ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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第59話・フルアーマー・ザ・ハンド

 

 

『あなたの負けよ、ナナシ』

暗闇の空間の中に光が灯ると同時に、白い影が俺に語り掛けて来る。

 

「誰だ?アルターエゴじゃないな」

この暗闇の中にいるということは確実に俺の内部にいる存在なのだが、まさかアルターエゴ以外にもいるとは。

 

「いや、何でもいい――一刻も早く目覚めなきゃ――ッ!」

急なめまいに襲われ思わず膝を折る。

『――言ったでしょう、あなたは負けたの――それ以上でもそれ以下でもない』

「ま、まだ負けてない!――早くシーザーを、ライトを、イアスを――たす、けに」

立ち上がれないため這って光の先に向かう。

 

 

だが、光の先から現れたのは見慣れた影だった。

「ナナシ、彼女の言う通りだ――負けたんだ」

「あ、るたーえご?お前まで――負けてない!みんな戦ってる――シンダーグロー・レイクをこのままには――できない!」

グランを倒し、一刻も早く火打石を投げ込みエーテル結晶を取り除かなければ郊外の人々の生活に関わる。貧困はもちろん、治安は悪化し、エーテル耐性がない人たちはそう簡単に移動できもしない。

 

「――納得できないなら説明しよう、なぜ負けるのか――

一つ、グランはナナシの身体能力、洞察力、戦闘IQ等々、上げればきりがないがあらゆるものが上回っている。

二つ、シーザーの盾は破壊された、これではイングナイトスティールとフローズンスティールを突破できる策が一つ減ることになる。

三つ、さっきのシーザーの攻撃も防がれたところを見ると――もう、この二つの必殺技をライトと手負いのシーザー、そしてナナシで突破はできない

四つ――「ちょ、ちょっと多すぎ!!」何?まだ十個くらいはあるけど」

 

最初の1、2個でなぜ俺がグランに勝てないかは痛いほど伝わってきた。

確かに、最初の目論見ではシーザーの一閃とライトの拳の同時攻撃、そしてムゲン・ザ・ハンドなどを用いて聖剣を奪い取るのが策だったが失敗に終わった。

何より、ライトの拳が迫ったときの反応速度は常人のそれじゃなかった。

 

『わかった?ナナシ、貴方がいくら頑張っても――救えないの』

「嘘だ、諦めなければ――きっと――」

これまでの戦い――全て諦めなかったから今がある。だから、もっと頭を回せば突破口は――

 

(何も――思いつかない。現状使える技は『真・熱血パンチ/ジャンプ』『ゴッドハンド』『正義の鉄拳G3』『メガトンヘッド』『マジン・ザ・ハンド改』『ムゲン・ザ・ハンド』――これだけ、これだけか)

熱血パンチで奴の防御を突破できないのはわかってる、ゴッドハンドはもはや紙屑同然、正義の鉄拳はよけられるし、メガトンヘッドは突撃中に切られて死亡、マジン・ザ・ハンド改は破られて、ムゲン・ザ・ハンドはノーザンインパクトで容易く粉砕される。

 

「――終わりなのか、最初から――勝つ術なんてなかったのか」

「最初からなら――まだわからなかったけど、対局は決した。既に、ほとんどのエネルギーを使い果たしてるんだ――もう、隙すら作れないかもしれない」

その場にうなだれ、既に立ち上がる力も湧いてこない。郊外は奴らによってめちゃくちゃにされる運命だったのか――。

 

 

「――だから、俺達はある提案をしに来たんだ」

「提案?――もしかしてあるのか、どうにかグランを倒して郊外を救う方法を?」

そうだ、よく考えてみればアルターエゴはアポロの記憶を有し数多の戦いを繰り広げてきた存在だ、こんな時の対策も――なんて幻想はたやすく打ち砕かれることになる。

 

 

「逃げよう、俺達だけで」

「え?」

目が点になる――にげよう?ニゲヨウ?逃げよう?

