お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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前回、チラチラ皆さんを見てたら沢山の高評価をいただけてひっくり返った作者です。
今回はあとがきは簡潔なものになるのでここで感謝の意を伝えさせていただきますね

ほんっっとうありがとうございます!

でも作者強欲の壺なのでまだポチッとしてない読者の皆様が9とか10とかくれると飛び跳ねて喜んで続き投下するのでよろしくお願いします。


さて、過去編の最終話ご覧あれ。


第十九旋律 『妖精歴11600〜12000年』

 

 

妖精歴11600年、オークニー鐘付き堂。

 

ケルヌンノスの調査から数ヶ月後。

トネリコとマシュはロンディニウムの崩壊からなんとか逃げ抜き、ブリテン島最果ての地オークニーに逃げ延びていた。

目的はふたつ、トネリコがこれ以上はマシュをこの時代で生きていかせることができないと判断したため、棺と呼ばれる魔術でマシュをコールドスリープさせて2417年後の未来まで送り届けるため。

 

そして、トネリコはもうこの世界は救えないとしながらも来るべき大厄災のその先の未来への準備を行うため。

 

トトロットとは別れた。

トネリコたちはこのマシュと過ごした期間の記憶を持ち越してこの先の未来へはいけない。

もし、記憶を持ち越してマシュたちのいた女王歴に辿り着けば自分たちの存在の証明が難しくなってしまうからだ。

だからこそ、トネリコはマシュとの記憶を封じて先へ進むことを選んだ。

でも、トトロットは違う道を選んだ。

マシュとの約束、マシュとの記憶を保持したまま未来へ向かうと言った。

それは世界の修正力に抗うということで、トトロットの存在の否定に等しい。

マシュがこのブリテンに来た女王歴2017年まで耐えることが出来たとしても、彼女は今ほどの力を持つことは決して出来ないだろう。

 

「楽園の妖精はこの巡礼の鐘を鳴らすことで身体にかけられた制限を外していきます。この鐘は原初の亜鈴6人の子孫の氏族……風、牙、翅、鏡、土、雨の氏族長が姿を変えたものでもある」

 

「……では、オークニーにあるこの鐘は」

 

「うん、私のお母様……お姉様でもあるしお兄様でもあるのかな。でもお兄様は正確には雨の氏族ではないからお母様になるのかも」

 

自分以外の親族は髪の色も目の色も一緒だった。

自分1人だけが金髪で碧眼だったのはほんの少し気に食わなかったけれど。

今となってはそれも大したことではない、子供が1人家族と違う見た目に拗ねていただけの話だ。

 

「オークニーが壊されたあの日、私は妖精を憎んだ。でもね、家族の最後の言葉で私は今まで頑張ってきたんだよ」

 

「トネリコさん……」

 

「でも、うん……もう折れちゃった。今まで頑張って頑張って、その度に裏切られてきたけど今回のは流石に堪えたよね」

 

力なく、疲れ果てた笑みが溢れる。

うまく笑えている自信がない、無理やり笑うことには慣れてたつもりでも今回ばかりは流石にどうにも出来なかった。

 

「トネリコさんは、この後どうするんですか?」

 

「大厄災の後のブリテンに進むよ。お兄様が帰還するならそれまでブリテンは維持しないといけないから」

 

「…………そう、ですよね」

 

マシュの表情が沈む。

この先の未来で“私”とマシュの道が交わることはきっとない。

きっと、次に会うときは記憶がなくとも敵になることだろう。

だから、彼女とこうして話せるのはこれが最後になる。

 

「説明してた通り、マシュにはこれから私の魔術でずっと先の未来までコールドスリープしてもらうことになる。マシュの眠った“棺”はあなたと深い絆を結んだ人が現れた時に解けるようにしておくね。それと身体の心配もしなくて大丈夫、私も記憶は無くなっちゃうけど私がこのオークニーを絶対に守り抜くのだけは変わらないから」

 

「はい、身体のことは心配してません。トネリコさんは嘘をつかない方ですから」

 

