『マスターナナシ、起きてください。既に予定時刻を4時間オーバーしております』
「ッ!嘘!?」
フェアリーに起こされベッドを跳び起きる。確かに、時計を確認してみれば起きる予定だった6時より二時間オーバーした10時を指していた。
今日はシーザーたちに招待されて郊外に行く約束になっていたのだ。
「ありがとう、フェアリー起こしてくれて――もっと早く起こしてほしかったけどね!!」
『はい、ですがマスターナナシの睡眠時間は以前と比べて飛躍的に増加しています。そのため、以前よりも早い時間に就寝することを推奨いたします』
「うっ――考えておく!」
急いで、服を着替えて諸々準備してビデオ屋ブースに行って見るとたくさんのお客さんが来ていて18号だけでは対応できずアキラとリンがいそいそと手伝っていた。
「ナナシ、起きたみたいだね。店には僕たちが残るから先に向かうといい。エンゾウおじさんが改造した新車の試運転で郊外に行くらしいから、僕はその時に便乗させてもらうよ」
「え?で、でも俺車の免許持ってないんだけど」
無免許運転なんてニコじゃあるまいし、また朱鳶さんや青衣さんのお世話にはなりたくない。
「大丈夫、ほら外を見てナナシ」
リンが指さした外の方をジーっと見てみると窓の隙間から馴染みのバイクが覗いていた。
「ライト!?もしかして、ずっと待ってたのか」
「いや、ついさっき来たばっかだ――ほら、乗れよナナシ、郊外まで飛ばすぞ」
そんなわけないだろう、とライトの優しさを感じながらバイクの後ろに乗り、ヘルメットを被せられて郊外まで行くことになった。
今日は、郊外のお祭り?『清算の日』一段と郊外は賑わいを見せていて、あちらこちらで戦い?喧嘩?勝負が巻き起こっている。
「清算の日についてはこの間に説明してたよな、ナナシ」
「うん、だけどここまでの賑わいとは思わなかったよ」
清算の日と言うのは、すごく簡単に言えばやられっぱなしの憂さを晴らす日だ。
郊外には『三日やるから決闘で白黒つけろ、ただし三日過ぎたら全部水に流せ――』なんてルールが存在するためここで晴らしてやるというやつらが大集合しているのだ。
「そういや、ルールの説明はまだしてなかったな。決闘者は双方が『信用の証』を用意する――いわゆる賭けの『チップ』だな。勝った方がそいつをもらえる――簡単だろ?」
「そうだけどさ、でも――あそこの猫を伸ばしてる奴らも勝負してるってことなんだろ?」
大の大人がどこからか拾ってきた猫を伸ばして勝負している、近くにチップらしいものも置かれているため間違いないだろう。
「そうだ、昔はそれなりにピりついていたが、今はご覧の通りさ。うちの大将はあの性格だ、敵を作ることも因縁付けられることも滅多にないからな。ああ、いう決闘の内容もあり得るってわけだ」
「マジでお祭りだな――おっ、あっちは射的にじゃんけんやってる。楽しそうだなぁ」
よく見ればちらほら出店もある、ここら一帯が本当にお祭りの会場のようになっているだろう。
「それよりナナシ、せっかく来てるんだ。俺らと今日まで組んできて、これを機に『清算』したくなったことはないか?」
「『清算』かぁ――」
特に思いつく事柄はない――しいて言うならばこの『左手』の借りをグランに着払いで返却してやりたいくらいだがライトやカリュドーンの子の皆に清算したいと思うようなことはない。
考えていると、ソフトモヒカンに目に傷をつけたいかつい大男が近づいてきた。
「貴様だな?カリュドーンの子の切り込み隊長ってのは――俺とやれ!『信用の証』はこのブローチだ。」
「――」
どう考えても決闘の申し込みだが、当のライトは中々口を開かない。
「どうした、ビビッて声も出ねぇか?はっ!覇者の名を背負ってる連中のリアクションとは思えねぇぜ、笑わせらぁ――さっさと構えろ。さもなくば媚びへつらって、このアンドレアス様のご機嫌を取れ」
