ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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――さて、鬱展開フルスロットルエンジン起動!!

本当なら、もっとサボるつもりだったけどPixivの方でコメントが来ちゃったよ――書くしかねぇな!!


第83話・戦わなければ生き残れない

 

 

工事現場からの帰路についている車中、話題はどうやってクレタや他のみんなにナナシの死を伝えるかであった。

 

「それにしても、流石にあの嘘はやりすぎだと思うんだけど――クレタの中でのナナシ像が劇的に変わっちゃったよ!」

「俺も、まさかあれが信じられるとは――でも、いよいよ言いにくくなったな」

 

「さっき言えばよかったのに、何で下手な嘘ついちゃうかな~?」

ツンツン脇腹を突きながら運転するリン。その声色はアフロディとの協力を取り付けられ、仇を取れる光明を見つけられたからか浮かれている。

 

(――これで、今日はゆっくり眠れるといいんだけど)

 

彼女の目の下に深く刻まれた隈を見ながら、そう願うばかりだ。

 

「クレタ達には、全てが終わったら話そう――そうすれば、彼女たちが無謀な復讐に走ることはないだろう」

なぜ、アルターエゴが下手な嘘で誤魔化したのかそれは事実を知れば、きっと抑えられなくなる人は出てくる。

だが、相手があまりにも悪すぎる――二次災害を起こすわけにはいかない。それは、ナナシが最も嫌がる行為だろう。

 

「――やっぱり、ナナシに似てるね。考え方も顔も喋り方もそっくり――」

「リン――」

 

重要なのは、全て一致しないという部分、必ずアルターエゴとナナシとでは差が生まれる。

「だからなのかな――アルターエゴが喋ったり、動くたびに、本当にナナシが死んじゃったんだって――ぐすっ、ごめん何でもない」

 

「―――」

 

この先に言葉はなかった。それで、誰かが生き返ったりするわけでもないし、何より今のアルターエゴに彼女を元気づけられるような言葉を吐く資格はない。

 

 

明日は決戦の日――アフロディは早朝に来て、六課と共にライへ決着をつける。

(おそらく、そこまでなら俺の命はもつ)

 

帰宅したときには辺りは真っ暗闇に包まれていて、まるでその風景が今の俺たちを暗示しているかのようだった。

勝てるのか、そんなのわからない。勝率は三割あればいい方だろう――そんな無謀な戦いを明日始めることになる。

 

「――リン、アキラ。今日はゆっくり寝るんだ、俺の予想だと今日はシアワセナユメが見られると思うよ」

「うん、ありがとう――じゃあ、もう寝ちゃうからまた明日ね」

「ああ、僕もそうさせてもらうよ。アルターエゴもゆっくり休んで」

 

リンとアキラはそう言って自分たちの二階の部屋に戻っていった。

 

「――幸せな夢ね」

誰も居なくなった工房でソファに背をかけアルターエゴはそう呟いた。粗悪なクローンであるアルターエゴは夢を見なかった。見る機能が死んでいるからだ。

 

 

ただ、肉体の寿命を長引かせるために意識を電球みたいにON、OFFに切り替えることはできる。アルターエゴは部屋の電気を消し、暗闇の中自分の意識も切った。

 

 

 

これは、夢ではない――彼の中にある記憶が見せた過去のお話である。

 

 

謎の組織の男に家を焼かれ妹を連れ去られた後、俺――影山立は名前を変え、アポロと名乗るようになっていた。俺を拾った女性の名前は無量塔姫子(むらたひめこ)――理由は知らないが、俺たちを襲った組織を追っている。

 

 

無量塔姫子を先生にして鍛え始めてから一か月が経過していた。その頃には全身のやけどは引き、怪我をする前くらいまで身体能力が戻っていた。

 

しかし――アポロに彼女の蹴りが突き刺さる。

 

「ッ――」

 

十二歳切相応の体重しかないアポロは宙に浮かびまるで投げられたボールのようにバウンドして地面にへばりついた。

 

「アポロ!絶対に敵から目を離さないで、離したら死と思いなさい!」

 

