これは僕の前日単だ――
目を閉じればその日の出来事は昨日のことのように想起できた。
地獄と言う言葉がぴったり似合う世界――炎に包まれた僕たちの家、耳を塞いでも聞こえる誰かの悲鳴、転がってきた誰かの頭部に四肢、熱いからと川に飛び込んだ結果死体が浮かぶ川、それらは僕の脳裏に焼き付いて離れなくなった。
そこで、僕は何とか命からがら逃げることができた、多くの命の上に立って―――。
聖剣ゼウス、4本ある聖剣のうちの一振りそれは旧都陥落前ある孤児院の院長が所有していた。それが今や、周り回って僕の手にある。
孤児院には先生含めて44名の人がいて、18歳が来たらそれぞれ巣立つことになっていた。
『こらこら、卓也!お部屋の中で走るのは――この間も転んで泣いたばかりでしょう?』
『へへぇーんだ!この俺が二回も失敗すると思ったのかぁ!!――いだぁ――うわぁぁぁぁん!』
日常の風景、お調子者の卓也がいつも通りに院長先生の言葉を聞かず結局転んでしまった、それに院長先生は心配そうに駆け寄って助けに来てくれた。
『よしよし、卓也は強い子だもんね――だから、大丈夫』
院長はいつも僕たちの母親だった、個性の強い僕たちを精一杯育ててくれた。
『まあ、アフロディ。ありがとうねぇ、いつも手伝ってくれて』
『えへへ、お母さんはいつも大変だから私が手伝ってあげるの!』
当時、僕はまだ孤児院最年少の4歳で院長先生を母と呼んで慕っていた、今のように一人称も『僕』ではなかった。
『ねぇ、アフロディちゃん!あっちでお人形遊びしましょう!』
僕の名前は『アフロディ』なのだが、これは僕を捨てた母が刺繡にて衣服に残していたからそうなった。
物心ついた頃から自身の名前が周りに比べて違和感があることは気づいてた、しかし院長先生も特異な名前だったこととそんな程度で差別する程、ここの人間は低俗ではない。
『うん、行こう!海ちゃん!』
目の前で僕に人形遊びを誘ってくれたツーサイドアップにリボンが似合う少女の名前は海、年齢は僕の二歳上で6歳だった。
そして、僕がこの時一番仲のよかった親友だ。
『二人ともお人形遊びしてるの?あたしも混ぜてよ』
『あ、美奈ちゃん!いいよ、いいよ遊ぼうよ!!』
金髪にぴょこんと猫の耳が生えた少女は当時18歳の猫のシリオン、美奈ちゃん。
高校卒業も間近で当然ここの孤児院の卒園も近い、そのため最近はずっと孤児院に居てくれて、そして私達とよく遊んでくれる頼もしいお姉ちゃんだった。
『俺は不滅だぁ!誰にも止められない!』
泣き止んだ卓也が再び院長の手を逃れ部屋を走り回る。
そして、夕日が落ち始めたあたりで――ガチャッと扉が開く。
『ただいまー!』
『帰ってきたぁ!ヤマトお兄ちゃん!』
6時間の授業を終えた、中学生と高校1,2年生組が帰ってくる。
彼はヤマト、当時は高校2年生でキリっと決めたナチュラル刈り上げアップバングシュートがトレードマークのお兄ちゃん。
こんな風に、たくさんのお兄ちゃん、お姉ちゃんが帰ってくるたびによくお迎えに行っていた。
『おや、ヤマトおかえり』
『ただいま、お母さん。もう夕飯の準備してるの?なら手伝うよ』
『あたしも手伝うよお母さん!!』
ヤマトお兄ちゃんと美奈お姉ちゃんは孤児院のツートップって奴でよく孤児院の家事などを手伝っていた。
『私も!私も!!手伝う!!』
『うーん、だったらアフロディちゃんにはジャガイモの皮むきを手伝ってもらおうかな~?』
こんな風に、僕たちの孤児院の当たり前の日常は過ぎていった。
旧都が陥落するその日までは――
夜中、けたたましい警報音で僕たちは目覚めた。
【全員至急、ホールに集合して!】
との院長の号令で僕は海ちゃんと一緒にホールに集まっていた。
ここはよくクリスマスパーティーとかした思い出の場所で、全員そろう景色も初めてじゃない、けれど今日の雰囲気はなぜか一段と重かった。
『――みんな、ホロウが暴走しましたと連絡が来ました。これからあなた達は避難を開始します。避難先には既に話を付けているのでこの地図の通りに、高校生組が中心になって避難を開始してください』
『え?』
当時本当にここにいた人間はそう漏らしていただろう。しかし、院長の必死な表情から訓練の類ではないと察し、すぐさま避難の準備に入る。
『お母さんはどうするの?』