 

「は!?今、シーザーたちがグランと戦ってるんだ――見捨てろってことか!」

「――そうだよ。ナナシ、君がこのホロウに入ろうとした時のルートを遡ればグランを撒くことはできるだろう――もし、イアスが心配ならついでに抱えて脱出すればいい」

淡々と告げるアルターエゴ、後ろに控える白髪の女性も同調しているようで何回も頷いている。

 

 

「何を迷う必要があるんだ?ナナシ、確かに君にとってカリュドーンの子は守るべき存在なんだろう――けれど、よくよく考えてみると君たちは会ってまだ数日――命を懸けるなんてバカバカしいなんて思わないか?」

「バカバカしいわけないだろ!シーザーたちは間違いなく仲間だ――命を懸ける価値がある!」

アルターエゴを睨みつけながら、断言する。

 

「――まあ、百歩譲って仲間だとしてもおそらくグランにシーザーとライトを殺す意思はないよ。彼の目的は弱者の掃討だ、今だって火打石を投げ込まれたくないから戦ってるわけだからね」

「それはつまり――郊外の人を見捨てろって言いたいのか?」

記憶をたどってグランの発言を思い出すが、確かにあいつの目的はシンダーグロー・レイクを終わらせること――ぶっちゃけ、火打石を投げ込まれなければいいのだ。

だが、シンダーグロー・レイクの消滅は郊外に致命的な打撃を与える、石油と言う力を失った郊外に都市部の企業達が手を伸ばすかもしれないし、少なくとも今の郊外は消え去る。

 

 

「ああ、いくら郊外が滅んだとしても君たちのいる新エリー都には特に大きな問題はないだろう。走り屋も業種的に別に郊外以外でも活躍できる仕事だ、カリュドーンの子の心配をする必要もない」

「そうなのかもしれないけどそしたら、郊外の人たちの生活が――それに、きっとシーザーは諦めない。絶対、命を懸けても彼女は救おうとする」

「――そうだね、痺れを切らしたグランに殺されるだろうね」

表情をピクリとも動かさず淡々と言葉を進めるアルターエゴに深い憤りを感じながら突破口を探る。

 

(――待て、なんでアルターエゴはさっきから表情が動かない?)

元からそこまで動く方ではなかったけど、割と笑ったりすねたり、表情は豊かなほうのはずだ――だというのに今のアルターエゴは顔に能面を張り付けたみたいに真顔のままだ。

 

 

(本当に、助けるすべはないの?)

 

 

(本当に、突破口はないの?)

 

 

(本当に、この手は届かないの?)

 

 

(本当に――?)

 

『えぇ、その通りですが――いるじゃないですか、電池が』

仮面神教の教祖の言葉――。

 

『そう、奴らが目を付けたのは聖剣の力を使って――人の命を燃料に変えることだ』

人工聖剣が生まれた背景

 

この世界を俺は愛していないけど。

 

この世界を生きる人を俺は愛している、それが今俺の体を動かしてくれている。

 

戦えないすべての人のために――。

アポロの誓い、そしてその信念。

 

 

『「俺が戦わなくちゃいけない」』

 

 

「――アルターエゴ、教えてくれ。人口聖剣は人の命を燃料――つまりエネルギーに変換するために生まれたんだよな。――だったら、オリジナルの聖剣も同じことができるんじゃないのか?」

「ナナシ――君は――」

大きく目を見開き、俺を見て思わずアルターエゴはたじろいだ。

 

「その反応――出来るんだよな。頼む、やってくれ俺の命を削っていいから――俺にみんなを守れる力を――」

「何で、そこまで――ダメだ。そんなことしちゃいけない――あっ」

今、こいつはできないとは言わなかった。つまり、俺の命を聖剣を動かすエネルギーに変換できるということなのだ。

 

 

俺は、ここが好機と感じ取り追撃を仕掛ける。

「頼むよ、なあ!アポロと同じ記憶を共有したお前ならわかるはずだろ!!目の前でミサイルで仲間が死んだときの絶望も知ってるんだろ――だから、ずっと表情を殺してたんじゃないのか!!」

「――ッ!」

力の入らない足――しかし、アルターエゴの足を掴み懇願する。目じりに涙を溜めながら魂のうちから叫んだ。

 

 

「今なら!今なら届くんだよぉ!あの時、目の前で届かなかった手が届くんだよ!」

アポロは影山の『プラキオンネット』によって動けなくなった時にミサイルが投下され、仲間を目の前で失った。

いくら伸ばしても手は届かなかった。

 