「このブローチ――おたくには相当大事なもんじゃないのか」
ライトは決してビビったわけではない、アンドレアスが差し出した信用の証があまりに重いものだと感じ取ったのだ。
「ったりめぇーだ。ポンペイの親分から直々に賜ったもんだぞ。こいつぁ郊外じゃ栄誉の象徴見てぇなもんだ――ま、貴様みたいな青二才は拝んだこともねぇだろうがな」
「それほどのモノをかけるんだ、死ぬ覚悟はできてると思っていいんだな?」
「覚悟ぉ?貴様らガキどものごっこ遊びに、生きるも死ぬもあるか!はなっから、俺は負けるつもりなんてねぇ!」
アンドレアスは舐められていると思ったのか、それとも大げさだと感じ取ったのか大声でまくし立てる。
「待てって、こっちだってあんたと同じくらい大切なものをかける必要が出て来るだろう?そっちは要するに決闘したいんだろ?なら、信用の証はライトが選んでもいいんじゃないか?」
場を和ませようと、両者にとってのいい着地地点を示す、どうやら成功したようでそれぞれグローブをかけて戦うことになった。
正直、第一印象だけならライトが余裕で勝利する物かと思ったが、アンドレアスはその体格に似あう力任せの攻撃ではなく、冷静に弱点を突いてくる技巧的な戦い方で“序盤”は対等に戦えていた――しかし、ナナシはその戦いの結果を見ることはなかった。
「よう、ナナシ!」
「おっ、ベルラム――もしかして、清算の日の決闘?」
話しかけられ振り向くと、いつぞやの道で戦った熊のシリオン、ベルラムが現れた。
「生憎だけど――ライトは今取り込み中なんだ」
「わかってる――今日の相手は野郎じゃねぇ、いつぞやの借りを清算しに来たぜナナシ!!」
「なるほど、あの日のね」
渡される、ボクシンググローブを渡され察する、どうやら俺への借りを清算するために今日は来たらしい。
「さてと、やりますか――そうだ、信用の証はどうする?」
「ニトロフューエルを一杯奢るってのはどうだ?」
「乗った!」
あの日のように正面戦闘を受けて立つことを誓ったナナシはグローブをはめ構える。違うのは、今日はどちらもグローブを付けて戦うこと、もちろん必殺技なんて無粋な真似はしないし、あっちも武器なんて使わない。
股関節を曲げて腰を落とし両の手を両者構える。
「いっくよ~!開始!!」
審判を頼んでおいたバーニスの合図で戦いは始まった。
序盤、アンドレアスと対象的に重い一撃をこれでもかと繰り出してくるベルラムに対して守りを固めるナナシ。
何度かの攻防の末、勝利をもぎ取ったのはナナシだった。
「ここっ!」
「ぬわぁっ!」
ボクシングは基本的に無酸素状態で殴り続けるので必ずどこかで限界が来る、あれほど大きな肉体で何度も殴り続ければなおさらだ。
『はぁっ』と僅かな息の途切れを狙ったナナシの拳は相手が防御するもなく顎を突き刺しベルラムをKOさせた。
「お疲れ、ナナシ」
「見てたのか、ライトそっちは――聞くまでもないか」
さっきまでライトが戦っていた場所を見てみれば、ライトをたたえる喝采がまさに起こっていた。
「まあな、こっちも一発当てさせてもらった」
「うん?それ何?」
ライトがひらひらと動かしている見慣れない券だった。
「こいつはニトロフューエルくじって言ってな、ニトロフューエルを買う時、一緒にくじを買って決闘で応援する方にあらかじめ置いとくのさ。――どうやら、今日はナナシにベットすればニトロフューエルには困らなさそうだな」
「俺はそんなに恨みを買ってる覚えがないんだけど――」
「そりゃそうだが――ま、今日は逃げられないだろうな、そうだ俺にベットしてもニトロフューエルには困らないぞ」
周りを見渡せば、いかにも力自慢と言うやつが腕を鳴らして待ち構えている。そしてこれから始まることを予感しているのかわらわらとニトロフューエルを構えて待つ住人達。
「ライト、半分手伝って」
「ああ、そのためにここに来たんだ――今日は、戦いには事欠かないな」
