ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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第57話・決着と終わり

 

旧油田エリア、『ツール・ド・インフェルノ』のスタート地点では耳を突き刺すような歓声がなり響き次なる英雄の誕生を興奮しながら待ち望んでいる。

 

「テレビの前にラジオの前、それに会場にいる熱き燃料バカたち~!みんな大好きジョリー・ジョニーだよー!」

既に、レースのレーンには6人がバイクにまたがり今か今かと走り出しそうだ。既に、互いに殺気を飛ばし合っているようで遠目からでも赤い稲妻みたいなのが見えて来る。

 

 

え?俺は何をしてるんだって?――泥棒だけど、もちろん単独でね。

それも、普段の服装とは違いミリタリーベストを着用した決戦装備状態だ。

『ナナシ、わかってると思うけど安全第一でバレたらすぐに逃げるんだよ』

「うん、わかってるよアキラ――トライアンフの拠点で何か見つかるといいんだけど――」

火事場泥棒みたいでいやだが、トライアンフのグランが人工聖剣を持っていた以上何かしらの情報があってもおかしくない。

だから、人が出払うタイミングを見計らいこっそり侵入したのだ、どうせ俺はレースに出ないしその間何かするわけでもない。この場合、絶好のチャンスなのだ。

 

 

 

一方その頃、レース直前のレーンでは選手紹介が行われていた。

「早速、参加陣営のご紹介!防衛側『トライアンフ』:ポンペイ、ルシウス、グラン!」

 

「挑戦者『カリュドーンの子』:シーザー、ルーシー、ライト!」

通信機越しに聞こえてきたが、やはりグランは参加するみたいだ。

(いや、謀略って面なら注意すべきなのはルシウスって奴のほうか――良くも悪くもグランの方が話が通じそうだ)

 

「ルールはシンプル。ホロウへ大分!火の湖にダッシュ!火打石で忌々しいエーテル結晶をクラッシュ!先に儀式をやり遂げた猛者がすなわち次の覇者だ!!」

耳に残るラップで何度も聞きたくなるが、それよりも全然お目当てのものが見つからない。

 

「――まあ、流石に極秘だろうし野放しにはしないか」

ラジオの所には出来るだけ近づかず、幹部クラスの部屋を見つけたいが――。

 

『ツール・ド・インフェルノ、レース・スタート!』

どうやらあちらの火ぶたは切られたみたいだ、時間が無い相手が何かするつもりなら俺もあちらに行かなくては――。

 

 

(考えろ――幹部クラスならどこに部屋があるべきだ。できれば――他の角度から見ても死角になってるとか――)

足音を立てず気配を消し進む、少し進んで行くとそれらしい部屋が確認できた。

 

(しめた!まあ、ダンジョンってわけじゃないから入り組んでいる方がおかしいんだけどね――カメラの類はないか――あったらSDカードを抜いて証拠にしようと思ったんだが)

だが、その部屋にも聖剣の資料らしきものは見つからない、軽い執務室のようだが――てっきりここにあるものかと。

 

 

 

(いや、灯台下暗しって奴だな――ここの鍵付きの引き出しを開けてみるか)

懐からピッキングフックを4本取り出しちょちょいと操作し開ける。幸いにも古い型だったので開錠にはそれほど時間は要さなかった。

 

「――何もないか」

そこには本が一冊だけ、名前は『聖剣と末路』俺も知っている本だ。それだけかと思い、引き出しをしまおうとした時――ある違和感に気づく。

(やたら分厚いなこの引き出し――まさか)

 

 

引き出しの奥の方を見ると何か引っ掛けられそうな穴が開いていた。

そこにピッキングフックを引っ掛け開けると――二重底の部分が現れた。

 

「こいつは――」

そこにあったのは、シーザーが持っていた“火打石”だった。そう、まさに今行われている『ツール・ド・インフェルノ』の目玉であるシンダーグローレイクを救うために投下する物だった。

(――こいつがここにあるってことは、今ポンペイが持っている火打石は何なんだ?)

