ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ   作:文月~夢売り商人~

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怠惰な策士の実力は?

 本日は見事な快晴。絶好のレース日和なのだが問題が一つある。

 それは……。

 

「スカイ! そろそろ呼びに来ると思うからいい加減に目を覚ませ」

 

 そう! 今日はスカイのデビュー戦なのだがパドックでのお披露目を終え控室で係員が呼びに来るのを待っている間、スカイがウトウトし始めてしまった。

 緊張するよりはマシだと思い呼びに来るまで起こさないでおこうと思ったのがいけなかった。出走時間が近づいており、そろそろ呼びに来るんだがスカイが起きないことに焦っている俺はスカイの肩を掴み揺すって起こしているところだ。

 幸せそうな顔をして眠っているスカイには申し訳ないが、ゆっくり休むのは後にしてほしいものだ。

 

「熟睡しちゃってますね」

 

「寝る子は育つということでしょうか?」

 

「朝も起きるのが苦手ですからね……」

 

「セイちゃんはいつも寝ているよね♪」

 

 同室のローレルもどうしていいか分からない状態だ。どうすればいいんだよ!?

 あと、ウララ! 人が焦っている時に嬉しそうにしないの!

 そうこうしていると外が少し騒がしくなってきた。係員が呼びに来るのも時間の問題だ。どうしたらいいか悩んでいると、耳がピンっと立ち目を開くスカイ。それと同時に控室の戸がノックされ係員から声を掛けられた。

 目を覚ましてくれてよかったが、こっちは冷や冷やしたぞ。

 

「それじゃ、行ってきます♪」

 

 椅子から立ち上がり、そう言いながら悪戯っ子っぽく笑顔を見せて控室を出ていくスカイ。

 

「作戦会議できませんでしたね……」

 

「スカイさんなら大丈夫ですよ」

 

「チヨノオーさんの言うとおりだよ♪」

 

「そうです! ただ真っ直ぐ走ってくるだけです」

 

 俺の味方はローレルだけのようだな。

 バクシンオーよ。お前の言葉を素直に受け取るならカーブも無視して直進するだけになってしまうぞ。ただコースに沿って走るって意味で言ったんだよな?

 少し不安が残るがあとは成り行きに任せるしかないな。俺は不安を抱えながらも三人と一緒にスタンドへと向かった。

 

 スタンドへ着くと相も変わらず、すごい観客の数だ。

 デビュー戦の日だということもあり、どんなウマ娘がくるのか楽しみなのだろう。俺もその内の一人なのだがスカイの応援には命をかけている。自分の担当の子が負けると思っているトレーナーはいないだろ。

 

「今回、強敵になりそうなのは……」

 

 パドックで調子の良さそうな子を何人か目にしたが、その中でも5番のオクシデントフォーが本日の強敵となりそうだな。

 スカイもデビュー戦といえ本気で走ってくれるだろうから心配ないと思うが、相手の作戦にもよるな。

 

「さて……。スカイはどんな走りを見せてくれるかな」

 

 

 

1枠 1番 ブレイクチェイン

2枠 2番 アンチェンジング

3枠 3番 ブリーズブレーン

4枠 4番 トモエナゲ

5枠 5番 オクシデントフォー

6枠 6番 ブリーズエアシップ

7枠 7番 ボウアンドシールド

8枠 8番 セイウンスカイ

8枠 9番 ネクサスフォース

 

 

 

「晴れ渡る空のもと行われる。中山レース場。芝2000M、メイクデビュー。9人のウマ娘たちが挑みます」

 

 時間となりスカイのデビュー戦が始まる。

 時間ギリギリまでスカイは居眠りをしていたので作戦会議をできなかったのが痛いが、頭の切れる子だから何とかなるだろう。

 少し楽観視し過ぎな気もするがスカイを信じ見守ることにした。

 

「虎視眈々と上位を狙っています。三番人気は2番アンチェンジング」

 

 アンチェンジング。聞いた話だと力強い走りが売りらしい。後方からの追い込みが得意みたいだと沖野トレーナーが言っていたな……。

 と言うか、そういうのは何時調べているんだ?

