挑発したって無駄だぜ?どう足掻いても“今はオレが強い”。弱い奴は強い奴に従うのが世界の理って奴だろ?」
ケラケラとベリルが笑う。
自分が強者に立つという全能感、実際にそれに裏打ちされた肉体のスペックがあるのは間違いない。
即死級の魔術をいくつ撃ち込んでも、それよりも早く僕の首が飛ぶのはわかっている。
「“見逃してやる”よレインフォート」
「そうか、じゃあ次に会ったときは必ず殺してやる」
「ハッ!いいねぇ!そのギラついた嫌悪の目だ。その感情を忘れるなよ?でないと、今度は別のやつに手を出しちまうかもしれないからな」
笑って、嗤って。
黒狼は教会から去っていく。
静寂が訪れる教会、その場から濃密な圧力が消えたことで肩の力が抜ける。
「…………レインフォート」
「ああ、こうなったらもう止まらないだろうな。そして、君がアイツに何かすることももう出来ない。カルデアに戻れペペロンチーノ、キリシュタリアが生きてるなら君が彼への恩で死ぬ必要はないよ」
「まあ、素直にその言葉を受け止めることにするわ。しばらくは立香ちゃんに同行することにしようかしら」
「そうしてやってくれ。君がついてるなら僕も安心できる」
なんにせよ、ベリルに対抗するための武器が必要だ。
シャスティフォルはレイレナードに預けていて返してもらう予定はない。
なら、奴を殺し切るための魔術を作り出せばいいだけの話だ。
どちらにせよ、ベリルは僕の準備が終わるまで手を出してくることはない。
ならば、僕がやらなければならないことは一つ減ったと言ってもいい。
「さて、巡礼の旅も折り返しだ。以前に言ったことを覚えてるかな?」
「三つ目の鐘を鳴らしたらオークニーに来いって」
「ああ、今はもう何もない廃墟だが……あの国がどんな場所だったかはわかるようにしておくよ。それに、立香ちゃん」
「は、はい!」
「君の探し人もあそこにいる。やるべきことを済ませたらアルトリアと共にオークニーへおいで、他の街のような歓待は出来ないけれどね」
「それって……マシュ、マシュがいるんですか!?」
「いる、というよりは眠っているの方が正しいかな。あの子は君の到着を待っているようにも見えたよ」
オークニーにある鐘付き堂、巡礼の鐘のさらにその奥に残されていた水晶の中でマシュは今も眠っている。
あくまで推測でしかないが、ノリッジの厄災を祓ったあとに現れた水鏡でマシュは過去に跳んだのだ。
そして過去のトネリコがマシュに出会い、ある程度の信頼関係を経て未来へ送り返すためにあのような封印の魔術を彼女に使ったのだろう。
「僕は一度オークニーに戻る。湖水地方から更に船に乗って来る必要があるからまるっと1〜2日はかかると思った方がいい」
「エディンバラよりも先だもんね。だったらみんな合流して動くよりも一度みんなに会ってロンディニウムの防衛とオークニーに行く組で分担しよっか。リツカもそれでいい?」
「もちろん。ってことは一度グロスターに戻った方がいいかな。みんながまだそこにいるかもしれないし」
「……ああ、それならちょっと待って」
グロスターからロンディニウムまでだってそこそこ距離がある。
ここからグロスターに戻って合流できればいいが、それで合流できなければそれこそ無駄足だろう。
視界を切り替える、世界を見る千里の瞳がグロスターとロンディニウムを見つめる。
結果としてはまだグロスターにいた。
場所は……大通り近くの酒場だろうか、ある程度会話をしても喧騒で掻き消されるような場所を選んでいるのは流石というべきか。
「芥たちがいるのはグロスターだな。ここからならぺぺの店から行くのが近いか。ぺぺ、店はまだ引き払ってないか?」
「モチロン、休業ってことで店は閉めてるけどね」
「じゃあそこにゲートを作っておくよ。グロスターまでショートカットできれば行動もしやすいだろう」
ペペロンチーノの店へ向けて水鏡のゲートを作る。
舞踏会からこんなところに飛ばされてあの量のモース駆除をすれば疲労も溜まるだろう。
わざわざニュー・ダーリントンからグロスターまで歩く必要だってない。
「それじゃあ、アルトリア。オークニーで待ってるよ」
「うん、ありがとレイン。用事を済ませたらすぐに行くから」
「ああ、待ってるよ。立香ちゃんも失意の庭を超えた後なんだ、あまり無理はしないように」
「はい、でも大丈夫です。必ずマシュを迎えに行きます」
アルトリアと立香ちゃん、2人が水鏡の中に消えていくのを見送って僕とペペロンチーノだけが教会に残る。
「ぺぺ、今の僕はカルデアの味方にはなれない。そんな僕が君にこんなことを頼むのはおかしいかもしれないが……あの子達を頼むよ」
