ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ 作:文月~夢売り商人~
秋も終わりに近づいた今日この頃。本日はトレーニング日和である。
昨日。スペシャルウィークが転入してから1週間程しか経っていないにも関わらず出走した。沖野トレーナーが何を考えているのか分からないが無理があったのではないかと思ったがゴールまで残り200Mくらいでクイーンベレーの反則スレスレ、体当たりを見事に躱し一着でゴール。
レースを観に行ったが走り出しこそ少し出遅れてしまったが、早い段階で五番手まで上がっていった上にクイーンベレーの蹴り上げた土を躱すなど見せてくれた。リギルの入部テストで見た時には、何もかも初めてと言った感じだったが、それを忘れさせる程のスパートを掛けるタイミングにコース取りは目を見張るものがあった。
まあ、ウイニングライブは棒立ちでダメダメだったけどな。
それを差し引いても良いレースだった。
「人のことは言えないが、沖野トレーナーも大概だな。入学したばかりか、トレーニングを始めたばかりの子を出走させるなんてな……」
「スピカのトレーナーさんも思い切ったことをしますね」
「編入して間もない子を出走させるなんて大丈夫だったんでしょうか?」
「でも、スペちゃん。ゴールした時、凄く嬉しそうだったよね」
今、チームルームにはチヨノオーとローレル、ウララがいる。バクシンオーは委員長の仕事で少し遅れるとの連絡がきた。スカイは釣りがしたいと釣り堀に行った。
本当ならスカイには同じ時期にデビューした子のレースを観て感化され、少しはやる気を出してほしいところだが、こればかりは本人の性格もあり強要できるものではないし、するつもりもない。
「それじゃ、時間も勿体ないしトレーニングを始めるぞ」
バクシンオーが来るのを待っても良かったが、いつ来るか分からないので、今いるメンバーでトレーニングを始めることにした。
できることなら、ウララも今年中にデビューをさせてやりたい。
先の話のスペシャルウィークと違い、ウララは自主トレをしていたとのことなので、2週間程のトレーニングで十分なはずだ。
あとは天候次第だな。雪が降る前じゃないと、キツいレースになるだろうから、今から出走登録もしておかないとな。
「それでは、頑張りましょう」
チヨノオーの掛け声に、ローレルとウララが返事を返し一斉にチームルームを出て行った。元気なのは良いことだが怪我だけには注意してもらいたい。と思いながら俺も後を追った。
それから、30分程して委員長の仕事を終えたバクシンオーが合流しトレーニングを始めた。
一時間程で基礎トレーニングを終え、自主トレに入った。
ウララ以外の三人は自分の足りない部分を補うため自身が考えたトレーニング方法を行っている。キチンと相談した上でのトレーニング方法なので少しばかり見ていなくても大丈夫だ。
その間、俺はウララの自主トレに付き合う。
ここ数日。トレーニング風景を見ていたが、どうもウララは芝……。ターフは走りにくそうにしていた。
リギルの入部テストの時でもそうだったが、脚を取られるように走っていたのでダートコースでのトレーニングを勧めてみた。
「やってみるね」
そう屈託のない笑顔で言って自主トレを始めた。まずは軽めにと注意を促し練習風景を見守った。
ダートで駆けるウララはターフで走るよりは、走りやすそうにしていた。スタート位置の反対側まで駆けたところで自分でも走りやすいことに気がついたのだろう。
俺の方を見て手を振ってきた。
(頼むから集中してくれ……)
内心でそう思いながらも、俺は小さく手を振り返した。
一周を走り終えたウララは俺の方に駆け寄ってきて感想を言ってきた。
「あのね。凄く走りやすくてね。なんかね……」
少し興奮した様子でまくし立てるように話すウララ。
落ち着くように言って、タイムを確認した。ストップウォッチは約3分で止まっていた。
トレセン学園のコースは一周、東京レース場と同じくらいだったはずだ。現在、2000Mのレコードは約ニ分。それと比べると、かなりの遅れがある。
マイル、中距離では対等に競い合うのは無理だろうと判断し短距離路線のトレーニングを考えることにした。
そのことをウララに伝えると……。
「分かった。ウララ、頑張るね」
そう笑顔で返してきた。本当はマイルや中距離だけではなく長距離も走りたいのでは? と考えてしまい。胸を締め付けられる思いだ。
バクシンオーと同じように年に数回は距離適性を無視して出走させてあげたいが、少しばかりキツいだろうな。
ウララの本心は分からないが悲しませないと胸に誓い、校外ランニングをする体力は残しておくように伝え、本人が満足するまで走らせてやった。
日が落ち始めた頃。四人の自主トレも終わり、本日のトレーニングも残すは校外ランニングだけとなり校門へ向かった。
校門に着くと夕日を背に大小の二つの影が、こちらに向かってくるのが見えた。影から見るに一人は、どうやらウマ娘のようだ。
二人が近付くにつれ、はっきりと姿が見え始めた。
ウマ娘の方は、かなり小柄で140cm位か?
