ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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ハッピー!バレンタイン!!


アポロEP 『マイナスからのプロローグ』

 

 

彼は出生から普通ではなかった。

父親は家におらず、パチを打ちに行き、母親は一人“家”で出産を行っていた。

 

9月21日、彼は母親の叫びを耳に残しながら誕生した。

「んぎゃっ―んぎゃぁぁぁ!!」

 

 

生まれた後、母親はそっと愛しいわが子を抱き寄せ名前を付けた。

「こんにちは、私の愛しい“(りつ)”」

 

誕生した子供の名前は影山立(かげやまりつ)。まだ、アポロではない――のちに、世界を救う英雄の誕生だった。

だが、彼の幼少期の幸せは“数秒後”終わりを告げた。

 

「おい!俺が帰ってきてやったんだぞ、ババア――んだこいつ?ああ、俺のガキか、ちっ堕ろせつったのによ――まぁいい、ほら金」

「え、生んだのに――その「うるせぇ!金出せ、金!」い、いやそれはこの子の――」

だが、父親は強引に母親の財布から金を抜き取り強引に扉を開けて、おそらくパチを再び打ちに行った。

これが、自分の父親との初対面でした。

 

 

父親は毎日家にいるというわけではなく、あとで知ったことですが母親の祖父と祖母の遺産から捻出された金を奪って遊び歩いている――母親曰く、パチか風俗か、薬物の三択だそうです。酒は下戸なので飲めませんでした。

 

そして、当の生まれたばかりの立くんですが彼にはすでに異常は起きていました。

「―――」

一切しゃべりもしなければ、泣かないのです。夜泣きしていたら、すでに殺されていた可能性があるので不幸中の幸いといえるかもしれませんね。

しかし、一つ特徴がありました。それは、ひたすらに母親の顔を見続けるという特異性です。

 

「どうして立は泣かないのかしら?――あの人の子だからかな、本当は女の子がよかったけど」

さて、一体どういうことなのか――これは、彼の本当に彼の父親が関係していました。

 

 

 

彼の父親は楽物中毒者でした。そして、ご存じかもしれませんが薬物は子供にも重大な欠陥を引き起こします。

立くんの場合は、感情を司る偏桃体に致命的な欠陥が見れました。

 

 

偏桃体とはロボトミー手術で摘出する脳にある器官なのだが、これがないと恐怖、怒りそして喜びなどの感情を感じれなくなります。

幸い?と言って偏桃体が完全に停止することはありませんでしたが、家庭環境とも相まって自身で感情を感じることが難しい体で生まれてきてしまいました。

 

 

 

さて、それは一体どういうことなのでしょうか?

 

少し時間を進めてみましょうか――

 

 

ちょうど彼が7歳くらいの時ですね。

『ぁぁっぁぁぁっ!!』

耳を刺すような叫びを上げながら、父親の灰皿となっている立くんですね。

今日は幸いにも、腕の焦げた個所を2,3個増やした程度で済んだようです。両腕全体が真っ黒になったら次はお腹ですかね?

 

 

ですが、その数秒後――自身の妹であるサクラのもとに向かいました。

 

「にーちゃ!にーちゃ!」

彼女は、自身の兄が受けている仕打ちなんて知る由もないでしょう。今も、布団の上で幸せそうに、はしゃいでいる妹の姿を見て――兄は

 

「よかった、お兄ちゃんが絶対守るから」

確かに彼の口角は上がり笑顔になりました。妹の笑顔を見た瞬間だけ、彼の心にある空洞を埋めることができるのです。

そして、この頃から立くんはサクラを守ると口癖のように言い始めていました。それが、この先の呪いの言葉になることも知らず。

 

 

これが、立/アポロ、そしてナナシの歪みの根源でもある部分です。

他人の幸せでなければ自身の幸せとして考えられない――つまり、サクラの幸せ=立の幸せなのです。

 

『――呆れた。どこか狂ってるんじゃない?』

エレンが以前、ナナシに向かってこう言ったことがありました。その理由は自身の怪我よりもエレンのメイド服を汚したことを心配したからです。

 

実際その通りだったわけですが――

 

 

では、予備知識はここで終わり。

 

もちろん、彼の地獄のような日々にも終わりは案外あっさり来ました。

当時、彼は11歳で小学校に通っている年ですが、虐待のことが公になると困るので軟禁状態(父親のちょうどいいサンドバック)でした。

 

 

朝、起きるとすぐに父親に手を引かれとある病院に連れていかれました。

 

