ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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思いを胸に

「それじゃ。今日は行くところができたから行ってくる。トレーニングはいつもと同じようにな。ローレルは無理のない範囲でな」

 

 俺はそれだけ言うとチームルームを出てある場所へと向かった。

 向かった先は、株式会社『COOL Support』。

 リハビリ用品などの作製販売を行っている会社だ。ここならローレルの脚を守れる物を作ってもらえる。もしくは販売している可能性が高い。

 そう信じて会社の中へと向かった。資本金数億の会社となると立派なものだな。入ってすぐに受付の人が頭を下げてきた。

 受付まで進むと俺の見た目が若いせいか、少しマジマジと見られたがすぐに営業モードに切り替えてもらえた。

 

「ご来社いただきありがとうございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 ニコリと営業スマイルを見せてくれるがどうでもいい。俺は要件を伝えた。

 

「技術部部長の杉山さんに会いに来たんだけど」

 

「失礼ですが、アポイントメントはお取りでしょうか?」

 

 アポは取ってないな急な来社だ。一般常識だと大変失礼というか非常識な事だが俺なら無理を通せる。

 

「アポは取ってないけど、桜が来たとだけ伝えてもらえればいい」

 

 俺がそう言うと怪訝そうな顔をして、渋々と受話器を取り内線を入れていた。内線を入れて俺が来ていることを伝えると受付の女性の顔色が少し悪くなったみたいだ。

 受話器を置き慌てた様子で再度、頭を下げられ謝罪の言葉があった。

 

「申し訳ありませんでした。杉山はすぐ来るとのことですので、あちらでお待ちください」

 

 そう言って来客用のフロアへ案内された。向こうの声は聞こえなかったが叱責を受けたようで可哀想な事をしたな。そう思いながら待っていると、目的の人物が慌てた様子でこちらへやって来た。別に急がなくてもいいんだけどな。

 

「お待たせしました。桜様。本日はどのようなご用件でしょうか」

 

 大企業の部長ともあろう人物が俺に対し腰が低いのには、ちょっとした理由がある。タネを明かせば簡単な話。俺がこの会社の株を40%を所有しているからだ。言わば大株主となっているので俺に対し腰が低いのだ。

 なので今回のような無理も一応は通るが、杉山さんや会社の都合もあるので普段は連絡を入れるのだが、今回はローレルのことで急を要するので無理を通させてもらった。

 

「実は相談したいことが──」

 

 俺は今日、訪問した理由を話した。杉山さんは静かに俺の話を聞いてくれていた。

 一通り話し終えると杉山さんが口を開いた。

 

「理由は分かりました。我々としても、そのような相談が多数寄せられているので、開発を進めているのですが試作段階でして、まだ実証実験を終えられてないのです」

 

 つまり試作品は出来ているが実用段階ではないということだな。ここに来ればと思ったがまだ開発できていないとはな。期待していた分、ショックも大きい。

 いや。待てよ。試作品は出来ているんだよな。

 

「杉山さん。近々時間をとってもらえますか?」

 

 大丈夫ですよと返事ももらえたので提案をしてみた。最初は驚いていたが、俺の話を聞く内に杉山さんが折れた感じで納得してもらえた。

 あとはローレル次第だな。そう思い杉山さんに忙しい中、時間を作ってもらったお礼を言ってその場を去った。

 その日の夕方。杉山さんから連絡が入った。二日後の昼頃に時間を作ってくれたようだ。大株主という立場だが、俺のような得体のしれない男の我儘を聞いてくれるのだから本当に有難いことだ。

 

 杉山さんとの約束の日。今日はトレーニングを休みにしてある。俺とローレルは待ち合わせ場所のカフェに来ている。

 店内を見渡すと杉山さんが既に来ていた。席へ案内しようと声を掛けてきた店員に待ち合わせをしていること、待ち合わせの人物が既に来ていることを伝え杉山さんが待つ席へと移動した。

 

「すみません。お待たせしました」

 

 俺がそう言い声を掛けると杉山さんは立ち上がり、こちらに振り向き頭を下げてきた。

 

「いえ。こちらこそ、こんな時間に申し訳ありません」

 

 そう言い着席を促してきたので俺とローレルは席に座った。店員がやってきて俺とローレルの注文を聞いてくる。俺はカフェラテをローレルはアールグレイを頼んだ。少しすると注文した物がテーブルへ運ばれてきた。

 

「こちらは杉山さん、株式会社『COOL Support』の技術部部長だ」

 

 俺がそう言うと杉山さんは名刺を取り出し、ローレルへ差し出してくる。ローレルはそれを受け取り頭を下げた。

 

