ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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一年を終えて

 早いもので、俺がトレセン学園に来てから初めての年末。

 今日は年越しのために買い物に来ているのだが、次々とレジカートに商品を入れられていく。その量よりも、何を作るのかが気になる材料が入れられている。

 

「チヨ特製鍋です!」

 

 元気よく答えたチヨノオーだが、鍋を作るにしては鍋に合わない材料も入っている。

 デザートはローレルが押しているカートに入れてある。俺が押しているカートには鍋の材料が入っている。肉や野菜、魚介類などは鍋と言える材料なのだが、アボカドやヨーグルトは鍋には入れないだろう。

 次々と入れようとするチヨノオーを制止し、普通の鍋の材料だけにするよう伝えて、要らない物は戻してくるようにも伝えた。

 ローレルとバクシンオーはデザート用の材料を選んでいるが、向こうは常識があるようで大丈夫そうだな。

 遠目にチームスピカの面々も見えたのだが、向こうの子たちがあれもこれもとカートに入れていくのに対し、青い顔をした沖野トレーナーが少し印象的だった。

 ……何で金欠気味なのかね?

 

 会計を済ませて学園へ戻り、チームルームで鍋パーティーの準備を始めた。醤油ベースで独特の味付けをしているチヨノオーをよそに、俺はシンプルに塩味の和風味付けを作っている。

 ローレルは洋風味付けの鍋を作っているようだな。お嬢様気質っぽいが、料理もお手の物らしい。三人以外は手が空いているので、バクシンオーとスカイは下準備などの手伝いをすることになった。

 バクシンオーとスカイは手際よく材料を切ってくれている。バクシンオーは性格がよく出ており、きれいに切り分けて材料ごとにきれいに並べている。

 スカイは料理慣れしているのか、大根に隠し包丁を入れたりと、何も言わなくても材料を切ってくれている。二人のおかげで準備が早く終わりそうで大いに助かっている。

 

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

 鍋の準備を終え、全員が飲み物を片手に乾杯の音頭をとる。折り畳み式のテーブルを隅に片付け、カーペットを敷きローテーブルを用意して、その上にカセットコンロと鍋を置いた。どちらの鍋からもいい匂いがする。

 チヨノオーの独創的な鍋からも、いい匂いがしてくるので驚きだ。逆にどんな味がするのか興味が湧いてくる。

 

「今年も一年お疲れさま」

 

 本来なら俺が言うべきなのだろうが、ローレルが代わりに言ってくれた。

 それから年末番組をBGMに、今年一年の各々にあったことを鍋を食べながら話し合った。そんな中、チヨノオーの作った鍋は何とも言えない不思議な味がした。美味いのだが、魚介や醤油に味噌、和風に洋風と中華など様々な味を感じる。一つの鍋でこれだけ複雑な味を出せるのは最早、才能と言ってもいいほどだ。

 

「今年は私たちはデビューができて、目標に一歩近づいたと思えます!」

 

「そうですね。セイウンスカイさんは来年がデビューになるんですか?」

 

 チヨノオーが、そんな質問をしてくる。実力は十分にあるので、そのつもりだということを伝えると場はさらに盛り上がった。当のスカイも「がんばりますか~」といった緩い感じだ。

 

「スカイのことだけじゃなく、お前たちも来年からはクラシック級だ。今まで以上に厳しいレースになると思っておけよ」

 

「「「はい!」」」

 

 俺が来年も頑張るんだぞと言うと、三人は元気よく返事を返してきた。

 

「それはそうと、そろそろ始まるみたいだぞ」

 

 俺がそう言うと全員がテレビの方を見た。会話がひと段落すると同時に、トゥインクルシリーズの目玉ともいえるレース、【ウィンター・ドリーム・トロフィー】通称【WDT】が始まろうとしていた。トゥインクル・シリーズの上位に位置し、好成績を収めたウマ娘だけが出走できるレースだ。

