お兄様のことが大好きな雨の魔女トネリコ或いは冬の女王モルガン   作:今井綾菜

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第二十三旋律 『バーヴァン・シー』

 

「ほんと、ひどい目にあった……」

 

エディンバラの街から出て、一息ついたところ。

これからオックスフォードで鐘を鳴らしロンディニウムに戻るといったところでわたしは数時間前までの出来事を思い出して肩を落としていた。

 

「作 ら れ る べ き で は な か っ た 」

 

「やーめーてーよー!!!」

 

途中までは確かに良かった、巡礼の鐘を鳴らしてからというものわたしの作るもの全部が『剣』に変質してしまうという最低最悪の特性が覚醒してしまっていたせいで序盤のチョコ作りはそれはもう大量の剣を生産してしまったわけで、そこで名乗りをあげたのがマシュさんだった。

 

その手際の良さ、無駄を省き装飾の華美さの一切を切り捨てたシンプル・イズ・ベストたるハートのチョコを“一緒に”作ってわたしはもう大喜び。

ノクナレアが用意したものはすごく豪華で絶対負けたと思ったけれど、勝負はなんとか私の勝ちで幕を下ろす…………はずだったのに。

 

どういうわけか、目を離した隙に変異していたのです。

 

わたしとマシュさんの合作であるハートの形のチョコレートは見るも無惨な『見ると頭の痛くなる謎の腕(黎明の神腕)』に成り果てていたのでした。

 

サクッと討伐してしまおうと思っても、異形に成り果てたチョコレートを作ったのは鐘を4個も鳴らした楽園の妖精とわたしに匹敵するくらい強い力を持ったマシュさんが作ったもの、どう言う理屈かそこそこの魔力を得ていた異形はなかなかの強さを誇っていて、大型のモースくらいには苦戦を強いられたのでした。

 

ちなみに、これにノクナレアは大爆笑。

デリカシーのない男性陣も大爆笑、マシュさんに関しては苦笑で、わたしを励ましてくれたのはハベトロットとリツカだけでした。

 

そのリツカですら今はこんな感じで揶揄ってくるのだからやってられねぇのです。

 

ちなみに散々煽り散らかしてくれた男性陣は容赦なく叩きのめしました。

乙女のお菓子作りの失敗を煽る男はぶっ殺していいってノクナレアが言ってた。

 

それに、前回レインと一緒に来た時はノクナレアに会えなかったから久しぶりに話せてよかった。

わたしも立場が変わってもしかしたら友達として話せないかも、なんて思ってたけどノクナレアはノクナレアだった。

めちゃくちゃイヤミ言ってくるし、超煽ってくるし、でも……優しいところはなんにも変わらなかった。

エディンバラから離れる少し前にちょっとだけゆっくり話せて、いろんな話をして、新しいガレスって友達もいつか紹介するって約束もした。

また会える時が来たらいいな、なんて思っているのは確かで、でも……わたしにきっとその約束は果たせないだろうなっていうのはわかっていた。

 

()()果たせない約束しちゃったな。

 

「……あれ、なんだろ」

 

「モースの群れ、かな?でも何かを取り囲んでる?」

 

進行方向よりも少し離れたところに小型のモースが数匹、何かを囲むように佇んでいる。

襲うわけでもなく、ただじっと何かを見つめるように。

 

「どうする?おまえさんの判断に任せるが」

 

「もし、人や妖精が囲まれているなら大変です。あの数ならサクッと片付けられるし寄り道にもならないので行きましょう!」

 

「了解。先輩、行ってきますね!」

 

「うん、アルトリアと村正も気をつけて!」

 

リツカの守護はグリムとハベトロットに任せて、村正とマシュさんと一緒に駆け出して、数匹のモースを片付ける。

特に抵抗する様子もなく、拍子抜けとも言える戦闘を終えてモースの中心にいたひとに声をかけて……。

 

「おまえら……どうして、ここに?」

 

そこにいたのは、息も絶え絶えで全身が黒く染まり始めていた妖精騎士トリスタン……バーヴァン・シーの姿があった。

 

「なっ……!おいアルトリア離れろ!」

 

「黙って!どうしてここにいるのか聞きたいのはわたしのほう!キャメロットに帰らなかったの!?作戦が終わったら安全なところに逃げるって約束したじゃん!」

 

ボロボロで、弱々しいバーヴァン・シーに駆け寄る。

グロスターで最後に会った時は足の指先だけだった肉体への呪いの侵蝕が身体のいたるところにまで及んでいた。

これじゃ、戦うことなんてできない。

あのままわたしたちが通らなかったらモースに食い潰されていてもおかしくなかった。

 

