弁明させてほしい、誰にしているかわからないがとりあえず脳内で弁明をしておくことにする。
(俺は決して――アポロのようにはならない!!)
「行け―――!!走れ、走れぇ!!」
何やらチケットのようなものを握りしめながら珍しく声を張り上げ、走る馬に対して激励を送り続ける男、ナナシ。
「あ、あぁ!?おい、戻れ、止まれ!抜くなぁ!抜くなぁ!10番!抜くなぁぁぁ!――あ」
「だから、やめとけって言ったのによ~たくさん賭けるからそうなるんだぜぇ」
見事にディニーが溶けて、膝から崩れ落ちるナナシの肩を叩きながら慰めるのは見た目は完全に競馬場には不相応な少女、パイパーだった。
彼女は見事敗北したナナシとは異なり、しっかりと少額ながら勝利したパイパーは券をナナシの目の前で見せつけるようにひらひらと動かす。
「ぐっ――一体全体どうなってるんだぁ!ていうか、パイパーは何でそんなに当てられるんだ?」
「あー、あたしは元々ギャンブル運が強いからな~高望みしなかったら大抵当てちまうんだぜ」
実際彼女の言う通り、さっき少しスクラッチをやっていたがそこでも当てていたし、この間の宝くじでも一発当ててアイアンタスクのエンジンを大馬力のモノに変えて換装していた。
さて、そもそもなぜ二人が競馬場で一発賭けているのかそれは昨日まで遡る。
「――すぅ、はぁ」
煙草を咥えながら、ホロウに居るエーテリアスを次々と片手間に殲滅していく。
その姿は、半ばやけくそになったパチンカスがストレスを台にぶつけている様だった。
「いた――」
この日は、インターノットに掲載されていた郊外のホロウからの救助要請を二人が引き受けイアスに先導してもらいながら人を探していた。
『ナナシ、あんまり煙草は吸い過ぎないでね――体に悪いんだから』
「ああ、気を付けるよ。ありがとう、リン」
そう言いながら、新しい煙草を取り出し『真・熱血パンチ』で火をつける。
進んで行くうちに広場のような場所に出てくると隅に腰を掛けている女性がいた。
「よし、要救助者で間違いなさそうだ」
「ありがとよ、どうやらあたいだけ迷子になっちまってたみたいでさ」
救護対象である赤髪、ショートヘアの女性は参っている様子もなく、それに加えて落ち着いたからなのか煙草まで取り出して吸いだした。
(なんというか、図太すぎない?このまま放置しても帰ってきそうだけど――)
だが、その時だった背中から猛烈な殺気を感じ取り彼女を胸に抱えながら飛ぶ。
「何でこんなにわらわらと」
突然現れたのはデュラハン、タナトスがそれぞれ一体ずつそれにファールバウティも2体出現していた。
デュラハンは相変わらずの片手剣に盾、そして最もうざい敵タナトステレポートと斬撃、射撃を交互に織り交ぜて来るこちらをイラつかせることに特化したような性能。
そして、ゴリラのような体躯、異様なまでに大きな拳を持つ、ゴリラのようなエーテリアス。
『ど、どうするナナシ?ホロウを脱出する裂け目は結構遠いから逃げても追いつかれちゃうかも』
「――確かにこの数と正面戦闘は――いや、やっぱり倒す」
「お、おい!倒せんのか!?こ、こんなにエーテリアスがいるってのによ」
赤髪の女性は一転して吸いだした煙草を思わず噛み動揺しだす。
確かに零号ホロウかよ、と言いたいくらいには数がいるがナナシにはそんなことはお構いなくどうにもふつふつと煮えたぎる苛立ちをぶつけたいという気持ちがあったのだ。
「来い『マジン・ザ・ハンド改』」
左手を上段に構え気を心臓から右手に集中させる。そして、100%と伝わると右手を天に掲げ黄金のマジンを出現させる。
それを見るや否や襲ってきたのは二体のゴリラ――いや、ファールバウディだった。
まず一体目がその巨漢から拳を放つ。強大な一撃がナナシを襲うが振り切られることはなく容易く片手で手首を掴まれ動かなくなる。
「折れろ」
マジンはたやすくそのつかんだ手首をへし折り、空いているもう片方のマジンの手は振り上げられファールバウディのコアを容易く握りつぶした。
「後3体――『ムゲン・ザ・ハンドG2』」
グランとの戦いで一度、アルターエゴに手伝ってもらいながらも発動したムゲン・ザ・ハンドG2は既に単独で使用できるようになっており――出現した8本の腕はファールバウディの体の自由を奪うには十分だった。
それをよしとしないと言わんばかりに襲い掛かるデュラハン、しかし――マジンの両の手はそれぞれ剣と盾を掴み離さない。
それどころか、片手と一体化している剣はぐにゃんと歪められ、盾は装備されていた左腕を引きちぎられ強制的に分離させられる。
「――ちょうどいいか『ド根性バット』ってね」
疲れた俺はマジンとムゲンをそれぞれ解除し、バキバキに装備を破壊しギリギリコアだけ無事のデュラハンの足を掴む。
