ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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何処までも真っ直ぐに

 今日はどんよりとした天気だが、運よく雨は降らずにいる。

 ダービー翌日の今日はバクシンオーが出走する葵ステークスの開催日だ。GⅢということもあり、OP戦よりは客入りは良いが他の重賞レースよりは少なく感じてしまう。

 控え室に向かう途中、いつものようにレースの話が聞こえてくる。毎回違う顔の客が来るが毎日来ているんじゃないかと疑いたくなるような客もいる。北海道でも三万人の収容人数だ。そんな中でもここ、京都や東京は十万人を超える収容数のはずだが顔を覚えられるほど来る人はいないに等しいんだがな。なんか見覚えのある顔が……。

 そんなことを考えながら四人と一緒に控え室に向かった。

 

「さて、今日はどうするかね」

 

 バクシンオーが中で着替えている間、俺は外で今日の作戦を考えていた。

 初手逃げ切りか先行逃げ切り、もしくは少し大変だろうが先行組の後方から差し切りが無難だろうな。

 俺がどの作戦で行くかを迷っていると控え室の戸が開かれローレルが顔を出して着替えが終わったことを教えてくれた。俺は頭を掻きながら中へと入った。

 

「トレーナーさん! 今日はどんな作戦ですか?」

 

 開口一番これだ。俺はまだ決めかねていることを正直に話しパドックでのお披露目が終わるまでには決めると伝えた。

 現状ではいつもより元気があり、疲れている様子も見られないから逃げ切りでも十分勝ちを狙える。あとは今日出走する子たちの状態がどうなのかだな。それ次第でどの作戦で行くかを決めないとな……。

 ローレルやチヨノオーは調子が安定しているから、ここまで作戦で悩むことはないが、バクシンオーは調子が良すぎて逆に走りにムラが出る可能性があるので、どうしても悩んでしまう。

 

「兎に角、そろそろパドックに向かうぞ」

 

「はい!」

 

 俺の言葉に今日も元気良く返事を返してくるバクシンオー。気合が乗りすぎて前のめりにならなければいいんだけどな。本人がやる気十分なのはいいことなので何も言えないのがもどかしいな。

 その後。パドックでは調子が良さそうな子が何人かいた。どんな作戦で来るかは分からないが初手逃げ切りの作戦は危険そうだ。バクシンオーの様子を見るに暴走してしまうかもしれないので多少の暴走を考慮に入れて先頭を走らせる方がいいな。

 パドックでのお披露目も終わり控え室に戻った俺たち。バクシンオーに今日の作戦を伝えてから少しすると、バクシンオーがソワソワし始めた。どうやら早く走りたくて仕方ないといった様子だ。

 

「もうすぐ呼びに来るから少し落ち着け」

 

 俺が落ち着くように言うも元気な返事は帰ってくるが、やはり落ち着けないようだ。仕方ないよな。バクシンオーは勿論、ウマ娘の大多数は走るのが好きだからな。

 

「そう言われても楽しみで仕方がないんです」

 

 そう言いながら本当に嬉しそうに尻尾を振っているバクシンオー。いや、尻尾が千切れそうなくらい振っている。まるで好物を目の前にした犬のようだな、と思ったが流石に口にするのは憚れるな。

 バクシンオーの様子を注意深く見ながら係員が呼びに来るのを待つ。その間もバクシンオーは落ち着きなく控え室内をグルグルと回っている。

 落ち着きなく動いているバクシンオーを見ながら待つこと、数分……。漸く、係員が呼びに来た。バクシンオーも声を掛けられると同時に思いっきり戸の方に振り向いた。尻尾同様、頭が取れそうな勢いだった。

 

 

 

1枠 1番 タクティカルワン

2枠 2番 ハートリーレター

3枠 3番 アレイキャット

4枠 4番 メモラビリンス

5枠 5番 パワフルトルク

5枠 6番 アクアラグーン

6枠 7番 テイクオフプレーン

6枠 8番 サクラバクシンオー

7枠 9番 ソワールセレステ

7枠10番 ステイシャーリーン

8枠11番 イミディエイト

8枠12番 クライネキステ

 

