ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ 作:文月~夢売り商人~
「とりあえずは、こんな感じで良いだろ」
現在。俺はトレーナー室で仮のメニューを作成している。本格的なトレーニングを始める前段階なわけだが軽い運動程度の物だ。
基礎トレーニングを作るには、ここの生徒の現状の実力を知る必要がある。どの程度のトレーニングまで可能かを確認。そこから基礎トレーニングを作成が俺の指導方法なわけだが、それでも着いて来れない子もいる。
そこで俺の指導方針の自由なトレーニング。要は自分のペースで基礎トレーニングをこなしてくれということだ。基礎トレーニングを終わらせば追加でトレーニングするのも休むのも自由だ。トレーニング方法や悩みがあるなら相談にも乗る。
他人から見れば甘いだの、ちゃんとしろだの言われるかもしれないが、それが俺のやり方なのだから口を挟まないでほしいものだな。
「お疲れ様です」
一息付こうとした俺に氷川トレーナーが労いの言葉と同時にお茶を出してくれた。俺は、氷川トレーナーにお礼を言ってからお茶を一口飲んで息を吐いた。
「トレーニングメニューですか?」
興味津々といった感じで氷川トレーナーが尋ねてきた。仮のであることも加えて、そうであることを伝えた。
「三人の子の担当になったんですから大変ですね」
まあ、といった感じで返事を返した。複数人の担当になることは問題じゃないんだが、そのことが問題とも言える。
昨日の出来事が、ちょっとした噂になっているらしく困っている。新任トレーナーが、いきなり三人の担当になったのだから当然といえば当然だな。トレーナーの中ではよく思わない者もいるだろうから噂話は困ったものだ。
そんなことを思いつつ溜め息をついた。
先輩トレーナーとの話し合いがあるとのことで氷川トレーナーは退室していった。残された俺はお茶を飲みながら授業終わりのことを考えている。トレーニングに関しては、一から説明して納得してもらうつもりだが納得してくれるかは分からない。
それに関しては今から考えても仕方のないことなんだけどな。あとは彼女たちが持ってくるであろう入部届を提出するくらいだな。
放課後。俺はチームルームとして割り当てられたプレハブ小屋で三人が来るのを待っていた。さすがのトレセン学園でもきちんとしたチームルームを作るには色々と足りなかったんだろうな。
そんなことを考えながら持参した紅茶を飲みながら待っていると外が少し賑やかになってきた。他のチームの子たちもそれぞれのチームルームに来たようだ。
こっちも、もう少ししたら来るだろうと思っていると更に賑やかな声が近づいてきた。
「来たか」
俺が腰を上げるのと同時に扉が開いた。開いたと同時に元気な一言が飛び込んできた。
「さぁ! トレーナーさん。私と一緒にトレーニングを始めましょ!」
「バクちゃん。そう言われてもトレーナーさんが困るでしょ」
「こんな格言があります。『にんじんなくては、鍛錬は出来ぬ』と、何事もやってみないとです」
本当に賑やかだな。楽しみが少し増えたな。そう思いながら三人に今日の予定を伝えた。
その後、質問が無いか尋ねてみたがトレーニングとは関係ないことを聞かれた。チーム名の由来。トレセン学園のチームは、大体が星座の名前からきている。俺のチームも例に漏れずに。
「このチーム【クラウン】には、二つの意味がある。一つは一般的に知られている
俺が、もう一つの意味を伝えようとすると三人は真剣な眼差しを向けてきた。チーム名はその名前を付けた人の意思や思いが詰まっているわけだ。彼女達はそれを真剣に聞き理解しようとしてくれていることが嬉しかった。
「もう一つは
俺としてはどちらのクラウンも好きだ。輝かしい王冠も観客を湧かす道化師も、その子ならではの走りがどちらかのクラウンを手に出来る。そう思っている。
俺の話を聞き終わった三人の顔には笑顔が見られた。俺の気持ちが通じたと思っていいか分からんがとりあえずは好感は持って貰えたようだ。
トレーニングの件で頭が一杯で忘れていた入部届を受け取り、グラウンドへ向かった。
グラウンドにつくと既に何人かトレーニングを始めていた。トレーナーもタイマー片手に指導を行っているようで、時折厳しめの声も聞こえてくる。
