ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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第87話・真紅の騎士・月蝕

 

 

一方その頃、姫子たちは襲い掛かる警備員たちを何とかあしらっていた。

だが、一向に攻めてくる予兆が現れない――どことなくやる気がないのだ、統制も取れているとは言えない。

 

「どういうこと?」

「――まあ、誰も好きでこんなことしているやつはいないからな。あくまで上の人間がイカレてるから嫌々ってところだ」

「なら、やめればいいじゃない。どうして、わざわざ向かってくるのかしら?」

「上のイカレ具合が並大抵ならそうするんだが――会ってみればわかるが、奴らは倫理観ってのがない。下手をすれば俺みたいに家族を皆殺し、もしくは自分自身も生き地獄さ」

「―――」

沈黙。視線を移し、後退しながら敵をあしらう。姫子は男の身の上を聞いていた、彼の妻と娘はここの所長であるティーフェ博士に研究材料ということで徴収され、その数か月後には今、彼が持つロングソードに変わって帰ってきたらしい。

 

 

肉体は廃棄処分。粉々になってコンポスターに飲み込まれていくのをただ茫然と見ることしかできなかった。

 

「俺も――抵抗したかったんだけどな、出来なかった」

「今、しているならそれでいいわ。あんたは、逃げなかった――十分大人よ。アポロの妹を攫ったことは許さないけど」

「それでいい、俺も許してもらえるなんて思ってない――まずは、今を乗り越えるしかない『クロスドライブ』」

十文字に切り裂いた衝撃波が真っすぐ通路を抉りながら進んでいく、相手もどういう必殺技なのか理解しているようで曲がり角に入り中々出てこない。

 

 

「ほらな、これであいつらはこれ以上来れない」

「横道はないのかしら?」

「やろうと思えば行けなくはないが、そこまでの意欲はあいつらにはないんだ――見ろ、目が死んでるだろ。正直、制御室にある自爆スイッチを押したくて堪らねぇ目をしてる」

「どういう目は知らないけど、とにかく奇襲の心配はないのね」

一段落。未だに、脱出への活路は見えない、出来ればすぐアポロの加勢に向かいたいが相手は銃持ち、しかもこちらが持っているちゃっちな拳銃ではなく軍用の物。

 

「どうして、あんなガチの装備を用意できるのよ」

「そりゃあ、バックが国だからに決まってんだろ。それも、複数の大国――噂じゃ、ここで研究されてる聖剣とある兵器が第三次世界大戦の引き金になりかねないって話だ」

「正気?――とも、言えないわね。最近の世界情勢の悪さは類を見ないわ、キューバ危機以来ね、それにある兵器って何かしら?」

1962年10月に起こった出来事を引き合いに出しながら、姫子は苦笑する。事実、最近は細かい紛争にも大国がバックにつく代理戦争が起こったり、国との間での戦争が起こったりして社会情勢は大きく揺れている。

 

 

 

少し、表情を落としながら冷静に男は言葉を紡ぐ。

「核爆弾だ」

「――冗談なら笑えないわよ。それに、ある時代から一定量の放射線が人体に影響を与えなくなったのを知っているわよね、それで核保有の意味がなくなったって聞いたわ」

「ああ、それは紛れもない事実だが、それは一年前の話だ――それは元々、第二次世界大戦後に日本に落とされた原爆の威力を恐れた聖剣使い達がこの世界に掛けた魔法だった」

 

 

男の過去形の文末に疑問を抱く姫子。だが、その理由はすぐさま明らかになる。

「だった?どういう事」

「一年前、当時のジ・アースの使い手を脅し、他は人工聖剣で賄うことによってその魔法を解除したんだ――代償に使い手は命を落とし、結局聖剣はあいつの妹、サクラの手に渡った、これが事の発端だ」

「それじゃあ、いつ核戦争が起こるかわからないってこと?」

「そうだ、だからこそ大国の奴らは兵器を欲し、こんなイカレた場所を支援してるってわけだ」

事実、過去の戦争は小さな火種から大きく燃え上がっていた。現在、社会情勢が安定していない国なんていくらでもある。そこだけじゃない、核の影響が復活したとなれば市街地に原子力発電所を置いている国なんかは致命的な損害が出る可能性がある。

 

 

(世界の終わりは案外、近くにまで近づいてるのかもね)

姫子のその考えは、すぐ現実になって目の前に現れた。

 

 

ドガァァァァン!!

