ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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第82話・神の手も借りたい

 

 

その後、ライを逃がした六課とイアスは大剣をカリュドーンの子に預けたアルターエゴを連れビデオ屋まで帰還していた。

ここで決めようと決戦に臨んだ彼女らの表情は決して明るいものではなくそれが今回の成果を暗に示していた。

誰もしゃべらず、重い空気感の中最初に口を開いたのは星見雅だった。

 

「すまな「謝る必要はないよ星見さん――今回は相手の地力が予想以上に高かったそれでいいじゃないか」――お前はいいのか、アルターエゴ」

 

「よくはないが、死人が出なかっただけ十分だ。次を見据えればいい」

 

「次、ですか――今回ですら偶然彼女を発見できただけでまた、見つけることができるのでしょうか」

 

柳さんの不安は最もだ、流石のライも発見されたなら居場所を変えるだろうし、未来視を使用すれば俺たちに見つからず立ち回ることも可能になるだろう。

何よりも、ホロウにいくらでも滞在できる聖剣の特性と、ホロウの壁すら斬り開いてしまう斬撃が厄介だ。

 

「そもそも、見つけたところでどうするんですか?僕たちが適う相手なんですか」

 

「―――」

 

悠真の一言に誰も反応できない。近距離は星見雅を圧倒する剣戟に一撃の重いハンマー、確認できたうえでの最大火力『デススピアー』。少し距離が離れれば、進路を妨害するエレキトラップ、遠距離で戦っても相手は斬撃が飛ばせる上に、弾数無限の機関銃連射――頑張って近づいても『ハイボルテージ』の防御を誰も破れない。

 

「ねぇ、アルターエゴはアポロの必殺技を使えるんだよね、だったら現状でライをどうにかする方法って何かないの?」

 

リンの問いかけと同時に視線が一点に集まる。アルターエゴは難しい表情をしながら何やら苦悶する。

 

「――俺には不可能だな。確かに、アポロの必殺技を発動できるけどかなり劣化した状態の上、そもそもあと、必殺技を行使できるのは四、五回が限界だろうな」

 

「四、五回!?ど、どうして――?」

 

「俺は、ナナシが最後の力を振り絞ることでポート・エルビスのホロウで作られた――けど、上半身だけしか生成できなかった上に、聖剣も中途半端――何とか、戦えるレベルまで持ち直したものの――土台は変わらず不安定だからいつガタが来るかわからないんだ」

 

そう、あの時ナナシが残した希望とは自身のコピーを作り次のナナシを作ることではなかった。アルターエゴだけを分離し、肉体を形成したわけだ、問題は中途半端に上半身しか生成されず目の前の惨劇を止めるどころの問題ではなかったことだ。

ガックシと肩を落とした、リンとアキラ。その表情には暗い影が纏わりついていた。

 

「そうなんだ――やっぱり、難しいのかな。私たちにはナナシの仇を取るなんて無理だったのかな」

 

「それどころか、僕たちにはもうライを見つける方法すらないじゃないか」

 

「まあ、待て。リン、アキラ――何も、方法がないなんて言ってないだろう?あくまで、俺には不可能と言っただけだ」

 

「え、本当!?」「本当かい?」

顔を見上げるその先には、自信満々な笑顔を見せるアルターエゴがいた。そのまま、彼は説明を始めた。

 

「正直、ライを発見するだけならそう難しいことじゃない。俺は、聖剣ジ・アースの気配を追えるからな、彼女が所有している限り居場所を見つけられる」

 

「だから、我らの戦場に現れることができたのだな」

 

「うん、問題は戦力の方だけど――他の陣営に助けを求めてもほぼ焼け石に水状態だと思う。相手は『デスレイン』って言う広範囲に無差別攻撃できる必殺技を持ってるからね、的を量産しかねない」

 

現状、あの必殺技からここにいる人間をすべて守る防御を張れるのはアルターエゴの『偽イジゲン・ザ・ハンド』以外は無い。蒼角の刃旗も一時凌ぎにはなったが地面を抉るという攻撃手段になすすべなく破られていた。

 

「それに加えてライの『ハイボルテージ』を突破するだけの一撃を持つ奴が欲しい」

 

同時攻撃の択という状況であっても発動したのだ、正面しか防御はないとはいえあれを突破しなければ勝利は薄い。かといって、アルターエゴの『偽ジ・アース』では破れそうもない。