この時の僕は周りが準備しているのを気にせずに院長先生に問いかけていた。だが、その返答は来ることはなくその代わり院長先生の悲痛な面持ちがそこには現れていた。
『行くよ、アフロディちゃん――お母さん、どうかご無事で』
何か知っていた美奈ちゃんは僕の手を引いてすぐ孤児院を脱出していた。
『ねぇ!ねぇ!美奈お姉ちゃん!まだ、お母さんが!!』
手をいくら伸ばしても、孤児院から離れてばかりだった。
『ごめん、ごめんね』
僕はこの時美奈お姉ちゃんに抱っこされながら孤児院を離れていた。だから、よく孤児院の状況が見えた、膨張するホロウ――そこから本来外には出れないはずのエーテリアスのような“白い何か”が孤児院を襲っているのを――。
考えてみれば、あの白い何かの狙いは聖剣ゼウスだったんだろう。そして、院長先生は僕たちを守るために聖剣片手にあの場に残った。
僕たちの脱出から数十分後、孤児院で近くで花火が上がったのかと思うほどの轟音と共に白い光が辺りを吹き飛ばす。光が止めばそこには“白い何か”はおらず静寂だけが残っていた。
『うぅぅっぐすっ――行くよ!』
美奈お姉ちゃんがこの時なぜ泣いていたのかはわからなかった、けどこうやって記憶をたどればわかる。彼女は僕を抱えながら院長先生と通話していたのだ、それで院長先生が自爆してあの化け物と共に死んだこと知ったのだ。
でも、それは悲劇の序章だった――
『ごめん、ヤマトあたしの番みたい――みんなをお願いね、愛してるよ』
『――ッ、俺も愛してる。みんなは任された――だから、頼んだ』
美奈お姉ちゃんは潤む目を正し、僕をヤマトお兄ちゃんに預けた。たいして、ヤマトお兄ちゃんは奥歯を噛みしめながら彼女の“覚悟”に答えた。
そして、すぐに美奈お姉ちゃんは隊列から消えて孤児院にUターンしていく。
すぐにその理由はわかった、ホロウから孤児院を襲った白い何か――いや白い手が無数に現れたのだ。
美奈お姉ちゃんは片手に“弓”を持ち白い手に向かっていく。
けど、数十秒後には――美奈お姉ちゃんの腕と足がむしり取られてその場に捨てられていく。
『ヤマトお兄ちゃん!!お姉ちゃんが!お姉ちゃんがぁ!!』
『あっぅ、美奈――!ッ全員!振り向かず走れ!』
ヤマトお兄ちゃんは美奈お姉ちゃんのほうを振り返ったけどすぐ前を向いて走るスピードを速めた。
その時だった、さっきと同じ白い光があたり一帯を吹き飛ばした。
『――美奈お姉ちゃん?』
そこでやっと察することができた、あの白い光の正体は自爆の光だということに――。
美奈お姉ちゃんが死んでからの記憶はしばらくの間、朧げになっていた。
ずっと、ヤマトお兄ちゃんの胸の中で泣いていたからその時何が起こったのか知る由もなかった。
『卓也――まさか、お前が次なのか――』
『大丈夫、お兄ちゃん!俺は不滅だから!』
そう、最初は院長先生を除いて43人だった孤児院のメンバーがまた一人、また一人といなくなっていったのだ。
これは後から知ったことだけど、聖剣は生きている間に奪われ、なおかつその後聖剣使いが殺されれば新しい適性を持つ人間に渡るのではなく、その相手に聖剣が譲渡される仕組みになっている。
逆を言えば、死んだ後に聖剣が奪われることはない、新しい適性を持つ人間に譲渡される。
そして、その適正にはある程度法則性がある。そして、この孤児院には院長先生が集めた『聖剣ゼウス』の適性者が集まっていたのだ。
数十分後――何度目かわからない全てを破壊する破滅の光が辺りを吹き飛ばした頃、ヤマトお兄ちゃんが足を止めた。
『お兄ちゃん?』
『―――海、アフロディを頼めるか?』
ヤマトお兄ちゃんはゆっくり抱えていた僕を下ろした、それと同時にさっきまでお兄ちゃんの胸しか見えなかった目が周りを捉えた。
『――みんなは?』
さっきまで、43人もいた孤児院の仲間たちは今や、アフロディと海とヤマトお兄ちゃんしかいなかった。
『わ、わかったわ――私、アフロディちゃんのお姉さんだもん!』
『いい子だ――行ってくるよ。二人とも愛してるよ』
この時、ヤマトお兄ちゃんは僕のことは目もくれず、海ちゃんに託して再び無数に現れた白い腕の大群に向かっていった。
『ねぇ、お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!』
『行くわよ、アフロディちゃん――お兄ちゃんとはお別れよ』
海ちゃんに手を引かれて全速力で走る。その途中で、何度も背中からお兄ちゃんの悲痛な声と僕たちの影を作る光が何度も写った。
