お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
ニュー・ダーリントンの事件から数日経ち、妖精騎士ガウェインの領地であるマンチェスターでの用事を済ませた予言の子一行の足は湖水地方へ赴いていた。
メンバーはわたし、リツカ、村正、ダ・ヴィンチにハベトロットの5人。
パーシヴァルとガレスはロンディニウムの防衛、虞美人とペペロンチーノはあのベリルの行方を追うといって別行動になった。
オベロン?オベロンはまたふらっとどっか行ったよ。
目的はオークニーの鐘を鳴らすこと、そしてレインフォートから得た情報をもとにマシュと再会することだ。
「マシュの眠る最果ての国、雨の氏族が治めていたオークニーがどうして滅びたのかは君たちは知ってるかい?」
「ううん、知らない」
「まあ、そうだよね。じゃあボクも昔の親友から聞いた話で良ければ話をしよっか」
「うん、お願いできる?」
オークニーへ向かう小舟に乗り、ハベトロットは物語を語るように話し始めた。
むかしむかし、雨の氏族と呼ばれる妖精たちの元に星の内海から派遣された1人の妖精が流れ着きました。
派遣された妖精の名前はヴィヴィアン、少女は家族に溺愛されて育ち、心優しい王女に育ちます。
国民に愛され、国民を愛し、度々街に出てはいろんな妖精や人間と関わりを持ちました。
ヴィヴィアンは星の内海から派遣された『楽園の妖精』でした。
その使命は地上に生きる罪を犯した妖精たちを諌め、本来鋳造されるべきだった聖剣を造ること。
それは妖精圏の文明を過ちだと認め、正しい道に戻すべきだと定められて産まれてきたのです。
雨の氏族はその使命を受け入れました。
受け入れて、そのうえで彼女を溺愛し、たくさんの知識を授けました。
そうしてヴィヴィアンが16歳になった春のとある日。
風、牙、土、翅の氏族が手を組んでオークニーを襲ったのです。
理由はただひとつ。
楽園の妖精の使命を受け入れていた雨の氏族はたった1人の妖精を逃すために全てを投げ捨てました。
オークニーに住まう妖精、人間、領主やその家族に至るまで、その全てが無惨に、もう生まれ変わることもできないほどに殺し尽くされたのです。
こうして、ブリテンから裏切り者の氏族はいなくなりました。
「ってのが、ボクが聞いた親友からの話と昔に残ってた風の氏族の記録から合わせた内容かな。昔は今のキャメロットと同等くらいの文明がオークニーにあったって話だぜ?」
「…………そんな、簡単に国一つを滅ぼしたの?」
「まあ、妖精なんてそんなもんさ。誰かを傷つける理由なんて“気に入らないから”で十分、一度そう思ったら次の瞬間には行動に出てるんだ」
「そして、そこの王子が私たちが知るレインフォート、そしてその王女っていうのがモルガンって訳だね」
「…………」
ハベトロットがどうしてそんなことを知っているのか。
それは彼女が昔のモルガン陛下……つまり救世主トネリコとしての陛下と知り合いだったということを示している。
どうしてそんなことを黙っているのか、とかモルガン陛下の不利になるようなことに手を貸すのか、なんて誰も聞かないけれど。
「鐘を鳴らすにしても、何もない国だとしても……その国の文化や人の在り方は忘れちゃいけないんだってさ。ボクの親友はそう言ってたぜ」
昔を思い出したのか、優しい顔で笑うハベトロット。
そこまで口にしたところで、わたしたちの乗った小舟はオークニーの大地にたどり着いていた。
見渡す限り真っ白な世界。
白い灰が降り積もり、かつては栄えていたであろう居住区の建物は時間の経過とともに風化していき、触れただけで崩れそうなものが乱立している。
そこに生命の息吹は感じられない、ただ終わった世界が目の前にある。
滅びてから数千年経過した国の末路が目の前に広がっていたのだ。
そして、そんな国に入ってすぐに青いフードの男がわたし達を見ていた。
「……誰だろ」
「いや、待ってあの姿」
「それより、あのカッコはこっちの存在じゃねえな?汎人類史側のサーヴァントがオベロンの野郎以外にもいたのか」
反応は三者三様、しかしハベトロットは訝しげな表情をしたまま男の足元まで歩いて行き…………。
「お前、もしかしてグリムか!?!?!?」
「よお!久しぶりだなハベトロット!」
「うわぁ!!グリムがオッサンになってる!?!?」
「オッサンじゃねぇ!お兄さんだろ!!!」
「いやいや、マジか……時の流れ残酷すぎんだろ……トネリコが見たらショック死確定なんだわ」
愕然、というのが正しい表現だろうか。
