ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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宣言通りゲーム版主人公の話です。


同期で好敵手

 ウララが入部した翌日。トレーナー室でウララのトレーニングメニューを考えている最中なのだ。

 隣の席では氷川トレーナーと彼女の担当であるガーリースマイルが話をしていた。傍から見ても距離が近づいたのが分かるほどに仲が良い。

 二人の会話をBGMにメニューを考えているが、行き詰ってしまっている。

 腕の振りの矯正メニューなんて考えてこなかったし、必要ともしてこなかったのが原因だ。どうしたものかと考え込んでもいい案が浮かんでこないので気分転換することにして、トレーナー室から退室した。

 学園内を散策していると見知った顔が見えたが、何やら落ち込んでいるようだった。一応、何かあった時は頼むと言われたので声を掛けることにした。

 

「星野トレーナー。こんなところでどうしたんですか?」

 

 西村トレーナーが引退し独り立ちすることになった星野トレーナー。前任トレーナーからトレーナーのイロハを教わっていると思うのだが何か悩みでもあるのだろうか?

 

「えっと、桜トレーナーですか。ちょっと悩んでいることがあって」

 

 やっぱり悩み事か……。

 どんな悩みか聞いてみると、チームメンバーのことで悩んでいるそうだ。先日までは、引き継いだオグリキャップ一人だったが、彼女も来年にはシニア級となる。自分で一から指導した子ではないので中々自信が持てなかったが……。

 昨日、気になる子に声を掛けたところお試しで入部してくれると言ってくれたそうだが、その子の トレーニング方法で悩んでいるとのことだ。

 あれこれ聞くのは良くないのだが、詳しく聞いてみるとその子は短距離をもっとも得意としているが、どの距離でもそつなくこなせるオールラウンダーだと言うのだ。

 たまにいるんだよなそんな子。どんな距離でも走れます。どんな作戦でもできますって子が……。

 とりあえず、その子の夢は三冠を獲るとのことだが星野トレーナーとしては、得意な短距離を走らせたいと思っている。

 典型的なトレーナーとウマ娘の意見の食い違いだな。トレーナーは多く勝たせてあげたい。ウマ娘は無理だとしても夢を叶えたいと思っている。

 バクシンオーもそうだからな全レース走破となると毎日レース三昧のようなものだ。休む暇がないし怪我の恐れもあるからと諦めてもらう代わりに年に数回は得意距離を無視したレース出走を約束している。

 それくらい、彼女たちウマ娘にとって夢は大切なものだから、星野トレーナーも悩んでいるのだろう。

 

「まずは、その子の夢を支えてあげてはどうでしょうか? 星野トレーナーの思いを二の次という訳ではないですけど、まずはウマ娘を第一に考えてみては?」

 

「そうですけど、俺は彼女の勝ち続ける姿を見てみたいんです。彼女の母親は確かに素晴らしいウマ娘でしたけど、彼女は彼女です。親とは違う道を歩んでもいいと思うんです」

 

 なるほどね。その子は母の後を追い、追い付き追い越すつもりなのだろう。その気持ちは分からないでもないが、星野トレーナーの言うとおりだ。

 それでも……。

 

「それでも、ひとまずはその子の望んだ道を歩ませては? いつかは気づくはずです。自分は自分なのだと」

 

 昔にも似たような子はいたが同じように短距離、マイル距離を得意としていたが頑なに中距離、長距離に出走していた子がいたが母親のようになりたいと願っていたが、無理だと悟り結局は自分の得意距離で重賞レースを獲った子がいる。

 俺はその子の好きなようにさせた。母親だけではなく父親からも諦めろと言われた時はさすがにショックだったようだが、俺は好きなようにすればいいと言った。

 周りが何と言おうが自分の信じた道を歩むようにと……。

 その後の彼女はシニア級で春の天皇賞に出走したのは良いが惨敗。それをかわきりに短距離、マイル距離ばかりに出走するようになったのだ。自分が輝けるのは、ここだというのが分かったんだろうな。

 俺が自分自身の昔話も交え話すと星野トレーナーも何とか納得してくれた。

 

「分かりました。当分は彼女の思うようにしていきたいと思います」

 

 俺と星野トレーナーが話し終えると、声を掛けられた。

 

「星野トレーナー。少しよろしいでしょうか?」

 

 名前を呼ばれた星野トレーナーと俺は声をした方を見ると、女性トレーナーと随伴するような感じでウマ娘が立っていた。

 女性トレーナーの方は隣に並ぶウマ娘より少し背が低く、襟にフリルのついたロングカフスの白ワイシャツにフォーマルな黒の袖なしシングルボタンベスト、黒い七分丈のジョガーパンツを着こなし。髪型は正面から見れば編み込んだ左前髪をヘアピンで留めたボブカットに見えるが、後ろは小さいポニーテールを結っているように見える。

