ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ 作:文月~夢売り商人~
本日はローレルのデビュー戦だ。昨日の北海道では雨が降っていたが、東京では昨日今日と快晴で良かった。三人続けての出走となるので、レース場ではクラウンの話で持ち切りになっているようだ。
ローレルは東京レース場での出走となるので、チーム全員で応援に来ている。会場に入るために通路を歩いていると既に注目の的になっていた。
注目されているのと、きちんと走れるかの不安から少し俯いてしまっているローレル。大丈夫だと励ましながら会場入りして控え室へ向かった。
控え室では着替え終わったローレルが目を閉じて集中力を高めていた。脚が少し震えているのが分かる。緊張しているのか不安なのか、またはその両方か……。
どう声を掛けるか迷っているとローレルのほうから声を掛けてきた。
「トレーナーさん……。大丈夫です」
少し間の沈黙……。
俺はローレルの次の言葉を黙って待つことにした。いつもはバクシンオーとチヨノオーをまとめる立ち位置にいるが今日は違う。一人のウマ娘として自分の夢に向かい初めの一歩を踏み出そうとしている。どこにでもいるウマ娘だ。
不安に思うこともあるのだと理解している。
「確かに不安もあります。でも、私は負けません。昔いたクラブの子たちも見てくれてるかもしれないから、私の走りを見てもらいたいから、そう思うだけで勇気が出てきます」
そう静かに話していると、次第に脚の震えが止まっていく。
うん……。ローレルも気持ちで負けていない。今日は十分に期待できる走りを見せてくれるだろう。そう思い俺も声を掛ける。
「これがローレル……。サクラローレルの走りだと皆に見せつけて来い。これからも走り続けて、いずれは世界を獲る走りだと全員の目に焼きつけてくるんだ」
俺がそう言うとローレルは目を開き俺を見据えて小さく頷いた。気合も十二分に乗ってきたところだな。場の緊張がとけたのが分かったからなのか、バクシンオーがいつもの調子で大きな声で笑いながら声を掛けている。チヨノオーも格言を言いながら元気づけている。
ローレルは、そんな二人を見て笑顔を見せる。余計な力も抜けたようで何よりだな。
こういった時のチームメイトは、非常に心強いものがある。暫く談笑していると係員が呼びに来た。いよいよローレルのデビュー戦が始まる。
スタンドが賑わっている。レース場の外より、ローレルの話題で持ち切りになっている。
前日、前々日の二人のお蔭でローレルは一番人気での出走となり、パドックでの評価も好評のようで良かった。それにしても──。
デビュー戦だと言うのに、本当に凄い盛り上がりだな。ローレルの人気もさることながら他の子もかなり人気のようだ。雰囲気に呑まれなければいいけど……。
心配になり様子を見ようとするも残念ながら、スタート位置は向正面。仕方なく大型スクリーンに目をやりローレルが映されるのを待った。
実況と解説が出走ウマ娘を改めて紹介を始めローレルの紹介になると映し出された。スクリーン越しだが落ち着いた様子が見えたので一安心だ。レースが始まるのを待っていると声を掛けられた。
「今日で三日目。三人連続の出走だな」
沖野トレーナーだ。それとスピカメンバーも来ているのか……。敵情視察かね。
「まぁね。そっちはゴールドシップ以外の予定は?」
こちらばかり情報を渡すのは癪なので、俺も聞き出すことにしたのだが気まずそうに誤魔化してきた。どうやらトレーニングはしているが本格化が、まだ来てないとのことだ。
デビューするのは、まだ先のようだな。
俺が一人勝手に納得していると、そんなことよりと言いながらスタンドの上の方を指さした。指さされた方に目をやると、八人くらいのウマ娘たちがいた。隣には女性トレーナーが居るな。遠目からなので良く見えないが、ウマ娘の一人は以前会ったことがある子だな。
シンボリルドルフ。無敗の三冠ウマ娘と言われていて【皇帝】と言われているらしいな。あと信じられない噂を聞いたくらいだ。
視線をコース側に戻すと隣では沖野トレーナーとウオッカにダイワスカーレットが、メイクデビューのことで言い合っていた。仲が良いのは結構なことだ。
一通り言い合ったようで少し疲れ気味の沖野トレーナーなのだが、そんなことお構いなしに見に来ているトレーナーのことを聞くことにした。
