「ねぇ、ちょっと!起きなさいよ!!」
「――嘘だよね?」
ぐったりと彼の腕が力なくその場に落ちる。目には光が灯らないまま虚ろな眼がニコの姿を映していた。そのまるで――死んだように眠ったナナシへ動揺を隠せない邪兎屋とリンの面々はすぐ隣に寝ている星見雅に対して特に何もせず、放置していた。
「雅ッ!」「課長!」「ボス!」
そこに駆けつけたのは対ホロウ六課の面々――彼らはすぐ倒れた星見雅に駆け寄り命の別状がないことを確認する。
「彼は――」
柳は、すぐさまナナシに刀が刺さり何があったのか思案するも状況から考えてもし雅が刺したならば無傷でナナシによって脱出させたのは不自然だと感づく――つまり、雅がやったのではないかという考えが六課の面々を驚愕させた。
それに加えて、ある事実が周囲の空気をさらに悪くした。
「――ナナシの心臓が動いてないわ」
アンビーが顔を青くしながら、ナナシの胸に耳を当て確認した。
『検査の結果が出ました。ナナシ様は致死量のエーテルエネルギーの三倍を暴露しており、特に腹部は致命的な損壊が見て取れます。推測ですがホロウ離脱後も、拒絶反応が進行して合併症を引き起こし、心肺停止状態に陥った――「待って、フェアリー!」』
フェアリーが淡々とナナシの状態を解説するが、そこに待ったをかけたのはリンだった。
「ナナシはエーテルに完全な耐性を持ってるはずでしょ――だったら、この状態は」
「うちの課長がやったって言いたいわけ?」
「違うって言いきれるのかしら、そっちの委員長さんはどうかしら?」
まぁ、状況だけを見たら刀が刺さったナナシがホロウの出口に座り込んでいたわけだからやったのは星見雅だと誤認されるのは仕方のないことだろう、加えて刀が勝手に動くなんて誰も想像できない。
「ッ」
そんなこともあって、柳は反論できず言葉に詰まった。
「違う、勝手に刀が動いたんだ――ま、状況を説明せず勝手に意識を失ったのはこいつだけど――」
その場にいた全員がハッと目を見開き振り向いた。
「ナナシ?」
そこに立っていたのは黒髪黒目、やや長めのショートヘアでいわゆるショートウルフカット風のスタイルの髪型。どこか無機質な機械のような感覚を感じさせる顔――まさに、そこには倒れているナナシが立っていた。
「え、え?えぇぇ!?」
綺麗な二度見でナナシとナナシ?を見比べるニコ――双子でもこんなに似ないだろうというくらい似ていたのだ無理はない。
「誰?」
だが、リンと邪兎屋の面々が気づくのは早かった。すぐさま、目の前のナナシは自分たちがよく知っているナナシではないと感づいたのだ。
「なんで、わかるんだよ――」
未だに、六課の面々はどうなってるか分かっておらず状況を呑み込めていないというのにというか、まったく同じ姿のはずなのにバレたことに内心驚いていた偽ナナシ。
「簡単だよ、匂いが違うし、発信機がついてないし、義手じゃないからね」
「あ、そうか再現してなかった――でも、匂いってあと発信機かぁ――付き合う仲間は選んだ方がいいと思うよナナシ」
「そんなことはどうでもいいわ!!それで、あんたは結局誰なのよ!――ナナシと無関係ってわけじゃないんでしょ?それに、刀が勝手に動いたってどういうことよ!」
「待って、そのことよりもナナシは大丈夫なんだよね?」
今、心配すべきは事件の真相ではなくナナシの命をつなぐことだ、すがるように偽ナナシに向かって問いかける。
「そうだね、まずはそのことからだね。一刻を争うし――大丈夫、そのために来たから」
「本当!!」
ニコが声を上げると、なぜか偽ナナシはいぶかしげな表情を見せる。
「――ナナシから何も聞いてないのか?」
「え?」
「いや、何でもない」
そう言い、ナナシの前に一歩一歩と近づいていった。だが、目の前を偽ナナシが通ったその瞬間まるで走馬灯を見るかのように過去の話をリンは思い出していた。
『――もし俺が死んでも――きっと次のナナシが二人を助けてくれるだから――』
ライトが清算の日に勝利したことによってナナシが自身がクローン人間であること、寿命がもう近いことを明かしたタイミングに言っていたワンフレーズ。
(次のナナシ?)