地に膝をつき、あまりにも深いショックを受けた様子のハベトロットが『あり得ないんだわ……』と呟いている。
「え!?どういうこと???クー・フーリンがグリムでハベトロットと知り合いって……?」
「まあ、そういうこった。んで、お前さんが予言の子だな?なるほどあの頃のトネリコのやつにそっくりってのは確かに嘘じゃねえな」
「それは流石に陛下に失礼だと思うのです」
わたしとモルガン陛下がそっくりなんてあり得ないあり得ない。
天と地、うさぎとカメくらいの違いがあるのです。
「まあ、中身はともかく外見はそっくりってやつだ。本当ならここでお前さんが予言の子として相応しいか腕試ししてやるつもりだったんだが、そうも行かなくてな。ここにお前達がきたら鐘撞き堂までそのまま案内してやれと言われて仕舞えばオレだって逆らえねぇ」
「光の御子をガイド扱いとは……」
「このブリテンじゃあ、本気のアイツに逆らえる奴なんていねぇって話だ。普段はかなり抑え込んでるようだが、あのカリスマスキルはあまりにも強力なやつだぜ?」
「まあ、
オークニーでわたしたちを待っている人、といえば今のところレインの姿しか思いつかない。
モルガン陛下がきてるなら正直それどころではないし、わたしにとってはレインも陛下もそのような目しているという印象がない。
「まあ、任された仕事は果たすさ。お前さん達が向かうのはここからずっと先に見えるデカい建物の横にある鐘撞き堂だ。向かうのは……そうだなハベトロットと赤髪の坊主、あとダ・ヴィンチは居残りだ」
「年寄りを捕まえて坊主とはな、ますます気に入らねぇ」
「あー、まあ……妥当な判断なんだわ。ここにはエネミーも居ないはずだしアルトリアがいれば難なく行けるはずだぜ?」
「それなら私はグリムから色々聞いておこうかな。アルトリア、立香ちゃんを頼んだよ」
「うん、任されました」
ハベトロットとグリムがそういうのなら間違いないのだろう。
それに、ここからは生命が活動している痕跡がない。
それはつまりモースが出る可能性だって限りなくゼロに近いだろう。
「そういうことなら、2人で行ってみよっか」
「一応、わたしから離れないでね。何があってもすぐに反応できるようにしたいから」
「うん、お願いねアルトリア」
グリム、ハベトロット、ダ・ヴィンチ、村正と別れて国の正門であったであろう場所へ向かう。
門は朽ちて崩れている。
ここから見える光景が本来どんなものだったのか、レインと陛下が……妖精騎士長が過ごしたオークニーがどんな国だったのか……それを見ることは今を生きるわたしには出来ないことだとわかっている。
でも、見てみたいとそう思ってしまうのは仕方のないことではないか。
「ここが、レインさんの故郷」
「わたしも、はじめて来たんだ」
わたしとリツカ、関係性は全然違うけどレインと関わりのある2人。
こうしてこの場所に来たのも何か運命的な何かがあったのかもしれない。
「少し時間がかかるかもだけど、しっかりみて行きたいんだ」
「うん、私もそう思ってた。いこ、アルトリア」
2人で顔を見合わせ、頷く。
わたしにとって、この鐘はきっと大切なものになる。
正門から一歩踏み出し、オークニーへと足を踏み入れた瞬間。
世界が変わった。
「───え」
「うそ……」
オークニーに足を踏み入れた瞬間、わたし達の目の前にはたくさんの妖精と人間達がいた。
朽ち果てていた建物は先ほどまでとは違って綺麗で、キャメロットともグロスターとも違う活気が目の前に広がっていた。
「今日は数ヶ月ぶりの晴れの日だからね!最高に盛り上げていこう!」
「どきなどきな!今日釣り上げてきた魚が通るよ!!!」
「殿下とトネリコ様が食べた串焼きはどうだい!?いまなら3本買って一本おまけつけるよー!」
これは幻影だ、そうだとわかっていても手を伸ばしてしまいそうになる。
人が、妖精が、雨上がりの街で所狭しと動き回る。
「ルクレティア様御用達の化粧水にハンドクリームはいらないか!?これを使えば誰だってルクレティア様とお揃いだ!!!」
あっちで、こっちで、沢山の店から店主が顔を出して客を引く。
誰もが楽しそうで、誰もが笑っていて、誰もが幸せそうだった。
「みんな!レインフォート様とトネリコ様がいらっしゃったぞ!!!!」
街の奥からそんな声が響く。
視線がした方を向けばわたしの知ってるレインとは少し違うレインと一度だけ会ったことのあるモルガン陛下……トネリコの姿があった。
沢山の店に顔を出しては世間話をして、店主や客と冗談をいって。
