ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ 作:文月~夢売り商人~
トレセン学園に来て早二ヶ月。
そろそろ、あの子たちのデビュー戦を決めないといけない時期だ。基礎トレーニングも、十分にこなせているし、俺の考えた追加トレーニングも最初の目標は簡単にクリアできるまで仕上がっている。
ローレルも最近ではプールだけじゃなく、グラウンドでのトレーニングを申し出てくるくらいには丈夫さを付けてきた。一度、改めて夢を聞いてみないとな。
そんなことを考えながらグラウンドを走っている、三人を見つめた。
「夢ですか?」
トレーニングを早めに切り上げ、チームルームで今後のことを話し合う時間を作った。
そして、先ほど考えていたことを質問してみた。
「はい!」
元気よく手を挙げたのは、バクシンオーだったが彼女の場合は聞かなくても分かる。無理なものは無理だが別の案なら出せる。
「バクシンオーは、聞かなくても分かる。全てのレースに出るだろ?」
俺がそう告げると驚いた表情をした。担当になった時から言い続けているから丸分かりだ。
でも、何度でも言うが全てのレースに出走するのは無理だ。仮にできたとしても無理がたたり、途中で大怪我をして二度と走れなくなってしまう。
なので、彼女の中でどうしても出走したい。このレースだけは外せないというものを、まずは選んでもらう。これに関しては距離適性も省くことにした。
【国際招待】のジャパンCや【夢の舞台】有馬記念に出走したい子は多い。そのために距離適性は考えないことにした。これなら全てのレースは無理でも、適性のない中距離や長距離も視野に入ってくる。
そのことを伝えると、バクシンオーは頭を抱えて悩み始めた。全レースが夢なだけあって、絞ることが難しいようだ。
「私の夢は凱旋門賞です」
【世界】の凱旋門賞。フランスはパリ。ロンシャン競馬場で行われる、ヨーロッパ最大レースの一つ。向こうのことはよく覚えていないが、60年ほど前に『ソヌールエノワール』が圧倒的な速さで一着を獲っていたな。かなり厳しい夢だが応援してあげたいな。
「私は憧れの人に追いつきたいです」
目標にしているウマ娘がいるのはいいことだ。そのウマ娘に勝つにはどうしたらいいのかと、いろいろと考えなくてはいけない。
どういったレース運びにすれば有利に戦えるのか、自分が勝つには足りない部分をどう補えばいいのかなど。本当にいろいろと考えなくてはならない。
「因みに、その憧れの人の名前を聞いても?」
俺が質問すると意を決して、頷き口を開いた。
「マルゼンスキーさんです」
マルゼンスキー。【スーパーカー】の異名を持つ、怪物と呼ばれる一人だ。
全てを置きざりにする走りは圧巻の一言に尽きる。一緒に走ったウマ娘は自信を失うほどの走りらしい。そんなマルゼンスキーに憧れ追いつきたいと願うチヨノオー。
うん。こっちも応援したい。
二人の夢を叶えるためには、トレーニング量やレース経験が必要になってくる。ちょいと休んでる暇がないかな?
そう思っていると、ひと際元気な声が聞こえてきた。
「決めました! 先ずは、スプリンターズステークスを目標にします!」
バクシンオーが真っ直ぐ腕を伸ばし天を突かんばかりに手を挙げている。
うん。挙手制にした覚えはないんだけど元気なのはいいことだ。
「長距離でも年に2回くらいまでなら問題はないけど?」
長距離を選んでも問題ないことを伝えると、バクシンオーは首を横に振った。
「トレーナーは私のことを思いアドバイスをしてくれました。その思いを大切にしたいと思います! 私は短距離路線で行きます!」
いい心掛けだ。短距離なら敵なしになる可能性は、十二分に秘めているからな。
短距離ならスピードメインのトレーニングに絞るべきだな。あとは可能なら並走トレーニングで位置取りの感覚をつかんでおきたい。これは別のチームに協力を申し出ないといけないな。チヨノオーはスピードに加えスタミナ、どこまでも食らいついていく根性も必要だな。ローレルに関してはジャパンカップを目標に、世界でも戦える自信と実力をつけさせるのが当面の目標だな。
「それじゃ。その夢を叶える手助けのために新しいトレーニングメニューを作成、提案させてもらうかな」
「「「お願いします!」」」
俺の言葉に三人は頭を下げた。本当ならお互いに良いところ悪いところを話し合い、それをトレーニングに組み込んでもらいたいが彼女たちには、まだ早いようだ。
いずれは出来るようになってもらいたいけどな。そう思い今日は解散しようとした所にノックの音が聞こえ外から声が聞こえてきた。
「桜トレーナーさん。トレーナーさん宛に荷物がたくさん届いてますよ」