 

「でも、それができる人は新エリー都にいるのかな?――雅さんですら止められちゃったし――」

 

「ああ、それが何よりの問題だ。現状、俺の持つ必殺技だとあれを破る方法はないし――だけど、ナナシはちゃんと希望を残してくれた」

 

「希望?それは何だ?」

星見雅が首を傾げる。どうやら、他の面々もピンと来ていないらしい。それもそうだろう、特に六課は会ったことすらない人物であり、リンとアキラにとっては因縁の相手であるからだ。

 

 

 

そして、なるべく少数で行きたいというアルターエゴの頼みを聞き、アルターエゴとリンの二人で白祇重工の工事現場へ向かった。

到着と同時に現れたのは白祇重工の社長、クレタ・ベロボーグだった。

 

「おう、プロキシじゃねぇか、ブリンガーの時以来だな!――それに、ナナシにそっくりだが違うな、誰だ?」

 

(もう、気づくのがデフォルトすぎて驚かなくなってきた)

 

「あー実はね、ナナシにお兄ちゃんがいたの!見て、そっくりでしょ?」

リンの紹介を受け一歩前に歩み寄る、アルターエゴ。イメージはナナシ、そっくりの笑顔を作り自己紹介をした。

 

「いつも弟がお世話になっています。ナナシの兄の、アルターエゴと言います」

 

「お、おう――あたしは白祇重工のクレタ・ベロボーグだ。こっちこそ、あんたの所のナナシには世話になってるよ――そういや、ナナシはいねぇんだな」

 

クレタの疑問にビデオ屋組一同の背筋が凍る。そもそも、ナナシが死んだということを知っているのは六課とカリュドーンの子、そしてヴィクトリア家政のメンバーしか知らないのだ。

ちなみに白祇重工には、道に生えていたキノコを食べて食中毒で寝込んでいると言う嘘で誤魔化している。

 

『ナナシが――まあ、そういう時期もあるの――か?』

 

とリンはクレタの反応でナナシの名誉を傷つけてしまったことを感じながらこれまでその嘘を継続させ続けていた。

流石に約一週間経った今、誤魔化すのは限界に近付いているどころではない、超えているのだ。

 

「クレタ!――実はね「待って、俺から言うよ」」

 

真実を話そうとした瞬間アルターエゴが口を塞ぎ、リンの一歩前に出る。

 

「――ナナシは今、街に落ちていた生ゴミをつい口に入れてしまい、食中毒になって寝込んでいるんだ」

 

「ちょっと、アルターエゴ!?流石にそれは――」

 

「マジかよ!!」

 

「嘘でしょ!?」

 

一連の流れはまるでコントのように繰り広げられていた。てっきり、アルターエゴが言ってくれるのかと思いきや出てきたのはあまりにも非現実的な嘘、だがそれを信じ込んでしまったクレタの方に今は心配が向いていた。

 

「それなら、他の奴らも誘って明日にでも見舞いに行くぜ!」

 

「っ、いや――そのぉ、あ、実はナナシが患った食中毒はどうやら伝染するみたいで、今も隔離状態なんだ――だから、見舞いはもう少し待ってくれると助かるよ」

 

「そ、そうかよ――きっと、とんでもない生ごみを口に入れちまったんだな――安心しろ、あたしがいる限りナナシに拾い食いなんてさせねぇからよ!!」

 

純粋無垢な笑顔が、心の汚いアルターエゴに突き刺さる。そういえば、こんなにいい子からナナシは頬にキスをもらっていたなぁ――ナナシが死んだこと余計に言いずらいなぁと思うのだった。

 

「それでさ、クレタ社長。―――って、今いる?」

 

「クレタでいいぜ――わかった、ちょっと待ってろ」

 

クレタの言う通り待つこと数分後、彼女の後ろから現れた少女。

その姿を見て、思わず声を上げるリン。それもそのはず、クレタの後ろにいた工事現場では必須のヘルメットを被りながらも放たれるオーラは神の如き輝きを放っていた。

 

「え、アルターエゴ――もしかしてそういう事なの!?」

 

「ああ、だけど――クレタ、ごめん。彼女にだけ話があるんだ」

 