「……はは、嬉しいなぁ。妖精たちみんながマシュみたいなのばっかりだったらよかったのに。そしたら、私たちの旅も……無駄にならなかった」

 

「…………」

 

こんなに暗い顔と暗い話ばかりしてもしょうがないだろう。

2000年も先の未来に送り出すのだ、なら最後は笑って送り出さなければ。

 

「ねぇ、マシュ」

 

「はい」

 

「私との旅は楽しかった?」

 

「はい……!それは間違いなく、かけがえのない大切な旅になりました」

 

それは嘘偽りのない真っ直ぐな言葉。

私の眼がそれを物語っている、心の底から胸を張ってマシュはそう答えたのだ。

 

「よかった、マシュがこの時代にきた記憶がつまらないまま終わってたらお兄様に顔向けできません。それと向こうに帰った時、もしお兄様に会えたら伝えてもらえるかな」

 

私では伝えられない言葉。

マシュからもたらされたお兄様の記憶も、私はこの先に持っていくことはできない。

遥か遠くの未来でまた出会えた時、私は“私”でなくなっているのだから。

だからせめて、たった一言だけでも私の言葉を届けたい。

 

「『また会えるその時まで、私は歩き続けます』って」

 

「わかりました、必ず……必ずお伝えします!それにトネリコさん、あなたの旅は決して無駄なことではありませんでした……!誰かに手を差し伸べる、それが間違っているわけが……ないんですから!」

 

「───そう、だよね。私たち頑張ったもんね!」

 

あまりにも純粋で、真っ直ぐな言葉だった。

こんな子がこの先終わりに向かうであろうブリテンの未来へ帰っていく。

マシュ・キリエライト、この時代では“妖精騎士ギャラハッド”の名を名乗っていた短い間ではあったけれど私の騎士として仕えてくれた友人。

だからこそ、彼女には報酬を与えるべきでしょう。

なにより、頑張った人にはそれ相応の対価を与えるべきです。

 

「そして、改めてお疲れ様でした。あなたのお陰で私が未来に向けてやるべきことが決まった、大穴の調査は私たちでは出来ない大偉業でした」

 

「ささやかですが、私の騎士であってくれたあなたに褒賞を与えましょう」

 

物理的に与えるものはきっと持っていっても意味がない。

マシュに必要なのはこの子が自分に向き合うために必要な心構えと未来において使えるであろう情報だけだろう。

 

「───いいですか、“ギャラハッド”。貴女が目覚めた先でモルガンの築いた妖精國を切除できたのなら、次の異聞帯で貴女を待つ『戦い』は、私と同じ『戦い』。自分の心との折り合い、人生の解析です」

 

「貴女には戦う理由がありますが、戦う意志が希薄でした。他人を、世界を傷つける力から()()()()()()()()()だと無意識に遠ざけていました。でも、()()()()()()()()()()()()自由を持っていて、それに伴った責任を持っている。人間は『善い』ことをしたいのではなく、『善い明日』のために最善を選択し続ける生き物です」

 

「……そして、その選択にはたとえどれほどの人々が救われようとも『正解』はないのです。『正解』がない以上、貴女は貴女の意思で自分の守るものと傷つけるものを選ばなければならない。貴女はこれかたくさんの心を知るでしょう」

 

例えばそれは

 

      受け入れる心

             / 挫けない、憎まない。

 

 

      跳ね除けようとする心

                / 穢されない、流されない。

 

「でもそれは、どんなに素晴らしい人間でも……決して争わないという心はない。『戦い』はどんな心にもある、どうかそれを忌避しないで。貴女の胸の空白が、自分だけの『戦う理由』に埋められた時」

 

 

「───英霊ギャラハッドは再び、貴女に全てを託すでしょう」

 

「争いのない、心はない。それが、どんなものであれ……」

 

「そう、目覚めた時には忘れてるだろうけど、()()()がきたら思い出すようにしておくね。私のように違うものに変わるのか、貴女のまま新しい貴女になるのか」

 

魔力が充分に満ちた。

妖精騎士ギャラハッドを優しく、冷たい魔力が覆っていく。

 