沖野トレーナーの話によると彼女は、チーム【リギル】のトレーナーで『東条ハナ』と言う名前らしい。遠目から確認できたのは眼鏡を掛けて、ポニーテールの知的な女性という位しか分からんな。
最近、話題になっているウチのチームのことを少し気になっているとのこと。なんでそんなことを知っているのか尋ねると、知らない仲でもないとのことだ。
「始まるみたいだぞ」
沖野トレーナーの一言で視線をコースへ戻すと、丁度ゲートインが始まったようだ。
1枠 1番 アンペールユニット
2枠 2番 ハートブロウアップ
3枠 3番 ソードラマティック
4枠 4番 クスタウィ
5枠 5番 ミニキャクタス
5枠 6番 ブリーズカイト
6枠 7番 ポーラディッパー
6枠 8番 サクラローレル
7枠 9番 オレンジシュシュ
7枠 10番 プチフォークロア
8枠 11番 リボンマドリガル
8枠 12番 アングータ
「晴れわたる空のもと行われる、東京レース場。芝1600mメイクデビュー。十二人のウマ娘たちが挑みます。三番人気には5番ミニキャクタス。二番人気を紹介しましょう、2番ハートブロウアップ。さぁ、今日の主役はこのウマ娘をおいて他にいない、本日の一番人気サクラローレル!」
「私が一番期待しているウマ娘、気合を入れて欲しいですね!」
ローレルのデビュー戦が、いよいよ始まる。実力では頭一つ抜けていると思うがレース展開次第では、どう転ぶか分からないから油断はできない。
あと、解説さんよ。ローレルの気合は十二分に入っているんですが。
心の中で解説に文句を言いつつレースの行く末を見守る。
一人また一人とゲートインをしていくウマ娘たち。ローレルは少し緊張した面立ちで自分の番を待っている。そして自分の番になると深呼吸をしてゲートへ入っていった。全員がゲートへ入り終わり少し間を置きゲートが開く。
<ガコンッ!!>
「さあ、ゲートが開いた。各ウマ娘、キレイなスタートを切りました」
「誰が先頭に抜け出すか、注目しましょう」
先頭争いは、ハートブロウアップとアンペールユニットだな。三番手には、ソードラマティックで、その後ろミニキャクタスと外にオレンジシュシュ。2バ身くらい離れて、ポーラディッパーにアングータ。ローレルは、八番手か……。
出遅れることなく幸先の良いスタートを切れたのはいいことだ。
まあ、悪くない位置ではあるから前半は心配いらないだろう。後半は内側にいるから上手く先頭に出られるかだけが心配だな。
ローレルには今日のバ場状態から見て好きなように走るように伝えてある。別に投げやりなわけではなく、ローレルの脚質からみて下手に作戦を伝えるより好きに走らせたほうがいいと判断したからだ。
スパートは周りに合わせるのではなく自分のタイミングでとはアドバイスはしたけどな。
位置取りが落ち着いたようで先頭はハートブロウアップ、少し後ろにアンペールユニット。二人とも逃げの作戦みたいだ。気持ちよく飛ばしているな。
競争相手だが素直に、そう思ってしまう程のいい逃げっぷりだ。
「先頭はハートブロウアップ、第2コーナーへかかっていきます。1番アンペールユニットはすぐ後ろを追走。三番手の位置で先頭を窺うのはソードラマティック! 少し後ろに5番ミニキャクタス、外並んで9番オレンジシュシュ。一番人気サクラローレルは後方」
「ハートブロウアップ、掛かっているんでしょうかね? 一息入れたい所です」
実況も解説も、そう言って心配をしているが多分だが、あれがあの子のペースなんだろう。疲れた表情も見せずに楽しそうな顔をしている。ああいった子には是非とも勝ってもらいたいと思うが俺はローレルのトレーナーだからな。何としてもローレルに勝って欲しい。
俺を含む観客が見守る中、先頭は第3コーナーへ入っていく。今日は1600mだから第4コーナーを抜ける前にスパートを掛けないと捕まえられないのは、ローレルも分かっているはずだ。
「先頭は依然、ハートブロウアップ。すぐ後ろにアンペールユニット、2バ身離れてソードラマティック。外からオレンジシュシュ上がってきているぞ! 後ろにはミニキャクタス。ポーラディッパー、アングータも来ている。サクラローレル脚を貯めているぞ、ここから間に合うのか!?」
もうすぐ先頭が第4コーナーを抜ける。ハートブロウアップがスパートを掛け始めたか?