その後は、カリュドーンの子の腕自慢達などの挑戦者たちとの戦いに明け暮れた。その中にはじゃんけんや腕相撲、射的大会、ニトロフューエル飲み比べ――中々苦戦した戦いもあれど、じゃんけん以外は全戦全勝を収めることができた。
戦いから一日飛んで、清算の日三日目
「ナナシ、手を貸してくれないか?」
「え、いいけど――何するんだ?」
清算の日二日目、この日はアキラとリンも一緒に来るらしいので、俺とライトにかけてもらってニトロフューエルをたくさん飲んでいたら気づいたら1日が終わっていた。
「この前のアンドレアスを覚えてるか?」
「あーやたら高圧的だったやつね、なんか恨みでも買ってたのか?」
「そんなところだ、『カリュドーン』時代のだけどな」
カリュドーンの子の前身となったグループ、カリュドーン。まさに、覇者が変わる象徴でもあるこの清算の日にカリュドーンに恨みを持つ奴らが清算しに来てもおかしくないと思っていたが、ライトの表情から察するにかなりの面倒ごとらしい。
「ああ、ちょっと聞き耳を立てていた時に奴の口から色々ぼろが出てな、奴らの親分であるポンペイと合わせることを条件に聞いたんだ」
「そっか、ポンペイが生きていることは内緒――だもんな」
「ああ、話を聞くに奴らは今日、ブレイズウッドに全面攻撃を仕掛けるらしい」
「なるほど、面子を潰そうってわけか」
ブレイズウッドには今、地域住民やよそのチームも相当数いる。もしも、新しい覇者であるカリュドーンの子がことを収められなければ面子は文字通りの丸つぶれ。
カリュドーン時代からの恨みをぶつけるにはちょうどいい場所ってわけだ。
「で、そいつらをボコボコにしようってわけね――行こう!」
「ああ、祭りを楽しんでる奴らには極力バレないようにな」
そして、俺達はホロウの中に突入した――
「フェアリー進路を教えて」
『はい、承知しました。マスターナナシ、ですがマスターと助手1号がマスターナナシがホロウに行ったことについてバレたようで、大変お怒りの様子です。』
「宥めるのも頼んだ!!」
そういえば、俺の装備のどこかに盗聴器がつけられてたな――なんて今更思い出しながらフェアリーに誘導を頼みつつホロウの奥へ進んだ。
「昨日は単独で色々調べてたんだが、その時に経路も把握した。ブレイズウッドに進ませるわけにはいかないからな――道中で清算させてやることにしよう」
「うん、なるべく早く帰って俺は言い訳の用意をしておくことにするよ」
「ナナシに必要なのは言い訳かな――「え?」――何でもない」
軽口を言い合いながら、エーテリアスを叩きつぶしていく。俺とライトは戦い方が似ているのでとてもウマが合う。
そして、数度の裂け目を越えた後――敵の主力までたどり着いた。
「おい、誰の許可で道を塞いでんだ。さっさと失せろ」
開幕、目が合ったのは偉そうな構成員――そして、多すぎる取り巻き共だった。
「断る。ここを通す気はないんでね」
「左に同じ、お前らこそ誰の許可を取ってブレイズウッドにカチコミかけようとしてるんだ?」
手にはバールやナイフ、拳銃を持っている奴らもいる。どう考えても祭りでレッツ清算と言うわけではなさそうだ。
「んん――?そのいでたちにグラサンってのは、まさかカリュドーンの子の『赤いマフラー』か?それに――誰だお前?」
「おいおい、カリュドーンの子の連中――俺達相手に『赤いマフラー』といかにも雑魚そうないでたちの無名の奴らだけとか正気かよ?」
二人がこちらを煽ると同時にげらげらと笑い出す集団たち、そんな中ライトとナナシは冷静に最後通告を出す。
「俺らに不満があるなら、公平に決闘で白黒つけろ。ブレイズウッドまで巻き込むな」
「ガーッハッハッハ!『公平に決闘』――だと?郊外はいつから『公平』なんぞを重んじる場所になった?ここは拳で語らう土地だぜ、何が公平かを決めんのは勝者だろうがよ」
