ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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夏の強化合宿 思い出

 今日も今日とて桜ファームでトレーニングをしている。

 本日の最高気温は、33℃になるらしい。熱中症や脱水に気をつけながら、トレーニングを行っている。

 

「どうも。そちらは明日には帰られてしまうんですよね?」

 

 ファームのトレーナーに声を掛けられた。

 そう。明日にはトレセン学園へ帰ることになっている。トレセン学園の夏合宿は二ヶ月間の期間で設けている。それに伴い、夏季休暇も二ヶ月もある。

 夏季休暇を返上し合宿に参加するもしないも個人の自由らしい。

 まあ、夏季休暇を遊んで過ごす子はほとんどいないらしい。自主トレに励み、時々、気分転換で遊びに出かけるのが主流らしい。

 

「まあ、今日のイベントで英気を養ってもらえるといいけどね」

 

 六十年ほど前から実施されている夏のイベント。そう。花火大会だ。

 堰口煙火(せきぐちえんか)工場というところに毎年、注文をしている。十一名ほどの人数の小さな工場だが素晴らしい仕事をしてくれている。有限会社なのが残念だ。株式なら思いっきり投資していただろう。花火大会には近隣と言っても15km以上離れているが、そこから見に来る人もいる。

 以前、花火鑑賞のついでと言わんばかりに、ファームへ入ろうとした輩もいた。事前に連絡をもらえれば見学も可能にはしてあるが、急な来訪は困る。

 なので、ファームに関係者以外の入場を控えてもらうために離れた場所に、駐車場を造った。それ以降、急な来訪者の数が激減した。

 イベントは花火大会だけではなく。野外でのBBQ。所謂、バーベキューも行う。普段はカロリーなど気にしているが、この日だけは、ダイエットのチートデイの如く好きな物を好きなだけ食べられる。普段からカロリーに厳しいトレーナー陣や栄養士たちも、この日だけは目を瞑ってくれる。

 トレーナーとイベントのことで話し込んでいると、昼の鐘が鳴り午前のトレーニング終了を知らせた。

 

「それじゃ、失礼します」

 

 そう言って、自分の担当の子たちの所へ向かっていった。俺も向かおうと思ったが、向こうからやってきたのだが、元気が取り柄のバクシンオーが大人しいのが気になった。

 どこか痛めたのか確認すると……。

 

「トレーナー……。明日には帰らないといけないんですよね? まだまだ、ここでトレーニングしたいです」

 

 意外と感傷的になっていた。本当に普段は元気なだけあって、こういった一面を見せられると少し困ってしまう。そう思いながらも、来年もまた来ればいいと、在り来たりな言葉でお茶を濁した。

 

「私も寂しいです。せっかくコードオブハートさんと仲良くなれたのに……」

 

「私も同じように脚のことで悩んでいる子と話せて、相談に乗ったり乗ってもらえたりして……」

 

 おっと、チヨノオーとローレルも少し気分が沈んでるな。トレセン学園には劣るが、ここも結構な人数のウマ娘がいるからな。気が合う子や同じ境遇の子も少なからずいるだろう。

 せっかく仲良くなっても暫く会えなくなってしまう。寂しい気持ちも分かるが、それじゃ駄目だ。少し冷たいと思うが心を鬼にする。

 

「そんなんじゃ、同じレースを走った時にガッカリされるぞ。お前たちの気持ちも分からないでもない。だけどな、仲良くなったからと言ってレースではライバルだ。そんな気持ちで走ってたら負けちまうぞ」

 

 俺がそう言うと三人は頷いた。

 

「そうですね。最後まで涙を見せずに頑張ります!」

 

「私も、ここでのトレーニングに恥じないレースを皆さんに見てもらいます」

 

「私もです。ここでの努力を無駄にすることがないように……。そして、必ず凱旋門賞を制覇して見せます」

 

 三者三様の答えが返って来た。トレーニングは今日までだが、実りのある一ヶ月だったようだな。

 

 ……三人? あと一人はどこに行った?

 そう思い。スカイの姿を捜すが見当たらない。三人にスカイのことを尋ねると……。

 

「スカイさんなら先ほどまでいましたけど、トレーナーが話している間に食堂の方へ行きましたよ」

 

 流石はローレル。チームメイトのことをよく見ている。そして、スカイよ。俺が話しているんだから、少しは聞いていてほしかったよ。

 心の中で、そうボヤキながら、三人と一緒に食堂へと向かった。

 食堂に着くと昼食を摂っている子たちがいるのだが、量的に軽めに済ませている子が見受けられる。恐らくだが夜のバーベキューに備えて昼は軽めにしようという魂胆なのだろう。そんなんで昼からのトレーニングは乗り切れるのかが疑問だ。

 こればかりは個人や担当トレーナーの問題なので、俺がとやかく言うことでもないだろう。そう思い俺も昼食を摂ることにしたのだが、一緒に来た三人は普段と様子の違う食堂に疑問を持ったようだった。

 そう言えば、まだ伝えていなかったな。スカイには後で伝えておくとして、三人にも今日のイベントのことを伝えた。伝えるや否や、三人は目を輝かせ始めた。

 おそらくだが二人はバーベキューのこと、一人は花火が楽しみなのだろう。

 