何かの間違いで火打石を忘れたなんて希望的観測すら抱く必要はない。一つわかるのはここにこれは絶対にあってはいけない代物だということだ。

 

「何だこれ――薬?」

更に、白い粉が入った袋も出てきた。何の薬かわからないが、とりあえず懐に忍ばせる。

(ここはこれだけかな――聖剣の情報があればいいんだけど――)

とりあえず、火打石と薬のことを伝えようとアキラに通話を繋ごうとしたその時だった。

 

『ナナシ、まずいことになった急に爆発が起きたと思ったら他の皆とはぐれてしまったみたいだ。しかもその爆発は人為的なものの可能性が高い、その上外への通信は書き換えられているみたいでシンダーグロー・レイクが不味いかもしれない』

簡潔に情報を伝えるアキラ、シンダーグロー・レイクと言うワードに目の前の火打石が結びつく。

 

それだけでもかなりの危機と察知しすぐさま部屋を出る。

「わかった、すぐ行く。俺はフェアリーのサポートでシンダーグロー・レイクに向かう。シーザーたちもなるべく早く来るように伝えてほしい。無事でいてくれることを願うよ」

『わかった、検討を祈るよナナシ』

 

 

(大丈夫、ここはシンダーグロー・レイクからそこまで離れているわけじゃない、走ればもしかしたらトライアンフがやろうとしていることを阻止できるかもしれない)

火打石を再び懐にしまいなおしホロウへ駆け出した。

 

 

 

『マスターナナシ、数キロ先に人の反応を探知しました。警戒をしてください』

「は!?今は『ツール・ド・インフェルノ』の真っ最中だろう、なのにこんな荒野のど真ん中に――人なんて――」

人影を確かに視認する、それもよく見る顔だ。いい加減にしてくれないかなと内心怒りを沸騰させながら近づく。

 

 

人影の前の10メートル地点で立ち止まる。

「――そこをどいてくれない?今、急いでいるんだよ」

「それはできないな――生憎この先通行止めなんだ」

なんとそこには人工聖剣を4つ指にかけたモルスが現れた、それよりも気になったのはなぜ俺が来ると知っていたかだ、まあ単純に先回りしようとする俺への足止めかもしれないが。

 

「――これまでの戦績を思い出してから物を言ってくれないかな?100回やって100回勝つさ――それにもう、付き合ってやるつもりもない」

「そいつはどうかな――食らえ『ガニメデプロトン!』」

先手必勝と言わんばかりに4つの人工聖剣が輝きを放ちその光は奴の手のひらに圧縮されていく、それを俺に向かって放射するのだが――。

 

 

「だからさ――付き合う気はないんだよ」

人工聖剣4つ分を合わせた一撃、さぞ強いのだろう――しかし、手のひらで圧縮され放つなんて一連の動作が遅い、そして手のひらを放つ方向で行先がわかる、エネルギー波がそれほど早くない、ノーザンインパクトの方が早い。

等々の理由がありそもそも技を使わず体を右往左往動かしながら、徐々に近づいてく。

 

「な、なぜ当たらない!『ファイアトルネード!』」

赤の宝石が光るというわかりやすい予備動作から放たれた炎の渦は“真っすぐ”俺を狙ってくる。

(いや、これはむしろ――)

俺はその場で立ち止まり思いっきり右足を振り上げ、ダンと踏み込む。

 

最近は隙が多かったり予備動作が必要だったりと使いにくかった正義の鉄拳。しかし、ファイアトルネードによって相手は俺が何をしているのか動作が見えなくなった、その陰に隠れて――

「『正義の鉄拳G3!』」

 

炎の渦を何の苦も無く突き抜け、そのままモルスに拳が突き刺さる。

「よし、これで終わりだな」

当然吹っ飛ばされたモルスにはもう立ち上がる力はないと――そう考えていた。

 

「止まれ!『ドラゴンクラッシュ!』」

青いドラゴンが雄たけびを発しながら向かってくる、それを横目で確認した俺は体を翻しよける。

 

 

「――終わったと思ってたんだけど――そう、背中を狙われるのは嫌だな――気絶させるか」

このまま走って逃げても多分撒けるが後々シンダーグロー・レイクまでくるかもしれない、だからこそここで確実に戦闘不能まで追い込む必要がある。

 

「くそっ、食らえ!」

銃弾を数発発砲、どうやら人工聖剣メインの戦いは諦めたらしい。

 

 