「届く、今なら――あの時、伸ばした手が――届く」

ナナシの懇願は確かに、アルターエゴのポーカーフェイスを打ち崩し心に影響を与えていた。

 

『待ちなさい』

異様な空気を断ち切ったのはずっといた白髪の女性だった。

 

『さっきから、何を言ってるかわかってるのかしら?冗談じゃない――!』

「誰かは知らないけど――でも、俺は戦えないすべての人のために、戦わなくちゃいけない」

 

その時、ナナシは知る由もなかったがサクラにはあの時のアポロが重なるように写っていた。

 

『――勝手にしなさい。でも、生きて帰ってきて』

「ありがとう――俺を心配してくれて」

足に力が戻り立ち上がる。

 

 

「ナナシ、一応言っておくけど――当然、命をエネルギーに変換すると言ってもギリギリの限度を攻める。その間は必殺技は無制限に使えると思ってくれていい――ただ、それが持つのは120秒だけだ、それ以上は無いと思ってくれ」

「うん――一応無策ってわけじゃない」

かなり厳しい状況だが、それでもシンダーグロー・レイクとカリュドーンの子そして郊外の皆を守るためには絶対に必要な120秒だ。

 

 

「じゃあ、行くぞ。ナナシ、一応俺がバックアップに入る」

「ありがとう、アルターエゴ――行ってくる」

俺の意識は光の上に浮上した。

 

 

 

 

「うっ――」

『ナナシ!起きたんだね』

目を開くと同時に見えたのはイアスの顔だった。

 

「リン、状況は?」

『かなりまずいよ、ナナシが気を失った後、シーザーとライトさんが応戦してたんだけど途中でライトさんのガントレッドに不具合が起こったみたいで――おそらく、グランの温度変化のせいだと思うんだけど――』

ライトの攻撃力まで目覚めたらそがれているとは、何とか体を起こし――グランを目に納める。

 

「ナナシ、起きたんだね――でもその体でどうするのさ?」

「どこ見てんだよ!」

シーザーがグランに切りかかるも白い短剣が容易くはじく。

 

 

「――流石、カリュドーンの子のドン。タフすぎやしないかい?」

「はっ、オマエがなまっちょろいんだよ!」

だが、俺が気を失って数分は経過しているみたいだ、流石のシーザーも息が切れ始めている。

 

「グレース、力を借りるよ!シーザー!バックして!」

いつぞやにグレースからもらった手榴弾のピンを抜き投擲する。

 

 

「さあ、爆破解体を始めよう!――なんてね」

手榴弾は爆裂し、あたりに電流を展開できる優れものシーザーはグランの死角の位置から手榴弾を見せたため難なくよけたがグランはそうはいかない。

 

 

(今のうちに――)

邪兎屋、白祇重工、ヴィクトリア家政、カリュドーンの子――みんな力を貸して。

 

両手に『ゴッドハンドW』と『正義の鉄拳G3』と『真・熱血パンチ』を同時展開。

 

体の外殻は『マジン・ザ・ハンド改』を発動し、体に密着させマジンと一体化する。

 

足は『ムゲン・ザ・ハンド』4本を巻き付け、『真・熱血ジャンプ』を起動しダメージを受けた足を補助しつつ増強。

 

マジンの仮面がナナシの顔を覆い、表情が隠れる。

一つ一つの必殺技で敵わないならば――今、用いれるすべての必殺技を統合し新たな必殺技へ進化させる。

 

「これが、今の限界点――!」

『『ムゲン・ザ・ハンド』のバックアップには俺も入る。さらに4本追加だ』

背中からムゲン・ザ・ハンドがさらに4本起動し、攻撃補助、防御補助を行う。

 

 

 

 

「『フルアーマー・ザ・ハンド!!』」

 

火の湖を巡る戦いの決着は近い――。

 




え?ナナシの様子がおかしいって?元からでしょ。果たして、これで手は届くのか!そんな甘くないのがこの世界なんだけどね!

ここで、オリジナルの必殺技ですね。

『フルアーマー・ザ・ハンド』
要するに、てんこ盛りフォーム。代償は命を削るぞ!ちなみに、このフォームでも一対一だとアフロディに勝てません。

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
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