「な、何?お父さん」

「うるさい、黙ってろ、ゴミ」

有無を言わさず、ついていくと何やら父親と大人が話しています。使われている言葉が難しくとにかく父親の声が大きいことしかわかりません。

 

「ほら、書け」

「え?」

目の前に差し出されたのは一枚の紙きれ――当時の立くんには読めるはずもありません。

何なら、字すら書けません。

 

「もしかして、字が書けないんじゃないのかい?」

もう一人の大人の人がそういうと、必死に立くんは頷きます。

 

 

「ちっ、使えねぇゴミだな。生きてりゃぁ、字は書けんだろうがよぉ!!」

「ごめんなさい――」

父親の怒鳴りに向かって謝罪する立くん、お前が小学校通わせてないんだろうがよと、突っ込みどころはあるがこの場に突っ込むものはいなかった。

 

「だったら、君がサインをしてこの子に拇印させればいいんじゃないか?」

「そうか、その手があったか――まぁ、このゴミに拒否権はねぇんだからそもそもさせる意味はないんじゃねぇのかよ」

「そんなことはないさ、保険だよ。保険」

「ちっ、お医者様ってのはきっちりしたもんだな」

そして、結局彼の名前を書いた父親は立くんに無理やり拇印を押させその“誓約書”は完成されました。

 

 

「それじゃ、行こうね。立くん」

「え、い、いや」

医者と呼ばれた男に手を引かれる立、けれど本能的にそれを拒否しました。なぜなら、ここで医者についていけば致命的な何かを失うような気がしたからです。

 

「行け!」

「うっぐぅ」

父親からの全力の蹴りをもろに背中に食らった立は背骨を抑え座り込んでしましました。

 

「ちょっと何やってるんだい?立くんの体は大切なドナーなんだから」

「どなー?」

「ちっ、ほらさっさとやっちまえ藪医者――ほら、行けよそれともサクラにやらせんのか?あぁ?」

「サクラはやめて!――やります、やりますから!!」

その瞬間、立くんの意識は暗転しました。ドナーの意味も知らないまま。

さて、結論を言いましょう、彼が連れてこられたのは闇医者の所です。目的は当然、金。

 

母親の祖父と祖母の遺産が尽きたので子供の臓器を売っちゃおうというわけです。度し難い屑ですね。

ですが、これが立くんの人生を好転させるきっかけとなるのでした。

 

「う、うん?」

目覚めた立くんは麻酔がかかっていようがすぐに理解しました。自分の体から何かがないことを――少し苦しくなったことも。

 

「やぁ、お目覚めかな立くん?――あぁ、君のお父さんならもうお金を受け取ってどこかに行ったから」

「お医者、さん?何をしたの?」

おびえる目で医者を見る、彼には何かおぞましいものにきっと見えたのでしょう。

 

「あぁ、君の腎臓を摘出したんだ。もう、君に要はないからさっさと出ていきなよ」

「え、え、え、え?」

腎臓と言われても、彼には何もわかりません。結局その日は医者に言われた通り帰路につくことになりました。

 

 

 

そうして、結局彼のサンドバック生活は明日も続いていくのかに思えたが――事態は急変しました。

 

 

父親が死亡しました。

「え、お父さんが?」

母親にそう告げられた際、何を感じたか――いや、何も感じていませんでした。いや、正確に言えば感じられませんでした。

でも、妹を守りきれたので少しほっとしていたかもしれません。

 

原因は薬物の過剰摂取によるオーバードーズ。昨日に立の腎臓を売却して作ったお金で大量に薬物を買って、一発キメたらキメすぎてしまったようで誰にも助けられることなく死にました。

 

 

これで、ついに立くんとサクラちゃんに平穏な毎日がやってくる――なんてありえませんでした。その頃、サクラは6歳となり、少し情緒が出来上がってきたころ、兄に甘えっぱなしの時期でした。

 

そもそも、立くんが盾になっていたので父親との交流も少なく被害は最小限に済んだことが不幸中の幸いといえた唯一のことでしょう。

 

 

 

そして、母親、立、サクラの3人での生活が3か月ほど過ぎたころ――あの俗物がいなくなったおかげで立くんの体の傷は少し治癒していった頃でした。

 

「――お母さん、少し出かけてくるから、これでも食べていなさい」

そういう、母親の顔は何とも悲痛で、何かを決断したようなとにかく普通ではありませんでした。

そして、机の上に置かれているのはたまに作ってくれる“パンケーキ”でした。しかし、サクラが生まれてからは一回も作ってくれたことはありません。

 