「その戦闘スタイルじゃかなわないから、聖剣を使ったんじゃないのか!」

銃弾をかわしながら距離を詰める、ムゲン・ザ・ハンドを覚えてから大体の物を見切れるようになったのが効いている。

 

「死ね!」

カシャカシャと銃弾が切れたような音を鳴らす、それと同時に斧に持ち替え近接を仕掛けて来る。

 

(大振り――脇が開いてる――目線は俺の頭――途中で精密な動きは不可――腰はそのままあまり振る速度も出ない――息遣いも荒い本当にやけくそっぽいな)

 

斧を振りかぶった時点で分析をはじめよけ方を推測する、おそらく頼みの『ガニメデプロトン』があっさり避けられ少し頭に血が上っているらしい。

狙うは斧の持ち手――。

 

 

低い姿勢で距離を詰める。

「せい!」

左手の掌低で思いっきり振り下ろされている最中の手をはじき、右手で拳を握り技を発動することなく思いっきりアッパーを叩き込む。

 

「う、くっ」

その場によろけるモルス、だがいまだに膝を折っていなかった、通常であれば脳が揺れていてもおかしくないはず――だというのに、目は全く死んでいなかった。

 

「な、なぜだ――ほとんど必殺技を使っていないオマエに勝てない!」

「“必殺技”って、まあそうだけどさ――あくまで、勝つための道具だ使わないのも一つの選択ってことだよ」

それにモルスの前ではムゲン・ザ・ハンドや正義の鉄拳などかなり技を見せてしまっている。正義の鉄拳は不意打ちだったから効いたが他はそうでもないだろう。

 

「――だから、これで終わり」

既にふらつき今にも倒れそうなモルスに接近し、背中を取りチョークスリーパーをかける。

数秒で力なくモルスはその場に倒れ、勝負はついた。

 

 

 

「ちっ――時間は稼がれたな。試合に勝って勝負に負けたか」

本気でやるなら熱血パンチでさっさと沈めてしまえばよかった。けれど、モルスが思いのほか根性を見せたのでつい、付き合いたくなったのだ。

送れた時間を取り返すため、先ほどよりも早いスピードでシンダーグロー・レイクへ向かった。

 

 

 

一方その頃、シーザーたちははぐれたルーシーたちと合流し、バイクにまたがり同じくシンダーグロー・レイクへ向かおうとしていた時だった。

その時、ちらりと人影を見つける。

 

「ありゃあグランか――ナナシをやりやがった!」

「大将、ナナシはまだ死んでねえぜ」

確かに何度かグランにはしてやられてはいるが、ナナシは別行動中でこの場にはいない。

 

「けど、妙だな――何でアイツ覇者のオッサンたちと一緒に居ねぇんだ?」

「大将、奴さん双眼鏡にかじりついて山のふもとの方を見てたぞ。俺らが爆発に巻き込まれた方角じゃないか?」

数分前、カリュドーンの子一行は人為的なエーテル爆弾による爆発に巻き込まれレースからかなり出遅れていた。

 

 

 

その時、グランの無線が鳴った。

『グラン、カリュドーンの子はいたか?奴らは今どこまで来ている?』

相手は覇者ポンペイであり、どうやらグランにカリュドーンの子を見張らせる任を与えているようだ。

だが、本来ならカリュドーンの子が爆発に巻き込まれたとか、崩落に巻き込まれたとか何か報告するべき場面――しかし、グランが取ったのは予想外の行動だった。

 

「親分、言われた通りにあいつらが走るルートを監視しているけど――全然姿が見えないや」

『なに?妙だな、あの若造共はこの程度じゃないはずだが、なぜ本番に限って――ゲホッ、ゴホッゴホッ』

グランは真実をポンペイに話さなかった、望遠鏡まで使っているのだ土煙の一つや二つは見えていなければおかしい。

 

 

 

「まずいですわね――!こちらの想像以上に、『トライアンフ』の先行を許していましてよ!」

だが、それよりも一同にとって疑問だったのは、なぜグランが爆発の件をポンペイに話さなかったということだ。

 

