ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ 作:文月~夢売り商人~
「実力はついてきてはいるんだがな……」
トレーニングの様子やタイム計測ではどこもおかしくはないし、タイムもそれなりに良いタイムが出せてはいるが、それはチームでのトレーニングだけで見た場合だ。
最低でも六人での模擬レースをさせてやりたいが、人数がいないのでは、どうにもならない。だからと言って俺が不安そうな顔をすれば彼女たちは、心配になるだろう。
そう思い悩みながら彼女たちのトレーニング風景を眺め今日も一日が終わった。
その日の夜。俺はお独り様でBARに来ていた。俺が入るとマスターに年齢確認を要求された。国から出されている身分証明書を見せると少し首を傾げていたが、説明をすると電話で確認し納得したのだろう店内へ通してくれた。
まあ、数百年も生きていて見た目が若いままだと言われても、頭の中が痛い奴だと思われる。俺は椅子に座るとカルーアミルクを頼んだ。
注文したものは直ぐに来た。一口飲んで日中のことを悩んでいると、一人の客が入ってきて俺の横に腰を下ろした。
「ウィスキーを……」
横目で確認すると棒付きキャンディーを咥え、人差し指を立ててなぜか決め顔で注文をする沖野トレーナーの姿があった。
どうでもいいんだけど。その決め顔は何か腹立たしいからやめてもらいたいものだ。無視しようと思ったが向こうから声を掛けてきた。
「どうしたの? なんか悩み?」
独りで悩んでいても仕方ないことは自分でも分かっている。わがままを言ってられないので、俺は沖野トレーナーに悩みを打ち明けた。
「なるほどね。ならウチの奴らとどうだ?」
模擬レースができるのは願ってもないことだが、会って間もないし、親しい間柄でもないトレーナーのチームのことなのに、なぜそこまでしてくれるかを尋ねた。すると多少不満はあるが納得できる答えが返ってきた。
「年下後輩の面倒を見るのも先輩トレーナーの役目だからな」
ウィンクしながら、サムズアップしてくる沖野トレーナーに怒りを覚えたが、協力を願い出ると同時に訂正しておこうと思い証明書を見せた。
最初は「なになに?」といった感じで見てきたが、確認してすぐに驚愕の表情を見せた。開いた口から棒付きキャンディーを落としていた。マスターは経験済みなので、そんな沖野トレーナーの様子を気にせずに自分の仕事をしていた。
この調子だと生徒はともかく、全職員には早急に伝えたほうがいいな。そう思い今度は自分の名前が入っている桜マティーニを注文した。
余談だが支払いの際になぜか金欠だということだったので、沖野トレーナーの分も俺が支払うことになった。
まあ、協力をお願いした身なので、これくらいの支払いなら安い物だと思っておこう。
翌日。今日は授業は無い日なので、朝からトレーニングをしているチームやウマ娘たちがいた。
自分のチームには、LANEで今日は模擬レースをすることを連絡し集合時間を伝えている。ゆっくりできる時間も作ったつもりだったが、既に一人来ていた。
「おはようございます!」
「うん。おはよう。バクシンオー」
今日も元気なバクシンオー。模擬とはいえレースなので楽しみで仕方ないといった様子だ。とりあえず落ち着かせて、ウォームアップさせておく。
バクシンオーがウォームアップを始めた頃に沖野トレーナーがやってきた。
「よう。早いな」
俺は先に来てバ場状態の確認をしたかっただけだ。軽く挨拶をすませて時間が来るのを待った。
集合時間が近づくにつれてスピカのメンバーも集まってきた。チヨノオーとローレルも来たのでウォームアップをするように指示を出し、ゴールドシップ、ウオッカ、ダイワスカーレットには協力のお礼を伝えた。
「ゴールドシップにウオッカ、ダイワスカーレット。今日は休みなのに悪いな。終わったら何か奢るよ。沖野トレーナーが許可してくれたらだけどな」
奢るの言葉に耳をピンっと立てて勢いよく振り向き俺のほうを見てきた。
「本当ですか!?」
「やったぜ!」
「ラッキ~♪」
三者三様の反応を見せるが、沖野トレーナーが許してくれたらなと再度伝える。トレーナーによっては食事制限もしているから、まずは担当トレーナーの許可が必要だ。それを聞くと三人とも沖野トレーナーのほうを見てすがるようにお願いをしていた。
沖野トレーナーも今まで見たことがない顔だと言わんばかりに引き気味になりながら許可を出していた。
全員がウォームアップを終えたので内容を説明。普段の基礎トレーニングより少し短い中距離寄りのマイル距離1800mの左回り。模擬レースなので勿論、実戦形式で走ってもらう。作戦は本人に任せることになっている。
クジを引いてもらい枠順を決める。
その結果。1枠ウオッカ、2枠ゴールドシップ、3枠サクラバクシンオー、4枠ダイワスカーレット、5枠サクラローレル、6枠サクラチヨノオーの順番になった。