(疲れやすくなってるな――サクラが言っていたのは本当だったのか)
デュラハンを上段に構え、ムゲン・ザ・ハンドが解除されたことにより身動きが取れるようになったファールバウディに叩きつける。
両者の声にならない悲鳴と同時にコアは砕けどちらも塵に帰った。
「後はお前だけか、タナトス」
「!“#$%&‘()(’&%$#!!)」
ま、この後はお察しの通りナナシがタナトスを瞬殺した後イアスを抱えながらのんびりとホロウを出た。
で、問題は出た後の話――俺達が助けた女性、名前はイグニスと言うのだが救助された翌日に呼び出されていたのだ。
「こんにちは、イグニス。どうしたの?」
「おっ、来たかナナシ――実はな会ってほしい奴がいるんだ」
それで、なんと紹介されたのがなんとパイパーだったというわけだ。
「イグニスってカリュドーンの子のメンバーだったんだな」
「そうだぜい、昨日こいつらがポカをやらかしちまったみたいでよ~それがバレないように外部に頼んだって聞いた時は呆れたけど、救助したのがプロキシたちだったとは驚きだったぜい」
「あ~そういうことね。で、どうしてパイパーと会ってほしかったの?」
「そ、そいつはな――ちらっ」
イグニスの目線がわかりやすくパイパーの方に向くどうやら、既に示し合わせているみたいだ。
「――よし、行くか~」
「何の脈絡もないんだけど!?」
と、気づけばあれよあれよと連行され競馬場で一発賭けていたわけだ。
「パイパーそろそろ何で俺が連れ出されているのか説明してくれない?」
「――隠すこともないかぁ、実はな――」
少し考えるそぶりを見せた後、訳を話し始めた。
「イグニスから相談を受けたんだよ“あたいを助けてくれた奴を助けてほしい”ってなぁ――聞くところによるとスゲェ辛そうな顔をしながら八つ当たりしてるみたいって聞いたもんだから詳しく聞いてみたらよ。大当たりだったぜぇ――」
「その大当たりって――俺?」
「まぁな、本当に“逐一”見ないと気づかないくらいだけどよ――ナナシの雰囲気が変わったのは薄々みんな気づいてたんだ。ここが、チャンスと思って連れ出したってわけよ」
そんなにわかりやすかったと顔をぺたぺたと触りながら考えるも、一つの引っかかりを覚える。
「“逐一”?」
「おっと、乙女の隠し事を探るのはあまり褒められたことじゃねえぜぇ」
いつものけだるげそうな瞳の奥から漂う『探るな』のオーラ。
(いや、私生活覗かれるのは普通に怖いんだけど――言ってくれれば別にいいのに)
「――ほら、さっさと次に行こうぜぇ」
「うん、詳しくは聞かないでおくよ」
観念したナナシはなすすべなく乗り込み行先のわからぬ旅に向かった。
「くぅ~」
相変わらず車に乗ると秒で眠ってしまうナナシ――それを確認しながら、ハンドルを足に任せ彼の左腕に手を伸ばす。
「レンズが軽く曇ってるみたいだな――よし、これでまたくっきり見えるぜぇ」
手早く、彼の左腕の義手に仕込まれた隠しカメラのレンズを拭きハンドルを再び両手で握った。
(――そこね)
ほんの少し目を開け確認していたナナシはそのまま何事もなく眠りについた。
「ほら、行こうぜ~」
何と、起きてみれば到着していたのは郊外ではなく新エリー都だった。そのまま、連れられてついたのは――
「ナナシさん、もう誤解じゃすまないと思うんですけど」
「――同感です」
そこは、俺の行きつけのパンケーキ屋――そう、既にかなりの誤解と思い出が積み重なった馴染みの場所だった。
ついて早速席に座ると接客しに現れたライさんに呆れられてしまった。
「はぁ――ここまで行くとナナシさんが質の悪いホストにしか見えなくなってきました」
「まあ、あながち間違いでもねえんじゃねぇかな~」
なぜか同意するパイパーに首をかしげながらも、いよいよ弁明する言い訳もでてこなかったので甘んじて受け入れる。
「ご注文はどうします?ナナシさんはいつものですよね」
「うん、「「特製パンケーキ、甘さ控えめで」かぶせて来たか――」
「じゃ、あたしも同じのを頼むぜぇ」
その後、注文を復唱してライさんは去って行った。
「そういや、ナナシはここにはよく来るのか~?さっきの店員を結構親し気だったじゃねぇかよ~」
「うん、パンケーキが好きなんだ。特に、ここの特製パンケーキがね!」
初めてニコと行ったときに俺の遺伝子と言うか本質的な何かが語り掛けて来るような衝撃が伝わったのを今でも覚えている。
「本当にそれだけかぁ?あの別嬪さんが目的なんじゃねぇのかい?――随分、ボッキュンボンな狐の姉ちゃんじゃねぇかよ~」
「ち、違うから!!本当にパンケーキが好きなの――なんか怒ってる?」
「あたしが怒ってる?そんなことがあるわけないだろお~、なあ?」
(いや、絶対怒ってる!?)