 このレースの出走を夢見る子も少なくない。それだけ見所のあるレースというわけだ。

 全員が食事する手を一度止めてテレビに注目する。出走する子たちは見知った顔が多かった。殆どがチームリギルの子たちで占められている。それだけチームリギルに強い子たちがいるということでもある。

 ゲートインが完了し、少ししてゲートが開き一斉に走り出した。全員が実力者だけあってきれいなスタートを切った。逃げの子は一人だけのようで、快調に飛ばしている様子だ。

 

「皆さん、とても速いですね」

 

「そうですね。私とは実力が違いすぎます」

 

「そんな弱気ではいけませんよ!」

 

「いやいやぁ~。実力の差がありすぎますって」

 

 レースを見ながら、それぞれが思い思いの感想を言っていた。今のままじゃ勝てないだろうけど、努力を続けていれば、いつの日かは勝てると俺は思っている。勝負の世界には絶対に勝てるなんてことはないし、絶対に負けることもない。

 すっかり見入っていたが、気が付けばレースも終盤。最後の直線での勝負となった。

 逃げの子が最後まで逃げ切るかと思われたが、リギルのシンボリルドルフが迫ってきている。さすがは皇帝と呼ばれるだけの実力者だな。あっという間に追い抜いていき、勝利をさらっていった。

 

「はぁ~……」

 

 誰かのため息が聞こえた。それだけ真剣に見ていたのだろう。周りの様子を見てみると、全員が勝負してみたいといった眼をしていた。

 ウマ娘の性なのだろう。そういった思いは多かれ少なかれ持ち合わせている。今日のレースに感化されてもっと欲を出してもらってもいいだろうな。

 WDTレースを見おわり、また暫くは雑談しながらの食事タイムとなった。数十キロ分はあった食事は、あっという間に彼女たちの腹に収まってしまった。

 

「腹も満たされたことだし、そろそろ新年の抱負でも聞こうかな」

 

 俺がそう言うと全員が聞いていないといった感じで、少し驚いた顔をしていた。

 まあ、言ってないからな。

 急に言われてもすぐには出てこないだろうが、その方が素直な答えが聞ける。少し意地悪だが、俺は飾らない素直な言葉が聞きたい。

 

「まずはバクシンオー」

 

 俺がそう言うと再度驚き、言葉に詰まった様子だった。

 

「えっとですね……」

 

 バクシンオーが言い淀んでいるので、難しく考えず素直な言葉で構わないことを伝えると、少し考え、直ぐに笑顔を見せて答えてきた。

 

「学級委員長として皆に恥ずかしくない、お手本となるレースをしたいです!」

 

 バクシンオーらしい答えだな。この答えに少し意地悪したくなる気持ちを抑えて次だ。

 

「次はローレル」

 

 二番手のローレル。バクシンオーが答えている間も考えていたようで、直ぐに答えてきた。

 

「もう少し体力をつけたいのと、怪我なく過ごしたいです」

 

 ローレルの夢である凱旋門賞。それだけではなく海外勢は力強さがあり、日本のウマ娘たちとは体力も違ってくる。そのための抱負だろう。あとは自分の脚のことを理解した上での怪我なくという願いだな。

 

「続いてチヨノオー」

 

「強くなるためにより一層の努力をします」

 

 何故か挙手しながら元気に言うチヨノオー。元気があっていいことだが、張り切りすぎなければいいな。来年は少し注意深く見ておくとするか。

 

「最後はスカイだが……。聞かなくても何となく分かるな」

 

 俺がそう言うとスカイは不服そうな顔をして文句を言ってきた。

 

「謎の信頼感ありがとうございます。私は無理なくのんびりとですねぇ」

 

 思ったのとは少し違うが、大体は合ってた。この子の性格からして、だらけた感じというか緩い感じの抱負になるのは分かってたよ。

 全員に来年の抱負を聞き終えたので初詣にでも行こうかと提案をしたが、その前に俺の抱負を聞きたいと言われた。

 