「帰れる、ワケ……ないでしょ。お母様からもらったもの……ぜんぶ、なくしたんだから」

 

その返答に、“ヒュッ”と喉が風切り音をあげる。

そうだ、2人で決めたこととはいえその原因を作ったのはわたしだ。

妖精騎士トリスタンとしてのギフトを奪って、ただの妖精に堕とした。

そして、わたしたちをニュー・ダーリントンに送るために合わせ鏡と『庭』の魔術を使って……魔力を相当消費したはずだ。

 

「なぁ……それよりさ……ベリルに一泡吹かせられた……?」

 

「…………」

 

その答えに、素直に答えていいものか。

地下にあった人間モースの実験場、それを全て駆除してもウッドワスから奪ったであろう力でレインと戦うのが目的だと言っていた。

そんな沈黙が答えだと察したのか、バーヴァン・シーは軽く笑った。

 

「まあ、アイツが何やってたのかは……わかったんでしょ?」

 

「うん、アイツはレインが倒すって言ってた」

 

「上等、伯父様ならぶっ殺してくれんだろ……」

 

力なく笑うバーヴァン・シーにわたしは言葉を失った。

あのグロスターであった時のままの衣装だから侵蝕されている部分がどれだけ多いのか一目でわかってしまうから。

 

「言っとくけど、同情なんてすんなよ……これでもおまえからもらった礼装のおかげでマシなんだぜ?」

 

「本当にマシ程度だって言ったでしょ!?」

 

このまま放ってなんておけない。

キャメロットに帰すにしたって今のバーヴァン・シーはそこまで歩く力がないのは目に見えてわかっている。

 

「合わせ鏡の礼装は?」

 

「そんなの、とっくに落としてきた。モースから……妖精共から逃げるのに必死だったもの」

 

「…………」

 

最悪だった。

合わせ鏡の魔術があれば強引にでもキャメロットに帰城させられた。

でも、その手段がない。

このままロンディニウムに連れて行くことなんてできないし、どうにかしてバーヴァン・シーをキャメロットに、と思ったところで左手首に巻かれたエメラルドのブレスレットが目に入った。

 

「……これだ」

 

レインから貰ったエメラルドのブレスレット。

これを貰った時に言っていて、つい先日にも言われたことを思い出す。

困ったことがあったら呼べといったのはレインの方だ。

適当な理由で呼び出すことはしないと誓っていたけどまさか数日で使うことにはならなかった。

 

でも、ここがその使い道だって間違いなく断言できる。

ブレスレットを右手で触れて、魔力を込める。

エメラルドが輝き、それに乗せるように遠くにいる彼の名を呼ぶ。

 

「お願い、届いて……!」

 

より強く、ぎゅっと力を込めて……より魔力を込めて願う。

いつのまにかリツカ達も合流してる、酷い姿のバーヴァン・シーをみて彼女達は何かを言うことはなかった。

彼女達にとってバーヴァン・シーは倒すべき敵なのは変わらない。

悪虐で、最悪で、最低で残虐で残酷な女王の娘。

妖精國で見る彼女は確かにこれだけなのだから。

 

でも、わたしにとっては違う。

わたしはレインの娘で、彼女はモルガン陛下の娘で。

レインとモルガン陛下は兄妹だ。

だったら、わたしとバーヴァン・シーは従姉妹ということになる。

ほんの少しだけど、わたしは優しい彼女を知っている。

この間の魔術戦で宝石魔術を組み合わせてきたことから勤勉であるのも知っている。

 

だから、いくら敵対しているとしても見捨てるなんて選択肢は存在しなかった。

 

「あまりにも必死に願うから急いで来てみれば、予言の子御一行が立ち尽くしているとは」

 

「レインっ!!!」

 

背後から聞こえてきた声に振り返り、切羽詰まった表情で彼に願う。

 

「お願い!バーヴァン・シーを助けて!!」

 

「バーヴァン・シー……?ああ、なるほどトリスタンか」

 

わたしの背後に寝そべるバーヴァン・シーへとレインが近づいて様子を見る。

突然現れたレインにバーヴァン・シーは驚いたような表情をした。

 

「……伯父様?なんでここに」

 

「アルトリアに渡していた礼装で僕を呼んだんだ。それより、自分の状況はわかっているな?」

 

「まあ、呪いを使ってるものとしては……手遅れなのは理解してるつもり。でも、アルトリアがくれた礼装のおかげでちょっとはマシなんだぜ?」

 

