ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ 作:文月~夢売り商人~
夏合宿日数も残すところあと数日。
今日は、この前のレースのリベンジをしたいとのことで、本日は模擬レースを行うことになった。出走者は前回と同じくクラウンからは四名。他チームからはクジ引きで決まった。
コースは仮想の中山レース場、距離は2000mでの模擬レースとなっている。ここに来た時にコースの説明を一通り行ったが確認のためにと、再度説明を行った。
「──んで、上り坂は中山レース場と同じ勾配になっているから、バクシンオーとチヨノオーは経験済みだが、ローレルとスカイは初めてだからな。今回の模擬レースで感覚を掴んでほしい」
俺がそう言うと四人は何も言わず頷いた。
他の参加者たちも、それぞれのトレーナーから作戦を伝えられているようだった。こちらも作戦を、ざっくりと伝えた。
バクシンオーは、前回と少し変え先行。チヨノオーとスカイも先行の作戦を取らせたが、スカイは今回も、やる気が見られないのが気がかりだ。ローレルは今回、本人の意向で先行の作戦を取ることにした。
チーム全員で先行の作戦だが、これが吉と出るか凶と出るかは分からないな。
俺の心配をよそに、そろそろ模擬レースの開始時間が近づいてきているようだ。係員が持ち場につき始めている。
「よし! 楽しんで来い」
「「「はい!」」」
俺の激励に、三人は元気よく返事をし、残った一人は無気力というか、眠気が強いようでぼんやりした目をしている。
(まさか、眠りながら走ったりはしないだろうな……。いやスカイなら、やりかねないか?)
そんなことを思いながらレースを見学するために、邪魔にならない場所まで移動した。
1枠 1番 コルスカンティ
1枠 2番 スイートキャビン
2枠 3番 ゴーイングノーブル
2枠 4番 シルバーシュシュ
3枠 5番 サクラチヨノオー
3枠 6番 カルテットアコード
4枠 7番 サラサーテオペラ
4枠 8番 サクラローレル
5枠 9番 ブリーズセスナ
5枠10番 リズミカルリープ
6枠11番 クリエイトセンド
6枠12番 サクラバクシンオー
7枠13番 フレイシュタット
7枠14番 セイウンスカイ
8枠15番 グーテンベルク
8枠16番 コードオブハート
準備も終わり参加者がゲートに入っていくが、またもやスカイがゲートに入ることを渋っている様子だ。
バクシンオーは前を向いてレースに集中していたが、チヨノオーとローレルは心配そうに横目で、スカイを見守っている様子だった。
大体の子がゲートインしたころ。漸くスカイもゲートに入った。全員がゲートインしたのを確認した係員がスターターのスイッチを押した。
<ガコンッ!!>
ゲートが開くと同時に全員が綺麗なスタートを切った。っと思ったのだがスカイだけが少し遅れてゲートを飛び出した。
(なんかわざとらしく、スタートを遅らせたような……)
何となくだが、スカイがわざとスタートを遅らせたように感じた。真面目に走るとは思わなかったが、ものぐさも、ここまでくると尊敬できるよ。
そう思いながら、レースの展開を見守った。
「本当に、あの二人は……」
「条件反射と言うか、本能的というか……」
今回の模擬レースでもコルスカンティとコードオブハートが先頭争いをしていた。失礼な言い方だが野生の動物……。例えば猫同士、目が合えば威嚇しあうようなものだろうか?