レインも陛下もたくさん笑っていた。
ほんとうに、心の底から幸せそうな顔で笑ってた。
「素敵な国だね」
「うん、本当にみんな幸せそう」
みんなにわたしたちの姿は見えていない。
ただの記憶の投影、わたしたちにオークニーという国のあり方を見せるための『妖精領域』といってもいい。
そんなことできる妖精なんてこのオークニーには1人しかいない。
つまりこれは、わたし達を招いたレインがわたし達に見せている過去の幻影なのだ。
「進もう、きっとレインはわたしたちが進むのを待ってる」
「そうだね、きっと幸せな世界だけじゃない」
賑やかな街を、ゆっくりと進む。
大通りを抜け、街の中心部であろう大きな広場にでたとき再び世界が変わった。
雨が降る、滝のような雨が降っている。
それと同時に聞こえてるくのは悲鳴と戦闘音。
さっきまで幸せに満ちていた街は一瞬で死の都市と化していた。
先ほど聞いた話だ、忘れるわけがない。
「四氏族によるオークニー侵攻……」
「ひどい……こんなの虐殺だ」
雨の氏族は武器を持っていなかった。
迫り来る軍勢に対して対抗するのは星の数ほど見える防御魔術たち。
「トネリコ様をお守りしろ!」
「雨の騎士団の底力見せてやれ!」
「ここから先は通さん!!!」
あちこちから聞こえてくる騎士たちの声。
そしてそれを上回る侵攻する連合軍の足音と雄叫び。
「ハッ!その程度か!レインフォート!!霊剣はどうした!!その腑抜けた魔術はなんだ!!」
「お前に答えてやる義理はないよウルヴァー。どうした?腑抜けた魔術師の腕一本で満足したか?」
「ふざけるな…巫山戯るな!!何度貴様と厄災を祓ったと思っている!?なんど貴様を肩を並べて大地を駆け抜けたと思っている!?オレたちを裏切ったのは貴様だ!!答えろレインフォート!!どうしてオレたちを裏切った!」
「裏切った……?バカを言えウルヴァー、裏切り者はお前たちの方だよ。楽園の妖精を殺す、それ自体が世界への叛逆と同義だとわからないか?」
「わかるものか!!幾度と言葉を尽くしてきたお前が、このブリテンで最も賢きお前が隠していることなどわかるものか!風の氏族長のアウローラが言っていたのだ!このブリテンを終わらせる楽園の妖精をお前が匿っていると!楽園の妖精を始末しなければブリテンは死ぬと!!」
「何度も言っただろうウルヴァー、他人の言葉を信じすぎるなと。アウローラの言葉なんて特にそうだ。自分の気に入らないことは何をけしかけてでも消す、それを何度も見てきたのにそれでもその言葉を鵜呑みにした。牙の氏族長が賛同すれば他の氏族だって息づく。僕はお前に何度も言ったぞ『排熱大公』、その力に見合うだけの責任と知識を身につけろと」
「っ!だまれ……!黙れ黙れぇ!!!お前がオレに楽園の妖精のことを隠したのは事実だ!お前が先にオレに相談していれば……!オレは、オレは……!」
「お前がこのオークニーを襲ったのはもう取り返しのつかない結末だ。だから、次からはちゃんと考えろ……お前は賢い、僕が背中を預けた戦友なんだから。教養を身につけ、正しさを自分で判断できるようになれば誰かの目標になるような素晴らしい男になれるさ」
わたしたちの知っているウッドワスに似た牙の氏族が狼狽し、その場に蹲ってしまう。
その様子を見た片腕を失ったレインは水鏡で消えて行き、その場には慟哭する牙の氏族長だけが残った。
「───いこう、リツカ」
「うん」
広場から、鐘撞き堂へ。
そこには今まさに別れを告げて、トネリコを水鏡の先に送った3人の妖精がいた。
「ねぇお兄様、トネリコは元気にやっていけるかしら」
「大丈夫さ、あの子は強い。たとえ僕たちがいなくてもいつかは立ち上がって歩き始めるよ」
「ふふっ、そうよね。私たちの末妹だもの……」
「ティア、母上……このような結末になって、申し訳ない」
「いいのよレインフォート。他でもないあなたがした選択なら、それはきっと正しい選択なんだもの」
力なく笑い合う3人の妖精。
そして、背後から迫り来る数十の足音。
いやでもわかる、この後に起こるのは凄惨な殺戮の現場だと。
「見つけたぞ、裏切り者ども!」
「楽園の妖精だ!あいつだ!あいつを殺せ!」
「生まれ変わりなんてさせるな!徹底的にバラバラにしろ!」
「「「「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!!!」」」」
鐘撞き堂に流れ込んできた妖精たちが3人に押し寄せる。
肉が裂ける音、苦悶の声、骨の砕ける音、肉を潰す音。