「その郊外の勝者――いや、覇者が公平を重んじてるんだ、なら従うのはお前らの通りじゃないのか?」
「へっ、タダのおままごとの間違いだろ?」
俺は最後の確認と言わんばかりにライトと目を合わせる。
「今日いっぱいはまだ『清算の日』――ルールに則り、あんたらは俺達に決闘を申し込める」
「そうだな、いつでも俺達が決闘に付き合うけど――どうする?」
「ルール?ハハッ、それこそおままごとだろ!!無駄話はやめだ――いくぜ!」
偉そうな構成員が号令をかけると同時に、とびかかってくる3人の構成員たち――だが、ライトの拳が一閃されると同時にその場に崩れ落ちた。
「うわ~いっぱい、いすぎだろ!ざっと100はいるんじゃないか?適当な目測だけど」
適当に首を動かしても右も左も前も後ろも敵がわんさかいる、と言うか高所にもいるから上にもいることになる。
「なら一人50人だな――右は頼むぞ」
「じゃ、そっちは左で」
それぞれ、取り分を決め別れる。
「カリュドーンの子、ライト――」
「パエトーン所属、ナナシ――」
「「あんたら/お前ら全員に決闘を申し込む」」
「全員だと?てめぇらは何を賭ける?」
まだ余裕そうにトラックの荷台に腰を掛ける偉そうな構成員。
「この、赤いマフラー」
「俺は、聖剣『ジ・アース』」
それに答えるように、相手のリーダーも宣言する。
「なら、こっちは過去のツケだ!フン、ちったぁ楽しませてくれよ――」
そして、決闘は始まりを告げた。
「『ムゲン・ザ・ハンドG2』」
8本の手を大きく伸ばし、構成員たちを出来るだけ一か所に集める。
「悪いけど、俺は一人一人丁寧に相手する気はないんだ『正義の鉄拳G4』」
一か所に集まった構成員たちを正義の鉄拳が吹き飛ばしていく。その様は、まるでエサがパックンによって食われている様だった。
「うわー吹っ飛んでったなぁ」
「よそ見してんじゃねぇよ!!」
振り下ろされる、棍棒のようなものを右手で掴み“握力”のみでひしゃげさせる。
「それは失礼――ほら」
正拳突きは相手の腹部にめり込みそのまま崩れ落ちた。
「さて――ライトの方も順調だな」
再びムゲン・ザ・ハンドG2で相手が動ける場所を制限して正義の鉄拳G4で押しつぶす。
「このこの!――壊れねぇぞ、この腕!!」
鈍器でドンドンとムゲン・ザ・ハンドを叩く構成員たち、だが逃げることはできずその数秒後には正義の鉄拳が下されるだろう。
近づいてきた奴はさっき腹パンで倒したやつの足を持って殴りまくっていた。
「これが『ド根性バット』ってな」
「ナナシ、それ鉄パイプに変えたほうがいいんじゃないか?」
何か、振るうたびに『うごっ』『うげっ』『ぐはっ』『ぐきっ』と音が聞こえる気がするが、気にせず振りまくる。
そして、数分後――敵は一人を除き全滅していた。
「ほら、後はお前一人だな」
「ま、待てよ!二対一は卑怯じゃねぇか?――せめて一人ずつこの俺様が相手になってやるからよ!」
「どの口がほざいてんだ?」
さっきまでとんでもない物量でこちらを倒そうとした奴が今度は情けなくハンデを要求してくる始末だ。
「――どうする、ライト?」
「そうだな、なら俺が――いや、ナナシがやってくれ」
「え?――まぁ、いいけど」
こうして、最後の一人と戦うことになったのだが――この時、俺は知らなかったこれら一連の出来事がライト達の罠であることに。
え?結果が知りたいって――?もちろん、瞬殺でした。
「『清算の日』のルールに則り――おたくと『カリュドーン』のツケはこれでチャラだ」
相手が倒れると同時にライトはそう宣言した。
「――それじゃ、帰ってニトロフューエルでも飲みに行きますか」
「残念だが、ナナシにはまだやってもらわなくちゃいけないことがある――乗って行ってくれ」
「え?――わかった」
気づけば夕日が落ち始める時間、そんな中俺達はバイクに二人乗りながら郊外の道を爆走していた。
