お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン 作:今井綾菜
「さて、何から話したものかな」
「聞きたいことはたくさんあるんだけど」
「だろうね、僕もそうだろうとは思っていたんだ」
オークニーの鐘付き堂、その最上階でわたしはレインと向き合っていた。
いつものような言葉とは裏腹に、声音と表情はどこか威圧さえ感じさせるものであった。
「……レイン、怒ってる?」
「どうして?」
「顔と声、ちょっと怖いよ?」
「あ、ああ……なるほど……」
今度は困った、と言わんばかりの表情で彼は自分の顔を何度か触れる。
たぶん、意図したものではなかったのだろう。
レインにとってはいつもと同じようにわたしに話しかけたのだと思う。
でもそれは、レインにとっても自分の枷を外したことが何か意図していない影響が出ていることを示していた。
「千数百年ぶりに純妖精に戻ったからか……まだ自分の能力を抑えきれてないみたいなんだ。グリムが何かこぼしていなかったかい?」
「レインのカリスマ性はすごいとかなんとか……」
「やっぱりか、だからアルトリアと立香ちゃんだけ向かわせたんだな。流石は賢人グリムだ、その辺の判断は頼りになる」
何かに納得したように、レインは深く頷く。
いまレインから感じる威圧感はキャメロットで虞美人にキレた時のモルガン陛下に迫るものがある。
わたしだってそれが自分に向けられているものであったのなら脚が震えて立っていられなかったかもしれない。
レインはわたしに対して本気の怒気を向けない、だからその威圧感が自分に向けられたものではないと分かっていたからこそなんとか平気でいられた。
「……マシュと立香ちゃんが戻ってきたらもう少し、と思っていたけどやっぱり2人が戻ってくるまでにしよう。答えられることには出来るだけ答えるようにするよ」
聞きたいことは、本当にたくさんあった。
ひとつやふたつではなくまるっと一日使って話したいとこの数日は何度も思っていたけれど、まずは……
「……レインはこのあとどうするの?」
「厄災に対しての準備かな。僕もキャメロットを離れてから大分色々調べて回っていてね。どこかで聞いたかもしれないが大厄災と呼ばれるブリテンの危機が訪れる。これに関しては正直ベリルがどうとか言ってる場合じゃなくて……目下の最優先事項はこれになる」
「大厄災……?ノリッジの腕みたいな?」
「あれよりも規模の大きいものかな。アレは街規模で食い止められるものだけど、大厄災はそれとは比べ物にならない被害が出るものになる」
「レインも戦ったことあるの?」
「もちろん、僕がオークニーに流れ着いてすぐの頃と……あとはトネリコがオークニーに来る少し前かな。1度目は甚大な被害を出したけれど、2度目はさっき見たウルヴァーのお陰で大分被害を抑えられた」
「あのひと、もしかしなくてもウッドワスの……?」
「話に聞くと先先代になるのかな。ウッドワスの先代はトネリコと友好関係があったライネックという亜麗返りらしい、排熱大公の他にも勇者と呼ばれていたらしいね」
大厄災、というのはバゲ子……もとい妖精騎士ガウェインの屋敷で聞いた。
なんでももうまもなくやってくるというブリテン史上最悪の厄災。
それに対して妖精たちの保護を進めたいガウェインと“妖精を救うことをしない”モルガン陛下の間で意見の相違が起きているのだとか。
だからこそ、ガウェインはカルデアに妖精國の妖精の保護を求めてカルデアはそれに了承、対価としてキャメロット侵攻時に彼女は陛下を裏切る密約を交わしていた。
正直、わたしとしては“あんなやつら”のためにモルガン陛下を裏切るガウェインのことが信じられなかったし、その行動は彼女を信頼しているレインへの裏切りだとも思った。
第一、モルガン陛下を倒したらこの妖精國でその大厄災とやらを退けることができるものが存在するのだろうか。
今まで幾度と厄災や大厄災を退けてきたモルガン陛下。
目の前の問題のためだけに彼女を倒すことの意味を果たしてどれだけの人間と妖精が理解しているのか。
