ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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春を駆けろ!

 東条トレーナーから薦められた本を読んでローレルのトレーニング方法、フォームを変えてから半月ほど経った。

 最初こそ走り難そうにしていたが、今では慣れて違和感なく走れているようで安心だ。サポーターの方は杉山さんにレポートを提出した。無理を言ったのはこちらだったのだが、お礼を言われてしまった。

 後日。新しいサポーターができ次第、連絡をくれるとのことなので楽しみにしておこう。

 

「今日はここまでだ」

 

 薄暗くなってきたので、今日のトレーニングはここまでにすることにした。

 練習後のストレッチ中。バクシンオーに次のレースのことで声を掛けた。次に狙うのはGⅡマイルのスプリングステークス。

 俺がそう言うと元気よく返事を返すバクシンオー。チヨノオーとローレルもレースに出走したそうにしているのが見て分かる。チヨノオーは皐月賞に出走してもらう予定だしローレルにも、もう一つレースに出てもらう予定だ。スカイには今年デビュー戦に出走してもらうことを伝えると普段通り気だるげに返事を返してきた。

 

「それじゃ、ゆっくり休むんだぞ」

 

 今後の目標も伝えたことだし本日の業務も一段落だな。明日からは目標に向けてバクシンオーとチヨノオーのトレーニングの見直しだな。

 しばらくは徹夜だな。そう思いながらも今日も一日を終えた。

 三月に入りバクシンオーの目標レースであるスプリングステークス開催日。中山レース場へのURAファンの入りも上々といった感じだ。

 レース場の通路には今日の入着予想をしている人で一杯だ。一着予想はフジキセキが有力視されている。ちょっと悔しいが短距離なら兎も角、バクシンオーはマイル距離は未知数だ。少ないながらもバクシンオーの名前は聞こえてくるが、評価は今一といった感じだ。俺としてはマイル距離も十分に走れると思っている。

 バクシンオーが着替え終わるまで外で待っていると、氷川トレーナーの姿を見かけたので出走表を確認すると彼女が担当を任されているガーリースマイルの名前も記載されていた。

 

「ガーリースマイルとの勝負は初めてだな」

 

 実際に走る子たちにとっては真剣勝負だが個人的には楽しみで仕方ない。

 ガーリースマイルの仕上がりが気になるな。久しぶりにパドックに顔を出してみるか。そう思った時、控え室のドアが開きローレルが顔を出した。

 

「バクちゃんの着替えが終わりました」

 

 控え室に入りバクシンオーとの作戦会議。今回は初めてのマイル距離なのでスタミナ配分が分からないだろうから逃げより先行の位置でペースをつかんで走ってもらうか。

 

「他に先行の子がいなければどうしましょう?」

 

「逃げから二、三バ身程離れた位置をキープだ。スパートタイミングもスタミナと相談しながらで良い」

 

 俺がそう言うと頷くバクシンオー。同時に係員が呼びに来たので一緒に控え室を出る。パドックへ向かうバクシンオーを見送った後、俺たちもパドックへ向かう。

 パドックへ向かうと人が一杯だった。俺たちがパドックに着くと、丁度お披露目が始まった。調子がいい子が多い中、バクシンオーの番がきた。

 バクシンオーは中央に立つと上着を脱ぎ捨てて胸を張り元気の良さを見せつけた。そんな様相を見た周囲の反応は、そこそこといった感じだ。

 十番目にフジキセキ。流石としか言いようのない仕上がり具合だ。見た目からも自信に満ちており余裕を感じられる上に、GⅡだというのに非常に落ち着いている。お次はステイシャーリーンだな。この子もかなり強い子なので侮れないんだよな。特に最後の追い上げには目を見張るものがある。十三番目にはガーリースマイル。氷川トレーナーの力量を見るいい機会だ。

 最後の一人もお披露目を終え戻っていく。さてとこちらはコースの方へと移動しますかね。

 そう思ってスタンドに来たのだが、こちら側も人が多いな。人混みを掻き分けて前側に行くと沖野トレーナーとスピカメンバーがいるのを見つけた。そのすぐ近くには氷川トレーナーと先輩トレーナーもいた。

 

「どうも。お疲れ様です」

 

