2日後―――
今回のことの顛末を、バーニスに説明していた。
「えっと――つまり?モルス君は盗聴器を、ブレイズウッドで加工する予定の工芸品に、前もって仕込んでたんだね?だから私達のことが筒抜けになっちゃってた、って言う――」
「そうさ。あたし達から完成した工芸品を受け取ったら、後は盗聴器を回収するだけってわけだね。考えたもんだ」
まあ、前もって仕込んでいたからこそ俺が気が付けたというわけなんだが。
「ふーん?でもじゃあ、覇者はどうして自分からネタバレしちゃったの?ナナシ以外誰も盗聴器のことなんて気づいてなかったし、そのナナシも黙ってたわけでしょ?」
あの時点で話していたら『ツール・ド・インフェルノ』の前にカーサさんと決定的な溝を作りかねないし――そもそも憶測の域を出ていなかった、やはり気づいたタイミングで話すのはナンセンスと言うやつだ。
「それは、もしあたしたちが先に盗聴器を見つけちまったら、それこそ覇者の方は後出しで申し開きするしかなくなるんだから」
「そうだぜい、盗聴器を見つけたあたしたちが、鼻息荒く詰め寄ってさあ――モルスの独断だってその場で言われて、あの条件を吞んでたかあ?」
そう、あのタイミングで相手が対処をミスれば、走り屋連盟の信頼に文字通り傷がつきかねない、それは同時に治安にだって響いてしまうだろう。
「だからこそ、ナナシはあたし達に相談できずに部外者の自分一人で解決しようとしたわけで、同時にカーサのことをずっと信じていたわけよ」
「ぐっ――なんというか自分のやってきたことをこう――なんというか、表現されると恥ずかしいな――うん」
確かにパイパーの言う通りだ、部外者の俺なら走り屋連盟に対して出来るだけ穏便に解決できると踏んだのだ。
「そんなことはないさ、ナナシ。あんたがあたしのことを信じてくれたおかげで色々助かったんだから――そうだ、お礼にあたしができることなら“なんでも”してあげるよ」
「なんでも?」
思わず、聞き返す。手を広げ、何でもウェルカムなんて言いそうな体制だ本当になんでもいいんだろう。
「うーん、それじゃあ――」
「な、ナナシ!あんまり、その失礼なことはしちゃいけないからね!」
リンから横やりが入る、別にお金くださいとか言わないのに何を焦っているのだろうか。
「サン・フリントが欲しいかな、あのデザイン――実は一目見た時から気に入ってたんだよね!」
「そんなことでいいのかい?だったら――あたしが今付けてるこいつをやるよ。――あたしだと思って付けてくれよ」
彼女はその場で工芸品を外し、俺に渡す――まあ、別に彼女の物が欲しかったわけではないのだが、確かにカーサさんの力もあると考えると心強い。
「もちろん、ありがとう。カーサさん!」
お礼を言い、自身のカバンに適当に取り付ける、太陽にかざしてみるとまるで太陽に人が飛びこんでいるように見えた。そして、石に描かれた弓、双剣、刀、拳も後光が入りひときわ輝いているように見えた。
「あら、プロキシさんにナナシ。ここでしたのね、用事があって探してたんですわ。少々お顔を貸していただけますこと?」
「わかった、リン行こう」
「うん――ナナシ気を付けてね」
リンも行くのに気を付けてね、はおかしい気がするが、ともかくルーシーに連れられその場を離れた。
「――用ってシーザーのことだよね、最近どうにも元気が無いように見える」
「話が早いですわね。私達が覇者と会ってからというもの、普段の粗忽でエネルギー過多なところが鳴りを潜めて、なんだか一人でぼーっとしてることが多いんですわ。おまけに、ご飯を食べる量さえ減っているような―――」
「その状態見たことがあるよ」
リンはそう言い俺の方を向く。
「え、俺?」
「うん、グレースさん、最近だとカーサさんの時とか、何か心配事があるとやたら口数が減ってぼーっとしてるよね」
「――確かに」