「かつて、俺のせいで傭兵団の仲間が死んだ。当時はどれだけ悔やんだかわからんが――一つはっきりしてたのは、俺の命程度じゃ償いにもならないってことだった」
「それは、カリュドーンに入る前ってことだよね」
「そうだ、仲間の遺族へ十分な保証をするのに、相当な借金を抱えたよ。あれは本当に、先の見えない日々だったな―――」
そして、結果的に首が回らなくなってしまったライトは地下闘技場に向かい戦うことになった。
「そこからの時間は――曖昧だった。証明が一人、また一人と対戦相手の輪郭だけをぼんやり照らし、聞こえるのは耳障りな感性と罵詈雑言――そんな場所にしばらくいるうちに、俺はどんどん人の目を見られなくなっていたんだ。相手の目に写る俺自身が、恐ろしくてな」
「自分自身が恐ろしく――」
それは自分がクローンだと告げられる前に自分自身の正体がわからず恐ろしく思っていた時期の俺に重なったせいか、少し顔をしかめる。
「やがて、おやっさんが来て借金を肩代わりし俺をリングから引っぺがしてくれた。このマフラーを巻いてくれたのも彼だ。俺の拳は派手で、負けを知らないように見えたんだと。これからは、カリュドーンの子のために勝ちまくってくれ――とな」
「それで、今のカリュドーンの子に来たわけか――絶対今の方が向いているな」
「ああ、ここへ来てしばらくは、結局また殴り合いの興行めいたことをやってんのかと腐ってたこともあったが――気づけば、本気でここの皆を守りたいと思うようになっていた」
空を見上げながら、何かを振り返るようにライトは過去を想起していた。
「もちろん、ナナシも俺にとっては守るべき仲間だ――だからこそ、あの日のあんたがやったことを許すつもりはない」
「ぐっ――だけど、その――苦肉の策と言うか――ね」
おそらく、シンダーグロー・レイクにグランと共に飛びこんでいった時だろうが、痛いところを突かれて思わず胸が痛む。
「――俺はもう仲間を失う羽目になるのはごめんだ――だから、この後の出来事も明日になれば笑って許してくれると助かる」
「え?――待って、なんか嫌な予感が急速に高まるんだけど――ちょ、ちょっとライト!その、ここらへんで降ろしてもらえば六分街には自力で帰れるんだけど!!」
「悪いが、このバイクの行先はブレイズウッドにしか無くてな――準備はできてるか?」
「何も出来てないよぉ!?」
だが、高速で移動し続けるバイクから飛び降りるわけにもいかず、なすすべなくブレイズウッドに連行させられた。
「う、うわ~何でみんないるんだ?」
ブレイズウッドの入口に到着するやいなや真っ先に目に入ったのは、シーザー、ルーシー、バーニス、パイパー、そしてアキラとリンだった。
「ナナシ、今日までは『清算の日』だ――つまり、わかるな?」
「決闘ってことね――みんなと?」
「そう言うことだ、まずはオレ様から相手になるぜ!」
シーザーが相変わらずの円盾と剣を構える。
「決闘内容は一対一の真剣勝負――参ったと言うか気絶で終わりだ」
「いやいや、待って待って――何で決闘?なんか清算したいことでもあるのか?」
いつの間にか、知らないうちに何か恨みでも買っていたのかと動揺するがシーザーは首を横に振る。
「ちげぇよ、オレらからナナシへ恨みなんてないけどよ――知りたいことはあるんだ」
「知りたいこと?」
「ああ、もしオレたちの誰かがナナシに勝利したら、この前からずっと辛そうな顔をしている理由を話してもらうぜ」
「――カメラか」
パイパーが認知していたことで嫌な予感は察知していたがまさか清算の日を狙ってこんなことまで仕掛けて来るとは思わなかった。
「まさか逃げたりはしねぇよな」
「そのつもりはないけど、そっちの『信頼の証』はどうするんだ?」
「こいつだ!」
シーザーや他の皆が懐から取り出したのはどっかで見おぼえのある券。
俺の行きつけのパンケーキ屋の商品券だった。
「この間、パイパーについでに買ってもらってたんだ――さぁ、始めようぜ!」