正直、このフレーズが出る前にインパクトのある事実を聞きすぎて薄れていたが、今になって二人目のナナシを見ると点と点が線でつながってくるのを感じる。
「待って」
偽ナナシがナナシに近づく前に動きを止める。
「何かな?」
「――あなたはナナシに具体的に何をするの?」
よく考えてみれば、目の前にいる偽ナナシは一言もナナシを“助ける”なんて言っていない。
もし、予想通り目の前にいるのが次のナナシなら――同じ顔の人物がいるのは不都合なんじゃないか。
「やらせないわ」
「―――ッ」
その瞬間、偽ナナシは問いかけに答えずすぐさまナナシに向かって手刀を振るう。
だが、振るわれた手刀は振り切られることなくアンビーの刀によって止められる。そして、戦況が悪いと察した偽ナナシは追撃はせず少し後退する。
「な、なんのつもりよ!ナナシを助けるために来たんじゃないの!」
「――俺はそんなことを一言も言ったつもりはない。後、誤解のないように言っておくけど――リン、俺は次のナナシじゃない」
「どういうこと、プロキシ!次のナナシって」
すぐさま、道路の真ん中で戦闘態勢になる邪兎屋と六課の面々。リンは一番後ろに構え、ナナシを守るように立っている。だが、それと同時にナナシとは違う、氷のように冷たい表情と光の宿っていない目をした偽ナナシを見て思わず震えが体を浸食していた。
「はぁ、一応言っておくけど助けるってのはあながち間違いじゃない。どっち道、ナナシは死ぬ――でも、今は本当にぎりぎりな所で聖剣が命をつないでる。でもね、延命している間の苦しみを感じないわけじゃないんだ――だから、どうせ死ぬなら楽な方がいいだろう?」
つまり、苦しんで死ぬか、楽して死ぬかだったらせめて楽にしてやるつもりで現れたのだ。
「う、嘘――それじゃあ、ナナシはこのまま死ぬってこと!?」
「そうだ、さっき心臓が動いてないって言ってたけど今も一応脈はあるはずだ、それが尽きればナナシは死ぬ。――そう、長くはない間にね」
「――本当みたいね」
アンビーがすぐさまナナシの脈を図ると確かに、心臓が動いているときと変わらないくらいは動いていた。だけど、目の前にいる偽ナナシの言い分が本当ならこれも時間の問題ということになる。
「――話は終わりにしよう。さっさと介錯してあげたいしね」
「やらせると思ってるのかしら!!」
「私たち六課も手を貸しましょう。彼には、課長の無実を証言してもらわないといけませんからね」
現在は道路のど真ん中で中央の白線を境界にして、火花を散らしている。
しかし、戦力的にはこちらは六課と邪兎屋、あちらは偽ナナシ一人と敗北の余地すらない。
「――なんて、思ってんだろうね。『偽ジェットストリーム』」
二コら、邪兎屋の面々が最後に見たのはほくそ笑む偽ナナシの姿とその残像だけだった。彼が、一言喋った僅か数コンマ先、耳を疑うような轟音の後――邪兎屋の四人は意識を失った。
「え――ニコ!アンビー!ビリー!猫又!」
リンは、驚きのあまり地面に突っ伏す四人に呼びかけるも返事はない。
「大丈夫、気絶してるだけだよ――それにしても、全員気絶させるつもりだったのに流石六課、それにアンビーとビリーもやっぱりやるね」
苦笑する偽ナナシの頬には刀で傷つけられたような跡が残っている。おそらく、アンビーにカウンターをもらったんだろう。
「くっ――」
一方六課の三人は柳さんが薙刀を構え防御の姿勢を取って何とか防いだかに見えたが、その場に倒れこんでしまった。
「気絶は無理だったけどみぞおちにいいのを入れたからね。しばらくは動かない方がいいよ」
「一体、何が起きたの?」