トレセン学園に来てから3日目なので、まだ見知らぬトレーナーが圧倒的に多いが係わることも少ないので気にしないでもいいだろう。
他の邪魔にならない場所まで移動して、まずは準備運動。三人は怪我をしないようにと念入りにアップをすまさせた。
それからトレーニングをこなしてもらう。トレセン学園のグラウンドは一周は東京レース場とおよそ同じ距離らしい。
その後は坂路トレーニング。クールダウンを十分程とり再度、一周に坂路を計三セット。次に体育館へ移動し、腕立てに腿上げ、ヒップロール等をやってもらった。
結果。彼女達の走りが少し分かった。
まずはサクラバクシンオー。本人は全てのレースを走ると言っているが距離適性的に無理だな。彼女は天性のスプリンタータイプ。短距離ならば敵なしとも言える程の才能があるが猪突猛進タイプでもあるが故に周りが見えていない時がある。
グラウンドで走った際はコーナーで後続者と接触しそうになった。これは経験を積めば直せるだろう。
お次はサクラチヨノオー。距離適性的には中距離がメインになるだろう。一言で言うと真面目な努力家。クールダウン中にメモ帳に何か記入していたので尋ねたところ走ってる際に気づいたこと、気になった所をメモしているらしい。
最後に少し問題があると思った。サクラローレル。グラウンドを走っている時、全力で走る必要は無いと言ったがそれでも足を庇っているような走りをしていた。クールダウン中に確認したところ、どうも生まれつき足がそんなに強いわけではなく小さい頃に怪我に悩まされたとのことだ。それさえどうにか出来れば彼女は長距離の適性があるので十分に活躍できる子なのだ。
何はともあれ、これでトレーニングメニューが組める。今日は、もう終わりであることを告げると物足りなかったのだろう少し不満を漏らしていたが、今日の所は本格的なトレーニングメニューを組むための練習であることを伝えると何とか納得してくれた。
念入りにストレッチをするように指示して、ストレッチを終えたら切り上げるように伝えた。自主トレも一応は許可したが不安が残る。
「今日は、ここまでだけど自主トレするならするで良いが決してオーバーワークはしないように。特にサクラバクシンオー!」
自分の名前を呼ばれて少しビクッとなったが直ぐに何故自分だけと抗議の声を上げてきたが理由は簡単だ。
猪突猛進、無我夢中、直情径行、暴虎馮河等の四字熟語が良く似合うからだ。そんな理由を話すとショックを受けたようでガックリとうなだれていた。でも、彼女の為でもあるので心を鬼にする。
別に自主トレがダメなわけではなく過度なことが問題なのだ。俺は、それだけ伝えてトレーナー室へ向かった。多少心配だがサクラチヨノオーとサクラローレルが居るから無茶はしないさせないだろう。
トレーナー室に戻ると氷川トレーナーがノートパソコンに向かいキーボードを叩いていた。恐らく今日のトレーニング内容でも入力しているんだろう。
守破離って感じだな。先輩トレーナーの技術を自分の物にしようと頑張っているんだろうな。声を掛けて邪魔するのも悪いから俺は俺で自分の作業を始めるか……。
明日からトレーニングメニュー。俺の場合は基礎トレーニングと称し全員が行うメニューを作る。今回はトレセン学園ということもあって、ファームよりレベルの高い子が多いから今までのより少しハードにしてみる。その後はプチミーティング。
これは基礎トレ中にチームメイトのことで気づいた点を話してもらう。言われた方は自分の考えもあるだろうが参考程度にしてもらえるよう言い聞かせる。それと同時にトレーニングをしながらでもチームメイトを観察する目。要はレース展開を確認できる周辺視野の強化の為でもある。
その後は追加トレーニングだ。プチミーティングで言われた箇所の強化や矯正等を各自行ってもらう。
まあ、俺の方でも個々人のトレーニングメニューを参考程度に渡すけどな。
「さて明日から本格始動だ」
そう呟きトレーナー室を後にした。氷川トレーナーは、まだノートパソコンと睨めっこをしていた。あまり根を詰めすぎるのも上手くいかない原因なのだが今は愚直になる時期なことを俺も経験済みだから、もう少しだけ様子を見ることにした。
次話より、サクラ三人の名前縮めます。