「まずは、サクラローレル様もご存じかと思いますが、我が社のご説明をさせていただきます」

 

 杉山さんが一通り説明をしてくれた。

 

「それで、こちらが試作品なのですが……」

 

 そう言ってカバンから幾つかのサポーターを取り出して俺たちに見せてくれた。膝や足首、足全体用のサポーターが数種類ある。ローレルもマジマジと見ていた。

 杉山さんは一つ一つ試作品の説明をしてくれ注意点も教えてくれた。注意点としては着用しっぱなしでは血行不良や痺れ、発疹などが挙げられたが、さらには試作品なので他にもデメリットがあるかもしれないとも付け加えられた。

 

「以上で説明を終わらせていただきます。再度、申し上げますが試作品なので、どのような悪影響があるかは分かりませんので、ご使用する際はご留意ください」

 

 そう言って、試作品をこちらへ渡してくれた。それを受け取り俺たちは杉山さんにお礼を言って頭を下げた。

 杉山さんも頭を下げてきた。一応モニターという名目で使用させてもらえることになっているのでレポートをまとめないといけない。

 まあ、それはローレルの話を聞いてからだな。使用感や改善点など報告すれば、より良い完成品が作れる。

 受け取る物も受け取ったし杉山さんも忙しいだろうから話は、ここまでにすることにした。退店する際、杉山さんは俺たちの分まで会計を済ませてくれたのが申し訳なかった。

 

「今日は忙しい中、こちらの我儘を聞いていただきありがとうございました」

 

「いえ。こちらこそありがとうございました。何かあればご連絡ください」

 

 そう言って頭を下げた後、自社へと戻る杉山さんを見送った。俺たちも学園へ戻ることにした。

 帰り道のこと、袋に入ったサポーターを大事そうに抱えたローレルが話しかけてきた。

 

「トレーナー……。今日はありがとうございます。私のために、ご迷惑をかけてしまいすみません」

 

 そう言ったきり黙ってしまった。何を考え思っているのか分からないが、これがローレルのためになるならいいが、どうなるかは俺にも分からない。一層、注意深く観察していくことが必要だ。

 トレセン学園に戻るとローレルは早速、サポーターを試したくなったようで走りたそうにしていたが、今日は休みにしていることを伝え我慢してもらった。少し不服そうだが休むことも必要だ。

 

 翌日。グラウンドで待っていると四人がやってきた。その内の一人は慣れない物を脚につけているせいか、少し歩き難そうにしている。周りの三人も心配そうにしている。

 四人は俺の前まで来ると整列をした。俺の指示待ちだが、その前に確認しないといけないことがある。

 

「ローレル。サポーターをつけた感じは?」

 

 俺はローレルに使用感を確認した。初日なので違和感はあるだろうが、それ以外にも何かあるなら今知っておきたい。

 俺が使用感について聞くとローレルは頷き口を開いた。

 

「窮屈な感じはありますけど、守られている感じがあって安心します」

 

 そう言って自分の脚に視線をやるローレル。今日は膝と足首用のサポーターをつけている。一先ず故障の原因で一番多い膝と足首の保護。走り方に変な癖があれば膝への負担が増え、足首は捻挫が多いので、その予防として先ずは足全体より部分的に保護を考えてのことだ。

 取りあえず今日から数日は。これで様子を見ることにした。

 

「それじゃ、今日も同じく基礎トレーニング後は追加トレーニングは各々の判断でな。ローレルは、サポーターつけてのトレーニングは今日が初めてだから特に気をつけるように。違和感や痛みがある場合は隠さずに報告するようにな」

 

 俺がそう言うと、バクシンオーが音頭を取りアップを取り始める。

 グラウンドのランニングから始めた。三人は普段と変わらないペースで走っているがローレルは普段よりペースを落として走っている。三人はそんなローレルを心配しながら走っているのが気がかりだ。

 俺は心を鬼にして注意を促すと三人は真面目に走り始めた。ローレルの様子を見ると、足のサポーターを気にしながら走っているのが見て分かる。今のところはつけたばかりの違和感が気になる程度のようだが要観察だな。

 

「それじゃ、一度休憩だ」

 

 グラウンドを小休止を挟みながら五周程した頃に休憩をすることにした。

 休憩中に四人の状態を確認。ローレルは少し窮屈だということ以外は問題はないようで、とりあえずは安心だな。特に足首周りは楽になったことと、膝は少し違和感が強いとのことだ。膝の違和感は走り方が間違っているのだろう。地面への接地時に無意識に膝が捻じれてしまっているのだろう。それは何か資料などを調べてみるかね。

