ウマ娘プリティーダービ- クラウンガールズ 作:文月~夢売り商人~
模擬レースの翌日。俺はトレーナー室で今後の予定を組み直していた。レーストレーニングに集中しすぎて肝心なトレーニングを忘れていたので、メイクデビューまでの日程を少し変えなければいけなかった。
「今日はアレで、明日は少し軽めにして……」
自分のミスだから誰にも文句は言えない。俺は黙々と日程を修正していき気がつけば放課後となっていた。急ぎLANEで連絡を取り、今日のトレーニング場所を伝えて俺自身もその場所に向かった。
「っと言うわけで、今日はウイニングライブの練習をする」
三人は少し不思議そうな顔をしていた。
まあ、普通は専任のトレーナーが教えることになっているが、今日は時間が取れずに俺が指導することになった。俺が教えるので三人が今の状態なのは理解しているが、こう見えてダンスレッスンも、ある程度なら指導できる。トレーナーとして教えれることは多いほうがいい。
動き方の資料を手渡して、30分ほど映像を見ながら動きを覚えてもらう。その後、俺が鏡に向かい横一列に並ぶように言うと、三人はそれに従い整列をした。
「一節ずつ練習するぞ。初めから上手く踊ろうとしなくていいから動きを覚えることを優先な」
曲目は『ENDLESS DREAM』。
ゆったりとした動きで覚えやすい曲だ。所々、曲に合わせた覚えやすい動きもあるので今からでも十分に間に合う……はずだ……。
俺は、三人の立ち位置より少し前に出て鏡に向かい曲を流した。
まずは、ゆったりとした動きで左手を水平に右から左へ。その後、右手は中央付近から弧を描くように右へ。俺の動きに合わせて三人は少し遅れながら動きを真似していく。
そして、一節終わったところで曲を一旦止めて頭出しを行う。全体を一度に覚えるのは無理なので、本当にゆっくりと一節ずつ覚えてもらうことを再度、伝えて最初から始める。
何度か踊っているうちに動きを覚えてきて、少々拙いながらも動きを合わせて踊れるようにはなったので、小休止することにした。
「大分、覚えてきたな」
俺がそう言うと三人は嬉しそうにしていたが、まだ一節だ。しかも、センターの動きだけだ。ライトとレフトの動きもこの後に控えているが、今はそのことは伝えないでおこう。小休止を終え次の動きを覚えてもらう。
三人は一生懸命に練習し、ぎこちなさが残るも通しで動きを覚えることができた。明日はトレーニングを軽めにして、ダンスレッスンもする予定だ。ダンストレーナーに連絡してライトとレフトの練習もしないとな。そう思い今日は解散にした。
翌日も放課後となり基礎トレーニングを行う。その後は、ダンスレッスンで今日は専任トレーナーが来て教えてくれている。
やはり専門家だ。ピンポイントでの指摘もあり、1時間ほど練習でOKをもらえるまでに上手くなった。続いてライトの練習。
先にセンターの動きだけ練習していることを伝えていたので、ライトの動きは俺と同じくゆっくりとしたペースで教えてくれた。
昨日はトレーニングを止め一日中ダンスレッスンをしていたので全部覚えきれたが、今日は基礎トレーニングもしているので半分ほどしか覚えれなかった。
ダンスレッスンを初めて、二週間が経ったと六月中旬。ダンスも十分に踊れるようになったので、いよいよデビューが目前になっていた。すでに出走登録は済ませてあるので、あとは当日を待つだけなのだが……。
翌日の朝。俺がトレーナー室でデビュー後のメニューを考えていると氷川トレーナーもノートパソコンに向かいキーボードを叩いている。最近になってトレーニングメニューを考えるという課題を出されたとのことだ。
真面目な性格のようで夜遅くまで考えぬいているが、いまだにOKが出ないようだ。寝る間も惜しんでいるせいで目の下に隈ができている。デスクの上に数本の栄養ドリンクの空き瓶がのっていた。
「氷川トレーナー。根を詰め過ぎるのもよくないですよ」
「分かってはいるんですが、せっかく頂いたチャンスなので……」
そう言って手を止めずキーボードを叩き続ける。このままじゃ倒れてしまう。そう思い無理やりにでも休ませることにした。
「氷川トレーナー!」
俺は怒鳴るような声で氷川トレーナーの名前を呼び、彼女の腕を掴んだ。腕を掴まれた氷川トレーナーは俺のほうを見たのだが、その顔は疲れ切っていて女性に対して言うのも憚られるが酷い顔だった。
「な、何ですか?」
氷川トレーナーも俺が怒鳴ったので困惑したようすだ。
俺は気晴らしに行くことを提案したが、氷川トレーナーは頑なに聞こうとしなかった。彼女の気持ちは分からなくはないが、倒れてはメイントレーナーに迷惑をかけること、チームの皆に心配をさせること、今の状態じゃ良い案も浮かばないことなどを伝えた。