すぐに立ち上がったアポロは姫子の元に全力疾走、しかし十二歳の脚力なんてたかが知れている。歴戦とも言える戦士である彼女にとっては止まっているようなものだ。

けれど、彼女は決して油断しない――なぜなら――

 

「―――!」

彼女は再びアポロに向かって蹴りを加える――だが、今度は先ほどのように当たらず脇先を掠めた程度。

だが、蹴りのモーションによって上がった足を見逃さずそこに向かって全体重をかけて突撃していく。

 

「考えたわね――けど、まだ甘いわ」

「ッ――」

突撃したまではよかったが速度が足りずそのまま姫子の踵落としが頭部に打ち込まれ気絶した。だが、姫子はその姿に思わず戦々恐々としていた。

 

「鍛え始めてまだ一か月、なのにもうここまで――」

 

決してアポロは武芸の天才というわけではない。ただ、彼には特異な部分が存在していた――計画、実行、評価、対策――いわゆるPDCAサイクルが戦闘中に回り続けているのだ。

(アポロは経験を積ませればもっと強くなる、言い拾い物をしたわ)

 

 

 

だが、さらに半年ほど経過するとアポロには致命的な欠点が二つ存在することが発覚した。

一つ目は――

 

「――これ、なんて読むの?」

アポロの指さした先にはでかでかと“酒”と書かれた一升瓶が佇んでいた。

 

「もしかして、あんた読めないの?」

 

「うん、なんて書いてあるの?」

 

「――小学校で習わなかったのかしら、これは“酒”よ」

頭を抱えながら姫子は呟いた。

そう、学力が致命的になかった。作戦中何も読めません、何もわかりませんでは話にならないし、何なら算数は引き算で止まっていた、掛け算も割り算もできない。

漢字は壊滅的、常識も皆無、人を疑うということを知らない――正確には疑っていたら殺されていたからなのかもしれないが。

 

 

二つ目は――

 

初めての実践ということで、無数にある実験施設に乗り込んだ時のこと――ほとんどは姫子が一人で制圧し、アポロの出る幕はなかった。

 

「殺しなさい、その男はここの所長――罪もない人間をさらって研究材料にしていた愚図よ」

だが、一人彼女によって捕縛された男がアポロの前に置かれ必死に命乞いを始めた。

 

 

 

息を飲んだ――体中の血液が沸騰したような感覚、軽い引き金、命乞いをし続けた男の表情、今でも覚えている。その当時はまだ十二歳で、初めて拳銃を手にした日――そして、初めて人の命を奪った日でもあった。

 

 

「嫌だ、やめろ!許してくれぇ――――」

パン――!と音が響いたと同時に目の前にいた男の息の根を止める。言葉はのどに詰まったまま終わり、だらんと彼の手が垂れる。

 

「ッ」

 

至近距離だったため外しはしなかった――相手の額に空く穴、その奥から覗く血液、脳みそ噴き出る血流――自分にかかってきた返り血――それらが、アポロの記憶に色濃く残っている。

 

 

人の命を軽い引き金一つで奪った手の感覚。それを視認することで浮かび上がるように自分の中にある感情を制御していた。

 

「よくやったわ、アポロ。それじゃあ、早く行きましょう――アポロ?」

 

だが、異変は唐突に訪れた。引き金を引いた右手、撃たれた男の額に空いた穴、それらを交互に見るようにアポロの視線は動いていた。

 

 

その瞬間、意の奥がひっくり返るような感覚が襲った。

喉の奥が焼け付くように熱い。口の中に広がる苦みと酸味が、強烈な違和感となって押し寄せる。耐えようとしたが、無駄だった。

 

「――っ、う――!」

膝をつく。指先が地面を掻く。胃が痙攣し――ドロリ、と音を立てて嘔吐した。

 

(俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、殺した。俺が、俺が、俺が、俺が、俺が、俺が、俺がぁぁぁぁぁぁぁ!!)