そして、決まってその後は爆弾発言をやらかすんだ、大体相手を疑ってるとか物思いにふけりすぎてして最終的には焦って答えを返す。
「そうだな、俺の場合だとよく何かを考えていることが多いかな――まあ、よくその後やらかすんだけど――うん、そう言う時の対処法はほっとくか、誰かに相談するかだな」
「それはどうせ聞いたところで、はぐらかされるのは目に見えてましてよ。コホン、念のために申し上げておきますわ。あれがどんな奇行に走ろうと、私個人は知ったこっちゃないですけど――あんなでもまだカリュドーンの子の大将ですもの。チームの士気に関わるような振る舞いは看過できかねますわ!」
わかりやすすぎる、ツンデレに思わず笑みがこぼれたが、確かに彼女の言う通りシーザーが沈んだままで『ツール・ド・インフェルノ』の勝利は難しいだろう。
「なら、それはナナシにお願いしてもいい?もともと、明日は新エリー都の家に帰ってオフラインデータをコピーするつもりだったから、ナナシにそれをお願いしてね」
「なるほど、そこで俺が遠回しに聞けばいいわけね――でも、どうして俺なんだ?」
俺はどっちかと言えば沈む側で、その上考えすぎてその後やらかすのもセットだ。
「ナナシはよく色んな人の話を聞いてきて相談事は上手でしょ?だから、今回も行けるかなって――」
「――わかった」
何だか、リンの言葉に怒気が混じっているような気がするのはなぜだろう、妙に背筋が爪いたのはなぜだろうか――真相を知るにはそれ相応の代償を払わなければいけない気がしたので口を噤む。
「それは、ナイスアイディアですわ。シーザーはあまり新エリー都に行ったことがありませんし、見聞を広げるいい機会かもしれませんわね。早速、明日には彼女のバイクで新エリー都に向かってくださいな。頼みましたわよ、ナナシ」
「うん、任せておいて」
翌日、俺はシーザーのバイクに乗り新エリー都へ一時帰還した。
「へぇ~――ここが、かの名高いパエトーンの住処ってわけだな。おまけに、マジでビデオ屋を経営してるとは――」
「経営してるって言っても俺はあくまでプロキシ業を手伝ったり、暇な日は白祇重工の方にアルバイトに行ったりしてるんだけどね」
忙しい日は手伝ったりするのだが、新規入荷以外でなかなか繫盛はしないので基本的にはあまりないのだが。
とにかくコピーのためにバックヤードに入る。
「そうなのか――確かに、ビデオ屋でレジにいるナナシは想像できてねぇな!――そういやルーシーのやつ、『推し』とやらが出てる映画の為だけにわざわざ新エリー都までひとっ走りしてたっけな――うん、こいつは」
「あ、これ?――き、興味あるの?」
ちょうど、ビデオデッキの上に放置された、見た後の記憶がろくなものがない『愛とラブは劇場で』のビデオだった。
「あ、あるわけねぇだろ!少し、目に入っただけだ」
(見たいのかなあ――どっかで誘ってみようかな。気が引けるけど)
「そっか――シーザー、せっかくだからこの後街を一緒に散策しないか?俺がばっちりガイドするからな!」
データコピーには思いのほか時間がかかる、その間映画を見てもいいがせっかくならシーザーに新エリー都を観光してもらいたい。
「いいぜ、いいところ案内してくれよな!」
「任せておいて!」
早速、シーザーを連れ向かった先は――――パンケーキ屋だった。
折角新エリー都に来たのだ、彼女にはこのパンケーキの味を覚えて帰ってもらいたい。
「ナナシは、よくここに来るのか?」
「まあね、ここの特製パンケーキがめちゃくちゃ美味しいんだ!本当に、ほっぺが落ちるくらいね!」
店内に入り、席へ案内される――俺が頼むのは当然特製パンケーキだが――
「あっ!ナナシさん――その、一回治安官に逮捕された方がいいんじゃないですか?」
ちらっとシーザーを見た後、俺をよく知る店員さん、名前確かライさんだと思う。突然の問いにシーザーは首をかしげるが俺としては縁起でもない発言に冷汗だらだらだった。
