『いいわよ、もうお酒を飲んでも』
その通達がされたのはルーシーと夜中に話をして三日たったころ――唐突に朝目覚めると頭の中で声が響き渡った。
突然の出来事に驚きながらもベッドに腰を掛ける。
(どういうこと?人間の肝臓が再生するのは3ヵ月から1年近くかかるはずだけど)
『あなたが普通の人間の話でしょう』
皮膚の上から触ろうが、肝臓が回復しているかなんてわかるはずもない。
(と言うか、そもそも俺はあるタイミングからお酒を飲んでも一切酔わなくなっていたはずだ)
『あーそれなら解除してあげたわよせいぜい、酒でも飲んで現実逃避していることね』
そっと、壁に体を預け思考する。少し視線を動かせばそこにあるのはピース、ワンカートン。もちろんこの場で吸ったことはない、すぐバレるし、だが俺にとっては手ごろな現実逃避手段だった。
(酒かぁ――)
「はぁ――」
何と言うかろくでもないやらかしがふつふつと湧き上がってくる上に急に飲めると言われても簡単に呑まれてしまうのだ。
ともかく、寝起きでまだ慣れないが義手を取り付け顔を洗うために扉を開け部屋を出た。
「ンナ、ンナンナ!!(いらっしゃいませ、何かお探しですか!)」
「――ノンアルコールビールのおすすめを適当に3つ」
何で言葉がわかるのかはこの際謎のままにしておくとして、前回の失敗を反省したナナシはノンアルコールビールを3つオツリから買いビデオ屋に戻ってきた。
(――朝っぱらから酒をすするって何だか――背徳感があるなぁ)
今日は二人もいない、なので当然だがビデオ屋で観測できる俺の位置情報と盗聴はされることはない。
「はぁ」
確かに味はほぼビールなのだが、やはりアルコールが入っていないため何だか物足りない自分がいた。その上、初めてのお酒がライカンさんに作ってもらったためなんとなくハードルが上がっているのだ。
「はぁ、手っ取り早く酔うならストゼロかなぁ」
ノンアルコールビール缶3本をそっと置きながら、つまみとして用意していた枝豆をかじる。
(今はまだ10時だし、また外に行ってストゼロ買って――そういえば、あの近くに喫煙スペースがあるって聞いたな――ああでも)
「はぁ、カクテルとかまた飲んでみたいなぁ――」
思い出されるのはライカンさんが作ってくれたカクテルたち『ジントニック』『ダイキリ』『ブルドッグ』など、あまりお酒に強くなかったためたくさんは飲めなかったがとてもおいしかったのを覚えている。
「ストゼロのおすすめを適当に5本頂戴?」
「ン、ンナァ!?(し、正気かこいつさっきも来たぞ!?)
オツリに驚かれながらもストゼロを入れた手提げ袋を揺らしながら店を後にする。
そして、近くにあるという喫煙スペースを先に目指そうと思ったその時だった。
「やっほー!来ちゃった!」
「え?」
視線はある一点にくぎ付けになる。胸ではない、一応言っておくが胸ではない――一瞬だけしか見てない。
「な、何でバーニスが!?もしかして何か用事?」
もちろんバーニスが来ていて何ら不利益はない、しかしなぜ俺の居場所が分かった?もしかしたら偶々という線もあるがここら辺にはバーニスの目を引きそうなものはなかったはずだ。
「えぇ~?もちろん、ナナシに用事が有ってきたんだよ~!!」
相変わらずのハイテンション状態からストゼロを持っていないほうの手を掴みずるずると引っ張ろうとする。
「待って、待ってぇ!?」
「待たないよ~」
ここで抵抗してもいいことはなさそうなので大人しくバーニスに連行されるナナシだった。
「――なぜこんなことに」
「着いたよ、ナナシ!」
バイクに乗せられ道路を進んで数分後、ちょうどお昼頃にはブレイズウッドに到着していた。
「ほら、じゃんじゃん飲むよ~!」
「何でさ!?」
「だって、ナナシ朝起きてからずーっとため息ついてるんだもん!それにね、さっきカクテルが飲みたいって言ったでしょ?ほら行くよ~!」
今度は強引にヘッドロックを決められずるずると引きずられていく。
「ちょ、何でさっきの独り言をバーニスが知ってるの!?」