困惑しながら、リンは気絶した四人と偽ナナシを交互に見続けていた。
「『偽ジェットストリーム』――ま、すごく簡単に言えば高速移動だね。早く動いて早く叩いたってだけだ。単純だけど、案外単純な方が使い勝手がいいんだよ。そんなことはどうでもいいか、さてと後は二人か」
「悪いね、僕弱いけど――しぶといんだ!」
「やり返してやる!!」
弓から曲刀に持ち替え目にもとまらぬ突撃と蒼角の鋼鉄の刀旗が偽ナナシを襲う。だが、彼の表情は一切変わらず、“左腕”を天に伸ばし始めた。
同時に彼の心臓のオーラは左手に宿り、マジンの形を取る。それは、ナナシのマジンとは異なり黄色と青のマジン。そのまま、腰をひねり構えた。
「『偽マジン・ザ・ハンド』」
振るわれたマジンの拳の圧はナナシのものとは比にならないほど高く、目にしていたリンはアフロディのゴッドノウズを想起させていた。
「ぐっ、うっ」
「くっ、あぁ――」
振るわれた拳と二振りの刀は激突し、一瞬火花を上げたかと思えば拳は降りぬかれ悠真と蒼角は壁にクレーターを作った後そのまま地面へ力なく倒れていった。
「――これで、守るものはないね」
「まだ、私がいるよ――もし、ナナシを殺すんだったら私からにして!!」
一歩一歩足を前に運ぶ偽ナナシの前にリンが立ちふさがった。だが、こんなこと意味がないなんて一目瞭然でも、リンが作った数秒は彼女を動かすには十分だった。
「はぁっ!」
偽ナナシの横から伸びてくる薙刀、それを冷静に体を逸らし回避する。
「――回復が早い、もしかして何かの混血?」
「なぜ、わかったのですか?」
何かを見抜けたのか、柳はありえないとでも言いたいのか、目を大きくしながら問いただした。
「俺のオリジナルが鬼との混血でね。といっても、後天的なものだから鬼と人との間ってわけじゃない――けど、混血って身体能力が高くなるからそうかなって思ったんだ」
「奇遇ですね。私も混血なんですよ、あなたのオリジナル?さんと同じ後天的ですが、よければ一度会ってみたいですね」
「生憎だけど、とっくに死んだよ。――未来に淡い希望を託してね、無駄話はここまでにしよう――」
一歩強く踏み込み、距離を縮める偽ナナシ。本来であれば、長物である薙刀が極接近戦を申し込まれれば肉弾戦で勝ち目はない。
しかし、そこは抜け目ない。彼女の武器である『骸薙ぎ』はH.A.N.D.専属の武器製造所が手掛けた特徴で、特性の軽合金エーテルで鍛造された伸縮自在の薙刀。
その性質上、今のような極接近戦も可能になる。
だけど、一応ナナシと記憶を共有している偽ナナシ。彼女のことも初対面の時にすでにビリーが『伸び縮みする柄』と言っていたのを聞き逃していなかった。もちろん、承知済みの突撃。
狙いは、近づいた瞬間に『偽ジェットストリーム』を発動させスピードの体感差を狙った一撃。
しかしそれらもすでに、柳に対策されていた。先ほど『偽ジェットストリーム』の超スピードによってみぞおちに一発入れられた経験を活かし、すでに精神力を研ぎ澄ませていた。
それによって感覚を加速させ、突撃したタイミングにカウンターを打ち込んでやろうと画策していた。
だが、偽ナナシは相手がカウンター狙いになるこのチャンスを待っていた。
二人の読みあいの決着は偽ナナシの一言でついてしまった。
「『偽ジ・アース』」
彼の手に、青い光が螺旋を描きながら収束していく。一糸乱れぬ輝きは静かに渦を巻いたまま、彼の手を最強の手刀に変えていた。
なぜ、これを最初から使わなかったのか――単純に柳を傷つけたくなかったからである。なので、カウンターで相手が必ず武器を使うタイミングで同じく抜刀したのだ。
