ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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うーん、サボろうと思ったらコメントがまた来て書いちゃった。もしかして、俺ちょろい?


第84話・絶望への助走

 

 

決戦の前日、2025年9月20日アポロは姫子の寝室を訪れていた。

 

「どうしたの、明日は早いんだからもう寝ちゃいなさい」

「――あのさ、一緒に寝てもいい?」

不安げな表情のまま自分の枕を抱えながら現れるアポロ。その姿を見た姫子は彼をそっと手招きして自身のベッドに招き入れる。

十二歳の小さい体はすっぽり入り込み、その姿になんとも言えない気持ちになった姫子はなんとなく彼をぎゅっと抱きしめた。

 

「むぐ、っ――」

カエルがつぶれたような声が聞こえたがすぐぬくもりの中に消えていく。

 

 

やっと解放されたアポロは息苦しかったのか肩で息をしていた。

「あら、ごめんなさい。アポロ――どうしたの、珍しいじゃない私と一緒に寝たいなんて」

「――ッ、何だか怖いんだ――明日、何か起きそうで」

 

よく見れば、アポロの体は小刻みに震えその恐怖が可視化されていた。

 

「あんたがそんな風に怖がる必要はないわ。いつも通り、こっそり忍び込んで妹を助けて逃げるだけよ」

「――うん、でもさ助けたらどうなるのかな――俺は何をすればいいのかな。姫子先生は、どうして戦ってるの?」

アポロの恐怖は、明日への物だけではなかった。それ以降、サクラを助けて戻ってきた後もこんな風に戦い続けるのか――それとも、二人でいや三人で暮らすのか。

命を奪った俺が、のうのうと生きていけるのか――

 

「――そうね、そのくらいは話しておいた方がいいわね」

こうして、彼女は話し始めた自身の生い立ちとここまでの話を――それは、彼女がアポロに送る最後の授業の始まりになるのだった。

 

 

「昔から母さんがいなかったから父さんが私を育ててくれたの。父さんは研究者でね、家を空けることは多かったけど――それでも、尊敬してるし、育ててくれたことにも感謝してるわ」

「――いいなぁ」

「そうね――」

アポロの口からぽろっと出た一言。それは、母親を早くに亡くした姫子に言うものではなかったが、彼女は彼を責めることはしない――なぜなら、そう思うのも不思議ではない過去を持っていることを知っているからだ。

 

「けど、そんな日常も長くは続かなかったわ。大学で宇宙工学を学んでいた頃、父さんが亡くなったって知らせが来たわ」

「ッ!?――そっか」

「その上、真相は全く分からないまま闇の中よ。だから、宇宙への夢を諦めて父さんの死の真相を追ってるの」

「――その真相を見つけられたら姫子はどうするの?」

「どうもしないわ、その後はまた宇宙工学をやってみるのもいいかもしれないわね」

感慨深げに明後日の方向を見る姫子。その目には確かな希望が揺らめいて、アポロは直感的に夢の大切さを感じ取っていた。

 

「夢――俺にも夢ができるかな」

「できるわよ、アポロ。もし、この戦いが終わったらそれを探せばいいわ――私も手伝ってあげるから。それに、明日はあんたの誕生日よ、私がちゃんと準備して――あら?」

「―――」

姫子の暖かい言葉を聞いて、そのままアポロは眠りについた。

 

 

 

 

翌日、二人は身を潜めながら街の指定された路地裏に向かっていた。姫子の話だとそこに協力者が居て、俺たちが研究所に入るのを手伝ってくれるらしい。

 

路地裏に入ると小柄で推定身長は十二歳のアポロとそう変わらない青髪でぼさ頭の少女が壁にもたれかかっていた。姫子先生は静かに少女に近づくと軽く顔を確認した後、何やら呟いた。

 

「――『ヴェルト』」

「『ジョイス』――どうやら、君達が最近組織を騒がせている二人組みたいだ。僕の名前はアインシュタイン、組織では科学者をやってる」

「え、えぇ!?」

科学者と言っているもののどう見ても推定年齢は最大で二十代前半、見る人が見れば中学生、俺より少し上程度だというのに、肩書も纏う雰囲気もアポロの物とは角が違った。

 

 

