ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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桜。
古巣へ帰るってさ。


夏の強化合宿 桜古巣へ帰る

 葵ステークス後、ローレルもGⅡレースに出走し見事に勝利を収めた。

 それから数日。徐々に気温が上がる中、一部を除いて文句を言わずにトレーニングをしている。

 そんな中、沖野トレーナーが夏季休暇はどうするのかと聞いてきた。

 去年は新任ということもあり余裕はなかったが今年は、あるプランを考えている。

 

「夏合宿ですか?」

 

「場所はトレーナーさんの古巣?」

 

「何でもこいです!」

 

「はぁ~、何か大変そうですねぇ」

 

 様々な反応を見せる子たち。特にスカイは面倒臭いといった雰囲気を出しているが、向こうに行けば、そんなこと言ってられないだろう。

 

「場所は栃木だ。自然溢れる良い場所だぞ」

 

 俺がそう言うと少しガッカリした様子を見せる子たち。気持ちは分からないわけではない。俺も叔父の後を継いだ時は、不便さを覚えたが今では不自由なく生活できる。

 何より苺の名産でも有名だ。トチオトメにトチヒメ、珍しいところでは白い苺のミルキーベリーがある。まあ、今の時期はナツオトメくらいしか収穫できないけどな。

 トレセン学園全体での合宿は海に行くようだが、こっちは任意参加になる。大体はチーム別で合宿をするみたいだけどね。

 

「文句は言わずに準備をすること。1ヶ月の日程で予定を組んでるからな」

 

 俺はそれだけ伝えチームルームから出てトレーナー室へ向かう。四人の外泊届けを記入し提出しなければいけないからな。本来なら個人で出す物だが合宿ということでチーム単位で出すことになっている。

 

「お疲れ様です。桜トレーナーも合宿の準備ですか?」

 

 必要書類の記入を終えると、氷川トレーナーが幾つかの書類を持って入ってきた。どうやら氷川トレーナーも同じようで、ガーリースマイルと他の子たちの届け出の記入をするようだ。

 

「えぇ。今回は合宿で、ちょっと古巣を利用しようかと思って」

 

 俺がそう言うと、そうなんですねと言って自分のデスクに着き書類に記入を始めた。

 俺は記入を終えたので邪魔にならないよう挨拶をしてトレーナー室を後にした。届け出を提出した後、古巣へ連絡を入れる。急な連絡だが向こうなら何とかなるだろう。

 

「お電話ありがとうございます。こちら桜ファームの瀬口です。本日は、どのようなご用件でしょうか?」

 

 明るい感じの声が電話口から聞こえてくる。人懐っこい印象の瀬口さんだ。会ってないのは一年くらいだが懐かしい感じがするな、と思いながら俺は用件を伝えた。

 

「俺だけど来月、七月いっぱいは、そっちで合宿をすることにしたよ」

 

 それだけ伝えると瀬口さんは、少し戸惑いながらも復唱してきた。

 

「えっと、吉紘さんですか? まずは名前を言ってもらわないと困りますよ。来月はこちらで合宿ですね。そのように通達しておきますね」

 

 そう言いながら電話が切られた。いやさ。俺だからいいけど、他の人なら失礼になるからね。そんなことを思いながらこちらも準備を始める。

 準備を始めて数日。今日からトレセン学園は夏季休暇に入る。俺たちクラウンは学園前に集合した。

 

「全員揃ってるか?」

 

 正直に言って約一名が遅刻ないし不参加になるのではと、不安なところもあったが全員揃っているようなので安心した。

 不安な一名……。スカイはすごいな。立ったまま寝てるよ。どんな原理だ? 確かジラフィックスとか言う医療機器の製作会社が立ったまま寝れる機材を製造していると聞いたことがあるけど、どんなもんなのかね?

 そう思いながら出発時間まで、そのままにしておくことにした。

 

「それじゃ、そろそろ出発するぞ」

 

「「「はい!」」」

 

「ZZZ……」

 

 俺の言葉に元気よく返事をする三人とイビキをかく一人。うん。分かっていたことだよ。スカイはマイペースだからさ、こうなることは予想していたよ。

 そう思いながらも車に乗るように指示を出す。スカイもどういうわけか既に乗車し眠りについている。

 

(どうやって移動したんだよ!?)

