ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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さて、どうやってナナシは理の律者に成ったのか――ライとの決戦は少し待ってね!


第93話・エリシア

 

 

――歩いていたのは覚えてる。地獄への片道切符まあ仕方ないかな、なんて思いながら歩いて、歩いて歩き続けていたところで、俺の意識は鮮明に色づいた。

 

「あ?えぇ!?」

 

周囲が開けたと思えば、辺り一面はピンクの花々が咲き誇る花畑のど真ん中に突っ立っていた。どこを見渡してもその端は見当たらず地平線の遥か彼方まで続いていた。

この異様な光景、恐怖を抱きそうな場面だが一種の楽園のように見えていた。

 

「ようこそ、高潔で純真な魂。あなたは、希望を受け継ぐためにここに来た」

「――誰?」

 

声が聞こえた方に振り返ってみればそこには、今足元で咲き誇っているピンクの花々ように美しい少女が立っていた。後、胸がでかい。

だが、俺の記憶が正しければライに不意打ちで結構惨たらしい最期を迎えて――お母さんに別れを告げて死んだはずだったのだが。

 

「そうよね、まず何を始めるにしても自己紹介よね――あたしはエリシア。見ての通り、見目麗しい少女よ。この名前のようにね。ムーの共通言語で、エリシアには『楽園、楽土』という意味があるの」

「エリ、シアさん?」

「エリシアでいいわ――いや、待って。やっぱり、親しみを込めてエリって呼んでちょうだい?響きがかわいらしいから、あたしにピッタリでしょ」

「エリシア」

「エリよ」

「エリシア」

「エリって呼んで」

「エリシア」

 

このように何度か呼び方で争ったが結局はエリシアが折れることになった。というのも、何だか彼女をエリと呼ぶことを本能的に拒否したのだ。どうにも体の奥がむずむずするというか、背筋が寒くなるような感覚がしたのだ。

 

「――強情ね、それもあなたらしいと言えばあなたらしいのかもしれないけど。わかったわ、あたしはエリシアって呼んで」

「うん、よろしくエリシア。俺はナナシ――聖剣使い?って言えば伝わるのかな。それとも、アポロのクローンのアポロ十一号って言えばいいのかな?」

「なんでもいいわよ。あたしはあなたのことを全て知っているもの。巨乳が好きなことも、パンケーキが好きなことも、それにあなたがお風呂でどこを最初に洗うのかも知ってるのよ!」

「――治安局に行かないと」

 

急に受けた、とんでも発言で一気に頭が冷えて冷静になり、治安局に助けを求めたいところなのだが。辺りを見渡しても地平線まで続く花畑のみ、どうにも治安局というか新エリー都のしの字も見つかりそうもない。

どうやらここは、完全に現実世界ではないらしい。

 

「それで、あのさここはどこなの?」

「ここ?ここは、あたしの世界。あなた達が聖剣ジ・アースと呼ぶ物の中よ」

「え、ここが聖剣の中?――やっぱり、俺死んじゃったんだ」

 

聖剣の中にいるということは、思い出されるブリンガーの中に突入したときの魑魅魍魎、悪鬼羅刹。絶望と混沌の入り混じる世界には見えないが、よくよく感じてみれば似たような世界だとすぐに気づいた。

 

「うーん、確かに肉体的には死亡しただけど、あなたの魂はまだ健在よ?」

「どういうこと?俺、サクラ――って言う俺のお母さんが言うには、このまま俺の魂は燃え尽きるはずじゃなかったの?それに、一応肉体的に死んだということは魂が健在なのはおかしいんじゃない?」

「そうね、本来ならそうなるはずだったわ。そこから話しましょうか」

 

時間は、ナナシがサクラに感謝を告げ去った数分後まで遡る。

 

「――バカ」

 

呆然と去っていくナナシの姿を見ていたサクラはそう呟いていた。一体それは誰に向けてなのか、いくら自分が忠告しても死んだ兄に対してか、酷いことをした自分を責めずに去っていくナナシに向けてか。