 

 

壁が崩れる音が近くで響く、驚き身を置いていた曲がり角から視線を向けるとそこには、地面を突き破ってきたのか全身に土埃を纏い、手には見たこともない地球のように青い刀身を備えたロングソードを握っているアポロが立っていた。

 

「アポロ?――あ、「待て、何か様子がおかしい」」

呼び止めようとした姫子を男は口を塞ぎとめる。確かに、彼の言う通りアポロの様子はいつもと違っていた。

その、証拠を今から彼女らは目にすることになる。

 

 

 

 

アポロの肉体を完全に乗っ取ったサクラはセントラルドグマの壁をぶち破り真っすぐ人間の気配を感じる場所までたどり着いていた。

だが、問題は肉体は乗っ取られてもしっかり中で外の様子が確認できるという事だった。

 

『サクラ、何をするつもりなんだ!!』

「内緒――安心して、ちゃんとお兄ちゃんの仲間をみんな殺してあげるから――お兄ちゃんの前で」

着くとすぐに、目が合ったのはフル装備をした警備兵たち、彼らはアポロを見るとすぐさま銃口を向け乱射する。躊躇いがなかったのはきっとすぐ、別次元の存在だと感じとったゆえだろう。

 

「そんな、おもちゃが効くと思うの?」

「ッ、撃てぇぇぇ!!」

だが、虚しいかな。彼らの抵抗は無駄、無益、無価値、無意味に終わることとなる。銃弾は聖剣を軽く振るったのみだというのに勢いを無くしまるでモーゼの海割のようにアポロの前を開けた。

 

 

「――いいわ、ゴミ掃除の時間ね」

『待て!サクラ!待て!』

アポロの叫びは意味がなく。そう呟く瞬間、手に握られたジ・アースに光が収束し渦巻く。その眩い光は、目の前に固まった集団がこの先どうなるのか察するのは容易だった。

 

「総員撤退!!」

向けられる剣先、集まる光。それを前にして誰が言いだしたか、危機を察知し散っていく。それは、少しでも的を分散させるため日ごろからの訓練の賜物であった。

 

 

あぁ――でも、一つだけ問題がある。あまりにも、相手が悪すぎた。

 

 

 

「ゴミは焼却よ――『ジ・アース!』

蒼白の殲滅光。それらが、彼ら警備員たちが見た最後の光景となる。白と蒼が混ざり合う光が収束し放たれた。

 

 

ドォン――!!

 

 

世界が弾けた。近くで身を潜めていた姫子たちも悲鳴を漏らさぬよう必死なほどだった。

圧倒的な極光が地を這うように奔り、空気を焼き、壁を豆腐のように貫き、悲鳴すらも飲み込んでいく。

 

「あははは!逃げなさい、叫びなさい、恐れなさい――いいわね、これ」

『――なんてことを』

まるで、殺虫剤片手に虫を追いかけるような情景。光に触れたものは一瞬で蒸発し、僅かに遅れて衝撃波が襲う。

だとしても、あくまで凄く強い『デスソード』と変わらない。本来であれば、散開した兵士たちは全員集合とは行かないまでも、全滅はありえない。

 

 

だが、兵士たちはみな等しく影すら残さず消えていく。

扉の向こう側に行った兵士はその部屋ごと消滅し、曲がり角をうまく使い逃げ切ったかと思われた兵士は廊下ごと消滅し、殿を務めた隊長も、その後ろにいた仲間たちも等しく死亡していく。

 

「――ふふっ、これでゴミ掃除は大体終わったかしら?――でも、おかしい数が――うーん、後二人はいるはずなんだけど」

既に、サクラの目の前には先ほどまであった物々しい壁は消え、隙間からは月の光が少しだけ入ってきていた。

 

