ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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ちょっと忙しかった。


第90話・偽物の全身全霊

 

 

店に戻り、工房に入ると既にアフロディがソファに居座っており、アキラとリン。それに六課の他のみんなも到着していた。

 

「どうやら、準備万端みたいだね」

「呼びつけた本人が遅刻なんてどういうつもりだい?アルターエゴ」

「申し訳ない、少し話し込んでいたもんで。来てくれて嬉しいよ、アフロディ」

丁寧な言葉遣いながらどちらも『信頼してねぇよ』感を醸し出しているところが聖剣使いらしいと言えばらしい。

本来なら、ヴィクトリア家政からも力を借りようと思っていたのだが流石にアフロディの顔は割れているし、変な蟠りを作るのもいけないと考え助力は諦めた。

 

 

もはや、稲妻が走っているように見えるにらみ合いを間に入って止めるリン。

 

「はい、そこら辺でにらみ合いはおしまいにして――それよりも、みんなは集合したし今日の作戦の首尾を教えてアルターエゴ!」

「うん、それじゃあ説明するね」

アポロは、シーザーからもらった郊外の地図を開く。

 

 

「とりあえず、聖剣の気配はそこまで大きく動いていない――ここだね」

指さした先にあるのは小規模な共生ホロウ。だが、特徴として比較的街に近い、その上その街というのがアキラやリンはなじみのブレイズウッドなのだ。

 

「今回は、この前みたいに一斉にかかるんじゃなくて時間差で攻撃を仕掛けよと思ってる」

「時間差?どういう事かな、相手は未来視の能力を持っているんだろう、結局どんな作戦を仕掛けようともバレてしまうんじゃないのかい?」

「ああ、確かにアフロディの言う通り。だけど、俺はそこまで万能というわけじゃないと思ってる」

これまでのライとの正面戦闘は二回。確実に彼女が未来視を使っているだろうと考えられるタイミングは、主に星見雅との打ち合い、そしてアポロが奇襲をしたタイミングにも使っている。

 

 

「例えば、二回目の戦いのときライが『ハイボルテージ』を使ったとき『――この技を使わせるとはね』と言っていた」

「そういえば、言ってた!ナギねぇ、どういう事?」

「蒼角、つまりは未来視は永続の物ではないということですね」

「その通りだよ、柳さん。確実にONとOFFで切り替えてる。それだけじゃない、俺は長い間の未来視はできないんじゃないかって思ってる」

つまりは、ライは決して常に未来を見ているわけじゃない。星見雅との打ち合いや気配を察知しての奇襲対策など要所、要所で発動しているのだ。

 

 

「長時間の未来予視はできないってどうしてそう考えたんだい?僕的には相手はかなり先まで見えていると思うんだけど」

「悠真の言う通り、ライはとんでもない動きをするけど長時間は無理なんだと思う――いや、正確にはやらない、だろう」

「なるほど、奴が長時間の未来が見ることができる力があるなら未来視をON、OFFしてまで節約する必要はないというわけか」

結局、聖剣の力を引き出すために必要なのは体力だ。アポロも、ナナシも他の聖剣使い達、ましてや人工聖剣を使っているやつらもその原則からは外れない。

だからこそ、ライも力を使えばそれ相応の対価を必要とする。

 

 

そして、アポロがここまで断言したのはもう一つ理由があった。それは、彼の時代にオーガの使い手となった青年、バダップである。

彼が言う限りでは、長い未来を見ようとすればするほど、未来は枝分かれをするため信憑性が落ちることに加え多くの未来の可能性を見るため体力を使うと言っていた。

 

もし、数十年単位で物を見たいならそれ相応の聖剣との適合率を持ちつつ、全ての寿命を引き変えなければいけないほどらしい。

 

 

「それに、ライの無茶苦茶な動きは星見さんとシンクロしていると言っても過言じゃない」

「――それで、時間差攻撃で結局どうやってライを倒すんだい?」

 

 

 

「そんなの簡単だ、アフロディ」

待ってましたと言わんばかりの視線を彼女に向けるアポロ。

 

 

「ゴリ押しだ」

一同は頭を抱えることになった。

 

 

 

 

一時間後、決戦のホロウの中。俺たちは六課(柳さん抜き)チームとアポロ、アフロディ、柳さんに別れていた。

 

『それにしても、大丈夫なのかい?アルターエゴ、六課の四人と別れて』

「うん、時間差攻撃って言っても相手が警戒するのは星見さんの斬撃と、何するかわからない俺くらいだからね。――結局、ハイボルテージを突破できないことには変わらないんだけど」