「味方になれないだけで敵じゃないでしょ?なら、任されたわ」
「ああ、君になら任せられる」
「案外あっさり裏切っちゃうかもしれないわよ?だって私クズだもの!!」
「クズの相方のロクデナシが頼んでるんだ。きっと最後までこの頼みは聞いてくれるに違いない」
2人で顔を合わせ、控えめに笑う。
軽く手を振ってペペロンチーノは水鏡の中に消えていき、教会とペペロンチーノの店を繋ぐゲートは閉じた。
彼がいるなら立香ちゃんは大丈夫だ。
カドックに芥、キリシュタリアにペペロンチーノ。
癖の強い旧Aチームを仲間として集めていくカルデアには感心するしかないが、彼らなら必ず立香ちゃんを守り切ってくれるだろう。
「……さて、僕も色々と準備しないとな」
そうして、僕も水鏡を開きオークニーへと跳んで。
「お話があります、お兄様」
跳んだ先にありえないくらい不機嫌なモルガンがいた。
まさに詰み、という状況。
水鏡の跳躍先を今でもしっかり残っているあの図書館にしたのが不味かった。
あの頃に彼女が座っていたルッキングチェアに気温が数度下がっていそうな威圧感を放ちながら僕を待ち構えていた。
「ここ最近、随分と自由に動き回っていたようですね」
「……言い訳は特にないけれどね。それより僕も確認したいことがある」
ふたつの青い瞳が交差する。
重たい空気で僕らの間では一度も起きたことのないような冷たい沈黙。
「ロンディニウムで敗走したウッドワス、彼のその後はどうなった」
「キャメロットには伝令が報告をあげただけで彼は帰城していません。オックスフォードで治療に専念していると思っていましたが、それが何か?」
「彼の霊基がベリルに喰われた。霊基を複製、または抽出する魔術か呪術に心当たりは?」
「…………そうですか。あることにはありますが、現実的ではありません。術者の魂を腐らせる副作用がありますし魔力を消費すればするほど腐敗が加速するので使ったところで能力を活かす前に肉体が腐り落ちてしまいます」
正直なところ呪術に対しては僕は明るくない。
可能性は色々考えてはいたものの確信に至るまでは行かなかった。
ベリルの肉体、魂は腐るどころかウッドワスの霊基を取り込んだことでより強く強固なものになっていた。
なら、その代価を支払ったのはいったい誰だったのか。
答えは、一つしかなかった。
「あの娘、トリスタンはどうした?」
「今日はムリアンの開催していた舞踏会に出席していましたが」
「モルガン、最後に一つ聞くけれど。ウッドワスへの伝令は誰に行かせた?」
「……トリスタンです」
最悪だった。
嫌な予感、なんていう生易しいものではない。
ベリルがウッドワスの霊基を何のデメリットもなく手に入れることが出来る方法なんて一つしかない。
他の魔術師に魔術を使わせるのだ。
このブリテンで魔術が使える妖精は限られている。
僕にモルガン、アルトリアにレイレナード。
そして、モルガンの娘である妖精騎士トリスタン。
彼女は悪虐に生きていた、だが……その本質は純粋で勉強家で真面目な性格だった。
あの娘は一度懐に入り込めば基本的に文句を言いながらも言うことを聞いてしまう子だ、優しく甘いとも言える。
だからこそ、そんな彼女にとってベリルは猛毒だった。
僕が来てからは遠ざけていたのは知っていた、だがそれよりも前にベリルがトリスタンの内側に入り込んでいたのなら、それは……。
「待ってください、説明をして……」
「ベリルが使った魔術、いいや違うな」
彼女にとっては最悪の言葉だとわかっている。
その手の魔術の代償は基本的に祓うことができない。
それも魂にまで影響を及ぼすものなら尚更だった。
「ハッキリ言う、ウッドワスの霊基を複製したのはトリスタンだ。それをベリルが喰らってあの黒狼としての姿を得ている」
「───ぇ」
モルガンの顔から怒気が抜ける。
次第に現れるのは焦燥の表情で彼女から余裕がなくなっていくのがわかる。
「あの子に『
「……っ!その話は本当なのですね?」
「本当だ、僕はついさっきまでニュー・ダーリントンの地下で行われていた人間モースの研究施設の浄化をしてウッドワスの力を得たベリルと対峙していたんだから」
「そうですか……そうでしたか。トリスタンのギフトが剥がされたのは感じ取っていました。円卓のギフトが剥がされればあの子はもう妖精騎士トリスタンとして妖精たちに認識されることはない。あの子を……バーヴァン・シーを早く保護しなければならないのはわかっていました。あの子のことはレイレナードがいま、ブリテン中を駆け回って探していますから」