「えー、あっ――なぁんでもないよ~」
あからさまに動揺するバーニスの誤魔化しの最中に視線が動いた位置を俺はちゃんと見逃していなかった。
バーニスになすすべなく引きずられながら左手についている義手を確認してみる。
(――あれ、なんか隙間にそれっぽいのが挟まっているような)
少し触ってみると、円型のゴムのような質感を感じる。どうやら後付けの物のようで接着剤でくっつけられているようで明らかに人為的だ。もらったのは、シーザーだが真っすぐな彼女のことだやるとは思えない。
「あ、取っちゃダメだよ!!」
「――バーニス?」
じーっと、首だけを回しバーニスを睨み続ける。
「あ、ははっ――行くよ~!」
「うげぇ」
彼女の反応から間違いなくこれは盗聴器――もしくは、GPSの類だろう。犯人を白状してもらおうとしたがヘッドロックが強まり追撃が行えなくなる。
「ほら、ここ座って座って!――歓迎のニトロフューエルだよ~!!」
ヘッドロックされたまま引きずられたせいで町の皆から好奇の目で見られながらやっと解放され椅子に腰を下ろす。
「ありがとう――んぐ」
ニトロフューエルをまず一杯、食道と胃はないので体に冷たいものが流れ込んでくる感覚が全身を襲う。それゆえに、体温は奪われ腕に鳥肌が立つのを感じることができるが、飲めば飲むほど頭を支配するお酒による幸福には勝りはせず一気に流し込んだ。
※一気飲みは現実でするとマジで死ぬのでやめようね!!
「お~いい飲みっぷりだよ、ナナシ!私も負けてられないね~!」
バーニスも一杯ニトロフューエルを注ぎ、俺の手からグラスを奪いそこにも注ぎ俺の手に戻す。
「――ああ、なるほどね」
目の前で起きた一連の流れ、そして目の前でグラスを片手にこちらの行動を待つバーニス。
「行っくよ~!「ニトロフューエルでカンパーイ!!」」
二人の声がぴったり重なり、互いのグラスが音を鳴らすそれをゴングとして俺とバーニスのパーティーは始まった。
「ほらほら、おつまみもあるんだよ~!テンション上げてくよ~!!」
「お!おつまみだぁ――!いぇーい!!」
この時点で既に大分酔っていることは明らかなのだがとっくに飲まれていたナナシは次々にニトロフューエルを流し込んでいく。
(――あぁ、頭がとろけていく)
幸いにも聖剣によって彼の脳みそは置換されていないため“まだ”その幸福を甘受することができた。まあ、聖剣の浸食が脳みそまで及ぼうが疑似的に快感を感じることはできるのだが。
なおかつ、ナナシの肺も置換されていないので煙が満ちる感覚をギリギリ味わうことができたのだ。
しかし、数十分後
「あれ~?ナナシがいっぱい見えるよ~!」
「そっちこそ~、いつからバーニスは3人になったんだぁ?――あはっあははは!」
お察しの通りだがそのすぐ後にバーニスとナナシは電源が切れたように、それぞれカウンターを枕代わりにして眠りについた。
もちろん、本来ならバーニスの飲み屋が開店しているのは夜、今は昼。つまり、ここにはナナシとバーニス以外は存在しない――助けも来ない。
不幸中の幸いだがどちらも急性アルコール中毒などは発症せず、そのまま眠りに落ち各々夢を見るのだった。
ナナシが夢に出てきていたのは、アフロディと別れたその日の夜にあった出来事だった。
『――それで、教えてもらおうか――君は一体誰なんだ?』
目の前の白髪の碧眼、顔は色白で整い、淡い雰囲気を感じる少女に尋ねる。
その場にはナナシとサクラの二人だけ、どうやらアルターエゴは締め出されているようだ。
『単刀直入ね――まあ、いいわ。私も回りくどいのは苦手だし――』
そっちから話すと言っておきながらめんどうくさがりながら髪をいじりだす。
『私の名前はサクラ、あなたのオリジナルのアポロの妹で、あなたを作った聖剣に宿った魂よ』
『え?』
後者の聖剣に宿った魂と言うのはなんとなく予想していたが、まさかその魂がアポロの妹までとは思わなかった。
(――つまり、目の前にいる少女が俺の母親?)