 

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!これ、食べていいの?」

「うん、いっぱい食べるんだよ」

こうやって、妹にご飯を譲るのも彼にとってはいつも通りの行いでした。それが、自身にとって一番幸せだと直感的に知っているからです。

 

「お兄ちゃんも食べて!食べて!」

「ありがとう、サクラ」

妹からのあーんでパンケーキを口に運ぶ、そして兄も妹に食べさせあう、仲睦まじい兄妹の光景がそこにありました。

 

 

「行ってくるわ」

そう言い残し、母親は玄関の扉を開けてどこかに行ってしまった。

(お母さん最近ずっと出かけてる――どうしたんだろう?)

 

 

 

その日以降、母親は帰ってくることはありませんでした。

 

簡単言えば、他に男を作って二人を捨てて出て行ったのです。もちろん、現在11歳と6歳ではそんなこと想像もつきません。

ちなみに、母親が残した料理がパンケーキなので、ナナシもアポロも好物はパンケーキとなっています。

 

 

翌日になっても母親が帰ってこないことから二人はある問題に直面しました。それが、食糧問題です。

「お兄ちゃんのご飯、お母さんよりおいしい!!」

「ありがとう――大丈夫、絶対サクラはお兄ちゃんが守るから」

幸いにも母親がメシマズだったおかげでサクラから文句が出ることはありませんでした。

そんな中でも、数日は冷蔵庫にあるものに何とか火を通すことで誤魔化していましたが、尽きたころどうしようかと立くんは考えていました。

 

 

その時でした。突然、閉じていた玄関の扉が開き誰かが入ってきました。

「君たちが、立くんとサクラちゃんかい?」

「え、あなたは誰?」

風貌は完全に白髪の入ったおばあちゃん。話を聞けば、彼女は母親の祖母だそうで二人を助けに来たそうです。

 

 

ここで、違和感を覚えた人はちゃんと文章を読んでますね。

 

「本当におばあちゃんなの?」

「そうよ、私があなたたち二人のおばあちゃんなの――だから、これからは一緒に暮らしましょう?」

そう、冒頭あたりにもあったが、すでに祖母は死亡し、その遺産を使って父親はパチや薬物などをキメていたわけなので目の前の女性が祖母の可能性はないのだ。

 

 

そう、彼女こそ立とサクラの人生をぶち壊す要因を作った人物。

こうやって身寄りのない子供や親と交渉し売却してもらうことで、聖剣『ジ・アース』の適合者の候補を育成、洗脳しているのだ。

もちろん、二人の場合は後者――そう、母親に身柄を売られたのだ。

 

「はい」

「お兄ちゃん――大丈夫?」

「大丈夫、お兄ちゃんが絶対サクラを守るから」

拒否権なんてない、なぜなら立の幸せとはサクラの幸せだからだ。

そして、二人は家を出ることになった――

 

 

「ふふっ――兄の方は妹を使って脅せば何でも言い聞かせそうね」

そして、再び苦しい生活が始まる――かに思えたのだが――

 

「おばあちゃん!!大好き!!」

「えぇ、えぇ――おばあちゃんもサクラちゃんのこと大好きですよ――もちろん、立くんもねぇ」

彼らの面倒を見てくれた祖母名乗る女性は彼らの壮絶な身の上話を聞き、彼らに薬物での洗脳教育をすることを辞め、人間として二人育てることにしました。

 

 

 

 

だけど、障害はすぐに訪れました。

 

「これは、不味いわね」

というのも、サクラは現在6歳――全然問題なく入学は可能。

問題は、立――こいつは現在11歳、本来なら小学校高学年として生活するはず、なのだが本人はずっと軟禁状態のためなんと文字すら書けない、読めない文字も多いという悲劇的な状態になっていた。

 

 

「こうなったら――」

偽祖母はありとあらゆる手をもってして立を――なんと小学1年生として入学させることにしました。

というのも、虐待や栄養失調によって立の体があまり成長していないおかげでギリギリ1年生として誤魔化せそうなのだ。

 

 

「行ってらっしゃい、今日はお祝いに“パンケーキ”焼いてあげるから」

「お兄ちゃんいってらっしゃーい!!サクラ、家で待ってるから!!」

こうして、立の小学生としての生活が始まりました。当初は夏でも長袖を着込んだり、常識がない立を不思議そうな目で見る人も多かったのですが、段々と日常に溶け込められるようになっていました。

