ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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まあ、前話の一方その頃は――って感じですね。


第61話・灰から蘇った英雄

 

 

ナナシが火の湖に飲み込まれる数分前――

ライトは『グングニル』の雨からイアスを守るため少し、火の湖から距離を取っていた。

 

だが、事態は急展開を迎えた。

ナナシの反応が急に二転三転したかと思えば左手の裾に取り付けてあった発信器の通信がロストした。あれは、ホロウ内でも使えるかなり高性能なもののはずなのだが。

『な、ナナシがグランと一緒に火の湖の近くまで落ちたみたい!ライトさん、私を連れてって!』

「ああ、わかったが――ナナシの奴、何考えてやがる?」

イアスの進むスピードでは見逃すと考えたリンはライトに抱えてもらいながら火の湖に接近する。この時、ナナシの左腕が無くなったのを彼らは知る由もなかった――

 

 

 

「大将、こいつはどういうことだ?」

火の湖の前で膝をつくシーザー。イアスが近づき体調を確認すると、彼女の顔はまるでリンゴのように真っ赤だった。

 

「ライトさん!シーザーの熱を測ってみて」

「おう――こいつは、熱中症みたいだな」

確かに、ここら一帯はかなりの高温そして、長時間の戦闘に燃える聖剣との戦い、何かしらの不調をきたすのは必然だろう。

 

 

「ナナシも心配だがとりあえず大将を休ませるか――」

ライトがシーザーの手を引き、肩に乗せようとした時――その手は振りほどかれ再びシーザーは膝に手を置く。

 

「どうしたの、シーザー?」

「な、ナナシがやべぇかもしれねえ、一人でグランと決着をつけに火口に落ちていきやがった――」

話を聞くに、ナナシは『正義の鉄拳』でグランを湖の火口まで吹き飛ばし、そこからさらに落下してグランを追い詰めているらしい。

 

「プロキシ、ライト――オレは大丈夫だ!――それに、シンダーグロー・レイクを救うなら今が好機のはずだぜ」

先ほどまで、熱中症でうなだれていた人とは思えないほど勢いよく立ち上がり火打石を取り出す。確かに、もう時間が無いのも事実――エーテル結晶が湖面を覆いつくすまでに火打石を投げ込まなければ郊外は終わってしまう。

 

『でも、シーザーが――』

「了解だ、大将」

心配するリンとは裏腹に、ライトはすぐ了承しイアスを抱えて走り出す。

 

 

『よかったの?ライトさん』

「ああ、大将が大丈夫って言ってんだ。なら信じろ」

それは、ライトからシーザーへの信頼の裏打ちでもあった。

 

『ひどい、火の湖が――』

イアスとライトが目にしたのは今にもエーテル結晶に埋め尽くされる寸前のシンダーグロー・レイクだった。

 

「シンダーグロー・レイクが消えたら、ルシウスはここをどうするんだろうな――」

奴がこの事件を手引きしたのなら、狙いは郊外だろう。石油と言う強みを失いかけている今、秩序の屋台骨が消えかけているも同然だ。

 

 

「――プロキシ、あれを見ろ!」

ライトが指さした先――イアス越しにそれを覗くアキラとリン。

 

『ナナシ!?』

そこには、火の湖の真上にエーテル結晶でギリギリ持っているような不安定な足場で戦っているナナシとグランがいた。一歩滑れば火の中、エーテル結晶の中――そんな、死のリングの上でガチンコ勝負を繰り広げていた。

 

 

「待て、ナナシが火口側にいないってことは、この状況はナナシの作戦の可能性が高いな」

『そ、そうなのかな?なら、ナナシは無事に帰ってくるね!!』

もちろんリンはここで楽観的にとらえていたわけじゃない、少しでもナナシが死ぬ予感がすればそれが引き金となって連鎖的に叫びだしそうになってしまうから――だが、その努力は数秒後リンとアキラが目にしたもので無に帰す。

 

『え?――ナナシ、腕が――』

「――嘘だろ」

画面越しに大きく目を見開く、叫びだしそうだったがなぜか全く声が出ない――温度が高い所だから揺らぎすぎてないだけかともう一度確認するも――。

 

 

 

『ない――ない――ナナシの左腕がない!!』

「こいつはまずいな――プロキシ、そこで待っててくれ俺が助けに行く!」

パニックになったリンはイアスと共に頭を抱える、何かの間違いではないかと思い見てもない――ない、この前までつないでいた手がない。

 

『っ――シーザー、動いて大丈夫なの?』

剣を杖のように使いながら体を引きずり火口に近づくシーザー、動揺している中でも病人を心配する余裕くらいはあった。それは、何やかんやあってもナナシは生還してきたからだ。

 

「ああ、オレは結構頑丈だからよ――それよりも、ナナシが――オレのせいで」

煙幕が焚かれた後、グランの初撃を回避したシーザーのもとに『ファイアブリザード』が放たれた。当然、そのまま行けばシーザーに直撃する場面、ナナシが手を伸ばしシーザーを押しだした。

その結果、ナナシの左腕は吹き飛び――というわけだ。

そして、ナナシとグランの戦いは唐突に終わりを告げた。

 

「あ、アイツ!まだあんな力を残してやがったのか」

既にどちらも限界を迎え、ムゲン・ザ・ハンドを展開しているナナシが優勢のまま勝利するかに見えたが、グランが『ノーザンインパクト』を発動させナナシに放ったのだ。

 