「いい反応だ。僕は色々あって、実験中に不老になっていてね。実年齢は、七十歳を超えているよ」

「ふ、不老?」

「聖剣の実験中にね――まあ、今はどうでもいいか。それよりも、すぐ君たちを研究所に案内しよう」

そう言い、アインシュタインは俺たちを先導し歩き出す。だが、そこでアポロは彼女に待ったをかけた。

 

「待って」

「――何だい?あまり時間はないんだが」

「俺はバカだけど、あんたがわざわざ現れるってリスクを取る必要はないと思うんだ。なのに、現れた――どうして、案内してくれるんだ?」

考えてみれば、秘密の道などがあるならば遠隔で伝えれば事足りる。しかも、科学者ならば別に戦士というわけじゃないなおさらだ。

 

「いい着想だ――そうだな、僕が協力する理由くらいは話そう。数年前、聖剣使いになったヨアヒムが意識不明の重体になったのが全ての始まりだった」

言葉には強い怒気が籠る。怒りだけではなく憎しみも、怨念も混ざったような炎が目の奥で燃え続けていた。

 

 

「意識を失い目覚めない彼を救おうとしたテレサ博士は彼が持つ聖剣ジ・アースを解析し何か手立てがないかを探した。だが、あと一歩でヨアヒムを救えたはずだったのに、彼の命は無理やり核兵器を禁止する世界との約束を解除させるのに使われ――聖剣の研究をしていたテスラ博士の命も奪われた」

「待って――じゃあ、あの日妹が連れていかれたのは――」

 

アポロの脳裏に映ったのは、忘れることは決してないあの日の記憶。

『なんだ、まだ居たのか?――まあ、こいつは継承者じゃない、連れていく必要はないな』

 

 

「ああ、君のことは知っているよ。君の妹であるサクラが次の継承者になったんだ」

「――妹はどこだ」

「アポロ!」

ぎろっと睨みつけながらアインシュタインに対して、掴みかかるように肩を強く握る。姫子の制止もあったがアインシュタインが逆に手で止める。

 

「君の怒りは最もだ――だから、僕の復讐に力を貸してくれ」

「――早く、案内して」

怒りを抑え、掴んでいた手を離す。彼女の服になかなか取れないくらいの皺を付けたくらいで済んだが、彼女の表情は芳しくない――相当痛かったのだろう。

 

「ああ、そのつもりさ」

姫子とアポロの二人は彼女についていく。ここから、アポロがもう二度と忘れることはない日、全てを失い――後悔し、何もかも終わらせる日。

 

 

同時に始まりの日でもある。そんな日が幕を開けたのだ。

 

 

 

アインシュタインについていき、数分後。一同は、コンテナが大量に積まれた空き地に来ていた。看板にはでかでかと『レンタルコンテナ貸出中』と書かれている。

 

「こっちだ」

ぼーっと看板を眺めていると、アインシュタインから声がかかる。視線を向けるとそこには、なんの変哲もないコンテナの前に突っ立っている彼女がいた。

 

「一年前に彼女が殺されてから、僕はずっとチャンスがないかを模索してきた。これが、その一つさ」

コンテナを開けると、そこには物々しい階段が出来上がっていた。

 

 

「これから、君たちが向かう場所の名前は“セントラルドグマ”と呼ばれる施設だ。そこに君の妹と聖剣ジ・アースが収められているはずだ。これは、そこまでの地図――そして、選別だ、物資もここにあるのは使ってくれて構わない」

「分かったわ、アインシュタイン博士は手筈通りお願いね」

「ああ、僕は外部からシステムに侵入して一時だが警備システムを無効化する。その間に、この地図通りに進んで、制御室を目指すんだ。そこを経由しないとセントラルドグマへの道は開かない――頼んだよ」

姫子から渡された地図を眺める。監視カメラの位置、視野角なども詳しく記されているが、その全貌は地下にあるというのに膨大な迷路のようになっており、まるでアリの巣の用だった。

 

「後、これから突入する上で君達が懸念しているのはそこにいる研究員や警備兵だろう――だけど、気にする必要はない」

「どういうこと?色々あったのは理解しているけれど、あんたの同僚であることは変わりないでしょ?」

「――今日、何の実験があるのかは知らされていないけど僕の知り合いの研究員たち全員は施設内への出入りが禁止されてるんだ。注意すべきは、警備ロボット、警備員と所長のティーフェ博士だ。特に所長は、サイコパスのカス、僕たちも中々に人の道をまっとうに進んでいるとは言えないが、その中でも筋金入りの男だ」

