ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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孤独のウマ娘と三冠レース

 チヨノオーのレースから三日後。

 やはりマルゼンスキーのことが気になる。確か、リギルに所属していたはずだよな。放課後はトレーニングで忙しくなりそうだから、その前に話が聞ければいいんだけど……。

 そう思い俺は担当の東条トレーナーを捜すことにしたのだが、いかんせん他のトレーナーのことは全く知らない。普段、どこにいるのかも見当がつかない。

 

「さて、どうしたものか……」

 

 暫く悩んだ結果。沖野トレーナーを頼ることにした。

 以前、東条トレーナーとは知らない仲ではないと言っていたので、普段から交流があるだろうと思ったからだ。頼ると決めたからには行動開始だ。沖野トレーナーなら恐らくトレーナー室にいるだろう。勝手にそう決めつけて、沖野トレーナーがいるであろうトレーナー室に向かった。

 目的の場所に着いた俺はノックをして返事を待った。直ぐに返事が返ってきたので挨拶をしてから入室した。

 入室すると目的の人物が二人いた。沖野トレーナーは俺だと分かると「どうした?」といった感じで声を掛けてきた。東条トレーナーはチラリと一瞥すると直ぐにノートパソコンに視線を戻した。

 俺は訪れた理由を話した。

 

「おハナさんに用事ねぇ~……」

 

 そう言って沖野トレーナーは、東条トレーナーをチラリと見た。と言うか下の名前で呼ぶくらいの仲だとは思わなかったな。

 まあ、俺には関係ないので早々に要件を済ませようと東条トレーナーのデスクへ近づいた。

 

「東条トレーナー。今、いいですか?」

 

 社会人の常識。相手の都合の確認は大切だ。いきなり要件を言われても、相手が忙しい時だとイライラさせてしまうからな。時間があるかの確認はキチンとしないとな。

 

「何かしら?」

 

 視線はそのままに返事を返してくる。傍で見たり声を聴くかぎり思った通りの、知的でクールな感じの女性だな。少し苦手なタイプだ。

 少し遠慮気味に要件を伝えた。俺の要件を聞いた東条トレーナーは、データを打ち込む手を止めて俺を見据えて聞き返してきた。

 

「他チームのトレーナーである貴方が、なぜマルゼンのことを?」

 

 尤もな質問なので俺は理由を話した。チヨノオーを見るマルゼンスキーが少し悲しそうな顔をしていたのでその理由を知りたい。そう話すと東条トレーナーは再び視線を戻し指を動かし始めた。

 

「貴方には関係ないことよ」

 

 それだけ言うと、それ以上は何も言わなくなった。どうしたものかと頭を掻いて考えを纏めていると、沖野トレーナーが助け舟を出してくれた。

 

「まぁまぁ、おハナさんそんなこと言わずに」

 

 沖野トレーナーが、そう言うと東条トレーナーは大きなタメ息を吐きながら手で頭を押さえた。 

 どうやら東条トレーナーは、沖野トレーナーを面倒臭く思っているようだ。嫌々というか渋々といった感じで話してくれた。

 

「あの子は最強と言っても過言でない子よ。そのせいであの子は孤独になったのよ」

 

「孤独に?」

 

 沖野トレーナーが聞き返したが俺は何となく分かる。強すぎる子は周りの子のやる気というか、気持ちを折ってしまうこともある。あの人が出るレースだと勝てない、勝てないのが分かっているレースに出るのが、どれだけ苦痛なのかも何となく分かる。

 そういう理由で周囲から、一人また一人と離れて行ってしまったのだろうな。

 マルゼンスキーが言っていた。チヨノオーを"独り"にするなとは、こういったことが理由なのだろう。自分と同じ思いをして欲しくない。自分に憧れ追いつこうとするあまり"独り"にならないようにと忠告してくれたんだろうな。

 俺が考え込んでいる最中、二人のトレーナーは何か話し合っていた。

 

「話して頂きありがとうございます」

 

 俺がお礼を言うと東条トレーナーは、私は何もしていないといった感じだった。俺が退室しようとすると沖野トレーナーが急な提案をしてきた。

 

「親睦を深めるということで、今夜三人で飲みに行かない?」

 

 ニカと笑ってサムズアップする。俺と東条トレーナーは深いタメ息を吐いた。それを見たはずだが、少し強引な感じで誘ってきたので今夜はどこかに飲みに行くことになってしまった。

 諦め気分で退室しようとしたが思い出したことがあったので、東条トレーナーに言伝を頼んだ。

 

「東条トレーナー。マルゼンスキーにチヨノオーには、いいライバルができたから心配しなくていいと伝えてもらってもいいですか?」

 

 何のことか分からないといった感じだったが、東条トレーナーは伝えておくと了承してくれた。お願いしますと、礼を言ってから退室した。

 

 放課後。トレーニングを始める前にチームメンバーにチヨノオーが皐月賞に出走する意思があることを伝えるのと同時に皐月賞、日本ダービー、菊花賞と三冠レースについて話すことにした。

 

「チヨノオーが出走予定にしている皐月賞。なんて言われているかはしっているか?」

 

 俺が質問をすると全員が頷き、ローレルが答えてくれた。

 

「『最も速いウマ娘が勝つ』ですよね」

 

「そうだな。皐月賞は最も速いウマ娘が勝つと言われている理由だが、成長が早く誰よりもスピードがある子が勝つと昔から言われていたからだ」

 