「乗った!」
「やっぱり、パンケーキには目がありませんわね」
もちろん、かなり不利な戦いだ――そして、薄々察していたが――おそらく一人で事足りる戦いに俺を突き合わせたのか、それは俺を弱らせるため。
(でもね、悪いんだけど――負ける気はしないんだ)
1時間後――
「次は俺だ!」
「まだいんのかよ!!」
もう何連戦目かも忘れた――シーザーとルーシーとバーニスとパイパーは既に下した後、カリュドーンの子のメンバーが次々と決闘を申し込んできた。
もちろん、シーザーほどの使い手じゃないそのため簡単にあしらうことができる。
「次はあたいだ!」
「イグニス、お前もか!」
かつて、ホロウ内で助けたイグニスとの戦いや――
「よっ、オレっちと再選と行こうぜ!」
「お前はカリュドーンの子ですらないだろ!!」
初日にボクシング勝負で下した、ベルラムとの再戦――
「私は、カリュドーンの子に入ったしいいわよね」
「プルクラ――ま、いいけどさ」
戦いで絆を結んだ友達とも戦った。
問題は、とにかく物量が多い、多すぎる。
だが、あたり一帯に気絶したメンバーの山が作られかけたその時――喝采と共にさっきまで休憩していた男がこちらに歩み寄る。
「さぁ、普段は最初だが――この戦いの最後はチャンピオンが相手だ」
「――本当に最後だよね?」
この時点で大分不利なことがわかる。ナナシとライトは共に戦ったがこっちはさっきから休憩なしで戦っているが、対してライトはずっと休んでいたため全快状態。
「はぁ――不利だなぁ」
すっかり夕日が落ちた空を見上げながらぼやく――ここまでにたくさんの相手と戦ってきた。道中の対戦相手達はもはやパンケーキの商品券なんて信頼の証として出さず色々なものを出してくれた。主に、ニトロフューエルを一杯奢るというものだが。
「それで、ライトは何を賭けるの?パンケーキの商品券?」
「俺が賭けるものは――この、赤いマフラー」
「そっか、最近寒いからちょうどいいかも」
こうして、戦いの火ぶたは切って落とされた。
だが、予想通り一方的な戦いになっていた。
「ハァ、ハァ――くっ」
「どうした、さっきよりも鈍くなってるぞ」
そう、体力がもう限界なのだ――ひたすらガードを固めながら相手からの拳は必要以上はさばかないなど、工夫しながらナナシは戦っていたがそれも限界が近い。
「――動く必要がないだけだ」
「なら、こいつで終わりだな!」
ナナシのガードを貫き、ライトの拳が直撃する。そのまま。体は吹き飛び柱に直撃する。
「バーニス、確認してくれ――流石に拳が直撃して、柱にも頭をぶつけて起き上がれるとは思えないが」
「オッケー!――どれどれ~」
柱に体を預けたまま、ナナシはあの日の夢を想起させていた。
『いい、言っておくわよ――あなたには当然だけど生きる上でのリミッターがかかってるの。それが、時々起こる強制シャットダウン、つまりは意識が飛ぶのよ。あなたにも時々起こっていたはず』
『ああ、毎回結構都合よく意識が飛ぶなぁと思ってたけどそう言うことか』
デュラハンを倒した時、サクリファイスを倒した時、アフロディと決着をつけた時、グランの一撃をもらっとき――等々これだけじゃないが、おそらくこれがリミッターってやつなんだろう。
『今のあなたはそれが外れてるの、そのせいかわからないけど強制的に気絶なんてのは起こらなくなったわ』
『おーつまり意志を持ち続ける限り立ち上がれるってこと?』
『えぇ、でも一応の忠告よ――リミッターが外れてる状態と言うのは普通じゃないのよ、あなたのリミッターが壊れた日からあなたの命は加速度的になくなってる。もちろん、必殺技を使うことによってもね』
目を開き、驚くライトを見据える。
「大丈夫だ、バーニス。まだ、戦える」
「マジかよ――」
これが、消耗していても勝てると確信した理由だ。
