ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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夏の強化合宿 ハイキングですか? いいえトレーニングです

 本日も晴天なり。

 合宿を始めて、二週間が経った。今日はバクシンオーとチヨノオーから、午後一のトレーニングに参加したいと訴えがあったので許可を出した。ローレルもジョギング感覚で無理のない範囲でという条件付きでの参加となった。

 勿論。スカイは不参加だ。

 

「ここに来た時にも言ったことだが、午後一のトレーニングはハードだからな。無理しないようにな。無理だと思ったら、すぐに連絡をするように」

 

「「「はい」」」

 

 三人は元気良く返事をする。それぞれが参加者名簿に名前を書き込み、トランシーバーを受け取り肩に掛ける。スタート位置に向かって行く。

 スタート位置では軽く体をほぐしながら始まるのを待っている子たちで一杯だった。今日の参加者は三十五名ほどかな?

 見た感じどの子も実力がありそうで、何度も午後一トレーニングに参加していることがうかがえる。

 まあ、あの三人には、これもいい経験になるだろうな。この訓練がどれほど辛いのかも分かってもらえるだろうしな。

 そうこうしていると開始時刻になったようだ。

 

「それじゃ。無理なく安全にね。トレセン学園の子たちも自分のペースで無理のない範囲でね」

 

 係員がそう言ってスターターを鳴らす。それと同時にジョギングのペースで走り出したり、食後の運動感覚で歩き始めるウマ娘たち。

 三人も周りのペースに合わせて走り始める。結構な距離だと伝えていたから最初は周りのペースに合わせたようで安心だ。

 スカイは昼寝中だし、手持ち無沙汰になったので俺も連絡所と救護所を兼ねている仮設テントに向かう。仮設テントには係員の他に二名のトレーナーの姿もあった。

 

「どうも」

 

 俺が声を掛けると向こうも俺に気がつき、軽く会釈を返してきた。トレーナーがここにいることは滅多にないんだが、どうやら両トレーナーのチームの子たちは全員が午後一トレーニングに参加しているようだな。

 

「か……吉紘さんの方も全員参加ですか?」

 

 そう聞かれてきたので、一人は昼寝をしていること。残り三名が参加していることを伝えた。

 

「そうなんですね。ウチのは全員参加です」

 

「ウチもです。良いスタミナトレーニングになりますからね」

 

 両トレーナーの言うとおり、アップダウンのある山道を走るわけだから、かなりの体力が必要となってくる。そのため、毎日参加していると知らず知らずのうちに体力がついてくる。桜ファームは、こういった理由からステイヤーを多く輩出している。

 まあ、だからと言って長距離で必ず勝てるというわけでもないけどな。スパートのタイミングや加速力などの要因で負けてしまうこともある。山道トレーニングは、あくまでスタミナ強化とペース配分のトレーニングだ。

 

「一応。あいつらには、そこらへんは説明はしてあるけど、無理しないか心配だな……」

 

 そう言いながら俺は、近隣のマップが表示されているモニターを覗き込む。

 モニターには山道トレーニングのコースと光点の数字が表示されている。光点は参加者に持たせたトランシーバーに内蔵されたGPSだ。これにより、現在どのあたりを走っているのか、コースから外れてないか、長時間動きがないなどのモニタリングができる。

 

「開始して二十分位だから、こんなもんだよな」

 

 モニターと名簿を見比べながら、三人の現在位置を確認する。

 およそ、4km位の位置に三人の番号が表示されていた。時間から逆算するに、いつものロードワークと同じ位の速度で移動しているみたいだな。

 順位的には真ん中あたりだが、ある意味最後方とも言えるな。俺が最後方と思った理由は、三人の後ろにいる子たちはハイキング感覚なので徒歩と変わらない速度で移動中だ。

 三人は俺が言ったとおり無理をしていないようなので、一先ずは安心だな。バクシンオーが思いっきり走り出すんじゃないかと心配だったが、ローレルとチヨノオーがストッパーとなってくれているみたいだな。

 

「完走できなくとも、怪我なく戻ってきてほしいな……」

 

「今のところ大丈夫ですよ。それに問題があれば直ぐに駆けつけられるように、救護員たちの待機場所を設置しました」

 

 俺の呟きに係員が、そう返してきた。なるほどね。俺がトレセン学園に行ってから設置したようだな。

 確かに連絡を受けてから、ここを出発していては重大事故だった場合は間に合わないかもしれないからな。この変更点は効率が良いな。

 詳しく聞くと待機場所には、普通救命の資格を持つ人物が待機しており基本的な応急処置を施せるようにしているらしい。今までは、ファームで雇っている医師を車で現地まで送っていたが、それだとどうしても時間がかかってしまう。それは俺も効率が悪いと思っていたところだ。

 そこで、春樹たちが調べ上げた結果。普通救命の資格があることを知り、受講して資格を得た。それにより応急処置を行えるようにしたとのことだ。

 本当に素晴らしい案だと思うと同時に、悔しい気持ちも湧いてくる。

 

(俺も、もう少し勉強していれば思いついたかもな……)

 

 そう思いながらも、モニターを見ながら参加者たちに異常が無いか注意深く観察した。

 モニターを見ながら、トレーナーと係員で会話すること二時間。10km地点でリタイア。というより中断する子たちからの連絡が入り、迎えに行くことになった。

 俺はモニターを確認し三人の状況を確認した。するとゆっくりとだが進んでいるようだが、明らかに最初よりスピードが落ちてきている。そろそろ限界が近いのだろうと思い、俺の方から連絡することにした。

 

「バクシンオーにチヨノオー、ローレル。完走を目指すのもいいけど、無理はしないようにな。今、車を向かわせる」

 