そこまで口にして、モルガンは自身を落ち着かせるために深呼吸をする。
たっぷりと2回、大きく深呼吸をした彼女は再び口を開いた。
「それで、アルトリアが三つ目の鐘を鳴らしここにお兄様が戻ってきた。ならば、次に鐘を鳴らしに来るのはここで間違いないのでしょう?」
「まあ、そうなるね。彼女たちにとって大切な仲間もここで眠ってる、マシュを取り戻しに来るし巡礼の鐘も鳴らしに来るだろう。それに、彼女たちを待ってるお節介な男もいるようだしね」
「…………お兄様はアルトリアを止めるつもりはないのですね」
「前にも言ったけれど巡礼の旅を止めるつもりはないよ。けれど星の内海に向かうのなら、僕の全霊を持って止めるけれどね」
「……ならば、私とアルトリアがいずれ戦うことになるのはわかっているでしょう。その時、お兄様はどうするおつもりで?」
「ギリギリのところで止めるつもりではいるけどね。どちらにせよ、僕の属性は全部妖精に戻したんだ。オークニーにいたあの頃と同じだけの出力は出せるよ」
「…………」
その言葉でモルガンの目が驚愕で一際大きく開く。
それもそうだろう、昔から人間が好きだと豪語していた男が自ら人間としての属性を手放したのだから。
「そうでしたか、確かにお兄様の霊基が強化されて……いえ、昔に戻ったような気はしていたのです。ですが、それでも全ての鐘を鳴らした楽園の妖精には届きません」
「まあ、そうだろうね。聖剣のない聖剣使いなんてその程度さ……でも、君たちを止めるだけならこの身体ひとつで事足りるとも言える」
「それは…………」
モルガンとアルトリアは僕には攻撃出来ない。
いや、正確には出来ないのではなくしないというだけの話だ。
いざとなれば捨て身で間に入れば最悪死にかけくらいで生きてはいれるだろう。
だが、いま彼女としなければいけない話はこんなことではない。
「ウッドワスのこともバーヴァン・シーのこともアルトリアのことも大事だが、それよりも話しておきたいことがある。わざわざあの時君の元から逃げ出すようなことをしたのは悪く思ってるが、それ以上に大切なことなんだ」
「……聞きましょう。もとよりその話を聞くためにここで待っていたのですから」
「君が予見して準備を進めた大厄災への対処。それに加えて対応しないといけない奴がいる」
本来ならばこの妖精國、いや……異聞世界ブリテンにおいて“存在しない”役割を持った男がいた。
存在しない、とはいっても“あり得ない”わけではない。
今はその座が空席というだけの話だ。
いつの間にかアルトリアの隣にいた男。
純白の衣を纏い、人当たりのいい笑みを浮かべ、それら全てが貼り付けたような偽りの顔であった。
「“妖精王”オベロン。君だって一度会った時に嫌悪感を覚えていただろう」
「一度顔を合わせたときに感じたあの魔力は絶対に忘れない。アレの正体は、ヴォーティガーン。おそらくこのブリテンで何度も君の前に姿を変えて現れては大厄災を引き起こした張本人、この異聞世界ブリテンにおける終末装置だ」
皆さんのおかげで☆9の数字が400に……!
ありがてぇ……ありがてぇ……!
でももっと【高評価】や【感想】で甘やかして!!!!!
さて、モチベーションすごく高いのでまた新話投稿のお時間です。
物語も後半はもう終わりが近いですね。
オークニーに突入となれば原作では20節。
全30節からなるアヴァロン・ル・フェももうだいぶ良いところまで進んできました。
正史とはことなりさまざまな変化が訪れている拙作。
モルガンはお兄様からバーヴァン・シーの状態を知り、レイレナードはモルガンの指示でギフトの剥がれたバーヴァン・シーを探している状態となってます。
ちゃんと見つかると良いですなぁ(ひとのこころ)。
そして、お兄様から暴かれるオベロンの正体。
このオークニー兄妹もケルヌンノスだけではなくコイツに対する対応もしていかなければなりませんね。
さて、物語も佳境に突入してまいりました。
皆様の応援(【高評価】や【感想】)で作者も頑張れますので何卒よろしくお願いします!
それではまた次回でお会いしましょう!
アヴァロン・ル・フェの更新について
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今まで通り月に3〜4話見れればいい。
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待ってもいいからストックして放出
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別に気にせんでええねんで(^ω^)