顔を突き合せれば競い合う仲なのだろうな。仲が良いのか悪いのか分からんな。合宿中、廊下で二人が食堂まで競い合っている姿を何度か目にしたことがあった。
また、別の日には、廊下で先に目を逸らしたら負けと言わんばかりに、睨み合って動かないといった場面にも出くわしたこともあったな。
(犬猿の仲という訳でもないんだよな。この前なんて、相席して早食い勝負をしていたしな)
先頭争いをしている二人を放っといて、後続の確認をする。
コルスカンティとコードオブハートの後ろには、カルテットアコード。その少し後ろにサラサーテオペラ、その外にバクシンオー。二バ身離れて内に、チヨノオーとクリエイトセンド。少しだがってゴーイングノーブル、すぐ後ろにグーテンベルク。その外にローレル。
三バ身離れて、シルバーシュシュ。少し後ろにスイートキャビンとブリーズセスナ。内に入ってスカイ。その外に、リズミカルリープで殿には、フレイシュタットの位置取りとなった。
(三人は先行の位置か……。スカイは今回も様子見するみたいだな。まあ、目標のレース以外は様子見で走るつもりなんだろうけどな)
位置取りが落ち着いたころ。第1コーナーへ差し掛かった。
先頭は変わらず、コルスカンティとコードオブハート。それに続くようにカルテットアコード、サラサーテオペラは少し下がったようで、五番手。バクシンオーが、四番手になった。
その後ろ、二バ身半離れチヨノオーがスタミナ温存のためか下がりクリエイトセンドが前へ。ゴーイングノーブルとグーテンベルクは変わらず、ローレルが少し距離を詰めた感じだな。
差し組は順位の入れ替わりなく第1コーナーを抜けていく。
「どうやら先頭で動きがあったみたいだな」
「彼女はマイル距離を一番得意としていますからね。スタミナ温存のために、わざと下がったんでしょうね」
俺が順位を確認している間に、先頭で動きがあったようだ。俺も確認のために目をやると、コルスカンティが先頭を走り、コードオブハートは後ろにぴったりと張り付いていた。
(スリップストリームだな……)
どうやら、コードオブハートは得意な距離ではないため、わざとコルスカンティに先頭を譲りスリップストリームで疲れにくい走りにしたようだ。
(後先考えない性格というか、激情的な性格かと思っていたが、冷静なようだな)
そう思い先頭に続く子たちの様子を確認した。
(さて、ウチの熱血娘は、どんな感じだ?)
先頭が良い勝負をしているので心配になり、バクシンオーの様子を確認。バクシンオーも成長したのか、周りを気にせず走っているようだった。だが、自分の走りをしつつも先頭の様子を窺っているのが、見て分かった。
「吉紘さん所のサクラバクシンオーも機会を窺っているようで、怖いですね」
「ですね。前回はスタミナ切れで下がっていきましたけど、今回は冷静ですね」
「今のところはね。いつ暴走して、がむしゃらに走り出すか分からないよ」
他トレーナーの言葉に返事を返しつつ、バクシンオーから視線を外し後方へ。チヨノオーとローレルの様子を確認する。
クリエイトセンドとチヨノオーの順位は変わらずだが、いつの間にかローレルがチヨノオーの後ろをくっつくように走っていた。ゴーイングノーブルとグーテンベルクは一バ身程、後ろに下がったようだ。
スカイの様子を見ようと視線を動かそうとした時。チヨノオーとローレルに別の動きがあった。チヨノオーが横に動きクリエイトセンドの後ろを走り始めた。ローレルも、その動きに合わせて横に動き始めた。
「チヨノオーが思い浮かぶはずもないし、チヨノオーの動くタイミングが分かっていたように、ローレルも動き始めたから、ローレルの指示だろうな」
「そうなんですか? まあ、確かに効率は良いですし、体力の温存ができて効率的ですね」
「確かに……。自転車競技でも先頭を入れ替えながら走りますからね」
自転車競技のチーム戦なら確かに、良い作戦だろう。だが、個人戦でのレースとなると別の話だ。
チヨノオーは、それも分かっていて敢えて、ローレルの言葉に従ったのだろう。チヨノオーの考えは分からないが、何かしらの思惑があるのだろう。ローレルもローレルで何か考えがあって、チヨノオーに指示を出したのだろう。ここは、様子を見ることにするか……。
そう思い、スカイの様子を確認する。スカイは変わらず後方、差し組の内に入り走っている。走りから見て他の子の様子を見ているというより、自分の状態の確認をしながら走っているようだ。
(己を知り、敵を知れば百戦危うからず、か……)
自分の状態を知り走る。スカイの狙う三冠レースの一つ、皐月賞。中山レース場主催となる。中山の坂を、どう走るかの様子見も含めているのだろう。
「失礼な言い方ですけど吉紘さんのところのセイウンスカイですか? 先日のレースより遅いような気がするんですが?」
「あー……。何て言うかな。能ある鷹は爪を隠す的な?」
本番というか自分の目標レース以外に意欲的じゃないと、本当のことを言うのが憚れるので、それらしい理由をつけて誤魔化した。
「なるほど、本番まで実力を隠しているんですね」
(いやいや。信じるのかよ!?)