「――誤解だから!本当に、ここの特製パンケーキがおいしいから連れてきてるだけだから!」
「本当ですかぁ?よく来てくれますけど、ほとんど別の女の子と来てるじゃないですか」
ぐうの音も出ない、確かに言われてみれば毎週大体予定が埋まってるため中々かぶることも少ないし――その時は別の場所に行くなんて話になっているので同じ人とあまり来ないのは確かにそうだ。
「い、いやでも――この間男と来てましたからね!あ、あの熱血って感じの奴と、灰色の髪のイケメンと!」
あの熱血をスイーツの甘さで中和できねえかなって思ってアンド―と仕事帰りに軽く寄ったり、俺がパンケーキが好きだと知ったアキラが食べてみたいと言ったので誘ったのだ。
「――そうですけどぉ、どっちかと言えば――男女両方いけるのかなぁって――厨房でも話題でしたよ?」
「ぐっ――そ、そうだ!と、特製パンケーキを食べに来たんだった!シーザーもそれでいいよね」
完全に分が悪くなりこれ以上ある事無いこと話されてはたまったもんじゃないので早速注文を切り出す。
「おういいぜ!ナナシのおすすめなんだろ、楽しみだ!」
「ふーん、まあ今回はお連れがいらっしゃるようですからこれ以上は追及しませんけど――あんまり節操無いといつか刺されますよ」
「どうして!?」
刺されるってもしかして誰からから恨みを買っているのだろうか。考えてみても、そんな奴は全く脳裏には映らない。
「はあ、それがわからないから刺されるんですよ――はい、特製パンケーキ二つですね、少々お待ちください」
不穏なことをつぶやいてライさんは厨房に帰っていった。
「――刺されるか、不穏だな」
「オレはナナシが刺される理由がなんとなくわかった気がするぜ――それに、さっきの店員からも下手したら刺されるかもな」
「ライさんが!?」
俺の盗聴器をも見分ける万能な勘をフルスロットルで働かせるも結局俺がなぜ刺されるのかそれに至る理由を見つけることはできなかった。
(ライさんがどうして、俺を刺すんだ?――まあ、いいか)
「それにしても仲がいいんだなあの店員と、都会じゃ人と人とのカンケ―が希薄だって、誰かが言ってた気がするけどよ。さっきのを見た限りじゃ、そんな風でもなさそうだ」
「そりゃあ人のつながりで成り立ってるような郊外に比べれば希薄かもしれないけどね。でも、都市でも都市なりの繋がりがあるんだよ――だからこそ、この手で守りたいんだ」
何でもない普通の日常をこの容赦のない世界から守るために俺は戦わなくてはならない。
(だからこそ、諸悪の根源――聖剣は破壊する)
「シーザーもそうなんじゃないのか?俺は郊外の方がやっぱり生き生きしている感じがしてたけど」
「まあな、オレ様の馴染みはみんな郊外にいるから離れたくねえってのが本音だったのかもな。ま、そいつらをこれからも守ってくんなら今の体たらくじゃ到底ダメだって話なんだが――」
「わかる、超わかる!俺も今のままじゃ、みんなをきっと守り切れない――あいつらから」
はっきり言って、俺とグランが正面戦闘で本気でぶつかったら俺が負ける。盾が崩れれば、後ろにも危険が及んでしまう、リンとアキラ――そして今は、邪兎屋、白祇重工、ヴィクトリア家政、治安官の人たち、そしてカリュドーンの子――すべてを守るには俺の手は短すぎる。
「――そうか」
「シーザーもしかして覇者について考えてた?」
覇者ポンペイを前にした後のシーザーは変になった。そして、彼女が最初、覇者と言う地位のことをなんというか現実味が無いように捉えていたことから、ポンペイを見て少し深く考えるようになったのかもしれない。
「ああ、オレ様はガキの頃から『ツール・ド・インフェルノ』の伝説を聞いて育ったんだ。何のために覇者になりてぇんだと聞かれたら、迷わず自分が『最強』だって証明するためだと答えたさ――」
シーザーは気づいた、ポンペイを前に『覇者』とは単純な強さだけのものではないことに。