普段ののんびりとした口調、そして細目の眼光の奥が全く笑っていないのを確認しながら水を一口含み、対策を練る。
「そ、そういえばパイパー最近忙しそうだよね――やっぱり新しいルートの影響?」
「まぁな~輸送ルートの管理が忙しくなっちまったんだ、これじゃあしばらく引退はできそうにもないぜぇ」
ツール・ド・インフェルノの前に前覇者ポンペイが開拓していた新ルートを任せられているカリュドーンの子――まあ、腕が確かなパイパーが中心にやるのは不思議じゃない。
(それに、パイパーがやらないとルーシーの胃に穴が開きそうだしな)
「初めて聞いた、パイパーって引退を考えてたの?」
「おうよ、最近は肩こりがひどくてなぁ、後継が育ったら引退してギャンブラーにでもなろうかなぁって思ってるぜぇ」
「――ギャンブラーか、確かにパイパー強いしなぁ。それに、そっか――人生は長いもんな」
さっきもそうだが、パイパーはギャンブル運が強い。実際にそれを目の当たりした者からすれば、笑える話ではない。
「ナナシもずっと戦ってるわけじゃねぇんだろ~?だったら、引退したら一緒にギャンブルでもしようぜ」
「――うん」
「ナナシ?」
「い、いや――俺ゲームの類は弱いけど、パイパーと一緒なら楽しそうだな~って」
我ながらわかりやすい誤魔化しかただが、おそらくそこまで怪しく思わなかったのかパイパーからの追撃はなかった。
(いつかは、言わないとなぁ――自分がクローンです!よりも言いにくい)
胸に秘めた思いをそのままにしてパンケーキが到着するのを待った。
「お待たせいたしました、特製パンケーキ二つです。――ごゆっくり~」
「ありがとうございます、ライさん」
お礼を言って、パンケーキに手を付けようとしたが、いつもはそそくさと急ぎ足で厨房まで帰っていくライさんがその場から動かなかったので思わずそちらに視線が向く。
「ライでいいですよ、ナナシさんがこの店に来てもう長いですし――」
顔をほんのり赤く染め、もじもじとパンケーキを乗せていたお盆を手で遊ばせながら話す。
「そっか、じゃあ俺もナナシって呼んで『ドン』――どうしたの、パイパー?」
そっちがライと呼んでくれと言うならこちらもナナシと呼んでもらおうかなと思ったが、その時急にパイパーの方から『ドン』と何か叩いたような音が鳴った。
「いや~ちょっとフォークを落としちまってつい大きな音が鳴っちまったんだ――ライって言ったかい?今は、ナナシとこいつが話してるんだ惚気は後にしてくれねぇかな~?」
「――はい、言われなくてもすぐに行きますよ――それじゃ、ナナシまたね」
そう言い残し、ライは厨房に足早で帰っていった。
「パイパー、一応言っておくけど俺とライには何にもないからね?」
「そうかぁ?その割には、こいつと会った時より大体――5度くらい口角が上がってるぜぇ?」
同時に彼女の両の手が俺の頬の肉をつまむ。
「うっ――はひはに、言われてみればそうかもしれないけど――その、親近感が湧いてくるだけなんだ」
「親近感?」
「うん――何だろうな、本当に俺もよくわからないんだけど――妙な安心感と言うか――うん、そんな感じ?」
この店に入って一目見て、なんか同族のように感じたのだ。一体何の同族かはわからないが何か似ている物を感じたのだ。
「――そいつは、一目ぼれって奴じゃねぇのかよ」
「え、なんて言った?」
「何にも言ってないぜ~」
確かに何も聞こえなかったが唇が慌ただしく動いていたのは確認した。てっきり俺が聞き逃したものかと思ったが違うみたいだ。
「なあ、ナナシは豊胸手術ってどう思う?」
「どうしたの、そんな唐突にさ」
「いや~こいつが好きな相手がどうやらでっかい胸が好きらしくてなぁ、金はあるわけだし、ここいらで一発大きくするかなって思ったわけよ」