俺の口からの出まかせを信じる、トレーナー。誤算だが助かると言えば助かるな。
それより、レースだ。今、どんな状況だ? 少し話している間、目を離していたので急いでコースに視線を戻す。先頭は向正面、第3コーナーに入ろうとしていた。
先頭は変わらず、コルスカンティとコードオブハートだが、コルスカンティに疲れが見え始めていた。コルスカンティは、やはりと言うか本来は先行か差しを得意としているんだろうな。逃げのペースに慣れてないのが、すぐに分かる。逃げの適性がないわけではないから、スタミナをつければ逃げでも十分に勝ちを狙えるだろうな。
逆にコードオブハートはコルスカンティを、いつ抜き去るかのタイミングを計っているみたいだ。先頭二人で、かなりのハイペースで走っていたから、タイミングを間違えれば自身もスタミナ切れをおこしかねないのだろう。
三番手はカルテットアコード。すぐ後ろにバクシンオーがいるな。サラサーテオペラは完全に下がったわけではなかったようで、スタミナ温存、スリップストリームのために順位を譲ったようだな。バクシンオーの後ろにぴったりと張り付いて走っている。
一バ身、離れてクリエイトセンドが先頭の集団。クリエイトセンドの外にチヨノオー、その後ろにゴーイングノーブル、グーテンベルクが下がり始めたみたいだ。ローレルが距離を詰め、ゴーイングノーブルの後ろまで来ていた。
後ろの集団も距離を詰めてきており、シルバーシュシュ……。と思ったんだが、外に並んでスイートキャビンがいる。スイートキャビンの後ろにブリーズセスナ。スカイは殿まで下がり、リズミカルリープとフレイシュタットの順番で少し距離を詰め始めている。
「第3コーナーに入ったみたいですね」
「ですね。そろそろスパートを掛けてくる子もいるでしょうね」
「だとしたら、コードオブハートが第4コーナー辺りでスパートを掛けるだろうな」
そんな話をしていると、こちらの予想通り。先頭集団、コルスカンティとコードオブハートが第4コーナーに入った。それと同時、コードオブハートがコルスカンティを躱し、先頭に躍り出た。それを見たコルスカンティもスパートを掛けたが、完全にスタミナが切れてしまったようで、本人も思ったように加速できない様子だ。
後続は、まだスパートをかけない。第4コーナーにかかるまで脚を溜めるようだな。コードオブハートのスパートに焦り、タイミングを間違えては勝てない。
それは彼女たちも分かっていると思う。それでも自分たちがスパートを掛ける時にはコードオブハートが、どの程度まで進んでいるのか分からないので焦る気持ちもわかる。だがそれでもどれだけ自分のペースで挑めるかで勝敗が分かれるというものだ。
コードオブハートが坂を上り始めた。ゴールまで凡そ200mといったところだろう。後続も第4コーナーの真ん中、残り250mほどのところでスパートを掛け始めた。
「さて、今回はどうなることやら」
先頭のコードオブハートはピッチ走法で坂を上っていく。続く、コルスカンティも同じくピッチ走法で上っていくが、スタミナが切れていて辛そうだ。
カルテットアコードとバクシンオーも、快調に駆け上がっていく。バクシンオーは経験したこともあるので落ちてきている、コルスカンティとカルテットアコードを躱し二番手まであがった。サラサーテオペラもバクシンオーに続き三番手へ。