最後の力を振り絞り加速し始めている。それを逃がすまいとアンペールユニットも追い縋る。先行組も焦りからスパートを早めにかけたようすだ。
「先頭は変わらずハートブロウアップ。残り500mを切った」
スタンドからは歓声が沸いているが、ハートブロウアップに少し疲れが見え始める。すぐ後ろにいたアンペールユニットが距離を詰め先頭へと変わる。後ろの子たちも必死で追い縋る中、ローレルは外側へ外れ、力強く踏み込み思いっきり地面を蹴りスパートをかけた。
かなり遅めのスパートだが間に合うか……。
「先頭はアンペールユニット! ハートブロウアップ諦めず追い縋っている」
誰もが、このままアンペールユニットが勝つと思っているだろうが俺はローレルがやってくれると思っている。あの子のレースへの想いを信念を信じよう。最後まで目を離さずレースの行方を見守る。
「おーっと! 後方から追い上げてくるウマ娘が居るぞ! サクラローレル、サクラローレルだ! 凄まじい脚だ!」
必死に追い掛けるローレル。先頭との距離を縮めていくが先頭は残り200m。
「先頭はアンペールユニット。だが、サクラローレルが後方のウマ娘たちを、ごぼう抜きし追い上げてきているぞ」
スタンドはデビュー戦とは思えない程、盛り上がってきている。アンペールユニットを応援する者、ローレルを応援する者、他の子たちも諦めるなと応援する者。様々な声が聞こえてくる。
「サクラローレル、アンペールユニットに並んだ! 残り50m。勝つのはどっちだー!」
実況も興奮しているようだ。アンペールユニットは絶対に追い抜かせないといった気迫を見せて走る。対するローレルは絶対に追い抜くといった気迫で走る。二人の走りを見て俺も思わず興奮してしまった。
やはりこういったレースは幾つになってもワクワクするモノがある。
隣にいた沖野トレーナーは楽しそうに観戦し、スピカメンバーは少し興奮気味に声援を送っている。彼女たちの目から見ても良いレースだというのは分かるようだ。
多くの声援の中、二人がほとんど同着かと思える差でゴール板を駆け抜けたが勝ったのはローレルだ。
「勝ったのはサクラローレル! サクラローレルだー!」
着順掲示板には一着8番、二着1番と表示されハナ差と表示されていた。三着はハートブロウアップは二着と2バ身と2分の1差となっていて。この三人の内、誰が一着でもおかしくないレースだった。
着順を確認したローレルは笑顔になりスタンドのほうを向き、応援や歓声に対し頭を下げた。
ハートブロウアップはハナ差の結果を見てここからでも分かる位に悔しそうな顔をしていた。この子もローレルの良いライバルになってくれるだろう。
割れんばかりの歓声の中、沖野トレーナーが話しかけてきた。
「凄いなサクラローレル……」
口角を上げニヤリとした笑顔を見せるが、この顔はイヤな顔じゃないな。純粋に楽しんだ素直な感想の顔だ。
俺はそんな沖野トレーナーに「まぁね」といった感じで、担当の子が褒められ満更でもないといった感じで返事を返した。
スピカメンバーのデビューしてない二人。ウオッカとダイワスカーレットも、このレースを見て興奮気味の状態のようだ。我慢出来なくなったようで沖野トレーナーに早くデビューさせろと言い寄っている。沖野トレーナーは、まだ時期じゃないからと落ち着かせていた。
何はともあれ三人ともデビュー戦を良い結果で終われたから、ひとまずは良しとしておくかね。
ウイニングライブ後、トレセン学園に近い病院へ検査へ向かった。ローレルは脚のこともあるから少し心配だ。数種類の検査を終え診察室へ。医者の触診でもレントゲン検査でも僅かな異常も見られないとのことだったので一安心だ。
医者には三人目なので、顔を覚えられたらしくレース後に何ともなくても心配してくれる良いトレーナーですねと言われローレルも嬉しそうに返事を返していた。
病院から戻りローレルを寮の前まで送り届けた後、トレーナー室へ。
トレーナー室へ入ると氷川トレーナーがショルダーバッグを肩にかけ帰り支度を終えた所だった。
「桜トレーナー。お疲れ様です」
俺は挨拶を返し椅子に座る。あの日から心の余裕が持てたようで多少の疲れはあるだろうが、あの時よりは大丈夫そうだ。昨日、提出したメニューが先輩トレーナーからOKがもらえたようで、一人任せてもらえるようになったらしい。
新人三人の中でも一番早く、一人でトレーニングをさせてもらえることになった。
「三日間、お疲れさまでした。皆、素晴らしいレースだったらしいですね」
誰から聞いたか分からないが、ウチのチームメンバーがデビューを無事に終えたことを知ったようだ。
「あの子たちの普段からの頑張りの結果ですよ」
俺がそう返すと氷川トレーナーも笑顔になり自分も今任されている子が夢を叶えられるように私も頑張りますと意気込んでいる。
今度はそれで頑張りすぎなければ良いけどな。そう思い少しアドバイスをすると、あの子の体調とも相談して自分の体調管理も怠ったりしません。と笑顔で言ってきたので取り合えず心配はなさそうだな。
その後、少し話をしたあと「お先に失礼します」と、氷川トレーナーがトレーナー室を出て行った。
俺は明日からの予定を少し考えてからトレーナー室を後にした。
レース展開の表現が本当に難しい。
同じ事しか書けない……。