 

 

「上空には灰色の空が広がる、京都レース場。天気はなんとか持ちこたえ、良バ場の発表です」

 

「天気、もってくれると良いですね」

 

 最初から雨が降っているならそれに配慮し走れるが、レース中に降るとターフが雨に濡れる。急に速度を落とせるわけもなく脚を滑らせるかもしれないから注意が必要だ。

 

「三番人気にはステイシャーリーン。この評価は少し不満か? 二番人気はこの娘、イミディエイト」

 

 三番人気のステイシャーリーンに二番人気のイミディエイト。この二人は人気投票では負けはしたが、最近の様子を聞く限りは実力は拮抗しているといった感じだな。今日も油断のできないレースになりそうだ。

 

「さあ、今日の主役はこのウマ娘をおいて他にいない。一番人気サクラバクシンオー」

 

 少し落ち着きのない様子だったが、ゲートに入るとレースに集中し始めたからか落ち着きを取り戻しつつあるな。

 

「火花散らすデッドヒートに期待しましょう」

 

「ゲートイン完了。出走の準備が整いました」

 

 全員がゲートインし終えたことを告げる実況。そして……。

 

<ガコンッ!!>

 

「スタート! 各ウマ娘、きれいなスタートを切りました」

 

「これは位置取りが熾烈になりそうですね」

 

 全員が良いスタートを切れたようだな。バクシンオーはスタートダッシュを決め先頭を狙っている。無理に先頭を狙う必要はないと伝えたが本人は、それでは納得がいかないようだな。

 まあ、あとで反省会をすればいいだけだから様子見でいいだろう。

 俺の心配をよそに走り続けるバクシンオー、それを追走する二人の影。

 

「先行争いはサクラバクシンオー、ステイシャーリーン、メモラビリンス」

 

 ステイシャーリーンとメモラビリンスがバクシンオーを追走。先行争いは、この辺りだろうな。それはそうとバクシンオーは後ろを気にして、スタミナ配分を忘れているわけじゃないよな。普段よりかなり飛ばしているように見えるが……。様子を見ようと思っていたが更に心配になってくる。

 

「サクラバクシンオー。先頭に立つのか。続いて、ステイシャーリーン。激しい先頭争い」

 

 やはり、周りを気にし過ぎてスタミナ配分を忘れているみたいだな。序盤で競り合っていいことはない。無駄にスタミナを使わされるだけだ。相手もそれが分かっているからこそ敢えて追い抜こうとはせず少し後ろを走っているように見える。

 ん? ステイシャーリーンが下がり始めている。バクシンオーの追走はメモラビリンスにさせて自分はスタミナ温存に切り替えたようだな。

 

「少し後ろからイミディエイト。ソワールセレステ並んでくる、二バ身差ステイシャーリーン」

 

 先行争いをしてる中、少し後ろにイミディエイト。その横にはソワールセレステ。二バ身離れてステイシャーリーン。彼女はここまで下がってきたのか。確かに彼女の位置からなら、スタミナが切れた先行組を躱して十分に先頭を狙える位置だな。

 

「内にはハートリーレター。それを見るようにタクティカルワン。少し後ろからアレイキャット。一バ身差クライネキステ。アクアラグーン並びかけてきた」

 

 ステイシャーリーンから、二バ身離れた位置にハートリーレターとタクティカルワン、アレイキャットが団子状態で走っているが内に入ってしまったタクティカルワン。人数が少ないから抜け出せないこともないが厳しいレースになるだろう。

 

「内の方からパワフルトルク。テイクオフプレーン。現在、殿だ」

 

 アレイキャットから一バ身離れてクライネキステとアクアラグーン、内に入ってパワフルトルク。テイクオフプレーンが殿だな。

 追い上げが得意なのか、ただ仕上がり不足でスタミナが心配なのか前に出ようとする様子は見られない。どんな作戦か分からない以上、彼女も怖い存在といえるな。

 

「第4コーナーを進んで直線へ向かう」

 

「ここからスパート! 一気にレースが動きます!」

 

 短距離だからな。もう第4コーナーだ。それを抜けると最後の直線だ。

 バクシンオーは変わらず先頭を突き進んでいる。見る限りでは無理をしているわけでもなさそうだな。チヨノオーのトレーニングについている時間が長かったのもあってバクシンオーとローレルのトレーニングを見ている時間が少なかったが、その時にでもスタミナ増強のトレーニングでもしていたか?