 

「この評価は少し不満か? 二番人気はこの子、5番オクシデントフォー」

 

 今日のライバルとなりそうな子、オクシデントフォー。沖野トレーナー曰く、最終コーナーを抜けてからの加速力が凄まじかったと言っていた。本当に自分のチームの子をほったらかして敵情視察をしていることが多いトレーナーだよな。

 

「威風堂々とスタートを待つのはこのウマ娘。本日の一番人気セイウンスカイ!」

 

「気合十分! いい顔してますね!」

 

 スカイもゲートに入って出走準備が整ったな。デビュー戦とはいえ、どんな走りを見せてくれるか楽しみだ。

 それはそうと、信じられるかい解説さんよ。その子、さっきまで居眠りしていたんだよ。

 そんなことを思いながらスタートを待つ。

 

「各ウマ娘、ゲートに入って態勢が整いました」

 

<ガコンッ!!>

 

「今スタートが切られました。各ウマ娘、揃ってキレイなスタートを切りました!」

 

「これは位置取りが熾烈になりそうですね」

 

 出遅れずにいいスタートが切れたようだ。

 さてここからは位置取りが大切になってくるんだけどスカイは……。

 

「先行争いはセイウンスカイ。3番ブリーズブレーン、9番ネクサスフォース」

 

 とりあえずは先頭集団には入り込んでるみたいだな。走りから見ても逃げの作戦でいくみたいだ。

 スタミナが重要な作戦なんだが、トレーニング風景を思い返してもスタミナトレーニングを真面目に取り組んでいるところはあまり見たことが無い。

 

(俺の目の届かないところでトレーニングでもしていたか? それはそれで気を付けてもらいたいな)

 

 そんなことを思いながら、観戦を続ける。

 

「先頭集団を見ていきましょう。さあ、期待に応えて、セイウンスカイ! 逃げる逃げる、早くも先頭!」

 

 他の逃げの子たちと半バ身ほど離れたくらいなので油断はできないが、いい逃げっぷりだ。これは期待大だな。

 

「二番手の位置で先頭を窺うのは3番ブリーズブレーン!」

 

 その少し後ろにブリーズブレーン。この子も油断できないな。他にもネクサスフォースにトモエナゲが近くにいるのも気になるな。

 いつ先頭が入れ替わってもおかしくはない距離だ。

 

「第1コーナーから第2コーナーへ向かう。セイウンスカイ、快調に飛ばしていきます」

 

 俺の心配とは裏腹に快調に飛ばしているセイウンスカイ。後ろの子との差は1バ身以上は離し始めた。調子はかなり良いみたいだ。

 これなら安心して観ていられるな。

 

「さあ、ハナに立ったのはセイウンスカイ。このままリードする事ができるか? 続いて、3番ブリーズブレーン。1バ身離れて9番ネクサスフォース。そしてその内から行ったのは4番トモエナゲ」

 

 このあたりまでで、先頭集団を形成しているみたいだな。あとこう言っては何だが地味についてきているのがボウアンドシールド。

 スカイやブリーズブレーンのように飛ばしていないところを見るに、どうやら先行の位置取りの作戦のようだな。そこからどのくらい離されているか分からないが差し組、追い込み組が走っている。

 

「依然先頭はセイウンスカイ。先頭から大きく離されて二番手は、3番ブリーズブレーン!」

 

 実況の言葉で視線を先頭へと戻す。どうやら後方の方を確認している間に、スカイは4バ身程の差をつけていたようだ。

 

(スカイのヤツ。結構なペースで飛ばしているが大丈夫なのか?)

 

「スカイちゃん。かなりのハイペースだけど大丈夫でしょうか?」

 

 ローレルも俺と同じ心配をしていたようだ。

 ローレルが言う通りハイペースなのだがスカイにも何か考えがあってのハイペースなレース展開にしたんだろう。と信じることがもどかしい。

 

「スカイさん。本当に速いですね。見ていてドキドキしてきます」

 

「そうですね。私もいつかスカイちゃんと勝負してみたいです」

 

 バクシンオーとチヨノオーもレース展開を見て思い思いの感想を言ってくる。二人の気持ちも分からなくもない。こんなレース展開を見せられたら心配より興奮の方が勝ってしまう。

 

「三番手に9番ネクサスフォース。それを見るように追う4番トモエナゲ。五番手には7番ボウアンドシールド」

 