「おう、仕方ねぇな。なら、ナナシに伝えといてくれ、あたしはお前が元気にやっていりゃあそれだけで嬉しいからよ!治ったら、絶対に白祇重工まで来いよ!ってな」

 

「――ああ、伝えとくよ」

 

苦虫を嚙み潰したような顔で、そして今にも消えそうな細い声でアルターエゴは恐る恐る返答した。既に、ナナシはこの世を去っているというのに――

 

「――それで、僕に用とは何だい?」

 

かつて、バレエツインズにてナナシとヴィクトリア家政の五人と激突し互角以上に立ち回って見せた。圧倒的力により、ナナシに大けがを負わせ――最終的には逃がしてしまったが、郊外で再開――最終的に、同盟を組んだ相手。

 

「お前の力を借りたい――アフロディ」

 

「僕の力を?――待ってくれ、そもそも君は誰だい?」

 

「俺は、アルターエゴ――ナナシの双子の兄貴だ似てるだろ?」

 

アルターエゴはこれまでの話をアフロディにすべて話した。聞いている間、特に反応はなく淡々と聞いていただけだが――ただ、一つナナシが聖剣オーガの使い手ライに殺されたことだけはほんの少しだが反応を示した。

 

「話は分かったよ――だけど、僕が同盟を結んだのはナナシだ。君達じゃない――それとも、僕を殺して聖剣を奪うのかい?」

 

「しないよ、出来ないとは言わないけどね。ただ、こっちもタダでとは思ってない」

 

「ほう、君が僕を頷かせるほどの対価を用意できるのかい?」

 

鋭い眼光が交差する。先ほどまでただの工事現場であったはずなのに、今や二人の圧のぶつかり合いで熾烈な戦場のように変わり果てていた。

 

「――俺は、お前の両親が誰か知っている」

 

「なっ――それを証明することはできるのか?」

 

「君が孤児だって知ってるのが何よりの証拠だ。それに、君たちの親代わりであった女性、エリシオンとも知り合いだ――これで十分かな?」

 

アフロディは自身が孤児であることをナナシに話していない、エリシオンを女性だとも言っていないのだ。何より、アフロディは直感的に嘘を言っていないと感じていた――アルターエゴの目は自身を信じたいと言ってくれたナナシと同じものだった。

 

「――わかったよ。ちょうど、僕も他の聖剣使いに襲撃をかけたいと思っていたところでね、時間は?」

 

「明日、早朝にビデオ屋まで来てくれ――時間がない」

 

「分かった――君を“信じるよ”」

 

鋭い神の眼光を前にして嘘をつける人間の方が少ないだろう、アルターエゴはゆっくり頷き工事現場を後にした。

ともかく、色々あったもののアフロディとの協力関係を取り付けることができたのだった。

 

「ねぇ、アルターエゴはよくアフロディの親を知ってたよね」

 

「――色々あってね」

正直、この目で見るまではありえないと思っていた。だが、現実は現実、いくらありえないことだとしても死者であるアポロが蘇ってるしもう何でもありかと自分を納得させるしかなかった。

 

車の座席に体重をかけながらアルターエゴは思案する。

 

(――彼女の母親の名前はアフロディーテ、アポロと共に戦ったその代のゼウスの使い手。ここまでは一目見てわかった、似てたし――じゃあ、父親は誰なのか)

 

バンッと勢いよく執務室の扉は蹴破られる。そこから、現れたのは神が利き手で書いたのかと思うほど麗しい女性であった。

 

『アポロ、今日という今日はこれにサインしてもらいますからね!!』

 

『なんで、婚姻届けが常備されてんだよ!!リブラ!タウラス!叩き出せ!!』

 

こうして、二人の屈強な男達に追い出されるアフロディーテ。こんなのが日常的に起きていたことをアルターエゴは頭を抱えながら思い出した。

 

 

 

(――父親ってやっぱり、だよなぁ)

 

 

 




ちなみに、アポロは聖剣オーガの使い手に勝利しています。

鬼族との戦争の最後、聖剣オーガの使い手バダップとの御前試合が行われその際アポロが、数十分くらい相手だけ刀を使うのはずるいと文句をつけまくった後、なんか相手が聖剣を捨て素手で戦ってやるという話になった後も、未来予知を警戒してうだうだやった後『ジェットストリームG5』で相手を一瞬で気絶させて勝利しています。

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
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