 俺が挨拶をすると氷川トレーナーが挨拶を返してきた。隣にいる氷川トレーナーの先輩トレーナーも軽く会釈を返してくる。沖野トレーナーはこちらを見て手をヒラヒラさせている。

 

「お疲れ様です。桜トレーナー。本日はよろしくお願いします」

 

 そう言って深々と頭を下げてくる。こちらこそ手合わせできるいい機会なので願ったり叶ったりだ。氷川トレーナーと少し言葉を交わすと氷川トレーナーの先輩が声を掛けてきた。

 

「どうも。直接話すのは初めてだな。氷川のことで礼を言おうと思っていたんだが時間が取れなくてすまんな」

 

 そんなことを言われたが相談に乗ったくらいで礼を言われるほどではない。

 

「担当を任せる話をしてから思いつめた顔をしていてな。相談して欲しくて様子を見ていたんだが自分で解決しようとして、一層思いつめてしまっていてな。本当なら俺が相談に乗ったり、アドバイスをするところだが面倒を押しつけたみたいで悪かった」

 

 そう言って頭を下げてくる。俺としては若いトレーナーが夢を諦めるのは心苦しいから相談に乗っただけだ。氷川トレーナーだけじゃなく他の新人トレーナーや経験のあるトレーナーの相談にも乗るのも構わない。 トレーナーの夢もウマ娘の夢も表裏一体。いずれか一方でも欠けたら駄目だ。

 氷川トレーナーの先輩トレーナーと少し言葉を交わすと沖野トレーナーが声を掛けてきた。

 

「挨拶もいいけど、そろそろ始まるみたいだぞ」

 

 沖野トレーナーの言葉に俺たちはコースの方に視線をやると数名が出てきており、ゲート入りを待っている。人数も揃ってきて後は人気上位者だけだ。少しすると地下バ道から出てくる人影が見えた。

 ガーリースマイルが出てくるとスタンドからの歓声が大きくなる。パドックでも確認したが初めて会った時より強くなったみたいだな。スタート位置に向かう彼女の表情は緊張というより楽しみで仕方ないといった感じだな。

 次に出てきたのはバクシンオーだ。気合が入り過ぎて通路からスタート位置まで走り出すんじゃないかと心配だったが、普段通り駆け足気味で走っている。こちらも緊張より楽しみが前面に出ているようだ。何回かレースを経験したお陰だろうレース独特の空気に慣れてきたな。

 最後に出てきたのは一番人気フジキセキ。より一層スタンドの歓声が大きくなる上に黄色い声も聞こえてくる。フジキセキはスタート位置まで向かう途中で立ち止まりスタンドの方を見て左手を後ろへ回し右手を胸の前に置き一礼してからスタート位置へ向かっていった。一種のパフォーマンスだな。これを見て黄色い声がさらに大きくなった気がする。

 ゲートが用意され続々とゲートへ入っていく。バクシンオーのゲート入りは、まだ先だが待ちきれないといった感じだ。

 

 

 

1枠 1番 ソワールセレステ

2枠 2番 メモラビリンス

3枠 3番 タクティカルワン

3枠 4番 レベレント

4枠 5番 ハートリーレター

4枠 6番 リトルトラットリア

5枠 7番 スウィートパルフェ

5枠 8番 サクラバクシンオー

6枠 9番 イミディエイト

6枠10番 フジキセキ

7枠11番 ステイシャーリーン

7枠12番 セレブアクトレス

8枠13番 ガーリースマイル

8枠14番 パワフルトルク

 

 

 

「抜けるような青空のもと中山レース場。芝1800mスプリングステークス。十四人のウマ娘たちが挑みます。虎視眈々と上位を狙っています。三番人気はガーリースマイル。二番人気を紹介しましょう。サクラバクシンオー」

 

 ガーリースマイルとバクシンオーの人気投票は僅差だったと聞く。他チームの練習は、ほとんど見ていないが実力もほとんど差はないだろう。

 

「さあ、今日の主役はこのウマ娘をおいて他にいない。一番人気フジキセキ!」

 

「気合十分! いい顔してますね!」

 