 

 

いや、違う。それは、自身に向けてだ――いつだって、間違った選択を取る自分を許せなくなった。

 

「――わかってた。お兄ちゃんがもう助かる見込みもないってことも――だけど、お兄ちゃんの人生を台無しにしたのは私なの!!だから、せめて今の世界ならお兄ちゃんは、人並みの幸せを掴めるはずなの!!」

 

誰もいない暗闇で彼女は叫ぶ。彼女は別に自分が蘇りたいとかそういうわけじゃない、世界をぶち壊すことにも今は興味はない。

ただ、無惨、悲惨、散々な人生を送った兄の結末があんな最後であっていいはずがない。いっぱい頑張ったのに、たくさん努力したのに世界はそんな兄を嘲笑うように地獄へ叩き落とした。

無論、自身もその一端を担ったことも理解している。

 

「だから、今度は私が頑張ってお兄ちゃんを幸せにするの!――私が、お兄ちゃんからたくさん奪ったから――でも――」

「もう、いいんだ」

「お兄ちゃん?」

 

その時だった。項垂れる彼女の前に人魂のようなものが現れる。一目見て、サクラは理解した自身の兄であると。

人魂は光輝き、アポロの姿と成りサクラを抱擁する。

 

「ありがとう、頑張ってくれて確かに、結末は――結構、酷かったけど。そこに行きつくまで、その道は何よりも幸せだった。多くの仲間に出会って、冒険をして、国を運営して、戦って――だから、もういいんだ。俺は、もう終わりでいい」

「お兄ちゃん?」

 

それを、最後に兄は聖剣ジ・アースから消えていった。そう、ナナシの残した最後の希望となるため新しい体を伴って脱出したのだ。

当然、サクラには止めるすべはない。それに加えて、なぜ兄の魂が蘇っていることなんてすぐ察しがついた。

 

「ッ、バカ――本当にバカ。なんで、どいつもこいつも簡単に命を捨てられるのよ」

 

それは、アルターエゴが消滅していた。おそらく、アポロに自分の魂を明け渡したんだろう。元は、一つだった存在だくっつくのも容易と言えば容易なのだろう。

 

「――なら、私もバカになってみてもいいかもね。私とお兄ちゃんとの息子だもの」

 

サクラがやろうとしているのは自身の魂を使ってナナシの魂を聖剣内で生かそうとしているのだ。だが、それをすれば当然今は魂だけの存在であるサクラは確実に死ぬ。

しかし、それでも彼女は止める気にはならなかった。

 

「出来の悪いお母さんでごめんね――でも、これだけは言わせて、ナナシ。私はあなたを愛しているわ」

 

それを最後に、サクラはこの世から完全に消え去った。

サクラのお母さん像は、アポロの母親であるあの残念母親しかいない。だからこそ、自身とお兄ちゃんとの息子であるナナシにはどうしても酷い対応しかできなかった。

 

 

でも、それでも――愛しているからこそ無意識に命かけて守りたいと願ったのだ。

 

 

 

「これで、理解してかしら?」

「――うん、ありがとう。お母さん」

 

もう愛への恐怖はない。母親からの愛を受け取ったから、きっと『愛してる』と言われても蘇るのはつらい記憶じゃなくて母親の姿であろう。

頬を伝った涙をぬぐいながら、ナナシは感謝を伝えた。

 

 

だが、ここで色々あったからか急に頭が冷静になってきた。

 

「――待って、ここは聖剣の中なんだよね。なんで、エリシアはそこにいるの?」

「そうね、身分的な説明をしましょうか。あたしは――そうね、うーん。あなたが知っている中で言えば、人の律者と呼ばれる人物よ」

「ひ、人の律者!?」

 

律者と言えば、アルターエゴによると神の如き力を持つ存在と呼ばれていた。その中でも、人の律者と言えば彼から『人になれる、それ以外に能力はない』と説明されていて正直、なんだそれ?と思っていた律者だ。