クリエイトセンドとチヨノオー、ゴーイングノーブルにグーテンベルクも坂を駆け上がり始めた。少し遅れて、ローレルも上がってきている。走りから見て無理している様子もなく、脚を気にした様子も見られない。
さらにその後ろ、シルバーシュシュとスイートキャビンが横並びになっていて、ブリーズセスナ。少し後ろにリズミカルリープとフレイシュタットが横並びで坂を駆け上がっていく。殿のスカイは、最後方で他の子たちが、坂をどう攻略するのかを確認しながら駆け上がっていく。
(何か学ぶことがあれば良いけどな……)
そんなことを思いながら先頭へと視線を戻すと、バクシンオーが無理をしているんじゃないかと思えるくらいの勢いで駆け上がり、コードオブハートを追い縋り、ついには横並びになった。
周囲からは驚愕の声が上がったが、俺としては心配で気が気じゃなかった。
「サクラバクシンオー……。すごいガッツですね」
「ただ猪突猛進なだけですよ」
近くにいたトレーナーからは、ガッツがあると言われたが、ただ勝ちたいという気持ちが前に出過ぎているだけだと思う。
まあ、ウマ娘としての性なのは分かるんだけどな……。
後続も一気に駆け上がってきており先頭以外は団子状態となっていた。中に埋もれるのを嫌がった子は外にはずれていた。先頭争いをしていたコルスカンティは、後続たちに抜かれていき十三番手くらいまで落ちていった。
レースも佳境を迎えている。先頭は変わらずコードオブハートとバクシンオーだが、ハナ差でコードオブハートが前に出ている。バクシンオーも負けるものかと最後まで諦めずに走っている。
その後ろは順位が変わり、三番手にクリエイトセンド。その後ろにチヨノオー、四番手はカルテットアコード。すぐ後ろ外に、サラサーテオペラ。
七番手は、ゴーイングノーブルなだが、完全に中に埋もれてしまっている。横にずれようにも横にはグーテンベルクがいる。その外には上手く外へ抜けていたローレル。その二人の後ろにはスイートキャビンとシルバーシュシュ。
外にブリーズセスナ、少し下がり内にフレイシュタット。外にリズミカルリープ。コルスカンティとスカイは殿を仲良く走っている。
「先頭はどちらかと言うとコードオブハートが僅かに優勢だな。三着以降はほとんど団子状態だから順位の変動はまだあるだろう」
「いや。先頭もまだ分かりませんよ。コードオブハートもサクラバクシンオーを意識しているみたいです」
そう言ってもらえるのは有り難いが、今回も勝つのはコードオブハートだろうな。バクシンオーは数レースしか走っていない。対するコードオブハートは、GⅠを三勝はしていたはずだ。実力も経験も上だ。
そんな話をしていると、ゴールまで残り50mほど。さすがと言うべきだろう。ハイペースだったにも係わらず、未だに疲れを見せないコードオブハート。逆にバクシンオーには、少し疲れが見え始めた。
そして、バクシンオーの頑張りは空しく、コードオブハートが今、ゴール板を駆け抜けた。バクシンオーは少し差が開きクビ差で二着となった。
「サクラバクシンオー。頑張ったんですけどね」
「今年のトゥインクル・シリーズは楽しみですね」
「まだまだ課題が多い。俺も色々と学んでいかないとな」
三着には、クリエイトセンド。四着にチヨノオー、五着はカルテットアコード。
今回のレースの話していると次々とゴールしていく彼女たち。ここにいられるのも残りわずかな時間となってしまった。その時間で、どこまで成長できるのか、成長させてあげられるか分からないが、今後が楽しみだ。