『怪しいね、さっきの爆発での崩落で望遠鏡なんか使わなくたってはっきり砂埃が見えたはずだよ』

「いいとこ突くじゃねぇか!プロキシ!いくらオレらを偵察するのが本分だっつっても、あんなどデケェ爆発、警戒すんのが普通だよな。一言も報告しねぇのは妙だぜ!」

シーザーが大きな声を上げた瞬間、グランの顔がこちらを向いた。

 

「―――」

おそらく、岩陰に隠れて見えてはいないはずだが不気味に何も言わずどこかに歩いて行った。

 

 

そして、トライアンフは――

 

『ツール・ド・インフェルノ』のゴール、つまりシンダーグロー・レイクの前に到着していた――

 

「カリュドーンの子め。決着をつけると息巻いておきながら――なんとも退屈なレースだったな」

レースが始まる前にはこちらに思いっきり啖呵を切ってきたカリュドーンの子。しかし、特に拮抗した勝負になる事もなく淡々と儀式の場に到着していた。

 

「せっかく親分が目をかけてやっていたのに――シーザーめ、やる気がないにもほどがありますねぇ」

この場にはポンペイとルシウスの二人のみ――見ている者は誰もいない。

 

「フン、だが退屈も結構なことだ」

ポンペイは手に持つ火打石を火の湖に向かって投げ入れる、確かに競うことも大切だが最も重要なのはシンダーグロー・レイクを守ることに変わりはない――。

 

「少なくとも数年は、火の湖を心配しなくていいのだからな」

火打石が火の湖に沈む――と同時にエーテル結晶は砕ける――はずだった。

 

 

 

「どういうことだ?エーテル結晶が大量に現れたぞ!?」

ポンペイが下を確認すると次へ次へとえーてる 結晶が増大し、火の湖を飲まんとその勢力を拡大していた。

 

「『エーテル重合触媒』――遊離状態にあるエーテル粒子の結晶化を促す代物です。都市の企業が、エーテルの生産量を増やすために開発した技術ですよ。この場所の得意な環境ではさぞ効果があるでしょうねぇ」

そして、その光景に驚きもせず淡々と喋る者――この場には二人しか人はいない。

 

 

「ルシウス、まさか貴様――」

「そうですよ?ポンペイの親分。あなたの火打石は僕がすり替えておきました。火の湖は間もなく完全に消滅します」

それが、どういう意味なのかルシウスはわかっていながら勝ち誇った表情でポンペイを見つめる。

 

 

「うぐっ――!!」

同時にポンペイが胸を押さえ苦しみだす。

 

「ルシウス、貴様よくも――!」

しかし、その目は死んでおらず――確かに“郊外の敵”を睨みつけていた。

「断じて許さぬ!」

瞬時に振り下ろされた一閃はルシウスの頬に傷をつけ鮮血が舞う。

 

「おいおい、よくも僕の右頬に傷を増やしてくれたな!――怪物め!」

確かに先ほどまで“親分”と呼び、したっていた男をそう形容するルシウス。

 

「あんたの時代は終わったんだよ!弱者も、能無しも、もうとっくに時代から見捨てられるんだよ!エーテルと聖剣の力さえあれば、僕はリーダーのいない郊外に新たな秩序を打ち立てられる!僕の指先一つで動く王国をな!」

勝ち誇った表情でそう宣言する、既にポンペイには抵抗する力はなく、ただ睨み続けるだけだった。

その時、ルシウスのスマホが鳴る。

 

「フン、どうした?」

『ルシウス、カリュドーンの子の痕跡があったよ。もうすぐ、シンダーグロー・レイクに到着すると思う』

折角完全にカリュドーンの子とトライアンフを潰し勝利したと思い込んでいたがそれに水を差されいらだちを隠せていない。

流石にカリュドーンの子がここに来てしまえば、ルシウスが正面から戦っても勝率は薄いならばここは撤退しかなかった。

 

 

「すみませんねぇ、ポンペイの親分。」

ナイフを取りとどめを刺そうと接近する、だが――一つ、ポンペイの姿を見て――口角を釣り上げた。

 




長ーい!ナナシの戦闘描写がキツイ!
今回のVSモルス戦はなるべく必殺技を使わず戦うナナシなのだった。
ちなみに、ナナシが今回着用しているミリタリーベストはアポロが死んだときに来ていたものと同じのもよう――死に装束かな?

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
  • こんなアンケートする前に書け
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