「大厄災を退けるために必要な戦力ってどのくらい必要?」
「……そうだな、僕とモルガン……あとは妖精騎士とウッドワスは間違いなく必要だろう。アルトリアも協力してくれるならそれに越したことはないけど、少なくとも女王軍の幹部全員と牙の氏族長は確定だな」
「…………なるほど」
終わった、わたしたちのせいでウッドワスは重症。
トリスタンだって騎士のギフトを剥がしてしまって以前ほどの力はない。
ガウェインを裏切らせてこれからキャメロットに侵攻する作戦を立てている円卓軍はもしかしなくてもこのブリテンの崩壊へ真っ直ぐに突き進んでいるのではないだろうか。
「わたしの旅、やめるべきなのかな」
「……厄災が目の前に迫っている以上、自分たちの首を絞める行為ではある」
「…………」
緊急性が高いことに関して、レインは絶対に嘘を言わない。
眼で見るよりもわたしが一緒に過ごしたレインは少なくともこんなことで嘘は言わないのがわかっていた。
「大厄災でモルガンが妖精を救わないというのは、おそらくはそれをリカバリーするための手段があるからなんだろう。モルガンの玉座、それそのものが極大の魔術礼装となっているんだから大厄災後に何かやるつもりなのは間違いない。だけど、ここで君たちがモルガンを排斥するつもりなら……あとはどうなるかわからないな」
「でも、カルデアの旅というのは基本としては訪れた世界のズレを補正していくものだ。現在の旅は彼女たちの世界を取り戻すために間違った歴史の世界を終わらせていく旅になる。彼女たちの旅に同行するということは、世界を終わらせる旅に同行しているということでもあるんだ」
「だからこそ、この先君がどうするかは自分で決めないといけない。ここの鐘で4つめの巡礼の鐘を鳴らすことになる、そうすれば君の力はさらに強くなりカルデアやロンディニウムにとってはモルガンに対しての切り札にもなるだろう。強い力にはそれに伴う責任だって必要だ、後になって『こんなつもりじゃなかった』というのは僕の娘としても絶対にナシだよ」
「力に伴う責任……」
力を持つということは、誰かを傷つけることができるということだ。
あんなに弱くて、何もできなかったわたしが妖精騎士であるトリスタンと渡り合えるようになり、たくさん宝石を使わなければ使用できなかった魔術も今は自分の魔力で使えて、連射や多重展開まで出来るようになっている。
モルガン陛下やレインにはまだ及ばなくても、そこに対抗できるだけの力が鐘を鳴らすたびに解放されているのだ。
「誰かを傷つけること、自体は悪いことではない。たとえそれが悪であっても自分の信念をしっかりと貫けるのなら……それは一つの選択とも言える。だけどねアルトリア、戦う理由が希薄なのに強い力を使ってはいけない。自分の意思が貫けないのなら流されるまま戦うことはしてはいけない。もし君が自分だけの“戦う理由”を見つけられないのなら、その力を使ってもどこにも辿り着けないよ」
それはかつてのブリテンで戦い抜いた妖精の言葉だった。
それはたったひとつの信念を貫いて死した妖精の言葉だった。
それは生まれ変わっても苦しみ続けた妖精の言葉だった。
それは父親として娘に向ける何よりも大切な言葉だった。
「だから、アルトリア。君が最後の鐘を鳴らしてモルガンや僕と戦うことになった時、負けたくないと心から願うのなら……ちゃんと“戦う理由”を胸に挑むといい。僕は決してモルガンを死なせるつもりはない、けど君を死なせることも選ばない。欲張りだけど、僕にとっては君たちの命が1番優先なんだ」
「レインが1番欲張りなんじゃん」
「そうだよ、知らなかったのかい?」
「ううん、知ってる。だから、わたしもちゃんと選ぶよ。たとえレインに止められても、レインを泣かせてもわたしはわたしの意思を貫こうと思う」
「いい目だ、なら……オークニーの鐘を鳴らすといい。さっきの話を聞いて、君がどうするかは君が選びなさい」
「うん、わかった」
レインに背を押され、一歩前に出る。