(なるほど、これはいわゆる恋愛相談と言うやつではないか――くっ、全然わからん)
わからないなりに思考を巡らせる。
そして、ついにとある回答にナナシは行きついた。
「俺は必要ないと思う、なぜならパイパーには、パイパーなりの強みがあるからだ。いつもは、けだるげに見えてもしっかり周りを見ている所も、一見荒々しい運転だけど必ず安全に送り届けてくれる優しさも、自分の引退を後にしてカリュドーンの子のために後進を育成していく仲間思いな所も、その容姿だって全部パイパーのいいところなんだ。だから、相手が好きな風に変わるんじゃなくて相手を自分が好きになるようにアピールするのがいいと思う!!」
「お、おう――」
早口でまくし立てたせいか、パイパーは少し引いていたが当のナナシは内心『決まった~』なんて思っていた。
(いや~大体空気が重くなったことしかない『愛とラブは劇場で』のワンシーンがここで生きるなんて)
もちろん、思っているのは真実だ。あくまでフォーマットを借りているだけ――しかし、どうにもパイパーの表情が晴れない。
(それにしてもパイパーの好きな人か、一番近しいのであればライトか?いや、アキラって線もあるな――そういえば、この間エンゾウさんと話の馬が合うとか何とか言っていたような気が――いや、それ以前に異性以外の可能性もあるのか――ルーシー?いや、それともイグニスか)
考えても、考えても決定的なエピソードが浮かび上がらず結局、迷宮入りとなってしまった。
「なあ、ナナシさっき言ったことは本当かい?」
「うん、間違いなく俺の本心だよ――何なら、その好きな人に魅力を伝えるためなら協力も惜しまないよ!!」
「そ、そうかぁ?――なら、心強いぜぇ」
当然、ナナシは自分の首を思いっきり絞めるどころか折っていることにも気づかずに曇った表情が晴れたパイパーに満足しながらパンケーキを食べ進めた。
食べ終えて、外に出た後――パイパーを車まで送りながら話していた。
「今日はありがとう、パイパー。少し、心が軽くなったよ」
「そいつはよかったぜい――せっかくなら原因もついでに教えてくれないのかい?」
「ん――それは――その~」
言い淀むナナシ、別にやましいことがあるわけじゃない。――ただ、話す勇気がないのだ。
そうやって、数十秒ドギマギしていた時、パイパーが一歩俺より前に出て向き直る。
「話したくないならいいぜ~誰でも人に話したくない秘密の一つや二つはあるもんだからな――けど、辛くなったらこいつに話してくれよ」
「うん、ありがとうパイパー。いつか――俺の覚悟が決まったら話すよ」
それを最後にナナシとパイパーは別れた。
ちなみにその後――
ナナシと色々巡った帰り道――今回勝利した馬券で得たディニーを見ながらふとパイパーはつぶやいた。
「ナナシっていくらくらいなんだろうなぁ――」
一方ナナシは――
ビデオ屋に帰ることなく一人、海を見ながら黄昏れていた。
「――ごめん、パイパー。話せなくて」
あのタイミングで話せば、当然アキラとリンにも伝えることになる。そして、伝えるほどの覚悟をナナシは持ち合わせていなかった――そんな彼がしたのは夕暮れを覗きながら、
え?何か不穏だって?気のせいやな!!
さて、ナナシが話せなかったこととは何なのか!!それは次回まで待っててください!!
え?閑話・ナナシとバーニスでやったやたら鬱々深い話じゃないかって?違うよ~もっとだよ、もっと――
後、別に作者はナナシをいじめるのが好きというわけじゃありません。
そういえば、気づいたらお気に入り数が299件になっていた――記念すべき300は誰なのか!!
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け