『うっ――はぁ、はぁ、サクラやめてくれ!!』

「えー無理。しっかり見ててね、お兄ちゃん。でも、うるさいから黙ってて」

さらに押し込まれ言葉が向こうに届かなくなる。それだけじゃない、問題はもう一つあった、それは中に押し込まれたせいか目をつぶれない。

 

 

『――ッ』

それは、この後の出来事に対して目を背けられなくなるという事でもあった。

 

 

そして、この絶望的な状況下の二人はそそくさとその場から移動していた。その上、先ほどの衝撃波によってアインシュタイン博士と連絡が取れなくなってしまった。

「一体どうなってるの?」

「分からない――だが、アレは確実にあいつじゃない。その上、聖剣ジ・アースまで持ってるとは、意識が乗っ取られたと考えていいだろうな」

「乗っ取られる?どういう事、今アポロに何が起こってるの?」

「オリジナル聖剣には意志が宿ってる。それによって、聖剣使い達の行動はある程度制限される――もしくは乗っ取られるって聞いたことがある」

そもそも口調が女性の物に代わっていたし、元のアポロはまだ十三歳の若造とはいえあそこまで残虐な行為はしない。

それどころか、人の命を奪うという行動に対しかなりの拒否反応を示すほどだったはずだ。

 

 

「どうすれば、アポロの人格を取り戻せるかわからないの?」

「――人格か、どうにかして聖剣の力を封じることができれば」

「聖剣の力を封じる――ちょっと待って、これが使えないかしら」

そう言って、取り出したのは突入の寸前にアインシュタイン博士から渡された聖剣の浸食を打ち消すという触れ込みの液体、通称『神殺しの槍』というもの。

 

「それは!?確か聖剣暴走時に抑えるための兵器として研究されていた血清!ナイスだ、これをアポロに注射することができれば聖剣の意志を封じることができるかもしれない」

「――注射ね」

確かに、希望は見えた。だが、注射である――あんな全身兵器の怪物にどうやって注射するだけ近づけるのだろうか。

 

 

「難しいな――注射なんてする前に、俺たちはあの光に飲み込まれてよくて消滅だな」

「あんたのその聖剣はアレに抵抗できるのかしら?」

姫子は男が握っているロングソードに着目する。その見た目は、アポロが握っていた聖剣ジ・アースに似ていたのだ。しかし、彼は首を横に振るのみ。

 

「これは、あくまで模造品なんだ。あんな規模の必殺技は使えないし、撃ったとしても相殺もできずに押し負けるだろうな」

「――そう、どうにか注射できる隙ができればいいのだけど」

現状持っている兵器たちでは周囲を無理やり開けた場所にしてしまったアポロには通じないだろう。

 

 

だが、ここでずっと留まっていたとしてもいずれ見つかる。そうすれば、アポロを救うことはできず、全滅となる。

「ねぇ、あんたって結構物知りなのよね」

「――?ああ、なんたって一応はここの警備隊長をやってたわけだからな。出世理由は最悪だが」

「なら、この鍵がどこの鍵なのかも知ってるかしら?」

そう言い、姫子が胸元から取り出した鍵を見て男は目を丸くする。それは、アインシュタイン博士から渡された、配色が燃える炎のように真っ赤な鍵。

未だに、アインシュタイン博士との連絡は回復しない――そのため、男に聞くしかなかったのだ。

 

「それは、確か聖剣暴走時に用意された安全策の一つ――セントラルドグマに納められた特別な兵器の鍵だと聞いたことがある。確か、真っ赤なクローゼットみたいなやつでわかりやすい配色だって噂になっていたような――」

「そう、なら行くしかないわ。セントラルドグマへの行先はもうわかってるから行きましょう」

「待て、ここから動いたら確実にバレる」

「なら、どうするって「俺が囮になる」――正気?」

男のその宣言は今から自殺しますと同等の意味であった。それどころではない、おそらく今のアポロと戦えば骨も肉体も影すらも残されることなく光に消えていく。

それを、何の躊躇もなく彼は言い切った。

 