 俺がそう伝えると、トランシーバーからはバクシンオーの声で返事があった。返事はあったが少し元気がない様子だ。疲れた感じでもあるが完走できなかったことが悔しいのだろう。とりあえず体調が悪いとかではないようなので一安心だ。

 迎えの車が出てから十分程して車が戻ってきた。中から三人の他に数名の子たちも降りてきた。降りてきた子たちは一様に疲れた顔をしていた。

 俺は疲れている三人に近寄り声を掛けた。

 

「どうだった? 俺の言ったとおりハードだっただろ」

 

 俺がそう言うと最初に声を出したのはローレルだった。

 

「はい。思った以上にアップダウンが激しかったです。あと、呼吸が苦しかったです」

 

 トレセン学園のコースやレース場とは違い坂が多い分、運動量が増える。その結果、呼吸回数が増えて息苦しくなったのだろう。これに関しては呼吸の方法やリズムを覚えるしかない。

 

「山も登りだと簡単に考えていましたが、思った以上に大変でした」

 

 そう言っているバクシンオーの様子は疲労困憊といった状態だ。

 バクシンオーの距離適性は短距離がメインだ。最大でもマイル距離の1800mが限界だろう。モニターから、およそ時速7km位の速度だっただろうか。その速度で10kmの移動だ。バクシンオーからしたら二時間とはいえ、一日で約五レース分を走っている計算だ。

 身体への疲労は勿論、脚への負担はどれ程のものか分からない。あとでしっかりストレッチをするように言い聞かせておこう。

 

「ローレルさんとバクシンオーさんの言うとおり大変でしたけど、トレセン学園と違って空気が美味しかったです」

 

 チヨノオーも大変だったと感じているようだが、自然を満喫していたようだ。山道トレーニングは、そういったことも考えて考案したトレーニングだ。

 最初は10kmくらいだったのが、やっていくうちに物足りないといった意見が出てきたのだ。そこで仕方なくと言うかトレーニングになるならと距離を増やした。それがいけなかったのか。次第に距離が増えていき現在の距離になってしまった。

 

「山道トレーニングの厳しさが身に染みたところで、三十分は休憩だ。しっかり休んでから午後のトレーニングを始めるぞ」

 

 トレーニングコースは整えてはいるが、山を利用したアップダウンコースなので脚への負担は思っている以上にかかっている。ローレルのことも考えて十分な休憩をとってから昼からのトレーニングを行うことにした。

 山道トレーニングに参加した他の子たちも、出口付近に設置している東屋のベンチに座り休んでいる。

 

(今日の午後のトレーニングは、少し軽めにしておくか……)

 

 初めての山道トレーニングということもあり疲労が、どれ程なのか分からない。大事をとって、この後のトレーニングは軽めにしようと思いトレーニングメニューを考えなおす。

 プールトレーニングをメインに上半身のウエイトトレーニング、腿上げなどできる限り脚に負担の少ないメニューへ変更した。

 

「バクシンオーからは不満が出そうだけど仕方ないよな」

 

 そんなことを呟きながら休憩中の三人の様子を窺う。

 三人は雑談しながら休憩をしているようだが、ローレルは腿やふくらはぎをマッサージしながら会話をしている。ローレルとは何かあればすぐに報告するようにと決めている。何も言ってこないので何ともないと思うが心配だな。

 だが、俺から声を掛けるとローレルとの約束を信用していないと思われかねない。どうしようかと考えていると後ろから声を掛けられた。

 

「そんなに心配なら声を掛ければいいと思いますよぉ~」

 

 少しビクッとし声のした方を確認すると、いつの間にか起きていたスカイが立っていた。

 

「さっきからチラチラと三人の方を見てますけど、すごく挙動不審ですよ」

 

「えっ……」

 

 そんなに見ていたか? 完全に無意識だった。自分では午後からのトレーニングを考えているつもりだったが、心配のあまり集中できていなかったようだ。

 

「あと、皆さん休憩終わりみたいですよ」

 

 そう言いながらスカイは三人がいる方を指差した。その方向を確認すると会話しながら、こちらに歩いてくる三人の姿が目に入った。

 

(やばい。午後からのトレーニングメニュー……。全然まとまってない)

 

 焦っている俺の心情とは裏腹に近づいてくる三人と後ろでニマニマしながら見てくるスカイ。こうなったら仕方ない。正直に話してプールでできるトレーニングに絞ろう。そう考え三人が来るのを待つ。

 

「トレーナー! 午後からはどんなトレーニングをするんですか?」

 

 休憩を終えたからなのか。山道トレーニングでバテていたとは思えないほど元気になっているバクシンオー。今にも走り出しそうだな。ローレルとチヨノオーは俺からの指示を待っている。今日はどんなトレーニングをするのか楽しみだといった目で見つめてくる。

 何も考えていないと言える状況ではなくなったな……。

 

「午後からはプールでのトレーニングを行う」

 

 正直、他にすぐには思い浮かばないので基本的なプールトレーニングで誤魔化すことにした。ウォーキングにクロールと泳ぎ、背泳ぎやバタフライを行う。バクシンオーとチヨノオーは元気よく返事をしてプールへと向かっていったがローレルは少し考えて何か思い浮かんだのだろう。

 俺の方を見て笑顔を見せプールへと向かっていった。どうやらローレルにはバレてしまったようだな。

 

「やれやれ。まあ、歩き方を見ても脚は大丈夫のようだし、余計な心配だったようだな」

 

 頭を掻きながら俺もプールへ向かった。

 残り約半月。どこまで成長できるか楽しみだよ。

 

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