 先頭はスカイの一人旅。大きく離れて4人が団子状態になりスカイが疲れてくるのを窺っている様子だ。

 スカイのスタミナが持つならば安心して観ていられるのだが、何と言うかレースにおいてライバルたちを欺くのは作戦としてはいいが、トレーナーの俺まで欺いてどうするんだよ。せめて作戦会議ができていれば、こんな心配をしなくて済んだんだがといまさら言っても仕方ないよな。

 

「後方、1番ブレイクチェイン。外から外から! 2番アンチェンジング。そしてその内から行ったのは5番オクシデントフォー。殿は6番ブリーズエアシップ」

 

 後方にオクシデントフォーがいる。今日一番のライバルと思っていたが、このハイペースでは実力を出せないでいるのか? 他の子たちも実力は悪くは無いのだろうが、このハイペースではどうしようもないのだろう。

 

「向こう正面に入って先頭から殿までおよそ12バ身」

 

 実況が言うようにスカイからブリーズエアシップまでは、12バ身もの差がついている。これだけの差がついていると後ろの子たちは一苦労だろうな。早仕掛けをしないとまず勝てないだろう。だがそれは自分のペースを崩すことにもつながる。これもスカイの作戦の内か?

 

「先頭はあいかわらず、セイウンスカイ。大きく離され3番ブリーズブレーン。うしろ7番ボウアンドシールド。1バ身差9番ネクサスフォース。内には4番トモエナゲ。2バ身、3バ身開いて1番ブレイクチェイン」

 

 後方組がペースを上げ始め距離を詰め始めているな。中団と合流して団子状態になり始めた。

 

「外めをついて2番アンチェンジング。内をついて5番オクシデントフォー。そしてその外から行ったのは6番ブリーズエアシップ」

 

 オクシデントフォーも上がってきている。後方で脚を溜めていたが今から先頭を狙えるのか?

 自分の担当の子ではないが、今から先頭を狙えるのかドキドキし始めてきた。こういった見どころがあるからレースは面白いんだよな。

 

「意気揚々と先頭を行きます。セイウンスカイ! どうでしょう、この展開?」

 

「ちょっと掛かり気味かもしれないです。ひと息つけるといいですが」

 

 解説の言うように掛かり気味なのか、スカイの作戦なのかトレーナーの俺でも分からない。何度でも言おう今度こそ、きちんと作戦会議をしよう。

 

「セイウンスカイまだリードをキープしています。まもなく第4コーナーカーブ」

 

「ウマ娘たちがどう動くか目が離せません!」

 

 確かに目が離せない。こういう時はいつも思う。もう何個か目が欲しいと……。

 先頭も気になるが後方も気になる。どうせなら8個くらい欲しいほどだ。と余計なことを考えていないで観戦に集中しないとな。

 

「勝負は最後の直線に持ちこされた! まだ差がある。ここから先頭を捉える子は出てくるのか!」

 

 いよいよレースも佳境だ。そう思っているとスカイがスパートを掛け始め後方との差を大きく開き始めた。10バ身以上は離し始めている。これがスカイの本気なのか!?

 

「中山の直線は短いぞ! 後ろの子たちは間に合うのか?」

 

 他の子たちには申し訳ないがこれはもう間に合わないだろう。これはスカイの勝ちだな。

 確かに、実力はしっかりと見させてもらったよ。

 

「セイウンスカイ強い! 強すぎる! 完全に抜け出した! セイウンスカイ! これは決まったか! 後ろは大きく離れたぞ!」

 

 残り200Mを通過したスカイの勝利は揺るぎない。

 そして今、ゴール板を駆け抜けていった。

 

「セイウンスカイ! 強いとしか言えない走り! メイクデビューを制しました! 次のレースが今から楽しみです! 二着は2番アンチェンジング。三着は5番オクシデントフォー」

 

 何ということのないレース結果だ。スカイは後続と8バ身差で一着でゴール。観客だけではなく担当トレーナーである俺までドキドキさせる走りだった。

 まあ、ハラハラもさせられたが、そこは話し合っていくとしよう。

 なにはともあれ迎えに行きますか。

 地下バ道に着きスカイが戻ってくるのを待っていると、疲れからなのか眠いからなのか分からないが、フラフラしながら戻ってくるスカイの姿があった。

 ……レース疲れで眠いだけかもな。

 