 

 目的地に着くまでの車内。スカイは変わらず寝ていて静かだが、バクシンオーとチヨノオーが車外の景色を観ながら騒いでいる。ローレルが騒ぎすぎないよう注意を促すも二人が落ち着く様子はなかった。これくらいなら運転の邪魔にはならないから構わないけど。

 俺は運転免許は持っているが、車は持っていないのでレンタカーを使用している。今回レンタルしたのはノアだ。大人数が乗れて小回りが利くので、こういった遠征にはもってこいの車だ。

 車を走らせること、二時間半ほどした頃。目的地までもう少しだ。

 

「もう少しで着くから降りる準備をしておけよ」

 

 俺がそう告げると先ほどまで景色を楽しんでいた二人も静かになり前方へと視線を向ける。ローレルは肩の荷が下りたように深く息を吐く。スカイは眠たそうな瞼を擦りながら大きなあくびをした。

 少し進むと目的地がもうすぐの看板が見えてきた。新しめの大きな看板に柔らかで優しい感じの書体で【桜ファーム】と書かれていた。見た感じ俺がトレセン学園に就任してから直ぐに立て直した感じだな。

 そんなことを思いながら道を進んで行くと幾つかの建物が見えてきた。瀬口さんもそうだったが、たった一年でこうも懐かしく感じるものなんだなと、感傷に浸りながらも駐車場に車を止め降りるように指示を出した。

 俺たちが車から降りるとトレーニング中の何人かの子たちがこちらに視線を向けていた。彼女たちの一部が俺の姿を確認すると声を上げていた。トレーニングの邪魔をするわけにはいかないので直ぐに移動しようとしたところに向こうから人がやって来た。

 似ても似つかない程でかなり縮れた天パの髪。ガタイはそこそこの細マッチョタイプの男。現在は副オーナーという肩書を持っている俺の来孫である。『桜 春樹』だ。

 

「お待ちしていました。ようこそ、桜ファームへ」

 

 そう言いながら四人にお辞儀をし笑顔を見せる春樹。四人に挨拶を済ませると俺の方を見て頭を下げ挨拶をしてきた。

 

「お久しぶりです。大おじいちゃん」

 

「ん。元気そうで何よりだよ」

 

 簡単に挨拶を終え部屋に案内をしてもらった。その後、春樹には四人の案内を頼んだ。

 桜ファームは元々、東京ドーム約三個分の面積しかなかったが、俺が株で儲け始めてから周囲の土地を購入し、今では東京ドーム約三十二個分の広さまで拡がった。

 ホテルで言うハイエンド級のウマ娘とトレーナーの寮に温水プール。ウッドチップを敷き詰めた坂路、各レース場の特徴があるコースに最新設備及びテスター品が置いてあるトレーニングジム。ダンススタジオなど、トレセン学園以上の設備を有している。ない物といえば学業の学び舎くらいか?

 レースに関することを学ぶ講堂はあるが、トレセン学園のような一般的な学業を学ぶ機会がない。

 春樹には案内を頼んでいる間、俺は事務所に向かった。急な頼みをすんなり受け入れてくれたお礼を言わなくては礼儀を失する。

 

「久しぶりだな。元気にしてたか?」

 

 俺は事務所の戸をノックし返事が返ってくる前に戸を開けた。中に入ると笑顔で出迎えてくれる古巣の家族たち。

 

「お久しぶりです。大おじいちゃん」

 

 そう言ってくるのは玄孫の『咲良』の婿である『田中 颯真(そうま)』。俺の経営方針をしっかりと受け継いでくれ、ウマ娘たちのケアもこまめに行ってくれている出来た婿さんだ。

 

「元気そうで何よりですよ。あちらではどうですか?」

 