その結果。「分かりました……」と折れてくれた。
俺は氷川トレーナーを連れて小洒落たカフェに来ていた。モーニングセットを2人分注文し氷川トレーナーの悩みを聞くことにした。
先輩トレーナーは氷川トレーナーに、一人担当を任せようと考えているようで、その子に対するトレーニングメニューを考えるように言われたようだ。そう言われたら嫌でもやる気は出るな。氷川トレーナーの場合は空回りしているようだが……。
「難しく考えることは無いと思いますよ。まずは夢を叶える為の目標を決めて、その目標をクリアする為のメニューを考えてみては?」
俺は簡単なアドバイスをしたが氷川トレーナーが、それを聞き入れてくれるかは分からない。今まで氷川トレーナーのような人たちを何人か見てきた。結局はプレッシャーに押し潰されてトレーナーを止めてしまったけどな……。
自分で気づき成長してもらいたい気持ちもあるが、もう少しアドバイスをすることにした。
「誰の担当を任せられるか分かりませんが、その子の希望も聞きました?」
俺がそう言うと、氷川トレーナーは黙ったまま首を横に振った。
「担当を任せられる子に頼りないと思われたくないので……」
新人なんだから頼りないと思われるのは仕方ないが、無理して倒れたほうが頼りないと思う。それに会話することで、その子の体調を確認したり仕上がり具合の確認をするのも、トレーナーの大事な仕事だ。何より会話することで本当の意味での信頼を得られることを伝えた。
「そう…ですね……」
俯いたまま氷川トレーナーは返事を返してきた。それと同時に注文した物が運ばれてきた。何はともあれ腹ごしらえだ。
トレーナー自身が体調管理しないと示しがつかないと言って食事を勧めた。見かける度にカロリーバーを片手にしていたので、最近はまともな食事を摂ってこなかったんだと思う。
一口食べて「美味しいです……」と言っていた。食事が進むにつれて顔色もだいぶ良くなってきた。暫くして食事を終えたので、俺は氷川トレーナーに今日くらいはしっかりと休むように伝え支払いを済ませてその場を後にした。
翌日。すっきりした顔でトレーナー室にやってきた氷川トレーナー。かなり楽になった様子だった。
「昨日はありがとうございました。頑張らないといけないと気持ちが先走ってしまっていました」
この様子だともう大丈夫のようだな。
そう思い悩みがあるなら、いつでも相談に乗ることを伝えると「その時は、お願いします」と返事が返ってきた。
このあと、担当になるかもしれない子と話をしたりメニューの相談をするとのことだ。それだけ言って氷川トレーナーは部屋を出て行った。
「若いねぇ~……」
一人残されたトレーナー室でそう呟き。明後日からのことを考えた。明後日から、一日おきに三人のデビュー戦になっている。模擬レースをしたのは一度のみだが、それでも十分だと思っている。
デビュー戦は全員が初めてのレース。模擬レースでは経験できない緊張感がある。全員がそれを感じながら走ることになるので条件は一緒だ。
その緊張からいち早く脱し実力を発揮できた者が勝利できるのだ。あの三人なら実力はあるので十分に勝ちを狙える。
作業の手を一度止め休憩がてら仮眠を取ろうと思い、初日世話になった木陰で昼寝をすることにした。
暫くすると周囲が少し賑やかになってきた。昼食時だなと思い瞼を開けて周囲を確認。ベンチに座り談笑しながら弁当を食べている子や早々と昼食を食べ終わったのか、話しながら歩いている子などが目に入った。
そろそろ戻るかと思い腰を上げると同時に離れた場所で俺と同じように木陰で昼寝をしている子を見つけた。
芦毛のショートヘアー。のんびりしたペースなのが見て取れる。気持ち良さそうに寝ているなと思い俺はトレーナー室に戻った。
放課後。大体の作業を終えチームルームに行くと三人が着替え終わり、丁度出てきたところだった。トレーニングに行こうとする、三人を呼び止めチームルームに入る。
少し時間は経ってしまったが、模擬レースの反省会をしなくてはいけない。反省会をすることを伝え椅子に座るよう促す。三人が椅子に座るのを確認し俺も椅子に座る。
「さて、反省会だが……」
俺は淡々と話した。まず、バクシンオーは先に先にと走りすぎ、スタミナが持たなかったこと。それが自分のペースなら仕方ないが、スタミナの温存をしたほうがいいこと。周囲をもう少し見てペースを調整したほうがいいと伝えた。
チヨノオーは結果としては三着に終わったが、レース展開には問題がなかったので少し思い切りをつけたほうがいいこと。
ローレルは自分のペースで走れてはいたが、周りを気にしすぎてスパートが遅れたこと。
各々の反省点を伝えてトレーニングに向かわせた。
まあ、あの子たちなら次へ生かせるだろうと信じて俺もグラウンドに向かった。