 ウマ娘の方は正直に言って何を考えているか分からない表情をしている。白毛の髪と、ゆらゆらと揺れる尻尾は先が切り揃えられているのが特徴だな。右耳に花をかたどった耳飾りを付けており、前髪の髪留めも似たような感じの物をつけている。

 

「桐生院トレーナー。どうしました?」

 

 桐生院? 桐生院と言えばトレーナーの名門と言われている。

 何人かには会ったことがあるが、彼女は初めて見る顔だな。そこの血筋か? 俺がマジマジと見ていたので、彼女が失礼しましたと自己紹介をしてくれた。

 

「こうして言葉を交わすのは初めてですね。私、『桐生院 葵』と申します。桜トレーナーの噂はかねがね」

 

 そう言いながら笑顔を向けてくる。桐生院トレーナーが聞いた俺の噂が気になるところだが、挨拶をされたのなら返さなければ失礼になるな。

 

「改めて、初めまして。桜です」

 

 俺も自己紹介を返し握手を求める。桐生院トレーナーは差し出された手を握り再度、挨拶をしてくる。挨拶も済ませたし、桐生院トレーナーは星野トレーナーに用があるみたいだから俺は席を外すとしますかね。

 俺は軽く会釈をしこの場を離れた。

 

 春や夏なら昼寝できる場所があるのだが、今は秋だから地面の上に横になりづらい。自販機で缶コーヒーでも買ってそこら辺のベンチに座りますかね。

 そこら辺のベンチに腰を下ろし、缶コーヒーの口を開け一口飲む。

 

(さて……。どうするかな)

 

 気分転換と言いながらも頭の中はトレーニングメニューのことで一杯だ。

正直、いい案が浮かばない。ならどうするか、既存のトレーニング方法などを参考にするしかない。

 問題はどのトレーニング方法を参考にするかだが……。

 

「秋晴れや 姿は見えず ころげゆく……」

 

 適当に俳句なんか詠んでみたが、全然うまくないな。

 まあ。どんなトレーニングがいいか見当もつかず、気分は転落しているから今の心情にぴったりな句なんだが……。

 くだらないことを考えてしまうくらいには手詰まりなのだが、腕を振る動作のことばかりを考えていると、ある光景を思い出した。

 

「あるよ。いい方法が」

 

 いい方法を思いついたので早速、トレーニングメニューをまとめようと思いベンチから立ち上がったところで、声をかけられた。

 

「桜トレーナー。こちらでしたか」

 

 声がした方を見ると先ほど出会った二人のトレーナーが立っていた。

 

「なにか?」

 

 俺を探していたのは察しがついたので用件を聞いた。

用があるのは星野トレーナーではなく、桐生院トレーナーの方だとのこと。相談の内容は先程のウマ娘、『ハッピーミーク』のこと。

 一族の教えである【トレーナー白書】に倣う形でトレーニングに挑んでいるがデビュー戦以降はレースで結果を残せないでいるとのこと。

 知識はあるが経験不足ってところだな。

 それでも同僚に相談した点では賞賛に値するな。いいトレーナーになろうと彼女も必死なのだろうし、星野トレーナーも自分のことで精一杯なのに同僚を見捨てられない、いいトレーナーだ。

さて、相談を受けたからには真面目に答えないとな。

 

「まずは、ハッピーミークが何を、何処を目指しているか分かりますか?」

 

 俺はありきたりな、そして当然の質問をした。

 それはウマ娘の夢。ハッピーミークの夢は何なのかを質問してみた。

 

「それは勿論、強いウマ娘になることだと思います」

 

 どうも曖昧な答えだな。もう少し踏み込んで聞いてみるか……。

 

「それはハッピーミーク自身が言っていたんですか?」

 

 ハッピーミーク自身が言っていたのなら問題はないが違うなら、少し問題がある。星野トレーナーと同じく意見の食い違いが発生しているから結果が出ないのかもしれない。

 他にも原因があるかもしれないが、大前提の確認からだ。

 

「いえ。でも、ウマ娘なら誰でもそう思っている筈です」

 

 やっぱりそうか。コミュニケーション不足による停滞だな。

 それならアドバイスは一つ。

 

「まずはハッピーミークと目標の相談をしてください。そうでないと、どんなにトレーニングをしても無駄になってしまいます」

 

 実際には無駄になることはないだろうが、こうでも言わないと相談も何もしないだろうから、あえて厳しい言葉を放つ。

 隣にいる星野トレーナーも俺の言葉に何か言いたいようにしているが、我慢をしているようだ。途中で横やりが入るとややこしくなるからありがたい。

 

「ミークには頼りないと思われたくないんです」

 

「……」

 

 アンタもか! アンタもそんなことを言っているのか!