 これなら脚質の問題がなければ長距離でも通じそうだなと思わされるくらいの勢いで先頭を譲らず走るバクシンオー。自分で考え他者からのアドバイスを受け、それをトレーニングに生かす。そんな俺の想いは、ここトレセン学園でも通じているみたいで良かったよ。

 

「まだ一バ身以上の差があるぞ! ここから捉えることができるのか!」

 

 実況の言う通り、どのグループもおよそ一バ身ほどしか離れていない。最後まで何が起こるか分からない展開だからな。俺も最後まで安心せず見守ろう。

 

「さあ、いよいよ直線だ! どのタイミングで誰が仕掛けるのか!?」

 

 第4コーナーを抜けたら最後の直線。京都レース場は第4コーナーからゴールまで起伏がほとんど無い400mと短めの直線だ。他にも起伏が全くない短い直線のレース場はあるがほとんどが地方だからな。……いや、札幌レース場は地方とは言わないか?

 

「最終コーナーを曲がって、最初に立ちあがったのはサクラバクシンオー。残り400m、まだ差がある。ここから先頭を捉える子は出てくるのか!」

 

 余計なことを考えているとバクシンオーが後続をおよそ五バ身差と大きく突き放している。

 

「残り200m。食い下がるハートリーレター。メモラビリンス追走」

 

 これだけ離せば追いつくのも厳しいだろう。歓声もより大きいものになっていく。こんなにも応援をしてくれるなんて、トレーナーとして嬉しい限りだな。

 

「強すぎる! サクラバクシンオー脚色は衰えない! サクラバクシンオー! 強い走りだ! このレースの主役は間違いなくこの子でした!」

 

 そして今ゴール板を駆け抜けるバクシンオー。圧倒的と言っても差し障りない走りだったと思う。

 まあ、初めはスタミナが持つかが心配だったが終わってみれば問題はなかったので良しとするか。

 

「葵ステークスを制しました! サクラバクシンオーの完勝でした! 二着はハートリーレター。三着はステイシャーリーン」

 

 スタンドから歓声と拍手が沸き起こる。見ごたえのある実にいいレースだった。反省会ではスタミナのことを軽く注意するだけで済みそうな内容のレースだった。バクシンオーも確実に実力をつけてきている。今後のレースが楽しみで仕方ない。

 控え室に戻りバクシンオーの着替えを待つ間、沖野トレーナーが声を掛けてきた。お祝いの言葉と今後のレースの話をした。沖野トレーナーが何を思ったのか挑発なのか、リギル所属のタイキシャトルにも勝てるんじゃないかと言ってきた。

 『タイキシャトル』。現在、短距離最強と言われている子だな。確かに勝てない相手などいないが、まだ実力不足が否めない段階だ。挑戦するなら来年、シニア級になってからになるだろうな。

 そう考え沖野トレーナーに伝えると、そうだろうな。とニマっと笑みを見せ去っていった。

 沖野トレーナーが去って少しするとバクシンオーの着替えが終わったようなので、反省会を行った。今回は良かったものの、無理をしないようにと軽く注意をしトレーニングが効率的にできており実力もついてきていることを伝えると笑顔を見せて大いに喜んでいた。

 他の三人も褒めてもらいたそうにしていたので、同じように褒めてやると全員が喜んでいる。決してお世辞などではなく本心から褒めている。スカイは今年がデビューなので、そこでお披露目となるがデビュー戦を華々しく飾れる実力を持っていると信じている。

 

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