「貴女が目覚めた時、私と再会したとしても私は貴女のことを一切知らないから。貴女がノリッジで『水鏡』に巻き込まれた後なら、ここに残る『棺』について考察して、ああ『(アレ)』はそういうことか、なんて想像はできるかもしれないけど、多分その時の私は……トネリコじゃなくなってるから」

 

ギャラハッドの全身を護るように、巨大な水晶が彼女を包み込む。

もう幾分も経たないうちに彼女の意識も途切れ、次に目覚めるのは女王歴2017年と呼ばれるずっとずっと先の未来だろう。

 

「さようなら、未来から来た勇敢な騎士。貴女の未来への餞別に私も秘密を明かしましょう」

 

「救世主トネリコは私を構成する名前の一つでしかありません。オークニーに流れ着いた私の名はヴィヴィアン、大切な家族に与えられた名はトネリコ、お兄様から託されたアーデルハイト」

 

「そして、貴女がこれから対峙する“モルガン”。このブリテンを救う使命を持って、星の内海から流れ着いた楽園の妖精(アヴァロン・ル・フェ)

 

「そして、汎人類史においてアーサー王の仇敵として世界(ブリテン)を滅ぼした魔女」

 

 

 

 

「───はるかな未来において、貴女たちカルデアが倒すべき異聞帯の王、その“代理”を務める者の名です」

 

 

その言葉を聞き届けられたかは定かではない。

しかし、きっと届いただろう。

 

『棺』は完成した。

あとは彼女が未来で再会を果たし、きっと私を打ち倒しにくるだろう。

 

でも、私も負けるつもりは一切ない。

400年後、大厄災が起きるまでに“次のブリテン”の準備を進めなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精歴12000年。

その年、ブリテン島は終わりを迎えた。

大地を全て焼き尽くす大厄災は生きとし生けるもの、人間であっても妖精であっても関係なく全ての生命を焼き払った。

 

しかし、そんな厄災の中でもたった一つすでに終わった街に被害が届くことはなかった。

 

全ての生命が死に絶えた土地で、“モルガン”は冷めた目で世界を見渡す。

これより行うのは今までとは全く違う救い方だ。

 

救世主としてのあり方は捨てた、救うだけでダメならば絶対的な力と恐怖で支配することでしかブリテンは救えない。

 

 

「見ていてくれますか、お兄様」

 

 

たったひとりで、世界の果てに立つ魔女は壊れたような歪な笑みを浮かべる。

 

 

「私は、これからも歩き続けます。お兄様のように笑顔に溢れる国は作れません、優しい人たちに溢れた国は作れません、誰もが尊重し合える国は作れません」

 

 

 

「でも、“大丈夫”。私はお兄様の妹ですもの、きっと……お兄様が褒めてくれるような“素晴らしい國”にしてみせます」

 

 

魔女が笑う。

最果ての土地で、世界を新生するその瞬間まで。

空想樹セイファート、またの名を世界樹トネリコ。

その内側に秘められた全ての魔力を使い切ることで滅びた大地の上に新たなブリテンを作り出し、死に絶えた妖精全てを再召喚する。

 

「───女王陛下、ついに始まるのですね」

 

「ええ、ここから私たちの國が始まる。そのために、力を尽くしなさい」

 

「女王陛下の御心のままに」

 

最果ての国、オークニー。

滅び去った雨の国の女王はたった1人の騎士を従えて、これからたった一年で新生したブリテン全ての妖精を相手に戦争を仕掛けることになる。

 

後に語られる『冬の戦争』。

モルガンと騎士の勝利によってブリテン島は一つの国家として統一。

大穴を囲むように城塞都市キャメロットを建造。

唯一絶対の女王モルガン・ル・フェの統治の下、これから2000年以上続く女王歴が幕を開けるのでした。

 

 

 







───救世主と初代妖精騎士は遥かな未来へ。

その道が交わることは、きっとないのでしょう。

だけど恐れないで、悲観しないで、こうして出会えたこと自体が奇跡なのだから。






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アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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