 俺がそう言うと全員が納得がいったような感じだった。次に日本ダービーについてだ。日本ダービーが何と言われているかという質問には、スカイが答えたのが少し驚きだ。教師陣からは居眠りしていることがあると言われていたが真面目に聞いている時もあるようで安心だ。

 

「『最も運のあるウマ娘が勝つ』て言われていますねぇ~」

 

「よく勉強しているな。そう言われている理由だが日本ダービーが山場でもあるからだ」

 

 俺がそう言うと全員が首を傾げた。

 

「皐月賞の約一カ月後のレースだ。調整が間に合わなかったり怪我をしたりと、短い間には何があるか分からない。運悪く怪我で出走できなかったという子も多いレースだ。それ故、最も運のある馬が勝つと言われている」

 

 ダービーに限らず、どのレースでも同じことが言えるが三冠ということもあり、ダービーのみがそう言われるようになっていた。同じ時期のレースでオークスもあるが距離の違いもあり特別な謂れはない。

 

「チヨちゃんが三冠路線を進むなら怪我に気をつけなくちゃね」

 

 そう言ってローレルは、チヨノオーの怪我の心配をしていた。

 まあ、俺も目を光らせて見ているので無理はさせないが、怪我はいつどのようにするのかは全く分からない。気をつけていても怪我をすることもあるので何とも言えない。

 バクシンオーはチヨノオーが怪我をしないように委員長としてしっかりサポートしますっと宣言していたが、余計なことをしないか心配になってくる。

 スカイは、その性格から適度に休めば怪我をしないとアドバイスみたいなことを言っていた。その通りでもあるんだが、スカイが言うとサボりを推奨しているように聞こえてしまうから不思議だ。

 

「最後の菊花賞はクラシック級の時期的にも努力の集大成。どれだけトレーニングをしてきたのかで勝敗が決まるから『最も強いウマ娘が勝つ』と言われている」

 

 それ故、二冠を走らなくとも菊花賞に出走して勝利をかっさらっていく子もいる。見所のあるレースの一つだ。最後の冠を獲ろうにもこういったことがあるし、長距離適性がないと難しいレースだ。アイツもかなりトレーニングに励んで勝ったレースだ。オマケにレコードも叩き出していて、未だに破られていないときている。

 

「それだけ厳しいレースなんですねぇ」

 

 スカイが少し気の抜けたように言ってくるが、まさにその通りである。

 

「とにかく、チヨノオーは皐月賞に出走したいということだから、改めて三冠レースの説明をしたわけだが、チーム内で三冠を獲れる可能性があるのはローレルとスカイの二人だな。バクシンオーとチヨノオーは距離適性的に菊花賞はかなり厳しいだろうな」

 

 俺がそう言うとローレルとスカイが真剣な表情を見せていた。ローレルは分かるがスカイまでこんな表情を見せてくれるのは正直にいって嬉しいものだな。

 今年はもう無理だが来年はスカイの時代になるかもしれないな。そう思いながら説明を終えたのでトレーニングに入るように促した。

 

「しっかり体をほぐして明日に疲れが残らないようにするんだぞ」

 

 辺りが薄暗くなってきたのでトレーニングを切り上げて、しっかり休むように伝えて本日は解散となった。

 なのだが。

 このあと、俺は沖野トレーナーと東条トレーナーと飲みに行く約束があるので準備をして向かうとしますか。

 外出の準備をするといいながら時間に余裕があると思って、チヨノオーの新しいメニューを書きだしていたが、ふと時計を確認すると約束の時間がもう間近であることに気がつき、大慌てで出掛けた。

 時間に間に合うようにバ道を走ることにしたのだが、道行く人は俺の方を二度見ならず、三度四度見してくる。普通はそうだろうなウマ娘じゃないのに、バ道を同速度で走る男がいるのだから恐怖の対象にもなるだろうさ。

 そんなことは気にせずに急がないとな。

 待ち合わせ場所には驚いた表情をした沖野トレーナーと東条トレーナーが待っていた。二人の表情の原因は俺であることは理解している。バ道を走ってきた俺に驚いているのだが、理事長からも俺の話はきちんと伝わっているとはいえ、実際に目にするまでは信じられないことだろうからな。

 そして。今、実際に目の当たりにして驚いているのだろう。取り合えず時間ギリギリになってしまったことを謝罪しBARへと入っていった。

 席につき各々、注文を済ませた。少しすると全員の注文が揃った。沖野トレーナーは、このあいだはやせ我慢して飲んだのだろう。今日はウイスキーのハーフロックだな。東条トレーナーはイメージ通りと言うかブルーマルガリータ。俺はカルーアミルクを注文した。

 全員一口飲んだところで、沖野トレーナーが俺の方を見てニヤニヤしていた。その理由は俺がカルーアミルクを飲んでいるのが面白いのだろうな。飲みやすく甘みもあるのが好きなんだよ。

 そのあと、沖野トレーナーがあまりにも茶化してくるので仕返しにとブラックルシアンを勧めた。カルーアがコーヒーリキュールということもあって文字通り甘く見ていた沖野トレーナーは、それを一気に半分ほど飲むと同時に咳き込んだ。

 甘く見過ぎだ。多少薄まるとは言え、ウォッカとリキュールを混ぜた物だ。それを一気に飲もうとするのが、そもそもの間違いだ。咳き込む沖野トレーナーをよそに俺と東条トレーナーは静かに飲み続けた。

 




三冠レース。自分の解釈での説明です。

2025/05/31
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