だが、聖剣ジ・アースには確かに人の律者のコアが含まれている。

 

「な、なるほどね。エリシアが人の律者だからこの空間にいるってわけか――」

「ええ、と言っても人の律者だったのは今から大体五万年前なのよ」

「ご、五万年前!?」

「そうよ、あたし達は五万年前に存在していた崩壊と呼ばれる現象と戦った、英傑の一人。でも、もう今になっては誰の記憶にも残ってないでしょうけど」

 

彼女の言う通り、誰の記憶にも記録にもエリシアという名前なんて残ってない。律者の話も、アポロが研究所で見つけたものを呼んだだけ、いくら壮絶な物語があろうともそれを風化させ消し飛ばすほどの威力が五万年という月日には存在するのだ。

 

「待って、エリシア。さっき“人の律者だった”って言ってたよね?律者って辞められるものなの?」

「普通は無理ね。でも、あたしの場合は力を勇気の律者へ渡したから結果的に辞められたってところね」

「――勇気の律者」

「その名前には聞き覚えがあるようね」

 

アルターエゴが言っていた、勇気の律者のコアが全ての聖剣に組み込まれている律者のコアの名前。アポロの仮説によれば、そのコアが他のコアの統制を為しておりそれがある本物の聖剣が願いを叶えることができると話していた。

 

「勇気の律者は――そうね、一言で言えば究極の愚か者よ」

「きゅ、究極の愚か者!?」

「そうよ、彼はあたしと同じ組織。火を追う蛾に所属していた仲間で――頼りになる仲間だったわ。でも、月での最後の戦いで終焉の律者を倒した後――自殺したの」

「じ、自殺!?」

「あたし達は彼を救うことができなかった。彼は全ての絶望を抱えて逝ってしまったわ――それが、どれだけの人間を悲しませるのかも知らずに、いや知らないふりをしていたの」

「――それってまさか」

 

その時、エリシアの言葉からどうにも既視感を感じざるを得なかった。それは『ツール・ド・インフェルノ』が終わった後、諸々のお礼としてシーザーに演奏してもらったタイミングに流れ出した謎の映像。

 

「あなたが思っている通り、あの日ピアノを聞いていた時に見えた景色にいた男――彼が、勇気の律者よ。と言っても、度重なる超変手術によって容姿は最初と比べて大きく変化しているのだけれど」

「――色々聞きたいことはあるけど、後にしておく。それよりも、ここから出る方法って無いのか?魂が生きているなら、肉体を作ってまた蘇れるんじゃないのか?」

「ええ、あたしはそのためにあなたをここに呼んだの」

 

アポロが、新しい肉体を使って何度も蘇っているのを知っているからもしやと思ったがどうやら、俺も復活できるようだ。

 

「だけど、その方法を使うためにはジ・アースを奪還してもらわないといけないわ」

「――それは、大丈夫だと思う」

「どうして?あたしが言うのもなんだけれど、あのライって子相当強いわよ」

「うん、それはそうなんだけど――アポロが負けているところ想像できないんだよね」

 

特に根拠はない。実際にアポロの戦闘を見たのは一度だけ、影山との戦いだけだ。でも、やってくれるような気がした。彼なら、たとえ肉片一欠片になろうとも希望の灯を次へ渡してくれると信じているのだ。

 

「そうね、アポロは可愛い女の子じゃないけど――きっとやってくれるわ」

「え?――それで、結局どうやって肉体を再生成するの?」

「これを、使うのよ」

 

なんか聞こえた気がしたが聞かなかったことにして方法を尋ねる。肉体の生成は、正直言って難しい。俺も、最後の最後にやってみたが肉体を半分しか生成できなかった。

そんな、疑問をよそにエリシアの手の上にあったのは何やら異彩な雰囲気を放つ白金の宝石であった。

 

「これは?」

「理の律者のコア。これを、使ってあなたが理の律者になることで肉体を再生成するの」

「ッ!?そんな、簡単に使えるの?」

「使えないわ。でも、あなたの場合は少し違うのよ――これを見てちょうだい」

 