「正気なんてとっくに消えた――それに、償いにはちょうどいいと思わないか」

その瞳は本物だった。

 

「分かったわ――ありがとう」

一生の別れ。もう、会うことはないだろう――そう感じながら、その場に彼を残し姫子は一人、セントラルドグマへ走り出した。

 

 

 

 

神の如き力を振るうアポロの前に、男は恐れながら震えながらも立っていた。

 

「――あら?私を誘拐したゴミじゃない、わざわざ自分から出てくるなんて殊勝な心掛けね」

「ああ、そうだその償いのために俺は立っている」

「そう、なら私も協力してあげる――たくさん痛めつけてから――殺してくれって叫ぶまでいじめてあげるわ!!」

「――その方が、ちょうどいい!!」

命を懸けた決戦の最中、その背後では姫子はセントラルドグマへ到着していた。

既に、ボロボロにひしゃげられた扉を潜るともはや誰なのか判別不能となった死体が転がっていたり、壁も地面も抉られ、特にアポロが通ってきたであろう部分には大穴が空いていた。

 

 

 

「赤いクローゼット――これね」

男の言う通り、ものすごいわかりやすい見た目をしているクローゼット――というか、内部が曇った物々しいポットだったため、鍵穴を刺し開場する。

すると、靄が晴れる。その中には、真紅の装甲と大剣があった。

 

「これが――特別な兵器?」

 

その時、先ほどまで繋がっていなかったアインシュタイン博士から連絡が入る。

『大丈夫かい?やっと、回線を回復できたよ。僕は、状況をあまり把握できていないんだけど、君の顔色を見る限りどうやらいい状況とは言えないみたいだね』

「ええ、かなりヤバいわ。ねぇ、アインシュタイン博士例の鍵を使って開けたんだけどこれは一体何なの?」

 

 

『これは、遥か過去に作られた律者と呼ばれる怪物と正面対決できると言われた武器、神殺し装甲原型機、真紅の騎士・月蝕さ』

「なるほどね、手っ取り早いわ。これを使えば、操られたアポロも」

『操られた!?どういうことだい?』

姫子はアインシュタイン博士に事の顛末を説明した。

 

『――確かに、君の言う通りそれを使えば操られたアポロを救えるかもしれない。けど、この装甲は謎が多い――一つわかっているのは、それを使ったものは最終的に命を落とすという事だけ、その上君の耐性は平均値を下回っている。使えば、死は免れないと思ってくれていいだろう』

「そう――だけど、これを使えばアポロは助けられるかもしれないのね」

『ッ、正気かい?今、セントラルドグマにいるなら君だけでも脱出ができるかもしれない』

 

「――いいのよ、私はアポロに未来を見せてあげたい。勇敢に――最後まで、あの子には生きてほしいの」

決心。既に、姫子の腹は決まっていた――止めようとしたアインシュタイン博士も言葉を閉じた。

彼女は、アポロにも投与したMNBと書かれた緑色の異様な雰囲気を纏った液体を自身へと注射する。それと同時に沸き上がる、痛みと異物感。

 

「ッ――」

 

姫子はぐっと耐える。ここで、負けてなんかいられない――と同時に彼女の命のタイムリミットは急激に早まった。

彼女は、そっと真紅の装甲に手をかける。手には燃える焔のように真っ赤な大剣が握られていた。

 

「ごめんなさい、これが終わったら誕生日を祝うつもりだったの――」

アポロへの謝罪を吐露する。それは、きっともう直接言える日は来ないだろうと直感したからだ。

 

 

「あんたが好きだって言ってたパンケーキを一緒に焼いて、アポロチョコでデコレーションして、奮発して普段は開けられないようなお酒も飲もうと思ってたの――残念ね」

 

決戦が始まる。

 




この戦いに、救いはない。さらっと、なんか不穏な話が入ってましたね、核爆弾とか何とか――一体、何が起こったのかはまた後で――

次回、第88話・最後の授業

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

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