「楽しみなのは分かったが、浮かれ過ぎて午後のトレーニングで怪我をしないようにな」

 

「「「はい!」」」

 

 元気良く返事をして、午後のトレーニングに向けて食事を始める三人。食事中の会話の内容は勿論、バーベキューと花火の話だった。やる気が出たのは良いことなんだが、いつも以上にやる気に満ちているのが、俺としては気になるところだ。

 その後、食事を終えて昼寝をしようとしてたスカイを見つけて。バーベキューと花火のことを伝えた。話を聞いたスカイは、そっけないような感じで「楽しみですねぇ~」と、言っていた。

 

 午後からのトレーニングも問題なく終わった頃。あたりが薄暗くなってきていた。

 トレーニング中。トラックが何台か到着していた。バーベキューの材料は勿論、花火を運搬してきた。

 関係ない話だが、この時期と言うより七月三十一日の食材運搬は何故か運送業者でクジ引きが行われるらしい。理由を聞けば、その日の運搬業務はここで終わりだそうで、業務終了後に花火を見ていくらしい。

 食材運搬の運転手も言い換えれば関係者だからな。一番の特等席で花火が拝めるといった寸法だ。

 今回の合宿のことを話し合っている間に、ファームの従業員総出でイベントの準備を始めていた。折り畳みのイスやテーブル、調理器具一式など。迅速に準備を進めていた。

 俺もここにいた頃は手伝っていたが、今回は客人ということで手伝わなくて大丈夫と言われてしまった。ちょっと悲しかったのは内緒だ。

 話し合いも終わり一度解散という流れになった。その後、時間が経ち外がすっかり暗くなった頃。準備が終わったと春樹が呼びに来た。こっちの四人も既に呼びに行っているとのことで、俺は春樹とイベント会場に向かった。

 イベント会場は、屋外照明で照らされており不自由なく活動できるようになっている。ウマ娘と従業員の合わせて100名あまりの席が用意されている。

 俺達が行くと既に半分ほどの席は埋まっていた。バーベキューの方も、あと数分もすれば食べごろと言った感じで、良い匂いが漂ってきていた。

 ウチの連中を捜してみると、すでに椅子に座っていて仲良くなった子と会話をしながら始まるのを待っているようだった。

 俺も空いているイスを捜し、座るとファームのトレーナーたちが自分の担当の子を引き連れ相談をしに来た。それぞれ話を聞きアドバイスをしているとスピーカーから春樹の声が聞こえてきた。どうやら始まるみたいだな。

 

 なんてことのない普通の挨拶。皆の成長が喜ばしい、日々のトレーニングの疲れを癒してほしいなどの労いの言葉を述べている。最後に乾杯の音頭をとり飲み食いが始まった。

 一時間ほどすると、3トンほどあったジンギスカンはほとんどなくなっていた。小食の子もいる中、大食いの子もいるので足りなくなるのではと、俺がいた頃から心配だったが、ちょうどいい塩梅みたいだな。

 

(デザートは別腹とは言うが、あれだけ食ったのに、まだ入るのか……)

 

 俺の視線の先には、デザートに群がる集団。一般ウマ娘の一日の食事量以上を一食で摂ったにも係わらず、デザートを食べ続ける子たち。

 甘い物を見て食べた物が小腸に送られスペースができる。所謂、幽門が開いたと言われる現象だが、それでも僅かなスペースができるだけの筈なんだが……。

 

(身体構造や身体機能の違いは、いまだ完全に解明されてないからな。消化のメカニズムも違いがあるのかね……)

 

 そんなことを思いながら集団を眺めていると、笛が鳴るような音がしたあと、閃光と共に大きな音が辺りに響いた。上空を見上げると、一発の光の花が夜空に咲いていた。

 それを皮切りに数発の花火が打ちあがり花を咲かせ、少し間をおいては打ちあがり花が咲く。

 

(何度見てもキレイな物だな……)

 

 夏の風物詩と言えば花火なわけだが、何度見ても飽きがこないのが不思議だ。あまり上を見過ぎていると首が痛くなってくるので、休む意味もかねて少し視線を落とす。

 俺の他に花火をそっちのけで、宴会をしている従業員。もとい孫たちがいるのだが、それは置いておいて、ほとんどは上を見て花火を楽しんでいるようだった。

 

(さてと……。ウチの子たちはどこにいるかね)

 

 俺は自分のチームの子たちを捜した。辺りを見渡しながら歩いていると最初に見つけたのは、チヨノオーだった。近くには、仲良くなったというコードオブハートもいた。

 

「チヨノオー」

 

 チヨノオーは花火に集中していたので、俺は傍まで行き肩を叩き声を掛けると、体を少しビクッとさせ俺の方を見た。チヨノオーは俺の姿を見ると笑顔を見せてきた。

 

「トレーナーさん」

 

 コードオブハートも俺に気が付くと軽く会釈をしてきた。チヨノオーも仲良くなったと言っていたので、最後の夜を一緒に過ごしているんだろう。

 