「――そして、ここは俺の間合いだ『マジン・ザ・ハンド改』『ムゲン・ザ・ハンドG2』」
さっきまでは、ライトがとんでもない接近戦を繰り広げてきたせいで発動するタイミングがなかったが吹っ飛ばされ間合いができた今、現時点で俺が使える最強の陣形を展開する。
「さて、ファイナルラウンドと行こうか」
「コーナー際の俺はそりゃあ激しいぞ」
ライトとマジンの拳がぶつかり合う――とんでもない威力を持つライトの一撃――しかし、相手が悪かった。
すぐに押し負け、次に柱まで吹き飛ばされたのはライト。
しかし、すぐさまよろけながら立ち上がる。
「――悪いな、本当なら負けるべきなんだけど――俺には覚悟がない」
ムゲン・ザ・ハンドG2がフラフラのライト目掛けて向かい8本の同時攻撃は容赦なく襲い掛かる――そのまま地面に叩きつけられる。
「俺の勝ちだ――」
そう宣言して、倒れたライトから背を向けた瞬間――気配を察知し前に跳ぶ。
「なっ、これも避けるのか左のカウンターを打ち込んでやろうと思ったんだがな」
「――うっそだろ」
対する俺も体力をほぼ全て消費した一撃の為マジンとムゲンはそれぞれもう消えかけだ。
そして、この状況から周りの者は察することができた。
『次の一撃で勝負が決まる』
どちらも満身創痍――ナナシも必殺技が再度使えるような状態ではない、ライトももう次の拳が当たればもう立ち上がれないだろう。
「違うだろ、ナナシ。あんた以上に覚悟を決められる男はいない――伝えられないのは俺達を信用できてないからだ」
「ッ!!」
ライトのその結論はツール・ド・インフェルノの時、迷わずグランと飛びこむことを選んだことに裏打ちされたものだった。
「だから、ここであんたを倒して俺達が信用できる相手だと証明する」
「――やれるもんなら」
だからこそ、ナナシの心を震わせる。
既に、ナナシのムゲン・ザ・ハンドG2は完全に消え、マジンも消えかけ。
対して、ライトは肩で息をしマジンの一撃をもろに受けたダメージが蓄積しているのかどこか目が虚ろに見える。
「はぁぁぁぁ!!」
「おぉぉぉぉ!!」
拳がぶつかる前のわずかな刹那、マジンの輝きはいっそうに増す。
「ぐっ――」
だが、マジンの拳の勢いに負け徐々に押される。
だがここで切札である、ライトはナックル付きガントレット『爆燃動力グローブK.O.』に内蔵されているジェット推進を全開で起動する。
「なっ――」
「おぉぉぉぉ!!」
その意思はマジンを打ち砕き、ナナシの頬にガントレットは突き刺さった。
「――うっ」
「俺の勝ちだ、ナナシ」
チャンピオンは片手を上げ、勝利を見せつける。
彼こそ、無敗のチャンピオン――ナナシは立ち上がる意志を打ち砕かれそのまま意識を手放した。
翌日、清算の日が終わった後――勝利したライトとアキラとリンに約束通り話すことになった。
「まず――どうしよっか、そうだ落ち込んでた理由だよね――まず、実はさ俺普通の人間じゃないんだ」
「それは、ナナシは何かのシリオンってことかい?この間裸を見た時はそんな特徴はなかったけど」
「いや、そう言うわけじゃない俺は――クローン人間なんだ」
俺は、色々な顛末を話し始めた。まず、俺がアポロと言う先代のジ・アースの使い手のクローンであること、生まれた理由はそのアポロを蘇らせるため聖剣を集めること――全て集めれば、俺――ナナシと言う存在は消えることも。
それを、アキラとリン、ライトは静かに聞いていた。
「だから、実は記憶喪失じゃないんだ――最初から何も持ってなかっただけなんだ」
「それが落ち込んでる理由?」
「――いや、正直アキラやリン、カリュドーンの子や他の陣営の皆にそれを話したって問題ないと思ってた――けど、ね」
別の問題が生じた、俺も信じられなかったいや、信じたくなくなっていたが正しいだろう。
「俺さ――もうすぐ死ぬんだ」
「え?」
それを最後に時が止まったような静けさの中でリンはわずかに言葉を紡ぎ、ナナシの手を取る。