「それは、僕の役目だろう。安心してくれ、神の力を見せてあげよう」

「――ミスったかなぁ」

一つ懸念点がある。それは、星見さんの斬撃、アポロの全力の必殺技、アフロディのゴッドノウズ、これらでもハイボルテージを突破できない場合だ。

その場合、こちらはじり貧な状況が続くし相手のガス欠まで粘らなければいけない。

人数有利とはいえ、誰一人犠牲者を出すつもりもない。

(自分を除いて――だけど)

 

もしも、どうしても突破できない場合は背中に背負った大剣を使うことになるだろう。

もちろん、命を代償にして

 

 

そう考えているのも束の間、開けたところについたかと思えばホロウの真ん中で爆睡しているライを発見した。

(――やっぱり、ただの女の子だな。十中八九、聖剣の精神汚染が今回の出来事の原因だろうな)

 

まあ、だとしても容赦をするつもりはない。命まで奪う気はないが少なくともジ・アースは返してもらわないと困る。

まだ、到着して気配を殺しつつ身を潜めている段階なため相手には気づかれていない。

 

『アルターエゴ、六課のみんなも配置完了したみたいだ』

「分かった、俺と星見さんがライとぶつかったら的を絞らせないように気配を殺しながら散開し始めちゃって、柳さんもここは頼みます」

「はい、承りました」

『――わかった。でも、どうか生きて帰ってきてくれよアルターエゴ』

 

何も返事をせず、立ち上がり視線だけで星見さんへ合図を送りライのいる中央に走り出す。それは、まるでそのつもりはないと言っているようだった。

完全に奇襲だが、相手もバカではない。常に襲撃が来る可能性があると警戒しているだろうし、厄介なのは敵が広間の中央に鎮座しているという事、近接中心の俺と星見さんが戦おうと思ったら少し走らなければ戦いにもならない。

 

 

ということで、俺たちが接近を開始したタイミングでライは目覚めすぐさま聖剣オーガを刀から機関銃へ変化させる。

 

「ッ!?また、性懲りもなく!『デスレイン!』」

 

同時に容赦なく向けられる弾丸の雨、もはやゲリラ豪雨と表現した方がいいだろう。だが、あくまで機関銃であろうと放てる方向は一つのみ。

間合いが相当空いているため最初からデスレインが飛んでくることは想定済み。だからこそ、弾丸の雨を突破できるアフロディを除いた星見雅とアポロが出たのだ。

 

 

「くっ、二方向から」

 

最初は俺の方を向いていた銃口は星見雅の方へ向き、その隙に距離を詰める。

(おそらく、接近戦なら厄介な方は星見さんだって考えてるんだろうな。まあ、事実だけど)

 

 

全盛期ならまだわからないが、弱体化に弱体化を重ねたアポロでは接近戦ではライに遠く及ばない。

ライと同格に切り結びたいなら星見雅以外にはないが一対一だと未来を見られるライに軍配が上がる。どうしても、サポートをする人員がいるが相手がそうさせてくれない。

 

(でも、デスレインで星見さんを狙っている今なら俺だけは楽々接近できる)

 

でも、それなら星見雅と同時に飛びかかればいい――と考えるところだがそうもうまく行かない。

というのも、この広場は円型になっており接近すればするほど徐々に距離が縮まるため俺たち二人をデスレインであしらうのが楽になってしまうのだ。

だからこその、時間差。俺たち二人が、デスレインを浴びないために片方が先に戦闘し隙を作ったのちもう一人が加勢する。

 

これが、第一段階。

その間に他の六課の三人は散開しデスレインの的にならないように隠れている。

 

「時間差――よく考えたじゃない。だけど、一つ欠点がある――片方を瞬殺すればいいのよ!」

「ッ」

 

デスレインを星見さんに浴びせる傍ら強烈な殺気がアポロを包む。そう、彼女の言う通りこの作戦は片方が瞬殺されれば成立しない。だからこそ、比較的貧弱な俺を先に相手取るのだ。

 

 

そしてアポロとライの間合いが十分迫ったその時、デスレインの手を止め彼女の聖剣がハンマーへと変わる。

雷撃を纏ったその一撃は当たれば一撃でよければ致命傷、悪ければ即死、あの星見雅ですらまともに受けたら肩が外れる――やってられないとはこのことだ。

 

「吹っ飛びなさい!『真ニードルハンマー!!』」

「――ッ」

 

だからこそ、まともに受けない。ハンマーの間合いに入る瞬間に急ブレーキをかけバックステップで何とか回避する。目と鼻の先を雷撃を纏ったハンマーが通り抜けていくのは中々肝の冷えた行為だったが成功した。