『まずいよ!あの距離だとライトさんも間に合わない!』

しかし、ムゲン・ザ・ハンドによってノーザンインパクトはいなされナナシの脇腹を軽くえぐる程度で済む。

だけれど、怪我が深刻な状態に変わりはない。隻腕と言う都合上、手数は落ちるし脇腹を抉られてもう戦うどころの話じゃない、しかもムゲン・ザ・ハンドもなくなった。

つまり、ナナシにはもう決定打がないのだ。

 

 

そして、こちらに残された手札は、義手を破損し、ヒートショック現象と熱中症のダブルコンボでまともに戦えないシーザーと、ガントレッドが故障したライト、隻腕のナナシしか残されていない。

 

『――終わり?』

リンがぼそっとつぶやく、どうすれば回避できたのか。あの時、カリュドーンの子の申し出を受けなかったら少なくてもナナシは元気なままいたのだろうか、あの日がまさに――ターニングポイントだった。

 

 

その時は来た。

『え?』

ナナシが、右手に持っていたのは火打石だった。そこから、ナナシが何をしようとしているのか瞬時に察する。

 

 

『ナナシ!ナナシ!待って、待って!!』

「やめろ、ナナシ!」

シーザーに抱えられ、更に火口付近まで降りる。そのまま、全力でナナシが戦うパイプを渡っていく。

火事場のバカ力だろうか、シーザーはすぐさま追うライトに追いつき追い抜き――ナナシに手を伸ばす。

 

 

 

その“手は届かず”、ナナシはグランにタックルを決め――そのまま二人で落下していく。

 

「おい!ナナシ、ナナシ!!!」

『嫌だよ!待って、ナナシも――逝っちゃうなんて』

イアス越しに、リンとナナシの目が合う。

何を思ったのかわからないけど、そのすぐあと――ナナシは“笑顔”のまま火の湖に飲まれていった。

 

 

 

ライトが後ろから追いつき、一同は呆然とその場に立ち尽くす。

「シーザー!やりましたわ、これで郊外はしばらく安泰ですわね!」

後ろから声がかかる、見る必要もない――ルーシーだ。

 

「――おう、ルーシー。覇者のオッサンは?」

「ポンペイならホロウの途中でパイパーに託しましたわ、一刻の猶予もない状態なのは変わりませんけど――ところで、ナナシはどこへ行きましたの?姿が見えないようですが――」

そう、今来たばかりのルーシーはナナシが今どこにいるのか知らない。

 

「――ナナシは、さっき火口に火打石ごと飛びこんで――死んじまった」

「はっ?シーザー!嘘をつくならもっとましな嘘をつきなさい!大体、不謹慎ですわ―――え?まさか、本当ですの!?」

シーザーの言葉を最初は疑っていたルーシーだったがライトやイアスの表情――そして、吹き荒れる火柱を目にして――呆然と事実を受け止める。

 

「――くっ、そんなことがあるわけありませんわ!大体、ナナシは“死んでも死ななそう”な存在ですのよ!もしかしたら、火の中を泳いでいたり――」

火の湖の中を覗き込む――当然、そこにナナシの姿は見えず、コポコポと自然の鳴き声がこだまするだけだった。

 

 

 

『――ナナシ、私達を置いて――。ん?あれ――急に近くで空間の乱れが――!?』

「まだ終わってないだと?どっからだ?」

ライトが瞬時に構え警戒する、シーザーも奮起し構える。

 

『これって――ナナシの発信器の反応!?もしかして――!』

ナナシの財布の裏布に一つだけ耐火の発信器が縫い付けられていた。それが、今確かに反応を見せた。

 

上空に裂け目が出現しナナシとグランが落ちて来る。

 

「――シンダーグロー・レイクは救われたか、今回は君の勝ちみたいだナナシ。またどこかで会おう――って聞いていないみたいだね」

ナナシは空中で意識を失い、空気抵抗に沿いながら落下していた。

 

 

『ライトさん、ナナシを!』

ライトはすぐさま跳躍しナナシをキャッチする。かなりの箇所から出血していて、左腕もない脇腹の傷は止血が終わらず今にも出血多量であの世に行きそうな状態だった。

 

 

 

「おい、ナナシ!生きてるか――おい!」

「シーザー!どう考えても起き上がれる状態じゃありませんわ――早く治療に――!」

バイクにナナシを乗せホロウの出口へかっ飛ばした。

 

(ああ、また心配かけちゃったなあ――でも“全員”助けられたし、上々か。でも、ここまでか――)

ナナシは意識はあった。喋れるほどの気力も体力もなかっただけで――それよりも心配していたのは自身の廃棄であった。

もしも、ジ・アースが俺を短時間で製造できるのであれば――左腕を失った俺は廃棄され、別のナナシが聖剣使いとして戦うことになるだろう。

 

 

 

その、憂いを感じながら今度こそ――ナナシの意識は完全に消えた。

 




次回、エピローグ

今回の総まとめと、グランの謎、そしてナナシが支払った代償って一体何なのか?等々明かされることになりますね。
命を削る――うん、そこまで重くなさそうに聞こえますが、ちゃんとナナシは取り返しのつかない代償を支払っていたりします。
ゆゆゆの満開――みたいな?

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
  • こんなアンケートする前に書け
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