ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ 作:文月~夢売り商人~
トレセン学園 初勤務
「やっと着いたな」
ファームのある栃木から、ここ東京まで約4時間半。ようやく、【日本ウマ娘トレーニングセンター】──通称【トレセン学園】のある府中に着いた。
先代の理事長から連絡を受けてトレセン学園のトレーナーを引き受けたのはいいが、東京は人が多くて疲れる。
まあ、秋川の婆さんからの頼みだし、断るわけにもいかないからな。
「さて。送られてきた地図によると……」
トレーナーを引き受けることを承諾した時に、場所が分からないので地図を送ってもらったのだが、子供が描いたようなぐちゃぐちゃな地図と、丁寧な詳細地図の二つが送られてきた。
子供が描いたようなほうは握りつぶして捨てておいた。
地図によると、30分ほど歩いた場所にあるようだ。どんな子たちがいるのか、今から楽しみだな。
府中駅から歩き始め、30分ほどで目的の場所に着いた。
トレーニングセンターではあるが、学園と呼ばれているだけあって、普通の学校のような景観だ。正面には学生寮もあるみたいだな。
「すみません」
入り口付近で景観を眺めている俺に話しかけてくる人物がいた。声のした方を見ると帽子を被った全身緑色の服装の女性が立っていた。
「桜さんですね? 初めまして。私は理事長秘書をしている『
駿川と名乗った人物が迎えにきてくれたおかげで、スムーズに学園内へ入ることができた。
理事長室に向かう道中、俺の他にも三人新人トレーナーがいるとの話を聞いた。そして明日は入学式があるらしく、新人・新任トレーナーも、その際に紹介されるらしいので、簡単な挨拶を考えておいてほしいと言われた。
理事長室まで案内され中に入ると、何人もの人物たちがいた。ここトレセン学園に勤めるトレーナーたちなのだろう。前の方に緊張した面持ちの三人と、バケットハット? クロッシェ? のような帽子を被った少女が堂々とした佇まいで立っていた。
俺が駿川さんに促され、中に入ると少女が口を開いた。
「よく来た! 早速だが前へ来てほしいっ!」
存外に偉そうな態度だが、他の人物は誰も何も言わない。全員で仕組んだドッキリではないかと疑ったが、冗談に付き合っている暇はないだろうから、このお子様が現理事長なんだろう。
ここ数年は連絡は取り合ってはいなかったから孫娘がいてもおかしくはない。
そう思い前へ出る。入り口近くにいる人物たちの横を通り過ぎる際、横目で見られている視線を感じた。
まあ、俺の見た目が若すぎるからな。気持ちは分かるが、実際には俺の方がアンタらよりずっと年上なんだけど。
「うむっ! 皆揃ったところで一足先にトレーナー諸君に紹介しておこうッ! 彼らが新人・新任トレーナーだ!」
そう言いながら扇子を持った手を横に広げた。横目でチラッと見えたが扇子には【歓迎ッ!】の文字が書かれていた。そうして多少なりとも小難しい言葉を使った話を終えると、新人トレーナーの自己紹介及び目標などを言うことになった。
新人三人は、まさに新人らしい初々しさを感じる自己紹介を終え、いよいよ俺の番となった。
「桜です。以前は【桜ファーム】で会長兼トレーナーをしていました。ですが、トレセン学園では新人ですので、ご指導ご鞭撻のほどをお願いします。俺の目標──夢はウマ娘たちの夢を叶えてあげたい。手助けをしたい。それだけですね」
俺はそれだけ言ってお辞儀をして姿勢を正した。全員が自己紹介を終えたのを確認すると、理事長が話を続けた。
俺はトレーナーの経験があるということで省かれたが、他の新人三人には先輩トレーナーがつくことになった。三人は先輩に連れられ学園内を案内されることになったんだが、俺には先輩トレーナーがつかないので駿川さんが案内をしてくれることになった。
トレセン学園は普通の学校と同等の学習ができる上に、トレーニング施設が充実している。グラウンドでは、芝やダートのコースがあり。坂路やプール、オマケにジムなども完備されている。
一通り案内をしてもらいトレーナー寮まで送ってもらい今日は休むことにした。
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翌日。今日は入学式及び初勤務の日だ。身支度を整え学園の体育館に向かった。その途中、何人ものウマ娘とすれ違うたびにチラチラと見られた。