「ポンペイのオッサンは、ナナシが気づいていたとはいえシラを切れた手下の悪事をわざわざ自分でバラしたうえ、手打ちまで持っていきやがった。その上、カリュドーンの子とブレイズウッドの問題まで片付けてな――」
ルートの条件を提示された際、ルーシーがカリュドーンの子の中心に立って交渉事をしていた。その時だってシーザーはチンプンカンプンって顔でうなずきながら腕を組んでいたのが記憶に新しい。
「なるほどね――それで『覇者』ってのを深く考えるようになったわけだね」
「――ああ、カーサもナナシも、いろいろなしがらみの板挟みになりながら、その責務を全うし用途してたんじゃねえか」
俺が、果たして責務を全うしていたかはこの際置いておいて――やっぱり、シーザーは覇者の才能があると再認識した、周りを見て、己の足りないところを知り、考え改善しようとする――その落ち込む姿を見て、つい笑みがこぼれるのを耐えていた。
「シーザー、俺はこう思うんだ。なにかしら人間には欠点がつきものだけど、それを乗り越えられるのも人間だ、そして一人では乗り越えられない壁を仲間と共に乗り越えられるのも人間だ――究極的には、覇者が最強だったり、頭がめちゃくちゃ切れる必要も無いと思う、だってシーザーには助け合える仲間が要るだろう?」
「それ、親父も言ってたぜ――そうか、そうだよな」
まあ、一人で単独行動した奴が何をほざいているんだという話だし、何ならこの間見た映画の受け売りなんだけどね。――ごめん、シーザー。
「それにさ、少なくとも仲間を選ぶ才能は絶対!ポンペイさん以上だって俺が断言する!」
カリュドーンの子の皆はずっとシーザーのことを考えていた。カーサさんのことだってシーザーのために伝えないようにして追跡していった。みんな、シーザーのことが大好きなんだってこっちも笑顔になっちゃうくらい伝わってきた。
「3日前の、ホロウの時だって町のことを第一に考えてカーサさんに『持ってけ』って言って、シーザーの視野の広さと優しさがなきゃできないことだったよ!」
正直、モルスを追ってシーザーを見つけた時、カーサさんをどうやって擁護しようかと頭を回していた。――けれど、その問題は杞憂でシーザーは覇者の器と言うのを目の前で見せてくれた。
「それに――「ちょ、ちょっと待ってくれ――あんまり褒めんなよ、恥ずかしいだろ」」
シーザーに諭され周りを見渡すと、視線が俺達が座っている席に集中してしまっていた。どうやら、シーザーを褒めるのに熱が入りすぎてしまったようだ。
「ごめん――でも、シーザーの良いところはまだまだ言えるからね!」
「ハハハ、ありがとよ。なんだかオマエにそう言ってもらえて、なんだか急に気が楽になってきた感じがすんぜ!」
どうやら、俺の褒める作戦は成功したらしい――その代償に――
「はい、こちら特製パンケーキでーす。――イチャイチャするならもう少し静かにお願いしますね」
「――ライさん、しっかりまず誤解を解くべきだと思うんだ」
どうやら、見事に誤解されてしまっているらしい。しばらくは、男連中と来ようかな――ビリーは、無理か。
「ナナシ、オレ様はバカだけどよ。一度決めた目標は何が何でもズラさねぇんだ。猪みてぇにな。アイツらに追いつけるよう、せいぜい努力するさ!それに、オレ様には頼もしい仲間がこれでもかといるしな!」
「その意気だよ、シーザー!俺も、手伝うからさ!」
その後は、二人でパンケーキを食べて店を出た。その日のパンケーキはいつもよりも甘みが強い気がした。
嵐の前の静けさってこんな感じなんですね~。さて、ついに次の話からゴリゴリに戦闘が始まっていきますよ!この章でさらに確認された聖剣ジェネシスーーあれ?ザ・ジェネシスじゃないんだ――まあいいや!ナナシは無事苦難をはねのけることができるのか!!
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け