部下に対しては壊滅的に信頼が薄い所長に注目したいどころだが、どうやらよりきな臭い状況が演出されているらしい。

 

「警備が手薄なのは助かるけど――妙ね」

「だからこそ、君たちに早く行ってほしいのさ――もしかしたら、今日が君の妹に対しての実験かもしれないからね」

「ッ!すぐ、行こう姫子先生!」

妹のことになると血相を変え、アポロは姫子の手を引き階段に向かおうとするが、今度はアインシュタインが二人に待ったをかけた。

 

「待つんだ――最後に念のためだがこれを渡しておこうと思う」

「これは?」

姫子の手に納まっていたのは、何も書いていない鍵。サイズ的には一般的な家の鍵と同じなのだが、配色が燃える炎のように真っ赤になっているのだ。

 

「それは、研究所に納められている特別な兵器が収められている場所の鍵さ。使うときが来たら僕が指示するけど――使わない方がいい代物なのは間違いない」

「――わかったわ、物資を整えたら行きましょう、アポロ!」

「ああ、そうだアポロ君にはこれを渡しておこう」

「うん?」

アインシュタインから何やら試験管を受け取り手を開くとその中には今にも投げ捨てたいぐらい悍ましい雰囲気と、透明感ある見た目という相反する姿をしている薬剤が握られていた。

 

「な、何これ?これをぶつけろってこと?」

「違う、君の体――相当人工聖剣に侵されてるだろう?いくら、適性があるとしても長期間無理をし続ければ浸食される――特に、君は資料通りなら現在は十二歳、なおさらひどくなる」

「じゃあ、これって」

「いや、姫子さん。これは決してMNBの影響を無くすものじゃない。これは、聖剣の浸食を消す薬さ――もし、今日君の人生に一つの決着がつくならすぐ聖剣なんかとは決別して真っ当に生きるんだ」

彼女の目は優しかった。アポロはそっと長袖で隠している自身の腕に目をやる、そこには父親からつけられた夥しい数の根性焼の痕が残っている。

 

 

しかし、気づかれていたのだろう。長袖の下に隠れていたのは、それだけじゃない――一年前と比べて明らかに血の気を失い、蒼白になった皮膚。人工聖剣を使うたびに細い血管から悍ましい赤い光が現れ、腕から少しずつ上へと蔓延していっているのだ。

 

「ありがとう、アインシュタイン博士」

「礼は僕にする必要はないさ。その薬は、テスラ博士がヨアヒムを救うために作った遺作――特殊な血清と聖なる血を合わせた物、通称『神殺しの槍』さ」

「いや、それでもアインシュタイン博士が居なかったら今、これはここにはない――だから、ありがとう」

アインシュタイン博士に感謝を伝え一通り準備を整える。集められていた物資の中には拳銃だけではなく、ライフル、果ては機関銃までもはや武器庫と変わらない品ぞろえをしていた。

 

 

(何個か、閃光――手榴弾と、煙玉――くらいかな)

最初から持っている拳銃と聖剣以外には主に投擲物を装備し、姫子も同様に準備を終えたのか二人は階段を下りていく。

 

作戦の始まりである。

 

 

 

一方その頃、地下??階。セントラルドグマ内部

 

 

「――実験は成功した」

男はほくそ笑む、目の前には両腕、両足を失い虚ろな目をしながら虚空を眺めているサクラが手術台のような場所で横たわっていた。

 

「これが、聖剣ジ・アース。ふっはははははは!!そろそろ、鼠も入ってくる頃だろう――砥石にはちょうどいい」

その手には、地球のように青い刀身を持つ。ロングソードが握られていた。

 

 

決戦の日、2025年9月21日は国際平和の日、そしてアポロの十三歳の誕生日である。

絶望の訪れは近い

 

 




ついに、セントラルドグマでの決戦にGOですね。少し未来では、アポロが影山をツァーリボンバで吹き飛ばしていた場所になります。

さて、なんかもう手遅れな気がするけどアポロはサクラを助けることができるのか!!

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
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