 実況と解説が口上を述べる。ゲートに入ってから緊張した面持ちをした子も何人か出てきたな。GⅡとはいえ重賞レースの上、トップチームのリギルからフジキセキが出走するから当然だろう。

 全員がゲートインが完了。歓声も徐々に静まり返っていく中、彼女たちは集中力を高めていく。

 場内が完全に静まり返る。少しの間があきゲートが開く。

 

<ガコンッ!!>

 

「今スタートが切られました。各ウマ娘、キレイなスタートを切りました」

 

「みんな集中してましたね。好レースが期待できそうです」

 

 よし。いいスタートを切れた。あとは位置争いで好位置につけるかだが……。

 俺がそう思っていると氷川トレーナーたちもガーリースマイルが好スタートを切れたことに安心している様子だった。

 

「バクちゃん。いいスタートでしたね」

 

「バクシンオーさん! 頑張ってください!」

 

 ローレルとチヨノオーもバクシンオーが好スタートを切れたことに安心したようだな。

 

「先頭争いはステイシャーリーン、セレブアクトレス、フジキセキ。第1コーナーからそして第2コーナーへ向かっていきます」

 

 逃げが二人とフジキセキが先頭争いをしているみたいだな。バクシンオーは先頭争いには参加せず少し離れているみたいだな。

 

「バクシンオーさん。いつもより少し下がっているみたいですけど調子が悪いんですかね」

 

 序盤のレース展開を見てチヨノオーは心配になったみたいだが、バクシンオーは自分で考えあの位置にいるのだろう。相談した作戦より後ろ側だがフジキセキを徹底マークする気なのだろう。

 

「バクちゃん。あの様子だとフジさんをマークする気ですね」

 

「だろうな。バクシンオーが自分で考えて、それが一番いいと判断したんだ」

 

「マークされると走りづらいですよね~」

 

 マークすると相手のペースで走ることにもなるが、スリップストリームを受けることもできるのがメリットだ。ただマークする相手を間違えると悲惨な結果になるデメリットもある。

 まあ、今回はフジキセキをマークするので万が一にでも間違いはないだろうが、勝ちきれるかは不明だな。

 

(それにしても……)

 

「ステイシャーリーン。快調に飛ばしていきます。二番手の位置で先頭を窺うのはセレブアクトレス! 三番手にフジキセキ」

 

 ステイシャーリーンは今回は逃げているな。それに続くようにセレブアクトレスか……。

 セレブアクトレスの走りは初めて見るが、スタミナに自信ありといったところだな。フジキセキは、あの模擬レースでの走りを見る限りでは加速力が凄まじい子だったはずだ。言うなれば流星の如しと言ったところかね。

 

「少し後ろからサクラバクシンオー。すぐに続いて13番ガーリースマイル。あとからイミディエイト。少し後ろからスウィートパルフェ。内をまわって1番ソワールセレステ」

 

 そろそろ位置取り争いが落ち着いてきたようだ。バクシンオーはフジキセキをマークしているが、ガーリースマイルはバクシンオーをマークしているみたいだな。

 氷川トレーナーから、そう言われたのか自分でそう決めたのかは分からないが少し厄介だな。バクシンオーはフジキセキが仕掛けるタイミングを計らないといけないと同時に、後ろのガーリースマイルの動きにも注意を払わないといけない、板挟みの状態だ。

 

「向正面に入って先頭から殿までおよそ、12バ身。先頭、ステイシャーリーン。レースは澱みなく進んでいます。続きましたセレブアクトレス。少し後ろからフジキセキ。少し離れてサクラバクシンオー。そして、その後方には13番ガーリースマイル。イミディエイト並んできた。それを見るようにスウィートパルフェ」

 

 前方も大分詰まってきたな。だからといって後方も油断できないくらい上がってきている。スウィートパルフェから1バ身差でソワールセレステ。そこから3、4バ身差でハートリーレター。外からリトルトラットリアで内に並んでレベレント。

 少し離れてタクティカルワンとメモラビリンス。今後の展開が分からない程、面白いレースになっているな。

 

「バクシンオーさん。大丈夫でしょうか?」

 

「バクちゃんなら大丈夫」

 

「そうですよ。それに、いま私たちにできることは応援だけですよ」

 