 

「ッ、ほっ!」

先に先制攻撃を仕掛ければこちらの物。ハンマーを振りかぶってアポロに一番近い場所で無防備になっている手に向かって抜刀した大剣を振るった。

これで、片腕の一本は持ってけた――そう確信したその時だった。

 

「はぁ!?――ッ!」

「軽い、やっぱり大剣は似合わないわ」

 

何と、ライはその場で聖剣を手放し俺が振るった大剣を素手で刀身を掴むことで止めて見せた。その表情には苦悶の一つも浮かばず、終始余裕そうな笑みが浮かんでいた。

掴まれた大剣はすぐ手放し更なる追撃を加えようとするも、すぐさま大剣をこちらに向かって放り投げ阻止される。

 

「必殺技を使わないの?――いや、使えないようね」

「そういうそっちこそ、未来視は使わないんだな。使えば、さっきニードルハンマーをからぶらせることはなかったかもよ?」

「どうかしら――使ってたから、あなたの一撃をキャッチできたのかもしれないわ」

 

緊張が走る。少し、ブラフを吹っ掛けるつもりだったが逆に相手から『実は長時間見れる』なんて、択が吹っ掛けられてしまった。

一連の流れをすべて見ていて、それでもこの選択肢が最善だと考えたのか。

どちらにせよ、長時間の未来視が可能ならこちらの敗北は揺るがない。

 

そして、てっきりこのひと悶着は追撃を回避したライの勝利に見えるが、実情は違う。俺と彼女との小競り合いの間、妨害は一切星見雅に降りかかることなく接近していた。

 

「――悪、直、斬だ!」

「そうね、でもあなた達だけで勝てるのかしら!!」

 

星見雅とライのぶつかり合い。必ず、ライは星見さんを圧倒するために未来視を発動するだろう、ここにアポロもいるのだからなおさらだ。

だからこそ、ここしかない。

 

 

互いに刀を持ちぶつかり合おうという刹那。ライが、何かを察知したのかその場から後ろに飛ぶ、その瞬間先ほどまで彼女がいた場所からは死角の位置から矢が二本通った。

 

「なるほど、弓兵がいるのね。それも二人、片方は前回も見た人だけど、もう一人は違う――誰かしら?」

「さぁ?スペシャルゲストの登場にはまだ早いんじゃないのか?」

 

もちろん、矢を放ったのは悠真とアフロディだ。今回は避けられたが相手の動きを制限できるし、何より死角からの攻撃は未来視を効率的に使わせることができる。

もし、位置がバレて攻撃されてもそれぞれ蒼角、柳さんが守備に就いているため生半可な攻撃じゃ痛くもかゆくもない。

 

 

というのが、今回の作戦なのだがそれよりも先ほどのライの回避が妙だとアポロは彼女と小競り合いながら考えていた。

そもそも、本当に未来が見えるならあそこまで大げさに回避する必要はない。むしろ利用して俺たちにぶつけて隙を作るくらい造作もないはずだ。

 

(それとも、未来視を本当は発動してなかった?――いや、それにしては攻撃への反応速度がすさまじすぎる。あれは、来るって知らなければできない)

 

妙な引っかかりを覚えながらもその場には、金属がぶつかる音が絶え間なく響く。わかっている、接近戦で相手を攻め切ることはできない。

だが、この状況が続けばいずれ相手は限界が来る。その中でも弓矢を絡めていけばなおさらだ。

 

「こんなにちまちま、ちまちまと――!!正面から戦う気はないの?」

「そんなものはない――はぁッ!」

 

そんな、風にライの限界が来るまでちまちま戦闘し続け数分が経過した。

――そう、その隙は唐突に表れたのだ。星見さんの振るった一撃を受け止めるために鍔迫り合いが起こる。それによって、止まったライの足をアポロは見逃さない。

瞬時に、背後に回り大剣を振るう。だが、見えた彼女の武装が刀から手袋になっていることを、何が起こるかも想像できた。

けれど、止まれなかった。

 

「ッ、せやぁ!!」

「『ハイボルテージ!』」

 

パチンッ、と手のひらを叩き目の前に電撃の壁が生成される。本来であれば、星見さんの方にさらされるはずの無防備な背中はライが後方に飛んだことによって守れている。

 

「うぐっ――やばっ!」

「これで、終わりよ!」

 

それにより、電撃の壁に阻まれたアポロは大剣もろとも宙を舞い地面に叩きつけられた。

そして、叩きつけられた直後で回避できないアポロに向かってライは追撃を繰り出す。

 