「楽しんでるか?」

 

「はい! 食事は美味しいし、花火はキレイでとっても楽しいです」

 

 そう言って満面の笑みを見せてくるチヨノオー。友人と楽しいことを共有できるのも嬉しいのだろう。邪魔しちゃ悪いので二言三言話してから、その場を後にした。

 次に見つけたのはローレルだった。ローレルも誰かと一緒にいるようで、花火鑑賞もほどほどに皆とは少し離れた場所で真剣な表情をして会話していた。おそらく午前中に言っていた同じく脚に悩みを持つ子だろう。

 

「ローレル」

 

 俺が声を掛けると話し相手も一緒になり俺の方に振り向いてきた。彼女は確かカラフルパステルだったな。春樹の話によると彼女も脚の虚弱で苦労しているとのことだ。小さい頃に所属していた俱楽部でも脚のことが原因で同じく所属していた他の子と一緒に思いっきり走れなかったらしい。

 俱楽部でのトレーニングは未発達の子たちの体に負荷が掛からないように徹底されていた。ここに来て本格的なトレーニングを始めてから十分に注意を払いながらではあるが思いっきり走れるようになったとのことだ。

 

「何やら話しているようだったけど、花火や食事は楽しめたか?」

 

「はい。花火は堪能できましたし、今は食休みを兼ねてパステルさんから、どんなトレーニングをしているのかを聞いているところなんです」

 

 この一ヶ月。かなりの時間、一緒に居たようで春樹からも話を聞いている。お互いにどんなトレーニングをしているのか情報交換をしていたのだろう。

 桜ファームでは最新とも言えるトレーニングを行っている。俺も勉強をして新しいトレーニング方法を考えているが、ウマ娘本人からトレーニング方法を提案されれば一緒に考えてそのトレーニング方法をカタチにしていく方針だ。

 カラフルパステルから話を聞いて、どんなトレーニング方法を思いつくのか楽しみだな。

 

「してみたいトレーニングがあれば言ってくれ」

 

「はい」

 

 ローレルの返事を聞いてその場を後にし残りの二人を捜した。少し移動するとデザートの集団とは別に人が集まっている場所があった。そこに近づくにつれ聞きなれた高笑いが聞こえてきた。

 

(花火の音もあるのに聞こえて来るって、どれだけの声量だ? ただ単にトーンが高いだけか?)

 

 そんなことを思いながら、その場所に近づいた。集まりの中心には案の定、バクシンオーがいた。周りの子たちに何か演説みたいなことをやっているみたいだ。

 

「そこでトレーナーさんが、俺に着いてこいっと言ってくれたんです!」

 

 そう言い切り手に持った飲み物を一気に飲み干していた。雰囲気に呑まれたのか、まるで酔っぱらいのように話をしているバクシンオー。トレーナーさんと聞こえてきたから俺の話をしているのだろうが、俺は一言も「俺に着いてこい」だなんて言った覚えはない。

 バクシンオーの中では、俺の話がそう変換されてしまっているようだ。周りの子たちも、キャッキャ言いながら話を聞いているので声を掛けづらい。

 まあ、楽しんでいるのが分かったのでこの場を後にしてスカイを捜すことにした。

 

「スカイを捜すと言っても大体は見当がつくけどな」

 

 そんなことを呟きながら会場から離れた静かな場所を探していると、結構離れた場所で足を投げ出し、木にもたれかかりながら空を見上げているスカイを見つけた。

 俺が近づいていくとスカイは俺に気がつき視線を俺の方に向けたが直ぐに空を見上げた。

 

「食べ物や飲み物は足りているか?」

 

 俺がそう声を掛けると再び俺に視線を向けた。

 

「大丈夫ですよ。時々、取りに行ってますから」

 

 そう返事を返すスカイだったが、少し眠そうな顔をしていた。普段から昼寝をすることが多いので同室のローレルに夜間の睡眠時間について聞いてみたが、早く寝る時もあるが遅くまで起きていることもあるとのことだった。

 それを踏まえても今日は寝るにはまだ早い時間帯だと思う。

 

「眠そうだが大丈夫か? 無理して起きていることは無いからな」

 

 まあ、スカイは自由気ままだからな。周りに合わせることは稀だろうが、こんな場所で寝られても困るので一応伝えておく。

 

「了解でぇ~す」

 

 そんな気の抜けた返事を返してくるスカイ。俺がいても邪魔になりそうなので早々にその場を離れた。

 少し離れてからスカイの方に振り向くと空を見上げて花火を見ながら微笑んでいたので、楽しんではいる様子だったので一安心だ。

 全員の様子が確認できたので俺も楽しみますか。そう思い春樹たちのいる場所に向かい夜更けまで過ごした。

 

 翌日。帰り支度を済ませ荷物を積み込み車に乗り込んだ。

 見送りには手の空いている人たちが来てくれた。中にはコードオブハートやカラフルパステル、バクシンオーの話を聞いていた子たちもいた。

 皆、別れを惜しんでくれていたが何時までもこうしているとトレセン学園に帰るのが遅くなってしまうので来年もまた来ることを伝えて帰路についた。

 

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