 

体が震える。力が入らない――目の前の死体が『次はお前だ』と告げているようで怖くなった。

 

「アポロ!アポロ、大丈夫?」

 

アポロの欠点その二とは、彼は人を殺すとき猛烈な罪悪感を背負ってしまう。初めて殺した時なんかは顕著に表れて、そのまま気絶してしまった。

その後、一週間はまともに拳銃を握られなくなって隅で震えるようになってしまったのだ。

 

 

一つ目の欠点は、姫子との鍛錬の後――彼女が酒を飲みながら直々に勉強を教えた。漢字も、算数から数学まで、一般的な常識――母親から与えられなかった愛も姫子が与えた。

 

「ふふっ、今日はランチョンミートと卵ラーメンよ」

 

「やったー!!でも、いいの?それって、姫子先生が夜食に取ってたやつでしょ?」

隠れ家のキッチンの上にあるランチョンミートの缶詰を指さしながら、アポロは首を傾げた。

「いいのよ、今日アポロが漢字のテストで100点を取った記念よ!」

「え、本当!姫子先生大好き!!」

抱きつきながら、先生への感謝を伝える。アポロの表情はこれまでにないくらい満面の笑みになっていた。

だが、いざラーメンを目の前にするとアポロの手が止まる。

 

「――あら、どうしたの?」

「う、えっと――サクラにも食べさせてあげたいなぁ、って思ったの」

今、幸せだ――だからこそ、この時のアポロは考え続けていたサクラは何を食べているんだろう、何をしているんだろう、誰と居るんだろう、生きているんだろうか。

そもそも、俺はサクラを助けることができるのか。

 

震えた手で丼を掴みながら、嫌な想像は無限大に膨らんでいた。その表情を見て、姫子は何かを察したのか、子供の小さな手を、そっと姫子は大人の女性の大きな手で包んだ。

 

「――大丈夫とは、言えないわ。あんたが、今やっていることも正解かなんて誰からも教えてもらえない、それが大人の世界よ」

「うん――」

「でもね、あんたは十分大人よ。だからこそ乗り越えていけるはず――少し、早すぎたけどね」

姫子は重々わかっていた。彼が、十二歳になるまで色々背負ってきたこと――それに対して、立ち向かいすぎる人間であることも。

 

「姫子先生は俺を大人って言うけど――大人になるってどういう事?」

「――そうね」

彼女は顎に指をあてて後、長く考えた末にこう答えた。

 

「最後は逃げないことよ」

「それは、逃げることが楽をすることだから?」

「それも一つね、別に楽な道が悪いわけじゃないのよ――でもね、あんたは誰よりもそれを理解しているはずよ」

持っていた酒の入ったグラスをカランッと鳴らしながら、彼女は憂鬱そうに告げた。

 

「理解?」

「分かっているってことよ――また、勉強しましょうね。立ち上がって抗う事よりも、ただじっと我慢することの方が時には辛いからね――あんたにはその経験があるんじゃないかしら」

「――うん」

アポロが、姫子を先生と呼んだ日から、ずっとサクラを救い出したいと、守りたいと自己暗示のように念じ続けた。それでも、姫子に師事することが最善であると考え、ましてや辛くなって逃げることもしなかったアポロには痛感できた。

 

「アポロ――いえ、立。あんたがこれから経験することは、自分の未来のためになる。誰かが代わることはできないし、捨てることもできないわ」

「――サクラを失ったことも、いつか俺は未来に意味のあることにできるのかな」

「ええ、喜びも苦しみも、全部いつか財産になるわ。だから――十分に逃げた後、それらを全部受け入れないといけない」

「全部――」

険しいをして悩むアポロを姫子は彼の背中に手を回し抱きしめた。豊満な胸は、押し付けられ一瞬カエルがつぶれたような声を上げながらも、その人のぬくもりを甘受した。

 

『逃げることが許されるのは一時的な権利で、全てを受け入れることは人生の義務』ということを、あんたに伝えたかっただけよ」

「――よくわかんない」

「そうね、あんたは心だけしか大人になれてないもの。これから、たくさん学んでいきましょうね」

 