 

 

まるで、これまで手に入らなかった当たり前の日常をなぞるように。

 

 

そして、季節は変わり冬――今日は立くんの誕生日。偽祖母――ではなく、おばあちゃんは今日も彼の大好きな“パンケーキ”を焼いてくれて、なおかつプレゼントもくれるということで、本来ならあり得ないくらいウキウキになって帰路についていました。

 

「これください」

「はい、180円です」

お金を払い、手に入れたのはパンケーキと一緒にサクラにも上げようと買った“アポロチョコ”これを溶かして食べるとイチゴとチョコの味がして美味しいのだ。

 

 

そして、学校で習ったスキップをしながら家までの道を歩く。

「ふっふーふふっーふーん」

本来なら、偏桃体が壊れた彼には自身で幸せを感じるのは難しいのかもしれない、けど外に出ておばあちゃんと暮らした彼は確かに幸せを感じていた。

 

 

だが、この時の立は知る由も気づく余地もなかった。とある場所で起こった4つの出来事。

一つ!数日前フレデリカ・二コラ・テスラによって人工聖剣の実験が成功したこと

二つ!組織の裏切りによって彼女と先代『ジ・アース』の使い手ヨアヒムが抹殺されたこと

三つ!裏切り者たちによって人工聖剣の力で核兵器の使用禁止を解除する願いが叶えられたこと。

 

四つ!先代『ジ・アース』の使い手の死亡によって次の使い手に継承されたことも当然知らなかった。

 

 

 

「う、そでしょ」

その幸せはまるで当然かのように踏みにじられるのだが、立くんが帰って扉を開けるとすぐ目に飛び込んできたのは――おばあちゃんの死体だった。

 

「なんだ、まだ居たのか?――まあ、こいつは継承者じゃない、連れていく必要はないな」

「お兄ちゃん、助けて!!」

男の声が暗がりの中から聞こえたと思えば、いわゆる特殊部隊というのだろうか、そういう装備を付けた大男が現れたのだ――サクラを抱えて。

 

「おい、離せよ!!」

「どけ」

すぐさま自体を察した立くんは大男に飛び掛かるも、小学生の貧弱なパワーではどうにもできずすぐさま壁に叩きつけられてしまう。

 

 

「かえ、せ――か、えせ」

「なんだこいつ、気持ちわりぃ」

叩きつけられようが彼はすぐ立ち上がり向かってくる。だが、爪楊枝を折るくらい簡単に立を次は地面に叩きつける。

 

「返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、返せ、かえせぇぇぇ!!」

まるで、ゾンビのように何度も立は立ち上がり男に向かっていく、最初は軽くあしらっていた男にも段々とその姿を見て恐怖が沸き上がっていく。

 

「なんだ、こいつ――」

「はなせぇぇぇ!」

だてに11年地獄を味わったわけではない、立のリミッターはとっくにぶっ壊れていたため何度も立ち上がることができたのだ。

 

 

「く、来るなぁぁ!!」

バンッ――と男が持っていた拳銃の音がこだまする。やっちまったと顔を抑える反面、やっとこいつを沈められたと安心感も同時に感じていた。

 

「絶対――ま、もるから――たすけ、るから――」

「お兄ちゃん!!」

(なんだ、こいつの目は――恐ろしすぎる)

住宅街の銃声なんて目立ちすぎる。すぐさま証拠を隠滅する必要があると考えた男は居間にあった灯油をそこら中にぶっかけ火を放つ――こうして、立の物語は終わったかに思えた。

 

 

 

「遅かったかしら――いや、ここまで大規模な証拠隠滅は中々ないわねもしかしたら、何か情報があるかもしれないわ」

バイクに跨りながら冷静に分析する赤髪の女性――彼女は燃えさかる家の中にも表情一つ変えず乗り込んでいった。

 

「聞いた話だと、ここは聖剣適合者のプラントの一つだって話だけど、銃声がどうして?」

確かに、漏れ出ちゃいけない秘密の一つではあるものの似たようなプラントでは子供は薬物などで洗脳され反抗なんてありえないはずなのだ。

 

 

「――酷いわね、この人はきっとここのプラントの主ね。でも、どうして――仲間割れかしら?――あら」

壁に寄りかかり死んでいるおばあちゃんの遺体に手を合わせながら、辺りを探索すると燃え盛る日の中に人影が見えた。

 