 星野トレーナーの同期ということは桐生院トレーナーも担当を持つのは初めてだろうに、桐生院トレーナーが教えるのが初めてなら、教わるハッピーミークも初めてなんだから、方向性の相談から入るのは当たり前だろ。

 氷川トレーナーの時は限界ギリギリになってしまったが、桐生院トレーナーは限界は来てないのでまだ間に合う。

 そう思うと同時に話題に出すことを申し訳ないと思いながら話した。

 

「氷川トレーナーも同じ状況でした。担当の子に頼りないと思われたくないと……。倒れる寸前まで頑張っていましたが、それでもうまくいかなかったんです」

 

 俺がそう言うと桐生院トレーナーは、ハッとした顔をしていた。

 どうやら、今の自分と同じ境遇だと感じてくれたんだろう。そう思い話を続けた。

 

「同じトレーナー室にいながら気づくのが遅れましたが、俺は外に連れ出して簡単なアドバイスをしました」

 

「簡単なアドバイス……?」

 

 どんなアドバイスなのか興味を持ってくれたようだが、そんな高尚なものではない。本当に簡単にできるアドバイスだ。

 

「担当の子に相談をしろです。担当の子の夢や目標も知らずにトレーニングはできません。その目標に向かってのトレーニングを考えるのがトレーナーの仕事です。担当の子の目標も聞かずにトレーニングをするのは地図も持たずに登山をするようなものです」

 

 俺がそこまで言うと桐生院トレーナーは考え込んだ。何が正解で何が間違いなのかを自分の頭の中で整理しているようだな。新人や経験の少ないトレーナーは担当の子と一緒に悩み試行錯誤しながら一緒に成長するものだ。彼女にはその経験も足りないのだろう。

 でも、これから一緒に成長していけばいい。

 それはそうと、星野トレーナーも黙ったままだな。少し気になったので星野トレーナーの方を確認すると彼も一緒になって考え込んでいた。

 後半の部分が自分にも当てはまると思ったのだろう。

 

(悩み成長していくがいい若人よ……)

 

 二人が悩み始めて少し時間が過ぎた。

 席を外すタイミングを完全に逃してしまったが、ここまで来たのなら最後まで面倒を見ることにした。

 

「分かりました。今日のトレーニングの時にミークに目標を聞いてみます。そして、ミークの夢を叶えられるようにトレーニングメニューを考えてみます」

 

 今の桐生院トレーナーの様子を見るに半分成功したみたいだな。

 どんな素晴らしいトレーナーやトレーニング方法であろうと信頼が無くてはどうしようもない。最後にもう少しアドバイスでもしておくか。

 

「あとコミュニケーションも大事ですよ。担当の子のことだけではなく、自分のことも少し話してみてはどうですかね」

 

 俺がそう言うと桐生院トレーナーは、初めは「それは関係ないのでは?」と言った感じだったが理由を話すと納得してくれた。

 トレーナーからウマ娘への一方的な信頼。それはウマ娘にとって重荷になってしまう。

 だが、信頼できるトレーナーだとどうだろう? 一緒にトレーニングをしてきたトレーナーの言葉ほど自信に繋がるものはない。

 ウマ娘からの信頼はトレーナー自身を知ってもらうことだ。どんなものが好きだけども十分だ。それすらも分からないトレーナーを信頼なんてできるはずがない。

 横で話を聞いていた星野トレーナーも自分のことのように聞いていた。最後には二人して礼を言ってきてこの場を去っていった。

 

「さてと、俺も戻りますかね」

 

 気分転換に外へ出てきたはずだが、相談を受けることになるとは思っていなかった。

 まあ、後輩を育てるのも先輩の務めだと割り切ることにする。

 

「んで、何のために気分転換しに来たんだっけ?」

 

 本来の目的であった気分転換だが何のためにしに来たのかを忘れてしまった。

 それを思い出すのに放課後まで時間を使ってしまったが、自分の記憶力を過信した自分が悪いと戒めることになった。

 

 後日。今まで以上に会話をするようになった桐生院トレーナーとハッピーミークの姿を見たと風の噂で聞いた。

 俺のアドバイスのおかげと思うのはおこがましいだろうが、桐生院トレーナーが自身の考え方を変えたきっかけになれたのなら幸いだよ。

 




URAファイナルズのイベントをプレイヤーの代わりに桜が行っています。
この時点でファイナルズ決勝に近い実力になりました。すまない。星野トレーナー……。
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