「それはつまり、ナナシは――ナナシは―――」
「ああ、死ぬ――言っておくけど、病気とかじゃないんだ――単純に寿命が来る」
アキラには一瞬彼の瞳に宿っていた光が、まるで夜空の星が雲に覆われるように薄れていく。言葉が詰まり、うまく頭が回っていないのを肌で感じていた。
「いや!ナナシ死ぬなんて言わないで!」
「――もし俺が死んでも――きっと次のナナシが二人を助けてくれるだから――」
「待て、ナナシ。それ以上、言うんだったらプロキシたちの代わりに俺が殴ることになるぞ」
ナナシの言葉を遮ったのは、さっきまで口を閉じていたライトだった。確かな怒気を含んだ声と、悲しさを色濃く宿したその瞳とのコントラストが彼の心情を物語っていた。
「アキラ、リン――こいつは後で帰すから今日は先に帰ってくれ」
「――わかった、けどナナシ――これだけは先に言わせてほしい」
アキラは俺の肩を掴み、いつもならここからとんでもない理詰めの説教が始まるところだが、彼から出てきたのは大粒の涙だった。
「僕たちにとって、ナナシは一人だけだ。決して、それ以外はいない――だから、次なんて思わないでくれ」
「私も、同じ気持ちだよ」
「ああ、約束する」
そう言い残してアキラとリンは郊外から去って行った。
「――どうだ、話して」
「スッキリ半分、罪悪感半分ってところだな」
だが、話さずにぽっくりと静かに死ぬよりかはましだった気がする。俺の中でもなんとなく踏ん切りがついたし。
そして、心を落ち着かせるために
「煙草は止めとけ、代わりにこれを食べな」
「うん?――ああ、飴か確かに落ち着くよね」
ピースは肺活量を利用し一気に吸い終わる。その代わり、ライトからもらった黄色い飴を口に放り込む。
「ま、ナナシ――すぐ死ぬってわけじゃないんだろう?その日が来るまで俺が守ってやるさ」
トンと俺の肩を叩きライトもその場を去って行った。
「飴、美味しいなぁ」
一人になったナナシは飴を舐めながら、少しの後悔をぐるぐると考えていた。
俺は決して、全てを話したわけじゃない。もちろん嘘をついたわけじゃない、本当のことを言っていないだけだ。
『加速度的に寿命が減ってるって言ってたけど結局どのくらいまで生きれるんだ?』
『そうね、おそらくこの調子で消費し続ければ来年を迎えることはできないわ』
『俺が生まれたのは6月6日なのに半年くらいしか生きれないのかよ!!』
思わず叫ぶ、何でそんな短命に作ったんだよ!と言う驚きと、もう二人と会えない時間がものすごく近づいてきている実感によるものだった。
『それはどうにかできないのか?』
『無理ね、言うなれば物語の第1話からひっくり返さなきゃいけないくらい、決められていた結末よ。どうにかしたいって言うなら必殺技を使うのを辞めたり戦わなければ多少は抑えられるでしょうね』
そんなことはできないとわかり切っている。この先に現れる敵からアキラやリン、みんなを守るためには戦うしかないのだ。
最初に聞いた時は全く信じられなかったが最近疲れやすいし、今日だって4時間遅れて起きるなんて大失態だ――笑えなくなってきた。
少し落ち着きの無くなったナナシは、再び
「あ、さっきのが最後の一本か――」
箱をいくらのぞき込もうがひっくり返そうが新たな煙草が出て来ることはない。
「俺の
さて、きっとこれが投稿されているころには上にChapterの名前が表示されているころでしょう。ぜひ察してください。
ついに色々話してしまったナナシ。来年を迎えられないということはアストラさんのイベントを見ることはできませんね残念ながら。
それにしても、誰かに手を下される間もなく死ぬなんて驚き~!
ちなみにナナシの誕生日である6月6日はクローン個体産生規制法が施行された日だよ!!
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け