 チヨノオーの心配も分かる。フジキセキもガーリースマイルも実力のある子だから仕掛けるタイミングを間違えると勝ち目がなくなる。だからといってローレルが言うように大丈夫という保証もないから、スカイが言うように応援するしかない。

 

「まもなく第4コーナーカーブ」

 

「ここからスパート! 一気にレースが動きます!」

 

「さあ、いよいよ直線だ! どのタイミングで誰が仕掛けるのか!?」

 

 もうそろそろレースも終わる。順当にいけば勝つのはフジキセキだ。タイミングを間違えれば後ろにいる子たちにも負けるかもしれないな。

 

「最後のコーナー。先陣を切ったのはフジキセキ。ステイシャーリーン食い下がる。フジキセキ強い! 強すぎる! 完全に抜け出した!」

 

 残り200m。差は6バ身、今ステイシャーリンを躱して5バ身差。ガーリースマイルも追い縋ってきている。フジキセキには追いつけないだろうが諦めてしまったら、すぐ後ろのガーリースマイルにも負けてしまう。踏ん張ってくれよバクシンオー。

 

「フジキセキ。脚色は衰えない! 先頭は、フジキセキ。変わらない! フジキセキ! 強いとしか言えない走り!」

 

 フジキセキがゴール板を駆け抜けると歓声がより大きくなった。今回は完敗だったな。

 

「フジキセキ! 見事に完勝! スプリングステークスを制しました! ニ着サクラバクシンオー。三着ガーリースマイル」

 

 一着は、やはりフジキセキか。バクシンオーは5バ身差でニ着。クビ差でガーリースマイルが三着。今の実力では、こんなモノだろう。

 フジキセキは当たり前として、ガーリースマイルも思った以上の走りをしてくる。氷川トレーナーの指導の賜物といえるだろう。去年まで新人だったとは思えない程だ。

 先輩トレーナーも鼻が高いだろうな。二年目に入ろうとしている新人トレーナーが早くもGⅡで結果を残せるのは滅多にないことだからな。

 

「それじゃ、バクシンオーを出迎えに行きますか」

 

 俺がそう言うと三人は元気良く返事をした。それに続き氷川トレーナーたちもガーリースマイルを迎えに行くみたいだ。沖野トレーナーたちは敵情視察に来ただけのようでレースが終わるとウイニングライブも見ずに早々に帰ってしまった。

 地下バ道に行くとコースから戻ってくる子たちと擦れ違う。それぞれが控え室に戻ったり邪魔にならない場所で担当トレーナーと話している。

 しばらく待っているとバクシンオーの姿が見えた。向こうもこちらに気がついたようで疲れているだろうに、それを感じさせない屈託のない笑顔を見せて駆け寄ってくる。

 

「やはりフジキセキさんは速いですね。完敗です」

 

 そんなことを言ってくる。確かに今回は負けたが今後も勝ち目がないわけではない。今後のトレーニング次第では勝ちの可能性は上がってくる。

 まあ、俺の腕にも掛かっているわけだが、そこは何とかする。夏になれば合宿を行うチームがあるらしいので、今年はウチのチームも合宿を行う予定だ。それでどこまで地力を上げられるかに掛かっている。

 

「次の機会があれば、その時に勝てば良いさ」

 

 俺がそう言うとバクシンオーは元気良く返事を返してくる。

 

「次は私の番ですね」

 

 チヨノオーがそう言い放つ。確かに次は皐月賞を走るチヨノオーの番だ。今回レースより強者揃いのレースになるのは明らかだ。より一層トレーニングに励まないといけないな。

 

「今回バクシンオーは惜しくもニ着という結果だが皐月賞……。獲るぞ」

 

「はい!」

「頑張ってください。チヨノオーさん!」

 

「頑張ってね。チヨちゃん」

 

 バクシンオーとローレルがエールを送るなか、スカイはとんでもないことを言い放った。

 

「来年は私も獲るんで頑張りましょうね~」

 

 スカイなりのエールなのだろうか。自分も皐月賞に勝つからチヨノオーも勝てと言ってくる。自信があるのはいいことだが慢心だと駄目だ。きちんと実力もないとな。

 俺はそのことだけを注意し本日は解散とした。

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