「『庭』を使ったんだから、今この程度で済んでるのが奇跡と言えるくらいだ。アルトリアが見つけなかったらどこかが腐り落ちててもおかしくなかったよ」

 

レインがバーヴァン・シーを抱き上げる。

力なく垂れ下がる身体とは裏腹にバーヴァン・シーはどこか感心したような表情だった。

 

「私を助けたこと、後で後悔すんなよアルトリア」

 

「従姉妹を助けるのに理由なんていらないでしょ」

 

「ハッ、そうかよ……でも、ありがと」

 

「うん」

 

バーヴァン・シーを抱えたまま、レインは水鏡を自分の前に展開する。

行き先はきっとキャメロットだろうことはわかっていた。

後一歩、彼がそのゲートの中に進む前に背後からマシュさんの引き止める声が響いた。

 

「レインフォートさん、ひとつだけ聞きたいことがあります」

 

「なにかな?見ての通り急いでるんだけど」

 

「答えてほしいことはひとつだけです。このブリテン異聞帯の王がレインフォートさんなのは間違いありませんか?」

 

「…………どこで聞いた、というのは聞くべきではないかな?今はモルガンがこの世界の王だ、それ以上でもそれ以下でもないよ」

 

「いいえ、その女王モルガン……過去のトネリコさん自身が言っていたんです。自身は異聞帯の王の代理だと」

 

「仮に、そうだとして君たちはどうする?聖剣を持たない僕であっても、今ここで君たちを消すことは出来るけれど」 

 

冷たい、青い瞳がマシュさんを睨む。

あの背筋に氷水を掛けられたかのような感覚に陥るほどの冷たい視線。

 

「本当に異聞帯の王がレインフォートさんだとするのなら……」

 

「ごめん、マシュさん。いまレインにそれ聞くのやめて」

 

わたしの口から出たのは、思っていたよりも冷たい言葉でした。

明確な拒絶の意思、いまレインの腕の中にいるボロボロのバーヴァン・シーが安全な場所に行けるのがわたしにとって1番大切なことだった。

 

「アルトリアさん……」

 

「お願い、最近なったとはいえわたしの従姉妹なの。すぐにでも安全な場所に移動してほしいの……リツカやマシュさんにとっては関係ない話かもだけど、わたしにとってはすごく大切なことなんだ」

 

「マシュ、いまはやめておこう。レインさんも引き留めてすみませんでした。近いうち、ちゃんと話せたら嬉しいです」

 

「……わかった」

 

そのまま、レインは水鏡の方へ向かう。

振り返ることなくレインは水鏡の中へと消えていくのでした。

 

「……急ごう」

 

そうしてわたしたちはほんの少し気まずい雰囲気のまま5つ目の鐘があるオックスフォードと向かうのでした。

 

 

 

 

 

 

 

****

 

キャメロット・バーヴァン・シーの私室。

 

僕が水鏡で帰城したのが即座にわかったのか、モルガンとアーデルハイトがバーヴァン・シーの私室にやってくるまでに時間はかからなかった。

 

「お兄様!!」

 

女王としての威厳なんてどこにもない、ただ焦燥に駆られたモルガンが勢いよく扉を開けて入室してくる。

ベッドに横たわり、今にも消え入りそうな呼吸を繰り返すバーヴァン・シーをみて彼女はその瞳を大きく見開いた

 

「どうして……どうしてこんな……」

 

「ぁ……おかあさま……?」

 

彼女の目線が合ってない。

さっきまでアルトリアと会話していたのはなんとかギリギリ気合いで耐えていたというのが正しいのだろう。

モルガンが駆け寄り、彼女の手を取る。

今にも泣き出しそうなモルガンと嬉しそうに微笑むバーヴァン・シーを見つめながら、アーデルハイトが僕の隣に立つ。

 

「殿下、彼女はどこに……?」

 

「エディンバラから少し離れたところか、アルトリアが見つけて預けていた礼装で僕を呼んだからキャメロットまで連れてきたんだ」

 

「……なるほど、私も探していましたが見つけられず」

 

「グロスターからずっと隠れながら移動してたんだろう。見つけられないのも仕方ないさ」

 

「…………こうなった原因はやはりあの魔術師たちですか」

 

「いや、ベリルだ。モルガンから聞いてないか?」

 

「ウッドワスの霊基を奪った、というのは聞いています」

 

悔しそうに、そしてまだ信じられないといった表情と声音だった。

 

「ウッドワスはこの妖精國において私と共に陛下を支えてきた一爪です。高々一度の敗走で心の折れるような……ましてや人間の魔術師如きに遅れをとる男では……」

 