『一応そうなるわね――あなたはわざわざ私が製造したお兄ちゃんのクローンよ』
『俺の思考を読めるのか!?』
少女は、してやったりと言う笑みで頷く。
『フェアリーにお兄ちゃんの声で聖剣を探せ!なんて言わせたのも私よ――まさか、早速聖剣使いが出て来るなんて予想外だったわ。少なくとも出会うのには1、2年かかると思ってたのに』
『それは――願いを叶えるためか』
『えぇ、そうよ。別に最初から記憶を作って植え付けてもよかったのだけど、記憶喪失ってことにすれば意欲的に過去を知りたがるでしょ?――そしたら、戦うモチベーションも上がるしね』
ならば、もう隠す必要もないだろうと――俺は、ある質問をした。
『なら、教えてくれ。どうして、俺を作ったんだ!!』
きっと酷い表情をしていた。俺の脳みそなら、既に推測してわかりきってるはずだ――何で、俺には最初から戦う力が備えられているのか、何でアポロのクローンなのか、何で願いを叶えようと思ったのか、何で――何で――何で――アポロの魂は残り続けてる?
その答えはたった一つだ。
『もちろん、お兄ちゃんを復活させる器“兼”聖剣を集める人形として作ったのよ――まぁ、使い捨ての消耗品だけどね』
『――使い捨ての消耗品』
『そうよ、聖剣を集めさせた後お兄ちゃんの魂をあなたに入れるの――当然だけど、そんなことをすればあなたは消えるわ――いや、正確には違うわね』
膝から崩れ、頭を抱える――俺は期待していたんだ――少しだけね。
『本来、作ったクローンは人格データをもとにした行動しか予定されてなかった――けど、確かにあなたにはツール・ド・インフェルノ?って奴以来人間としての人格――魂が構成されているわ』
『――魂?』
確かに色々あった、今までの苦しみから一瞬解放されたような――そして、初めて泣き言を吐き出した気がする。
『――ついでに結末も教えてあげる、あなたの魂はお兄ちゃんの魂を回復させるための養分として使わせてもらうから――もちろん、まっさらにしてね』
『養分――俺は消えるんだな』
幻想を抱いていた、俺の記憶している母親と言うのは――その、酷いものだったから。
『死んでよ!死んでよ!死ねよ!死ねよ!』
発狂しながら、母親はナイフをかつての息子に向けていた。俺はアポロの全てを知ってるわけじゃないけど、アポロとサクラを捨てて他の男と息子を作った戦績を持つ中々のクズだ。
けど、アポロは確かに自分の母親が弄ばれていたことに怒りを覚えていた――それは、少しの間だけでも愛されていたということではないだろうか。
『―――』
そしたら――俺を作った人ならもしかして――なんて思っていた。なんだかんだ、俺を守ってくれる場面は多かったし――愛されてるのかなぁって少しでも思ったのがアホだった。
『――使い捨てってどういうことだ?』
『元々、一人で勝ち残れるなんて思ってないわ――だから、あくまであなたは一人目ってだけよ』
そりゃそうだよなぁとは思っていたが、こうも見事に突きつけられると心にはずっしり来るものを感じる。
『いや、あなたは一人目ですらないわね――正確にはプロトタイプ達もいるもの』
『プロトタイプ――“達”?』
『えぇ、最初は理の律者の力で作ろうとしてのよ?でも、そしたら臓器の位置もぐちゃぐちゃだし、皮膚はあったけど神経を作るのを忘れちゃったりして結局すぐ死んじゃったの』
どういう気分だったんだろう、いきなりこの世界に生を受けて、そしたら作りがめちゃめちゃですぐ死んでしまった。少女の表情を見る気も起きなかった――何と言うか、何も言う気も起きないし――呆然と脳みそが情報を受け取るのを拒否しているような感覚がある。
『何体か試行錯誤していって、ついにあなたが生まれたのよ』
『そうか――』
まだ、夢の続きはあるのだが――このタイミングで俺は夢から覚めた。
「はっ、はぁ――はぁ」
目覚めてすぐ、目に入ったのは心配そうな表情をしたバーニスだった。
「どうしたの?ナナシ、何だかものすごくうなされてたけど、悪い夢でも見てた~?」
「――ああ、本当に悪夢だったよ――でも、バーニスの顔を見て少し楽になった」