まあ、見たこともない人物が学園内を歩いてるから当然だろうな。体育館に向かう途中に声を掛けられた。
「失礼。君も新人トレーナーかな?」
声がした方を見ると凛とした顔立ちのウマ娘がいた。鹿毛の髪色で前髪は焦げ茶色。一部分は三日月の形をした白いメッシュが垂れている。
新人ではなく新任だと伝えると、「すまない」と言いながら謝罪し、自己紹介をしてきた。
「私は『シンボリルドルフ』、ここトレセン学園の生徒会長をしている。新任とはいえ、ここでは新人と変わらない。東奔西走することもあるだろうが、一期一会を大切にし、日進月歩の思いで初志貫徹し、温故知新の精神で研鑽してもらえればと思う」
四字熟語が好きなのか? そう思いながらも、俺も自己紹介を済ませて体育館内に入った。入る際、入り口にいた駿川さんから待機場所を伝えられ、そこに向かった。
トレーナーたちが隅に並んでいた。教えられた待機場所には、昨日よりは少し落ち着いた様子だが、まだ緊張した顔をしている新人トレーナーが三人いた。俺が待機場所に並ぶと、横にいた人物が声を掛けてきた。
「全く緊張した様子がありませんね……」
会話で少しでも緊張をほぐそうとしているのだろう。名前は確か──。
「私は『
何に緊張しているのか分からないが、新人のためだと思い入学式が始まるまで、話し相手になることにした。
氷川トレーナーは自分がトレーナーを志した経緯やらどういった方針で臨むのかなど話してくれた。その甲斐もあってか緊張がかなり緩和されたようだった。
「ふぅ……。一方的に話してしまってすみません。でも、おかげで緊張が大分ほぐれました。ありがとうございました」
氷川トレーナーが、そう言ったのと同時に体育館全体に声が響いた。どうやら入学式が始まるようだ。
司会者の入学式開会の挨拶から始まり、理事長の挨拶や生徒会長の祝辞、新入生代表の挨拶などとプログラムは滞りなく進んでいき、新人トレーナー挨拶となった。自分がどのような指導をしていくかなどを話した。
氷川トレーナーも自分の目標や夢、指導について話し終えて俺の番となり名前を呼ばれたので登壇した。
「ああー。新任トレーナーの桜だ。以前は桜ファームでトレーナーをしていたんだが、今回は前理事長にお声掛けをいただき、トレセン学園でトレーナー勤務をすることになった。俺の役目はキミたちの指導は勿論、夢を叶える手助けをすることだ。俺の指導方針としては基本的に自由なトレーニングだ。自由と言っても全部が全部自由ではないことも伝えておく……」
そんな感じで挨拶をすませた。途中、自由なトレーニングと言ったあたりで、少しザワついていたが想定内だ。
まあ、自由と言っても、いろいろと取り決めがある中での自由なんだがな──。
入学式も終わり解散となった。その後、俺は書類管理室で生徒名簿に目を通していた。
通常、すぐにはチームを持てないが、俺の場合は特例として、チームを持てることになった。
そんな理由からボーっとしているわけにもいかないので、駿川さんに頼んで生徒名簿をみているところだ。
生徒の顔と名前を憶えておかないとな。落雷事故の影響で不老どころか、記憶力まで化け物級になっていると分かった時は、驚いたものだが、今では便利なモノだと思っている。
一人静かに生徒名簿に目を通していると、軽い口調で声を掛けられた。
顔を上げると、口調の通り軽々しい見た目の男が立っていた。
「生徒名簿を見ているみたいだけど、もう担当を決めるの?」
くせっ毛を後ろで一つ結びに束ねており、左側頭部を刈り上げた特徴的な髪型をしている。顎周りに少し無精髭が見えているのも気になるが、もっと気になるのは棒を咥えていることだ。おそらく棒付きキャンディーなんだろうが──。
俺が黙っているのを不思議に思ったのか、そういえばといった感じで自己紹介を始めた。
「いやー。すまんな。俺は『沖野』だ。チーム【スピカ】のトレーナーをしている。んで、誰をチームに勧誘するか決めた?」
大分、グイグイとくる人物のようだな。そう思いながらまだ決めていない事、暫くは様子を見ていくことを伝えると、そうなの? といった驚いた顔をされた。
沖野トレーナーを無視して名簿に目を戻す。そんな俺をみて、ヤレヤレといった感じで沖野トレーナーは退室していった。
およそ五時間ほどで全生徒の名前と顔を覚えた。
今日の予定を終えた俺は寮に戻り休むことにした。明日からは勧誘のために、ウマ娘たちの練習風景を見て回る予定だ。どんな子たちがいるのか、今からワクワクしてならない。
「明日が楽しみだな」