目の前には存在感のある大きな巡礼の鐘。
氏族の長が認め、鐘が認め、そして楽園の妖精が願う。
贖罪の歌がブリテンに響く。
この最果てのオークニーから、ブリテン全土へ。
何度も何度も、鐘が鳴り響き、また身体の中に満ちる力を自覚した。
「これで僕がオークニーで君に出来ることは全部だ。その身に宿る力の責任を、決して忘れないように」
「うん、絶対に忘れない」
「それじゃあ僕はこれで。何かあったらブレスレットで強く僕のことを呼ぶんだよ?出来る範囲で君の力になるから」
「レインも、わたしがあげたネックレスちゃんと使ってよね?」
「もちろん、大切な愛娘に貰ったプレゼントだ。後生手放すつもりはないよ」
首から下げていたネックレスをチラッと見せて、レインは水鏡の中に消えて行った。
レインを見送って、レインに言われたことを考える。
力に伴う責任と、これからモルガン陛下に対抗した場合のデメリット。
わたしだけの“戦う理由”も考えないといけない。
リツカは大切な友達だ。
円卓軍にいるガレスだって友達で、パーシヴァルだってそう。
村正もオベロンだってわたしにとっては大事な仲間でそれはカルデアに協力するみんなも同じ。
出来るなら、大切なみんなの力になってあげたい。
苦しいって、助けてって言ってくれたみんなを裏切りたくない。
「わたしも、ちゃんと決めなきゃ」
もう、取り返しのつかないことだってしたんだ。
なら、最後までちゃんと走り抜けないとわたしはきっと後悔する。
それから少し経ってマシュさんを連れたリツカと合流。
ちゃんと自己紹介をしあってグリムたちが待つ出口に到着して。
「ひとまず、過去にいた私からご報告があります」
ハベトロットやダ・ヴィンチと感動の再会を果たしたマシュさんは再会のムードを壊すことを承知の上で真剣な声音で告げた。
「このブリテン異聞帯の王はモルガンさんではありません。彼女は私を棺に封印するときに口にしました。“私は異聞帯の王の代理”だと」
「女王モルガンが異聞帯の王でない以上、私たちの知る中でこれに該当する人はたった1人しかいません」
「ブリテンという島では聖剣を持ったアーサー王が汎人類史には存在します。このブリテンには聖剣もなく、それを携えた王もいませんでした。でも、その役割を持った人はずっと私たちのそばにいたのです」
「このブリテンにくるまでに聞いた虞美人さんやアル……ではなくセイバー・オルタさんから聞いてきた情報をまとめると答えはひとつしかありませんでした」
誰もが、脳裏に映った姿が同じだった。
グリムや村正が言っていた『絶対者や支配者』という単語。
そして、わたしがさっきまで会っていた時に本人が言っていたあの威圧感。
「星の聖剣……この世界のエクスカリバーを携えたレインフォートさんがこのブリテン異聞帯の本当の王です」
れ、レインフォートが異聞帯の王だってーーーー!?!?!?
ハイ、まあみんな知ってましたね(白目)
まずはこれにてオークニー編は終了となりこの後はチョコレート作りに励んで、ロンディニウムが崩壊しますね(人の心)
でもでも?みんな忘れてませんよね?俺たちのバーヴァン・シーがいまキャメロットに帰れないでブリテンを死にかけで彷徨ってるの……。
それを探してるアーデルハイトもいろんな対応に追われてるモルガンも大変だぁ!
それに比べてなんか白い妖精王は順調そうで何よりでございます。
そして、皆様が作者を甘やかしてくれるおかげで総投票数が600件を超えました!
なんとFate/grand orderタグで総標準で検索すると2ページ目に出てきます!!!
☆10も深緑色の半分を超えてもうそろそろ明るい緑になりそうですよ!(チラッチラッ)
みなさんが作者を【高評価】や【感想】で甘やかしてるとブリテン崩壊にどんどん進んでいきます!()
それではまた次回のお話でお会いしましょう!
アヴァロン・ル・フェの更新について
-
今まで通り月に3〜4話見れればいい。
-
待ってもいいからストックして放出
-
別に気にせんでええねんで(^ω^)