「誰!!出てきなさい」

「かえ、せ――かえせぇぇぇ!!」

飛び掛かってきたのは、半狂乱のまだ小学生くらいの子供。すでに、ボロボロながらその目には常軌を逸する狂気を宿していた。

 

 

「もしかしたら、何か知ってるかもしれないわ。寝ていなさい」

「うっ――ぐっぅ」

燃え盛る家の中、子供を抱えすぐ脱出する。

こうして、立の運命は大きく変わることになる出会い――彼の師匠となる女性。無量塔姫子との出会いだった。

 

 

 

姫子に助けられて、すぐ隠れ家に運ばれた立くん。“不思議”な生命力によって即日彼は全身の痛みを感じながらも目覚めた。そして、すぐに目に入ったのは知らない天井と知らない人。

「――ッ!ここは―――お、おばさん誰!?」

「おっ――おば、おばさんですって!?人の顔を一目見ておばさんなんて、一体どんな教育をしているのかしらこのクソガキが――まぁ、いいわ。私の名前は無量塔姫子、それであんたは――」

「サクラは!!サクラはどこ!?」

おばさんと呼ばれたことに対して青筋を立てる姫子に対して、話を全く聞かず半狂乱状態で姫子につかみかかる立。

 

「いないわ、推測するにやつらに連れていかれた可能性が高いわね」

――すぐさま、手を払い襟を整えながら姫子はさも当たり前のようにそう告げた。

 

 

「早く、助けに行かな――あ、あれ?」

すぐベッドを抜け出してサクラを助けに向かおうとする立、しかし体が思うように動かず倒れこんでしまう。

 

「無駄よ、銃弾をまともに食らって炎であぶられてすぐ意識が戻るだけでもおかしいのに、すぐ助けに行けるはずないでしょ?――それに、どこに助けに行くのよ」

「そんなことどうでもいい!!助けに、行くんだ。約束――したんだ」

「聞いちゃいないわね」

半ば半狂乱で、逝ってしまった目で地面を手で漕ぎながらもぞもぞと隠れ家の出口に向かう立くんの髪を姫子は持ち上げ目を無理やり合わせる。

 

「――聞きなさい。あんたが選べる選択肢は二つよ。一つ目は、このまま孤児院に入るか、私と一緒にあんたの妹を連れてったやつらの施設を襲撃する――前者をとれば、あんたは きっと人並みに幸せな生活が過ごせるわ。でも――後者の場合なら、あんたの望み通り妹を助けられる可能性がある、けれど命の保証はないわ」

「連れて行ってくれ、おばさんの戦いに、俺を連れて行ってくれ」

「いい返事ね、なら最初の命令よ。おばさんじゃないわ、姫子先生と呼びなさい」

「――はい、姫子先生」

今の自身の実力でサクラの奪還は難しいと本能的に察していた立くんは姫子の申し出を受け入れざるを得ませんでした。

 

 

一方、なぜ姫子が立くんを誘ったのかというとまず、単純に聖剣の適合者の候補ということ、調べによればラボには人工聖剣という聖剣を疑似的に再現した聖遺物が存在するとのことでそれを彼に使わせ戦力としようと考えていたのだ。

 

「そうだ、あんた名前は変えなさいよ。コードネームみたいなものね、立を名乗ってたら相手に素性がバレるかもしれないわ、だから名前を考えなさい」

「名前――」

深く、立くんは考えました。名前なんて当然考えたことはなかったからです。なおかつ、人生に思い出したくない山しか存在しない彼にとって過去を想起するのは地獄の所業です。

 

 

「あっ――」

そんな彼の目に入ったのは立くんの持ち物がおかれている机。ランドセルはもちろん、財布など――そして、帰ったらみんなで食べようとしていた“アポロチョコ”もあったのだ。

 

「アポロ――アポロにする。ぁあ、今日帰ったらパーティーだったのに――みんなでパンケーキを食べて、プレゼントもくれるって言ってたのに――サクラも楽しみにしてたのに――あぁ!!サクラ、サクラ!!おばあちゃんも殺されて――」

考えてみれば、段々と内から憎しみが、悲しみが溢れてくるのを感じました。

 

「なら、始めるわよ。私と一緒にやつらから全てを取り戻す戦いを――」

「うん、教えて――戦い方を」

 

 

こうして、立――いや、アポロの戦いが始まりました。

 




英雄の旅路には喪失が伴うのですから――

ぶっちゃけ、こういう話を書くたびにどのくらいお気に入りが減るのか楽しみになってる自分がいる。

ということで、感想待ってまーす!!

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

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