駿川さんだな。今の俺に届く荷物といえばファームから送るように頼んでいた荷物だな。俺は外に聞こえるように返事を返すと、守衛室に置いてあるとのことだったので、三人に協力をお願いしチームルームへ運び込むことにした。
三人とも優しい子たちで快く引き受けてくれた。
守衛室の中に入ると、二十個ほどの段ボールが積まれていて、守衛さんも少し困った顔をしていた。荷物が届くなら、一言くらい連絡が欲しかったとも言われた。そんな守衛さんに謝罪し、何回か往復して荷物を全て運んだ。
「背表紙に名前が書いてあるから、五十音順にしておいてくれ」
届いた荷物は俺が担当してきたウマ娘のトレーニングメニューや長所に短所。レースのバ場状態の良し悪しでの結果など、様々なことを記入したノートとVHSなどが入っていた。
彼女たちは言われたとおりに、五十音に並べたり棚にしまったりと、すすんでやってくれている。荷ほどきの最中で地味にショックだったこともあった。
「トレーナーさん。この長方形の物って何ですか?」
チヨノオーが持っているのはVHS。いわゆる、ビデオテープだ。そのことを伝えると、傍にいた二人も一緒になり首を傾げていた。
「トレーナー。VHSって、何ですか?」
「えっ……?」
これがジェネレーションギャップというものなのだろうか。
それだからなのか、まだ中身を確認してはいなかったがDVDも入っていたということは、VHSをわざわざダビングして一緒に送ってくれたのだろう。
少し説明などで時間が取られ辺りが薄暗くなったが、半分しか終わっていなかった。寮の門限もあるので今日はここまでにして解散とした。
翌朝。
トレーナー室には向かわずに昨日の続きをした。懐かしい名前の思い出にふけながら荷物整理を進めていく。『ミントドロップ』に『ワルツステップ』、『エーネアス』。
夢を叶えた子もいれば夢やぶれ別の夢を目指した子に挫折した子など、いろんな子たちがいたな。
時折、手を止めノートに目を通していると、いつの間にか授業終わりの時間が過ぎていたようで三人がチームルームにやってきた。
やる気満々の三人には悪いが新しいメニューがまだできていないことを謝り、昨日までと同じメニューをこなしてもらうことにした。三人がトレーニングをしている間に全部終わらせないとな。
そう思いながら整理を再開した。
「やっと終わったな……」
17時過ぎになってようやく整理が終わった。首を鳴らしコリをほぐしながら椅子に座る。
「この時間ならロードワークに行ってる頃かな……」
スマホを確認しながら呟く。連絡は無いから何事もないだろうと思い、小腹をすかせて戻ってくる彼女たちのために何か買ってくるかな。
夕食前だから腹にたまりすぎない物がいいだろうと、何がいいか考えた結果。この辺りで話題のスイーツの店で買うことにした。
「この辺りだったはずだけど」
トレセン学園周辺の地理を、だいぶ覚えたが店舗などの詳しい場所までは覚えきれていない。大体の場所は聞いていたが、目的の場所を探すのも一苦労だ。
少し探し回ったが目的の場所をやっと見つけた。通りに面した所は大きなガラス張りになっており店内の様子が窺えるようになっていた。中には女性客やトレセン学園の生徒が多かった。男性客は殆どいないようだったが、俺は気にせず店内へ入った。
店員の入店の挨拶を聞きながら、ディスプレイカウンターを覗いた。ウマ娘がいることや時間も時間なので商品は半分ほど売れてしまっているが、それでも種類は豊富だった。
俺は無難に苺のショートケーキを自分の分も含め四個注文した。
商品を受け取り帰ろうとした時。店に来ていたウマ娘たちがある一角をみて、少し恍惚な表情をしていたのが少し気になったので彼女たちの視線の先を見てみると、優雅なお茶会をしているウマ娘たちがいた。
「あれは確か……」
紫がかった芦毛のロングヘアーで右耳にはシンプルな緑のリボンを付けている品格のある子と、前髪から後頭部まで伸びる大きな白いメッシュと焦茶色のベリーショートの髪型が特徴的で元気がありそうな子に、鹿毛のロングヘアー左耳に緑色の耳飾りをつけているクールビューティーそうな子が静かにお茶会をしていた。
「【メジロ家】のご令嬢。『メジロマックイーン』に『メジロライアン』、『メジロドーベル』だな」
確かに注目の的になるだろうが、それはそれで大変そうだな。
そう思いながら店を出た。
チームルームに戻りお茶の準備をしはじめた頃に彼女たちが戻ってきた。疲れた顔をしていたがケーキを買ってきたことを伝えると、一気に笑顔になった。喜んでもらえて何よりだ。
そう思いながら今日も一日が終わりを迎えた。
原作では知らないけど、この作品では守衛室や守衛さんが居ます。
トレセン学園って分類上は女子高だよね。なら守衛が居るくらい普通だよね、と言う理由です。