「お疲れ様。スカイ」

 

「お疲れ様。セイちゃん♪」

 

「お疲れ様です!」

 

「お疲れ様。スカイちゃん」

 

「お疲れ様です。とても速かったですよ」

 

 それぞれ労いの言葉を掛ける。それに対してスカイらしいあっけらかんとした返事が返ってきた。

 

「いや~。どうもどうも」

 

 そう言いながら照れ隠しに手で口元を隠し、もう片方の手を上下に振った。

 大体の子はデビュー戦を終えると夢への第一歩目を白星で飾れたことを大いに喜ぶのだが、スカイは謙遜しているだけか、あっけらかんとしている。

 自分はこれくらい当然だという表れなのだろうか?

 この先のレースが楽しみだな。

 

「白星スタートは喜ばしいことだが、スカイはチヨノオー同様に喜んでばかりはいられないぞ。三冠を狙う子は多いからな。もう一つ出走して、皐月賞の前哨戦である弥生賞に出走してもらう」

 

 チヨノオーの時は出走しなかったが、今回は少し厄介な子が出走しそうだからな。

 

(普通のトレーナーなら無茶なローテは組まないだろうが、沖野トレーナーなら無茶をしそうだな……)

 

 スカイの夢……。三冠路線について考え込んでいると俺を呼ぶ大きな声が聞こえた。

 

「トレーナーさん!」

 

 声の主はチヨノオーだった。大声で呼ばれるまで気が付かない程、考え込んでいたようだ。

 俺は気が付くのが遅れたことを謝罪し用件を聞くことにした。

 

「スカイさんは前哨戦に出走するとのことですけど何か理由でも?」

 

 チヨノオーは自分の時には出走しなかった弥生賞にスカイが出走することが気になったようだった。

 

「いや。ちょっと気になることがあってな」

 

 俺がそう言うと、スカイは自分のことなのに我関せずといった様子だが他の子たちは気になるようだったので言葉を続けた。

 

「単なる思い過ごしなら良いんだが、スピカにちょっと気になる子が入ったかもしれないのが気になってな……」

 

「気になる子ですか?」

 

「ああ、ウララは一昨日、会ったことがある子だ」

 

 俺がそう言うとウララは少し考えこんだのちに口を開いた。

 

「スぺちゃんのこと?」

 

「まだ名前まで調べてないが一緒にリギルの入部テストを受けた子だな」

 

「それならスぺちゃんで間違いないよ」

 

 スぺちゃんか……。

 あとで沖野トレーナーに名前を聞いておこう。それはそうと5人は俺が気にしている理由を知りたがっているようなので理由を話した。

 

「さっきも話したがリギルの入部テストで上がり三ハロン。33秒08という立派な記録を出して沖野トレーナーが目を付けていたのが気になってな」

 

「沖野トレーナーですか?」

 

 ローレルが聞き返してくる。

 

「ああ、沖野トレーナーは性格に難はあるがトレーナーとしての腕は中々なものだと思う。その彼が目を付けた子だからな何かあると思ってな」

 

 俺がそう言うと4人の表情が少し曇ってしまったが、スカイは逆に嬉しそうな顔をしていた。

 

「トレーナーさんは心配性ですねぇ~。私はどんな相手でも負けませんよ」

 

 笑顔でそう言ってくるスカイ。

 何が起こるか分からないのがレースだが、本人はやる気と言うか負けん気が強いようだ。

 

「そうだな。バクシンオーも言っていたが今から心配していても仕方ないな。スカイ! 明日からトレーニングを少し強めに行うぞ」

 

「いやいや。もっと緩~くいきましょうよ」

 

 俺の言葉に普段通りだらけた感じで返事をする。これがスカイの持ち味なので、きつく言い聞かせるのも憚れるので何も言わないでおく。

 

「他のみんなも怪我無くトレーニングを行うようにな。特にチヨノオーは次のレースが近いから十分に気を付けるようにな」

 

「「「はい!(は~い♪)」」」

 

 チヨノオーは次のレースは天皇賞・秋だ。ウララも来月にはデビューをさせてあげたいからな。

 暫く休む暇がなさそうだ。

 

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