そう言い、エリシアの手から現れたのは何やら設計図のようなもの。なんだ、なんだと目を凝らす間もなくそれが何かを理解した。

 

「これって、俺の設計図だよね!?」

「ええ、サクラが残した物よ――きっと、あなたの魂が蘇った後困らないようにって用意したのね。これを使えば、理の律者に成り立てのあなたでも十分肉体の生成は可能よ」

「いや待って、待って。作れるのはわかったけど、そんな簡単に理の律者ってのに成れるものなの?」

「無理ね。でも、それは他の人の話よ。あなたにはその資格がある――それを、短い人生の中で証明し続けていたじゃない」

「証明?試験を受けた覚えはないけど」

「そういう物じゃないのよ。だけど、試験なら人生が試験のようなものね。あなたは確かにオリジナルの信念と精神を受け継いで自分の物にしている。でも、少し自分を顧みないのは悪い癖よ」

 

微笑みかけるエリシア。だが、どことなく違和感を感じる――確かに、麗しい笑顔に思わずくらっと来そうではあるが、彼女の瞳の奥には俺ではない誰かが映っているようにも感じ取れた。

 

「それじゃあ、始めましょう」

「――?ば、バッチ来い?」

「ふふっ、可愛いわ――行くわよ!」

 

すると、彼女が助走をつけて目にもとまらぬスピードで接近しナナシの胸に先ほど手に持っていた白銀のコアを押し込む。それは、みるみる内に体の奥へと入り込んだ。

 

「ッ、何でこんなパワープレイ――」

 

途端にあふれ出す異物感。だが、すぐに変化は訪れた――肉体は蒼く発光し始め、体中から力が沸き上がってくる。

やがて光は止み姿は変わっていた。蒼き輝きを纏う戦士。黒目から銀眼へと変化を遂げていた。だが、変化は肉体だけでなく服装にも及んでいた。

 

「――何だこれ?」

「あたしの趣味よ。もし、理の律者の能力を現世でも行使したいならちゃんと『変身』って叫んでちょうだい。もちろん、服装も変わってもらうから」

「え―執事服かぁ。戦いにくいわけじゃないけど、ライカンさんみたいでカッコいいか――でも、変身って叫ぶのは恥ずかしいんだけど」

「ダメよ!!絶対に叫んでもらうから!もしも叫ばないならあたしのことをエリって呼んでもらうから!」

 

結局のところ、ナナシはエリシアとの交渉に破れ理の律者の力を行使する際には『変身』と言わなければいけなくなってしまった。

一方で、執事服の正装のような出で立ちはライカンさんのようで気に入ったが落ち着かないようで花畑の中で自分をじろじろ確認する不審者のようになっていた。

 

 

「――そろそろかしら。準備は万端ね、ナナシ」

「うん、それじゃあ行ってくる。ありがとう、エリシア」

 

感謝を伝え、理の律者の能力を発動させる。それにより、徐々に薄まっていく肉体――やがて、花畑からナナシは消え去り現世へ仲間を守るために戻るのだった。

 

 

「――行ったわね」

 

彼が消えた花畑を物悲しそうに眺めるエリシア。

 

「今度は間違えないわ。ナナシを彼のような末路を辿らせはしない――でも、びっくりしたわ。あそこまで容姿が同じなんて、どうやらアポロ計画は成功していたみたい。メイ博士もきっと喜んでいるわね」

 

 

 

 




まあ、知らない話が多かったと思いますが、知らなくて大丈夫です!!

それにしても、ナナシを救うためにアポロ、アルターエゴ、サクラの三人がもう犠牲になってるんですね。死屍累々とはこのことか――

はいということで、今回初登場のエリシアさんです!花のように美しい少女ということで果たして敵か?味方なのか?
さらっと勇気の律者にも触れていたりこの話、全体的にこの物語の根幹に触れてますね。

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
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