とにかく。ニシノフラワーやダイイチルビーと同じくらいの身長。黒髪のセミロングで特徴的な細い流星も見られるが、少しくたびれた服を着ていたのが独特と言うか印象的だった。
隣を歩くのは、担当トレーナーだろうか? 少し疲れた様子だが、黒髪に短髪。顎髭を生やした少しガタイのいい男性だ。右目に眼帯をしているのが特徴的だな。こっちも少しくたびれてはいたが、今時のカジュアル? 的な服を着ていた。
二人は何か会話しながら歩いていたが、残り5m程まで近づいた時に驚いた。
違うのだ。この二人は明らかに何かが違う。
何が違うのかと言うと、上手く伝わらないかもしれないが、画風が違うのだ。俺たちが写実的? リアル? 2.5次元? だと例えるなら彼、彼女らは劇画風だったのだ。
何があったら、あそこまでタッチ? 雰囲気が変わるのかは謎だが恐ろしい片鱗を見た感じだ。
二人が近付いたので会話の内容が耳に入ってきた。普段は気にせず右から左へなのだが、第一印象のインパクトが凄まじかったので耳に入ってしまった。
「ステゴよ。やっぱり、あそこで右はなかったんじゃないか?」
何やら何処かへ散歩に行っていたようだ。気ままな散歩で、どちらに行くかで決めた道が遠回りだったみたいだ。
「そうは言うが、最終的にはアンタも納得して付いてきたんだろ?」
ステゴと呼ばれた子が主導の散歩だったようで帰り道のことで少し言い合っている。
まあ、こういったこともコミュニケーションの一つだから悪いことではないと思ったが、男性トレーナーの次の言葉で耳を疑った。
「だからってな、春先に行って帰りは秋の終わりって、どういうことよ。せめて1ヶ月ないし3ヶ月以内には帰りたいんだが?」
春に行って秋の終わりに帰ってくる散歩なんてないよ! と言うか、去年。俺が来た時に、このトレーナーはいたか!?
記憶にないぞ。いなかったとしたら1年以上、外に出ていたことになるぞ。それは最早、散歩じゃない。旅だよ!
そう思っていると男性トレーナーから声を掛けられた。正直、劇画風の人物と会話するのは初めてだったので心配だったが杞憂だったようだ。
「お久しぶりです。桜トレーナー」
向こうは俺のことを知っているようで、久しぶりときた。良かった。あの時はいたようだ。オマケに雰囲気が劇画風から戻った感じがする。
安堵した俺はどう返そうか迷っていると……。
「ああ、こうやって話すのは初めてでしたね。改めて、ステゴ……。『ステイゴールド』の担当をしている『
望月と名乗り、手を差し出してくる男性とステイゴールドと呼ばれたウマ娘。
俺も改めましてと差し出された手を握る。少し……。いや、かなり気になったので今まで何処に行っていたのかを尋ねた。
「コイツの放浪癖は今に始まったことじゃないんですけどね。少し目を離すとフラフラ〜と、何処かに行ってしまうんですよ」
なるほど。担当としては何処に行くのかわからないから心配でついて歩いてると……。
「そして今回はあっちこっち寄り道しながら、日本海に沿って山口県の下関まで行って、そこから太平洋側に沿って戻って来たって感じですかね」
どれだけ旅が好きなんだよ! しかも今年の春に出発して秋の終わりに帰ってくるって、約半年だぞ! 約半年の期間と考えると徒歩だよな? 俺だったら諦めて別の移動手段を提案して寄り道もしないぞ!
なんだ? ステイゴールドへの愛か? どんだけ凄い愛なんだよ? 尊敬を通り越して恐怖を覚えるよ!
このトレーナーは担当のためなら何でもする気か?
「決められた道を進むのは好きじゃないからね。敷かれたレールを走るのは嫌いなだけさ……。まあ、どうしようもないこともあるけどね」
何やら意味深なことを言うステイゴールド。彼女の言葉が気になったので、どういう意味なのかと聞き返してみた。
「言ったままさ……。アンタにも決められた定めがあるってことさ」
それだけ言うとステイゴールドは学園内へと入っていった。
意味がわからないといった俺に望月トレーナーが付け加えてきた。
「アイツ。時折、あんなこと言いますけど、ちょっと理由がありまして……」
望月トレーナーから俄かに信じがたい話を聞かされた。
別世界の自分。別世界のステイゴールドの話。望月トレーナーは、その話を聞かされる前に何か不思議な感覚……。見たことも聞いたこともない記憶が頭に浮かんでくる感覚があったらしい。
ステイゴールドの話を聞いて、妙に納得できたことで思い切って担当の話をしたところ、大笑いし面白そうだ。嵐が待つ、先の見えない未知の旅路だ。との返事があり一緒に蹄跡を残すことを誓ってくれたそうだ。
俺自身の身に起こった現象よりもありえない話を聞いた俺は少し興味がわいた。ステイゴールドの言うことが本当なら、トレセン学園に在籍する者だけでなく、レースの道へ進まなかった者もいる世界なのだろうか?
(そういった世界も見てみたいな……)
話もそこそこに望月トレーナーは、今回の旅の口実を考えると言ってチームルームがある方へと向かっていった。
学園側でも学業へ支障が出る程で、ステイゴールドの放浪癖を懸念しているとのこと。窓口が望月トレーナーになっているので、言い訳を考えるといったところだろう。ご苦労なことだ。
チームルームに向かう望月トレーナーを見送り、本来の目的だった校外ランニングを始める。
チームメンバーと一緒に走りながら、ステイゴールドの言う、別世界の子たちがどんな走りを見せてくれるのか正直に言って興味がある。
望月トレーナーの話では姿も違い。言葉も話さないとのことだが、それでも一度は見てみたい。
そんなことを胸に今日も一日が終えようとしていた。