 俺のトレセン学園での様子が気になるようだな。どちらかというと無茶苦茶なことをしていないか心配なんだろう。

 俺はトレセン学園でもここと同じような調子だと答えた。それを聞くと颯真はどこか安心したような表情をした。

 

「こっちも急に悪いな。去年は就任したばかりだから顔も見せに来れなくてすまないな」

 

「いえ。こちらもいい刺激になると思うので歓迎しますよ」

 

 そう言ってくれるのは助かるが、どうだろうな。こことトレセン学園のトレーニング方法は別物だから、こっちが自信を失わなければいいが……。

 そう思いながら他の職員たちにも挨拶して回った。一通り挨拶を済ませて練習場へ足を向ける。

 クラウンのメンバーを探していると、丁度模擬レースをしている場面を見学しているところのようだった。

 今、走っているのは仮想の中山レース場だ。中山の坂以外は平坦なコースだが坂は実際の中山レース場と同じ勾配にしている。

 

「どうだ? ここでのトレーニングについていけそうか?」

 

 俺がそう言うとコースから目を離さず返事をする彼女たち。

 

「トレーナーさん! ここにいても真剣さが伝わってきます。皆さんご自身の夢に向かって必死なんですね」

 

「私も負けていられませんね」

 

「う~。私も早くトレーニングしたいです」

 

「いや~。皆さん、すごいですねぇ。私には真似できませんよ」

 

 それぞれが感想を述べる。

 

「いい経験になると思うぞ。まあ、そのために来たんだけどな」

 

 気持ちでは負けていないようなので良かったよ。

 模擬レースが終わると同時に昼の鐘が鳴った。他で模擬レースをしているところ以外はトレーニングを切り上げ食堂へ向かっていった。

 

「お昼の鐘が鳴ったので私たちも食堂へ移動しましょうか」

 

 春樹がそう言い案内を始める。

 

「昼食を終えたらこっちも軽めのトレーニングを始めるぞ。まずはここに慣れないといけないから無理はしないようにな」

 

 俺はそう言って移動を促す。四人は俺と春樹の後に続き食堂へと向かっていった。

 食堂へ着くと四人はさらに驚いていた。広さはトレセン学園のカフェの1.5倍程。メニューも豊富で栄養素に加え摂取カロリーまで記載されたメニュー表が張り出されている。基本的には食べ放題だ。摂取量などは個人に任せている。栄養士をはじめ様々なスタッフが協力し食事管理の相談にも乗っている。

 

「いろいろな食事が用意されていて、好きなだけ食べられるが食べ過ぎには注意な」

 

 俺はそう言って自分の分のAセットランチを頼んだ。スカイも俺と同じ物を頼んでいた。Aセットランチは肉と野菜がバランスよく入っている食事だ。逆にBセットは肉が多め、Cセットは野菜多めなどそれぞれの特色がある。

 他の三人はどれにしようか迷っているようだ。

 

「副食や副菜は単品からでも頼めるからな」

 

 俺がそう言うと残った三人も何を頼むのかを決めたみたいだ。ローレルはバランス良く量を増やした物を、バクシンオーとチヨノオーは腹に溜まる物を多めに頼んでいた。

 まあ、何を頼めばいいかは周りを見ればわかることなんだけどさ。

 俺はそう思いながらも席に着き食べ始める。四人も初めての場所なので遠慮気味に俺の傍に座った。

 食事を始めて暫くすると三人は少し落ち着きがない様子を見せ始めた。ここの子たちもトレセン学園から来た四人が気になるようでチラチラ見たり遠慮なしと言わんばかりに見てくる子たちがいる。

 

「トレセン学園での練習がどんなものか気になっているんだろう。興味本位で見ているだけだから堂々としていればいいよ」

 

 俺がそう言うもトレセン学園では、そこまで見られることがないので気になるみたいだな。

 緊張しつつも食事を終えて練習場へ出る。だが、誰もトレーニングしている様子がなくのんびりとした光景が広がっていて三人は少し拍子抜けした顔をしており、スカイは自分もといった感じで昼寝に良さそうな場所を探し始めていた。

 