 俺が知るかぎりは膝をテーピングし無理のない範囲で走り込み矯正するという、かなり古い手法しか知らない。他の人に聞くとしても頼りになる人は──。

 

「ふむ……。一人だけいるな」

 

 思いつくかぎりこういうことに詳しい人物に一人心当たりがある。少し苦手だが、そんなことを言っていられる場合でもない。どんな手でも伝手でも最大限に使うのがポリシーだ。

 休憩後も今まで通りの坂路トレーニングやスタミナ強化、室内でフィットネスバイクを使用したトレーニングをしてもらう。俺はその間に目的の人物の所へ向かうとしますか。

 

「今日は向こう側にいるみたいだな」

 

 グレーのスーツとポニーテールという組み合わせの人物。東条ハナトレーナー。走り方の矯正について何かいい案を知っているかもしれないので、向こうもトレーニング中だが話を聞くことにした。

 

「東条トレーナー。今良いですか?」

 

 厳しそうなので、トレーニング中に話しかけないで欲しいという感じの人に思える。

 だが、早い方がいいよな。俺が声を掛けるとタブレットから目を離しこちらを見てくれた。少し不機嫌そうな顔をしていたが俺の姿を確認すると顔から険しさが消えたが……。

 

「何かしら?」

 

 少し棘のある言い方をされたが、不愉快といった感じではないのが救いだな。俺が要件を伝えると今はトレーニング中だからと言われ、業務が終わってからならと了承を得られたのでお礼を言いその場を後にした。

 トレーニング終了後、東条トレーナーの業務が終わるのを待っていると、辺りは暗くなっていた。帰り支度を終わらせた東条トレーナーが自身のトレーナー室から出てきたが、沖野トレーナーも一緒だった。

 

「んじゃ、行きますか」

 

 にこやかに笑って言い放つ沖野トレーナー。相変わらず殴りたくなる顔をしているが、東条トレーナーがいる手前そこは堪えた。

 当の東条トレーナーは、俺に申し訳なさそうにしながらも頭を抱えていた。

 うん。東条トレーナーは何も悪くないよ。悪いのは空気の読めない沖野トレーナーが悪い。相談をしてもらうので東条トレーナーの分は俺が払うつもりだが沖野トレーナーの分は知らん!

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

 俺がそう言って東条トレーナーと、おまけの沖野トレーナーを連れて行きつけの居酒屋へと向かった。

 トレセン学園から10分程歩いたところにある居酒屋。カウンター席は8席に、小上がり畳席が3席と小さいながらも賑わっており、メニューも豊富で酒の種類も多いので結構お気に入りの店だ。

 俺たちが店に着くと既にカウンター席は埋まっていたが、畳席は1席開いていた。店員が、やってきて席へ案内してくれた。席に座ると直ぐにお通しを持ってきてくれた。今日は筑前煮のようだ。

 二人は、こういった場所には滅多に来ないのだろう。何を頼むのか迷っているようだ。

 まあ、普段からBARに行っているなら居酒屋だとカクテルなど置いていないから当たり前か。ウィスキーはあるみたいだから沖野トレーナーは問題ないだろうが、東条トレーナーは迷った末に果汁酒を頼んでいた。俺は日本酒の熱燗を注文。つまみは、唐揚げに枝豆などの定番を注文した。

 お通しを摘まみながら注文した物が届くのを待っていると注文した物が届けられた。

 

「それじゃ、乾杯しますか」

 

 沖野トレーナーが主催者の如く乾杯の音頭をとる。果汁酒は分かるがウィスキーと熱燗での乾杯はどうかと思うが、場の空気を読むことにした。東条トレーナーもやれやれといった感じで乾杯する。

 

「それで聞きたいことって何かしら?」

 

 早く帰りたいのか。東条トレーナーが話を振って来た。俺は頷き口を開いた。

 ローレルの膝に負担が掛かっている現状。走り方やフォームの矯正方法など、古い情報しか知らないので、いい情報源または方法を知らないかを聞いた。

 

「それならいい本があるわ」

 

 東条トレーナーは、そう言って自身も購読したことのあるという本を薦めてくれた。何でもスポーツ医学の観点からの意見も取り入れている書籍らしく非常に勉強になるとのことだ。

 そんな本があるなら是非とも一度は目を通したいと思ったので、近日中に購入しようと思った。他にも様々な本を薦められた。淡々と話してくれる東条トレーナーを横目にチビチビと静かに飲んでいる沖野トレーナーは嬉しそうにしていた。

 

 翌日。午前中に本屋に行き薦められた本を購入し放課後まで読みふけった。実に有意義な内容だったので、きちんと理解しローレルに教えないとな。

 

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