数時間前の雅との戦いのように衝撃音が木霊するようなことは起きなかった。
なぜなら――
「なっ、嘘!?」
彼女の薙刀は偽ナナシの手刀によってまるで、豆腐を切るかのようにすっと刃は入り真っ二つに切断されていたからである。
「これで、終わり――」
最後に、上体の崩れた柳を強めに気絶させておく――これで、守るものはもうない。
「――退いてほしい、なるべくあなたを傷つけたくない」
「退かない、私絶対に退かないから!」
手を大きく横に広げ、盾になるリン。
「仕方ないか『偽ムゲン・ザ・ハンド』」
しびれを切らしたのか、偽ナナシは手を合わせムゲン・ザ・ハンドを発動させ無理やり退かせる。
「刀は抜いておこうか、どうせ止血はされてるし」
刀を引き抜き、適当な壁に刺しておく。
「聖剣_抜錨__」
偽ナナシなりの最後の手向けだったのだろうか、彼が使っていた口上をそのまま使いイメージを構築する。彼の右手には青い光の螺旋が集まり、これから何が起こるのかは見なくても察せれてしまう。
一方のリンはムゲン・ザ・ハンドに視界を遮られ耳もふさがれているため何が起きているのかわからないまま、何とかなれと抗い続けていた。
「『偽ジ・アース!!』」
だが、虚しいかな。誰が彼を止められるというのか、振るわれた手刀はナナシの脳天を真っ二つにはしなかった。
「間一髪だな」
手にかけようとした偽ナナシの前を神速の影通ったかと思えば、その場から動けなくなっていたナナシも消え一撃は空振りに終わった。
そんなことができる相手はただ一人――
「星見雅」
偽ナナシが今、一番会いたくないであろう人物がナナシを抱えていた。
だけど、彼はナナシと記憶を共有しているため知っている。彼女が、なんて言えば動揺するのかも手に取るようにわかる。
そんな彼女の第一アクションは――笑顔になることだった。
「――どうだ」
「どうだ、だって!?いや、急にどうしたの」
「お前に聞いているのではない、ナナシに聞いている」
当然だが、ナナシは力なく手は重力に逆らわず垂れ返事のできる状態ではない。そんな彼でも愛おしそうに星見雅は抱き寄せた。
「ああ、この感覚だ。先ほど、感じたナナシの暖かさ――これが、あれば私は戦える」
彼女は思い出していたのだ、ナナシが自身の刀によって腹部を貫かれてなお近づき抱き寄せた彼の抱擁を――
(な、何で星見さんからサクラと同じ黒いオーラを感じるんだ!?聖剣の暴走は抑え込んだはずじゃ!?)
「というか、まったく姿が同じの俺を見て、何も思わないのか?」
「思いはする――だが、貴様はナナシではない!!」
断言。今、彼女は断言して見せた。リンや邪兎屋ほど長く一緒にいたわけではなく、先ほど戦い、共闘した程度だというのにだ。
「その、ちなみに何で?」
「目、眉、鼻、口、耳そして匂いが何よりも違う――貴様は偽物だ」
「――偽物も糞もないんだけど、ていうかそんなに違う?」
星見雅は刀を構え己の心をいやす存在を消そうとする偽ナナシの前に立つ。
「ナナシは私が守ろう――今一度、この刀に誓って!」
「怖いよ」
こうして、星見雅と偽ナナシの戦いが幕を開けた。
ぎゃぁぁぁっ!なんかこいつ異様に強い!?ていうか、ナナシが使えない必殺技も使ってんじゃん!?誰こいつ!?完全に上位互換じゃん!!
ちなみに、今回さらっとナナシの容姿を正確に描写していたりします。顔だけだけどね
果たして星見雅は勝てるのか!!しばらく出なかったら爆死したとそっとしておいてね!!
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け