「俺の抱負ね……。まあ、来年と言うか毎年決まってるよ。お前たち、強いてはウマ娘全員の夢を叶える手伝いをする、だな」

 

 全員と言ってもデビューの時期が重なって、三冠やトリプルティアラを逃す子は多い。誰かの夢が叶えば夢破れる子も必ずいるからな。

 そんな話は置いといて、初詣に行くぞと言ってチームルームを後にした。

 

 最寄りの神社に着いたのだが、結構な人だかりだな。新年早々に気が滅入ってしまいそうになるが、そこは耐えるしかないな。

 参拝者の列に並び順番が来るのを待つ。遠目にこちらを気にしている人たちがいるが、他の参拝者たちの邪魔になるから今は声を掛けてこないだろうと気にしないことにした。

 少し時間が経つと俺たちの番になったので、手早く参拝を済ませて、折角来たのだからおみくじを引いてみる事にした。

 

「こういうのは気休めみたいなもんだから、悪い結果でも気にするなよ」

 

 俺はそう言って自分の分のおみくじの内容を確認する。何々──。

 

[凶]

 功を焦らないこと。今は辛抱の時です。チャンスが来るまで力を蓄えて備えるべし

 願望 膨らませるは自由 叶うはあなた次第

 恋愛 今は叶わなくとも いつか縁あり

 学問 今回は諦め 次回に切り替えるべし

 商売 流れが来るまで無理するべからず

 病気 医師はしっかり選べ

 

 うん……。願望は何とかなる。恋愛はこの年齢ではどうでもいい。学問は最新の理論を勉強したかったんだがな。商売は勘でどうにでもなる。医師は信頼できる人物がいるから大丈夫と……。

 学問はしっかり勉強をしたり聞いたりすれば問題はないだろうな。俺がそう考えていると、自分たちの内容を確認した四人が俺のおみくじを覗き込んできていた。

 

「トレーナーは持ってるねぇ。[凶]なんて初めて見ましたよ~」

 

 スカイが手をヒラヒラさせながら、ニンマリと口元を綻ばせて笑顔を見せてくる。

 

「気にし過ぎたら駄目ですよ」

 

「短距離の様に一年なんてあっという間ですよ」

 

「そうですよ。レースは寝て待てです」

 

 三人娘はそれぞれ俺を元気づけようと気を使ってくれる。だがチヨノオーよ、お前の格言は伝わりそうで伝わりにくいぞ。四人はおみくじの内容は在り来たりなもので、全員が末吉だったそうだ。

 帰る前に甘酒でも飲んでいきますかと言っても、僅かではあるがアルコールが入っているので俺は飲めないがな。

 四人分を購入し、少し離れた場所で甘酒を飲んでいると、数人の人が話しかけてきて「応援しています」、「握手してください」など、対応をしているといつの間にか人数が増えてきてしまった。

 ここまでになると神社や他の参拝者の迷惑になりかねないので、ファンへの挨拶もそこそこに帰ることにした。

 帰りの車の中で、七日までトレーニングは休みであることを伝えておいた。自主練は無理のない範囲でのみ行うようにとも伝えた。

 

 その後、自室に戻った俺は今年一年のことを思い出しながら一人晩酌をしていた。そんな時、ノックの音が聞こえてきたので出てみると沖野トレーナーが立っていた。用件は飲みにいかないかとのことだったが、部屋で晩酌していることを伝えると「ご相伴に預かるかな」なんて言いながら俺の部屋に上がり込んできたので、仕方なく沖野トレーナーの分も用意し、一緒に晩酌をすることにした。

 沖野トレーナーと、これからのURAのことやレース界隈、トレーニング法について語りながら一夜を共に過ごした。

 途中、殆ど飲まないのか、日本酒を微妙そうな顔をしながら飲んでいることに気がついたが、俺の部屋には日本酒しかないので、そこは我慢してもらった。

 

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