首元を少し触ってみると、汗がびっしょりと覆っていてそのダメージが伺える。
「えへへっ!それならよかった!!でも、無理は禁物だよ~!」
どうやら、二人とも完全に酔いは覚めたようで顔は多少赤いが会話はちゃんと成立していた。
「――無理か、してるように見えた?」
「うんうん、ずっと何だか表情がふさぎ込んでるし――えっと、そのね――どこからかナナシのため息もたーくさん聞こえてきたの」
「――カメラもあるのか」
俺の記憶が正しければバーニスと最後に会ったのはツール・ド・インフェルノを終えて郊外を出たきりのはずだ、つまりどこからか俺を監視している可能性がある。
「まあ、この際それはいいとして今の時間は――22時!?」
「ビックリしたよ!私も起きたら20時だったんだもん」
外に出てみると安定の満天の星空が俺の目を奪っていた。スマホを確認してみれば999件のアキラとリンからの通知――だけど、最後のメールにはこう書かれていた。
『バーニスから聞いたよ。今日は一日そっちで止まっていくんだろう?体調には十分気を付けるんだ、いいね?』
と書かれており、どうやらバーニスが既に手を回していようだ。そのメールに適当に返信しつつ酒場に戻る。
「そういえば、バーニスが起きたのは20時だろ?22時まで何してたの?」
「そんなの決まってるじゃ~ん!ナナシの寝顔をずっと見てたんだよ!」
「誰特?」
俺の寝顔なんて見て何が楽しいのやらと思いながらお会計を済ませようとしたその時だった。
「待って、まだパーティーは終わってないよ~!」
その手にあるのは、ニトロフューエルが並々入ったグラス。
「――ああ!」
正直頭の中に浮かび上がってきた悪夢を消去したかった俺は再び酒場の席につき注がれたニトロフューエルを流し込んだ。
数十分後――
「えへへっ!何だか、熱くなってきちゃった!これ、ぬいじゃお!」
テンションと同時に体が火照り始めていたバーニスは来ていたジャケットを脱ぎ捨てる。
「え~バーニスが脱いだぁ!!そしたら、俺も脱いじゃおっかな~!」
と言うバカ二人状態――適当に上のTシャツを脱いだナナシは、ついに力尽きカウンターに再び倒れ込んだ。
「――ナナシ、倒れちゃった~えへへっ、このまま運んじゃお!」
「ZZZ」
この機を狙っていたのかは誰にもわからないが、ついに完全に酔いつぶれたナナシをバーニスは抱き上げナナシの一時拠点まで運ぶ。
そして、“勝手に作り、なおかつ都合よくこの場で持っていた合鍵”で侵入しナナシをベッドに寝かせる。
「えいっ!」
己もそれに続き、ナナシと同じベッドに入るバーニス。彼の頭を持ち、自身の胸に抱き寄せながら眠りにつく。
思い出されるのは、寝顔を観察していた時の話――
『うっ、あぁぁ――ぁあ』
寝言がずっと苦しみに満ちていたナナシを見てすぐバーニスは起こした。
「――私がいるからね~」
彼は胸が好きだからきっとこれでいい夢が見れる――だから、どうかゆっくり眠れますように。
ちなみにその後――
「――あ、あれ?ここ俺の――」
辺りを見渡しても何ら変哲もない家、いつもの場所だ。
(だけどなぁ、バーニスと一緒に飲んでたような、自力で帰ってきたのか?)
当然、そんなわけはないのだが隣にはいるはずのバーニスはいなかった。
『起きなさい、バーニス!』
ナナシの家の扉を容易く“合鍵”で開け入ってきたのはルーシー。
『うへへへ』
『――と、隣にナナシが!?――なら、今起こすのはまずいですわね』
そう言い、バーニスを力任せに分離させ担いで連れて行ったのだ。
そして、その数分後戻ってきたルーシーはそっと上裸で寝ているナナシの写真を撮って部屋を出た。
何て一連の出来事を知る由もなくナナシは帰路につくことになった。
さて、これがナナシが唐突に煙草吸ってた訳ですね。
皆さんは自分の母親に『使い捨ての消耗品』って言われたことあります?俺はありません。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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