到底同じ生命に向けるものとは思えないあまりにも惨い有様に思わず吐き気を催しそうになる。
止められない、止められないとわかっていても手に、杖に力が入る。
「もう、やめてよ……なんでそこまでするの……?なんで……なんで!!!!!」
光の魔力が、幻影を消し去る。
世界が割れて鐘撞き堂を起点として幻影の世界が霧散した。
視界に映る世界は真っ白な世界、目の前にあるのは何度も見た巡礼の鐘。
そして、鐘の奥にはさっきまでの世界を作り出した本人が立っていた。
「今のが、僕たちの過ごしたオークニーとその最後だ。君が雨の氏族を知り鐘を鳴らすために必要な情報は全てあったと思う」
まるで今までの光景をなんとも思ってないみたいに、まるで他人事のような声音で彼はそう口にした。
「さあ、鐘を鳴らすといい。立香ちゃんはもう少し奥にいくとマシュの眠った水晶が置いてある、向かってあげなさい」
「…………わかりました」
レインに言われるまま、リツカはレインの横を通り抜けて鐘撞き堂の奥へ走っていく。
「わたし、レインのこと何も知らなかった……!こんなに辛くて苦しい思いして、わたしなんかよりもずっとずっと痛くて……!」
「……リツカちゃんがマシュと再会を果たす間に、僕とアルトリアも少しだけ話をしようか」
4つ目の巡礼の鐘、その目の前で“雨の氏族長”と楽園の妖精として会話が始まるのでした。
まずは前回からまた新規に投票してくださった皆様に感謝です!!
☆10の緑バーがもう少しで半分越えそうでニコニコしてます、また色変わったら嬉しいなー!なんてチラチラ見まくってます。
さて、今回はオークニーのお話とレインが生きていた当時の氏族長の名前が出ました。
あとがきでのご挨拶は程々に彼らの簡易マテリアルと今回の記憶を投射した妖精領域について記しておきます。
・排熱大公ウルヴァー
排熱大公ライネックの先代。
数百年にわたってレインフォートと戦場を駆け抜け、数多の厄災を祓い続けてきた。
レインフォートと出会ったのは900年前、レインフォートが雨の氏族に拾われて100年後だった。
自身と同じ亜鈴と呼ばれる妖精としての興味を持ち、幾度も手合わせをして友人になる。
知略のレインフォート、武のウルヴァーと呼ばれるほどの相性の良さでレインフォートの魔術とそれに合わせるような立ち回りをすることが得意だった。
風の氏族長アウローラの『言葉』に惑わされ、オークニー襲撃に参加。
レインフォートの片腕を奪ってからは戦意を喪失し、彼の腕を手にしてオークニーから離れた。
鐘撞き堂での惨劇を報告された彼は自身の罪を自覚し、持ち帰った彼の腕を喰らうことで自身の力を増幅、レインフォートの分までブリテンの守護をすると心に決めてその生を全うしその最後はとある厄災からトネリコを庇って戦死した。
トネリコが最初に鐘を鳴らしたあとすぐに向かったオックスフォードの領主は彼である。
・風の氏族長アウローラ
オーロラの先代、ブリテンで1番美しい妖精と呼ばれていた風の氏族長。
強力な言霊とブリテン全土に張り巡らせた情報網によってありとあらゆる『噂』をもとに暗躍していた。
気に入らないものは『噂』を流して扇動して、自分の手を汚さずに始末する。
しかし、彼女とオーロラのもっとも違うところは『無意識か否か』というところだろう。
彼女の場合は自分の言葉で誰かが動くことを理解しており、その影響力を分かった上で自分に不都合なもの、自分よりも目立つもの、自分の思い通りにならないものを消すための『噂』を流す。
オークニーの一件も彼女の扇動によるものであり、レインフォートを始末するために彼の戦友であったウルヴァーを利用した。
・記憶幻想領域オークニー
レインフォートが扱う妖精領域。
本来はレインフォートに有利な領域に相手を引き摺り込み、徹底的なデバフを与えた上で一方的に叩きのめす絶対支配領域。
今回はアルトリアにオークニーの日常と結末を見せるために本来の能力を削りに削り、過去を投影することに専念する形で使われた。
本来の形で使われれば場所はウルヴァーと戦った広場に引き摺り込み、観衆などは存在しないまま一方的な処刑が行われる場所になる。
以上で今回のお話の新規要素の解説でした。
皆さんの応援でお話を書くモチベーションが高くなるので色が変わるくらい☆10 【高評価】なんか押してもらえたり【感想】もらえたりするとニコニコしながら新話書きます!
アヴァロン・ル・フェの更新について
-
今まで通り月に3〜4話見れればいい。
-
待ってもいいからストックして放出
-
別に気にせんでええねんで(^ω^)