「経緯までは僕も知らないが……どちらにせよ、あいつの目的は僕だ。ベリルは僕が殺す、必ずな」

 

「……わかりました」

 

この妖精國で牙の氏族長であるウッドワスが最高の戦力として扱われているのは容易に想像できていた。

そしてこの100年とすこしで増えた妖精騎士たちが彼に代わる戦力として重宝されていたのも察することは出来る。

だが、それまでの歴史ではアーデルハイトとウッドワスがこの國の最強の守護者であったのは間違いないのだろう。

そんな戦友が、たった一度の敗走で行方をくらませているのが信じられないというのは僕にだって理解できるつもりだった。

 

「ねぇ……おじさま……」

 

「どうした?」

 

「ベリルのやつと……たたかうんでしょう?」

 

「ああ、僕の手で絶対に殺すよ」

 

「ふふっ……なら、“コレ”もっていって……?」

 

彼女の指さす先にあるのはこの部屋に辿り着いてすぐに近くの机に置いた彼女の妖弦、妖精騎士トリスタンの象徴たるフェイルノートだった。

 

「そのとなりにおいてある、矢に……ありったけの、のろいかけてある、から」

 

「わたし、にかたがわりさせた、たましいのくさる、のろい」

 

「ぜんぶ、ぜんぶおんなじのつくって、のせてやったの」

 

「だから…………」

 

バーヴァン・シーは僕の目をまっすぐに見て、これだけは絶対に伝えるという意志をのせて口を開いた。

 

「妖精騎士を、このブリテンを舐め腐ったあの男を……絶対に……!」

 

「ああ、必ず討つ。君のこの矢で、君のこの妖精騎士としての誇り(フェイルノート)で」

 

「頼んだぜ、伯父様」

 

いつものように、不敵に笑ってバーヴァン・シーはそのまま眠りに落ちた。

数日間、眠るまもなく感覚の消えゆく四肢で歩き続けたんだから無理もない。

 

「モルガン」

 

「わかっています、お兄様」

 

「僕は厄災に向けて対応を始める。君は……」

 

「まずは円卓軍を迎え撃ちます。これ以上妖精騎士を減らされるわけにはいきません、ガウェインやランスロットまでカルデアに討たれれば厄災への戦力は無くなる。それだけは避けなければなりませんから」

 

バーヴァン・シーの手を握ったまま、モルガンの力無い声が室内に響く。

しかし、立ち上がった彼女の顔はいつも以上に決意の満ちた表情だった。

 

「アルトリア率いる円卓軍がキャメロットに侵入し次第、残存する妖精騎士を動員します。ウッドワスが不在ならオックスフォードの鐘はじきに鳴る、ならば……ロンディニウムで最後の鐘が現れるでしょう。そうなればあと数日でこのキャメロットまで叛逆の徒はやってくる」

 

「アーデルハイト、ランスロットとガウェインをキャメロットに招集しなさい。明日の早朝に妖精円卓会議を開きます。万一の遅刻もないようにランスロットには厳命しておきなさい」

 

「御意」

 

安心した顔で眠るバーヴァン・シーを一目見て、モルガンとアーデルハイトが退室していく、最後に残った僕もほんの少しでも彼女の呪いの進行を抑制できればと彼女に対呪魔術を掛けて、託されたフェイルノートと彼女の切り札である呪詛の矢を手に部屋を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、その数時間後にオックスフォードの鐘が鳴った。

 

 

 

 

 

 

オックスフォードの鐘を鳴らし、ロンディニウムに帰還したアルトリアたちが見たのは崩壊したロンディニウムの無惨な姿だった。




もうすぐ、キャメロットへ突入ですね。
それと同時にアヴァロン・ル・フェも終盤に向かいつつあります。
みなさん、この物語の結末を見届ける準備はできていますか?
作者である僕は本編プレイ時に最推したるモルガン陛下が惨殺される姿を見てリアルに体調不良を起こし吐き気まで催した場面を自分で書くことに若干の憂鬱さを覚えています。

しかし、ここを乗り越えなければこの作品の最後までは辿り着けないので頑張ります()

投稿まで少し時間が空きましたが、その期間に高評価を推してくださった皆様本当にありがとうございます!
皆様のおかげで今月は8話投稿することができてランキングにもお邪魔させていただくことが多い月でした。

引き続きみなさまからの【高評価】【感想】もお待ちしていますのでよろしくお願いします!

アヴァロン・ル・フェの更新について

  • 今まで通り月に3〜4話見れればいい。
  • 待ってもいいからストックして放出
  • 別に気にせんでええねんで(^ω^)
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