「やらせないよ『ディバインアロー!』」

「くっ!邪魔」

「ナイス、アフロディ!来て、星見さん!」

「ああ!」

 

振り下ろされるかに見えた、真剣。だが、それは寸前に通った光の矢によって止められる。

その隙をつき立ち上がるや否や追撃の蹴り、横から星見さんの一閃。

両脇からの攻撃、だが一つの問題はあくまでライの前方からの攻撃ということだ。

依然、彼女の手には無敵のハイボルテージを発動する手袋が装備されている。

 

「無駄!『ハイボルテージ!』

「――待ってたよ。やっちゃえ、アフロディ!」

 

パチンッ手のひらを叩いた瞬間。待ってましたと、彼女のためのレッドカーペットを作るため寸前で立ち止まりわきによける。

ハイボルテージをしているライにはその時見えただろう。二人の後方に控え、力を溜めた神の姿を――

 

 

「ああ、神の力を知るがいい!『ゴッドノウズ改!』

 

 

弓の姿は仮の物。現れたのは、淡くも美しい光を纏った剣。見る者が見れば、思わず息を飲み、呼吸も忘れてしまうほどの美しさ。

だが、そこに秘められた破壊力はジ・アースの比ではない。

 

「ッ、はぁぁぁぁぁッ!!」

 

光の塊が『ハイボルテージ』に衝突する。光に包まれたためもはや中を視認することはできず、その場に響いたのはライの咆哮のみだった。

これで――倒せた。多分、消滅しただろう。

 

「やったか!!」

 

思わず漏れる一言。だが、途端に沸々と不安が沸き上がっていた。思わず、アポロは星見雅と顔を合わせるくらい嫌な予感がしていた。

――やがて光は晴れる。光が強いのは素晴らしいことだが、残念なことに光が強ければ強いほど闇もまた深くなるのだ。

 

「はあ、はぁ――本当に厄介」

「――まだ、倒れないの!?」

「僕の『ゴッドノウズ改』が防がれたのか!?」

 

光の中から現れたのは、多少手傷を負ったライだった。聖剣をいつも握っている右腕には傷一つなく、その代わり左腕からは血が滴っている。

そう、確かにアフロディのゴッドノウズはハイボルテージを突破した。しかし、その際にライはその光を自分から見て左側にずらし被害を最低限に留めたのだ。

 

「マズい!?」

 

アフロディのゴッドノウズの衝撃波から逃れるために現在、ライからは少し距離が離れてしまっている。それは、すなわち先ほどみたいに相手の行動を制限するものがなくやられたい放題という事なのだ。

 

 

「――すべて、消し去ってやる!!」

 

彼女の手袋が刀に戻り、途端。まるで、アフロディのゴッドノウズのように光が収束していく。だが、それはゼウスとは違う。禍々しく、その光に込められたのは希望とは反対の物絶望のようにも感じられた。

ただ、わかるのはとてつもない何かが迫ろうとしていることだけ。

 

「アフロディ!俺が、アレをどうにか一時的に止めるからその間に逃げろ!!」

 

既にエネルギーは収束している。途中での阻止も不可能。刀の射線上にいるのはアフロディだけ、でも到達までに彼女がその場を離れるのは不可能、確実にあの必殺技に到達される。

あらゆる、事象が頭の中で収束する中でアポロが出した答えは――肉壁であった。

 

(生存出来たら、ラッキー!!)

 

両手をまるでゴッドハンドXのようにクロスさせ、心臓に気を集中させる。

 

「はぁぁっ!!――止めて見せる」

 

それらを開放、現れるのは赤いマントをたなびかせた黄金のマジン。その風貌、雰囲気からナナシが発動するマジン・ザ・ハンドとは比べ物にならない威力があると想像させる。

 

「『デスブレイク!!』」

 

「『偽ゴッドキャッチ!!』」

 

黄金マジンは両手を前に突き出す、その瞬間大気が震え空間すら歪んだように見えた。しかし、敵の斬撃が離れたその瞬間。鬼の姿をしたそれは、まっすぐマジンを食い尽くさんと激突する。

 

 

どのくらい経った?いや、実際は多くても1~3秒ほどの激突だっただろう。しかし、体感的にはもっと長く感じられた。

 

一つわかるのは――

 

 

「私の勝ちよ――」

偽ゴッドキャッチは破られ、アポロの意識は闇に落ちたということだね。

 




流石に、偽物では止めきれない。
余談ですが、ありえない話ですが全盛期のアポロとライが戦ったら100%アポロが勝ちます。
具体的に言うと五十万のムゲン・ザ・ハンドを展開して物量で押しつぶして勝っちゃいます。

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

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