スピカの三人の走りを見たことはないから、何とも言えないが実力は拮抗しているだろう。このレースで今の自分の実力を知ってもらいたい。
「ローレルとチヨノオーは外枠か……」
外枠不利と言われるが、そんなことはないと思っている。序盤は埋もれることもなく自分のペースで走れる点、例え先行でもレース展開を確認しながら前を主張できる点がメリット。
デメリットは最初のコーナー。内に切り込まないと大きな距離のロスとなる。内枠は逆で最初のコーナーでは内に切り込む必要がないが、前が詰まるとバ群に埋もれてしまい抜け出すのに苦労する。
全員が位置につき準備ができたようだった。こちらもスタートの合図を出す準備を始める。
(さてさて、何人がうまく反応できるか楽しみだ)
そう思い外付けスピーカーをスマホと接続し音を流す。
<ガコンッ!!>
俺が流したのはゲートの開く音。六人は反応が少し遅れバラつきがあるものの、何とかスタートを切ることが出来た。
「へぇ~……」
沖野トレーナーも感心したような声を上げた。知り合いのファームにいるトレーナーが考案した模擬レースのスタート方法だ。実際のレースでのスタートも良くなるという利点があるので、俺も採用させてもらっている。
実際スタートが苦手だった子が、この方法でスタートが上手くなった前例がある。
「さてと……」
先頭争いをしているのは、ダイワスカーレットにバクシンオーとチヨノオーだな。ウオッカとローレルは差しの位置づけだな。ゴールドシップは少し下がり追い込み狙いか……。
先頭争いに勝利し最初に第二コーナーに入ったのは、バクシンオーだった。先行と言うより少し逃げ気味になっているな。それを見てチヨノオーとダイワスカーレットはペースを変えず先行の位置をキープしている。
バクシンオーのペースを見てウオッカは焦ったのか、少し前と距離を詰めてきたな。ローレルは自分のペースで走れている。ゴールドシップは前が疲れるのを虎視眈々と狙っているようだ。
スタートしてすぐの第二コーナーを曲がった後の直線。先頭はバクシンオーだ。完全に逃げのペースになっている。先行の二人とは3バ身ほどかな? それ位は離れているな。先行組は離されないようにと、少しペースを上げている。
差し組も少し詰めてきている感じだな。1バ身半くらいの位置にいる。ゴールドシップは、さらに離され バクシンオーとは5バ身くらいか……。
「サクラバクシンオー……。初めは先行かと思ったが、逃げに入ってるみたいだな」
「まあ、バクシンオーは何事も猪突猛進だからね」
模擬レースの展開を見ながら俺と沖野トレーナーは、そんな会話をしていた。おそらくバクシンオーは、スパート直前でバテるだろう。そう思いつつレースを見ていると、そろそろ第三コーナーは入る。
第三コーナーでもバクシンオーが先頭だ。そのまま最終コーナーへ差し掛かるが、ペースが落ちてきた。それを見て先行組が、さらに距離を詰めてきて差が1バ身。差し組が先頭とは2バ身。 ゴールドシップも徐々に詰めてきて、先頭と4バ身差になっていた。
ゴールまで残り約500mなので、そろそろスパートを掛けたほうがいいんだけど……。
「誰が来ると思う?」
「このままいくとチヨノオーかダイワスカーレットかな」
最終コーナーを抜ける直前。最後の力を振り絞りバクシンオーがスパートを掛けたが、殆どスピードが乗ってない。最初に飛ばし過ぎた結果だ。
そこをチヨノオーとダイワスカーレットが、スパートを掛けて抜き去っていく。ウオッカが少し早いタイミングで、スパートを掛けており同じく抜き去り先頭争いに参加していた。
逆にゴールドシップは、一気にごぼう抜きを狙っていたようで、遅れてスパートを掛けていた。
全員がスパートを掛け残り200m。先頭はダイワスカーレットとウオッカの二人になった。チヨノオーは、2分の1バ身ほど遅れていた。
ローレルも上がってきてはいるが、間に合わなそうだな。ゴールドシップもローレルと並んでいる。バクシンオーは残念だが完全にスタミナ切れで根性で走っているようなものだ。
そして先頭がゴールした。結果は……。
「やったわ! 私の勝ちね♪」
「くそっ!」
一着はダイワスカーレット、二着はウオッカ、三着にチヨノオー、四着はゴールドシップ、僅差で五着ローレルで六着バクシンオー。良い経験になったのではないかと思う。
俺は走り終わった彼女たちに近づき労いの言葉を送り、約束どおり奢ることにしたので、何が良いか尋ねるとスイーツがいいとのことだったので、一昨日行った店に全員で向かった。
沖野トレーナーは遠慮して来なかったけどな。
今後の課題も分かった充実した良い一日だったので、今日は何も言わず好きに食べてもらう……。体型を戻すために明日は思いっきり体を動かしてもらうことになるが黙っておこう。