そして、最後にはまた同じ全てを破壊する白い光が辺りを包んだ。
『はぁ、はぁ――はぁ、痛っ』
『大丈夫よ、後少し――あと少しで着けるんだから』
こうやって走っている間にたくさん転んだ、そのたびに海ちゃんが僕を慰めてくれた。
だけど、自分で必死だから気が付かなかったけど海ちゃんの片手にはあの弓が携えられていた。
そして、ふと後ろを振り向けばまたあの白い腕がこちらに迫ってきていた。
『――アフロディちゃん、この道をもう少し走れば目的地よ!』
『そうなの?だったら、早く行かないと』
日は完全に沈み、暗闇の中をあの白い腕だけが裂きながらこちらに接近してくる。
『アフロディちゃんだけ、だけどね『ツナミウォール』』
トン、と海ちゃんが僕の背中を押してすぐ振り向いた後思えば暗闇で何かはわからなかったけど、とにかく壁ができていた。
『え?海ちゃん!海ちゃん!!!』
その場に残れば何が起こるかなんてわかり切っていた、僅か4歳ながらここまでの行動ができたのはその時すでに聖剣ゼウスの影響を受けていたからかもしれない。
でも、いくら叩いても半透明な壁は破れなくて、いくら泣いても救われなくて。
『早く行って、貴方は生きるの――』
海ちゃんはそう言い残して、白い腕の大群に向かっていった。
ずっと泣きながら走った、海ちゃんを残してその場を走り去ってしまった罪悪感と白い腕への恐怖で頭がいっぱいいっぱいだったのだ。
そして、また――また、また、また――白い光が辺りを包んだ。
『――何これ?』
この時、孤児院最後の人間である僕に聖剣ゼウスは継承された。
『あ、え?あ――』
目の前に現れたゼウスを掴んだ瞬間脳裏写る何かの記憶――そして、聖剣に宿った人間の残滓が僕を襲った。
『生き残る道がないのなら!――刺し違えてでも殺してあげる!!』
『たとえこの手がいくら血に染まっても――戦い続ける――』
『世界のために、最後の一人になっても戦い続けるの――』
『狂ってる――聖剣作ったやつも、使って戦う私達も――敵も、みんな狂ってる』
『――遅かれ早かれ死ぬなら、どうせなら自爆――聖剣は、人の命を部品にしちまった』
脳裏に写り続ける数人、数十人、数百人、数千人という記憶。写った人物たちは老若男女関係なしに散っていった全て、聖剣ゼウスを使った人たち。
『――わた、僕も行かなくちゃ』
ゆらゆらと体が零号ホロウに向かっていく。
きっと、他の皆も同じようにかつての犠牲者の記憶を見て狂ってしまった。
なおかつ、継承と同時期にまだ4歳と人格の形成が完全に済んでいなかった僕は、聖剣の内部にある記憶に浸食され、口調が変わってしまった。
『ダメよ!あなたは行っちゃだめ』
そっと手が肩に置かれる、否ここにはアフロディしかいないはずなんだ。
『お母さん?』
『――大丈夫よ行かなくてもいいの、一時的だけど聖剣と私の魂を融合させられたの。だから――はい!』
耳元でパチンと音が鳴った後――世界が震えだす。
『ごめんなさい、みんな救えなくて――でも、アフロディだけは救えたわ――これで、私も終わりね――今行くわ、アポロ』
院長先生の言葉を最後に僕の意識は闇に消えた。
その後は避難先の別の孤児院に拾われて十一年の時が流れた。
『アフロディ、貴方も今日で15歳です。こちらを渡します、貴方が入ってきたときに持っていたものです』
誕生日の日、院長先生からある手帳を渡された、それは院長先生の手帳だった。
そこには聖剣についてのことが描かれていた。もちろんそこにはホロウが生まれた原因、そして聖剣の願いを叶える力について、そして人工聖剣やそれを応用した兵器についての資料もあった。
『何だこれ―――ほとんど人間の過ちじゃないか――』
この時、アフロディは決心した、過ちを犯した人間には消えてもらって新たな人類を作り出す――そして、より良い世界を作って見せると――。
彼女の運命が始まる。
やっぱり、聖剣はぶっ壊した方がいいな!!うん!
次回からしっかりとした閑話が書かれる予定です。うん、オリキャラの設定考えるのキツイな
ちなみに、ナナシとアポロの場合は聖剣の所有はサクラのままなので、実は影響を受けていなかったりする。――つまり、アイツら元からいかれてる!!
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け