歪な状態ではあったものの確かに、アポロは一つ一つ人間なら当たり前に持っているものを得ていった。

 

 

 

だが、二つ目の欠点は中々克服できなかった。別に、アポロは戦うことが怖いわけじゃない、人を殺してその命を背負うほどの覚悟がなかったのだ。

 

「アポロ――」

「―――」

部屋の隅でうずくまり続けるアポロ。血色が悪く、サクラを奪われた以上に狼狽したその姿は十二歳の少年がするようなものではなかった。

 

「――ごめん、先生。わかってるんだ、サクラを助けるならこんなことしてる場合じゃないって、だけど忘れられないんだ」

「―――」

 

アポロが苦悶していたのは、撃った後のこと撃つこと自体にためらいはなかった。だが、撃った後の男の表情、軽い引き金、こめかみに空いた穴からあふれる血液――すべて脳内に張り付いて剝がれなくなってしまったことだ。

 

 

それでも、決してアポロは逃げない。すべきことを理解し、自己研鑽を積み続ける彼にとって蹲っているこの状況は立ち向かっている以上に辛いだろう。

 

「――少し、待ってなさい」

 

そんな彼に、姫子が与えたのは刃渡り二十センチ程度の二対の短剣だった。片方はまるでそよ風のような緑、もう片方は夜の闇のような黒――その異様な姿からただの短剣ではないことはすぐわかった。

 

「これは、人工聖剣と呼ばれるものよ。使えば、莫大な負担がかかる代わりに、莫大な力を得ることができるわ」

「――それって、この前行った研究所に保管されてたものだよね」

「ええ、これを使って抵抗した研究者はものの数分で死亡したわ」

忘れることができるはずがない。だって、その研究所でアポロは自分の手を血に染めたんだから。

 

 

「――それを俺に使えってこと?」

「あんたなら大丈夫よ。これと適合できればね」

そう言い、姫子が取り出したのは注射器と緑色の異様な雰囲気を纏った液体の入った小瓶だった。小瓶にはMNBと書かれている。

 

「これを使えば、この人工聖剣を容易に扱うことができるわ。安心して頂戴、あんたがあのプラントにいた時点で安全は保障されてるわ」

「――あのさ、これって適合しなかったらどうなるの?」

「聞かない方がいいわよ――まあ、即死しないことは確実よ。本当なら、私が使いたかったんだけど、適性が半分以下の私じゃ、うまくいかないから」

その目には、哀愁と悔しさが滲んでいた。アポロは再びその二刀を眺めながら、サクラのことを思い出した。

 

「もし、あんたがこれを使いこなせるようになれば、この間みたいに殺さず相手を無力化できるし、ましてやあんたが殺されることはないはずよ」

「―――」

沈黙。己の中で、感情を整理し覚悟を構築していく――だが、恐怖は消えない。むしろ、この剣を掴みそして何人もの命を消し去り、それを背負うんじゃないかと悪い想像は止まらなかった。

 

 

「やるよ、俺――俺が、やるべきことなら逃げないよ」

注射器に液体を入れ、姫子に渡す。それは、アポロの覚悟そのものであった。

姫子は無言で頷き、彼の真っ白な腕に注射器の針を突き立てた。

 

「うっ――」

痛みと異物感で意識を失うアポロ。その表情は、悪夢を見ている少年そのものであり――だが、その纏う雰囲気は既に覚悟を決めた戦士そのものだった。

 

 

「――まだ、十二歳なのにね」

姫子はそう呟きながら、アポロを寝室まで運ぶ。もう、これで本気の本当に後戻りはできない。戦いを避けることはできないし、敗北は死を意味する世界に入っていくことになる。

 

 

まさに、戦わなければ生き残れない状況になったわけだ。

 

 

そうして、アポロの幸せな日常は過ぎていき決戦の日は来た。

 

妹の奪還、その日が――

 




しばらく、過去の話が続きます。
アポロは妹を助けることができるのか、姫子は一体どうなるのか!?

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
  • こんなアンケートする前に書け
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