「昼は大体十三時くらいまでは休憩の時間なんだよ。自主トレは暗黙の了解として目を瞑ることにしている」

 

 俺がそう言うと三人は少し戸惑いながらも、その辺りに設置されているベンチに腰を下ろした。

 戸惑うのも無理はないな。ここに来てからファーム内の案内をされて、昼食を食べただけだからな。トレーニングは一切してないのだからな。スカイの適応力はすごいけどな。

 

 暫くすると山道入り口に人が集まり始めた。そろそろ昼休憩も終わりの時間だな。

 俺はその光景を見て昼休憩が終わることを知った。それと同時にあの人だかりの説明をした。

 

「丁度いいな。午後一のトレーニングが始まるみたいだから説明するぞ」

 

 三人は漸くかといった感じで聞く体制を整える。スカイは耳だけはこちらに傾けているといった感じだ。

 

「あの人だかりは山道トレーニングの集まりだが参加は任意だ。結構ハードなトレーニングだから暫くは見送った方がいいけどな。んで山道にはロープが張ってるから道に迷うことはないが、アップダウンが激しいからペース配分を間違えれば完走することはまず無理だろうな」

 

 この辺りの山は桜ファームで購入している。多少は走りやすいように石などは取り除いているが、それでも結構厳しいトレーニングとなっている。天然の上り坂と下り坂があるのだからペース配分を間違えてリタイアする子もいる程だ。

 

「んで、あそこのテントに参加者名簿に名前を書いて連絡用のトランシーバーを受け取る。リタイアや休憩する場合はそれで連絡をすることになっている」

 

 山の中なので連絡できないと不味いと思い電波塔を幾つか立ててトランシーバーで連絡を取れるようにしてある。妨害されないように他企業の電波塔は施設のある場所にしか立っていない。

 救護用の道もトレーニングコースとは別に用意してあるので、何かあれば車で迎えに行くことも可能だ。

 

「まあ、ハイキングや食後の運動感覚で参加する子もいるけどな。だけど、上位十名にはご褒美もある」

 

 俺がそう言うとスカイの耳がピンっと立ったように感じた。練習は苦手だが、ご褒美には興味があるみたいだな。

 

「数量限定の店に無理を言ってお願いした。スイーツが日替わりでご褒美として当たるんだ」

 

 俺がそう伝えると四人の目の色が変わった気がした。いや気がしたんじゃなく確実に変わったな。

 いきなり挑戦しそうな空気になってきたので再度注意を促す。

 

「さっきも言ったが、午後一のトレーニングはかなりハードだ。いきなり挑戦するもんじゃない。ここの環境に慣れてから挑戦しろよ」

 

 そう言うと少し残念そうにして返事を返してきた。

 酷なことだが上位者は大体は決まっているようなものだからな。カロリー制限とかで不参加だったりご褒美を譲ったりはあるが、今の四人では完走できるかも怪しいところだ。およそでしか測ったことがないので、正確な距離は分からないが全長は約100kmは超えているはず。ウマ娘が全力で走っても一時間半は掛かる距離だ。

 怪我がないようにと言い聞かせているので、四時間以上は掛かる。最長で八時間って子もいたっけな。その子の場合は景色を見ながらだったからだけど……。

 距離などの説明をし今のところは諦めてもらうことに成功したので、午後からのトレーニングを開始することにした。

 

「取り敢えずは、ここに来てもやることは変わらない。いつも通り基礎トレーニングだ」

 

 俺がそう言うと全員が返事を返してからウォームアップを始める。

 他の子たちは自分たちと変わらないトレーニングだと分かると各々のトレーニングを始めた。それでも興味が完全になくなったわけではないだろうな。

 一週間ほどしたら模擬レースをしても、いいかもしれないな。

 まあ、何はともあれ今はここの環境に慣れてもらうのが目標だな。トレセン学園の夏季休暇は、二ヶ月ほどある。今回は1ヶ月で申請しているが延長も視野に入れておくかね。

 




夏季休暇はアプリの方を採用。
桜の紹介で土地の広さ表記しているのを忘れてて違う広さにしてしまっていたので修正。
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