「『真マジン・ザ・ハンド!!』」
「こんなもの――ッ」
黄金のマジンが拳を振り切り、ライの刀とぶつかる。こんなものと一蹴できると思っていたであろう彼女の考えとは裏腹に重い拳はそう簡単に振り払うことはできなかった。
そして、その隙をつき狐耳をピンと伸ばしながら彼女が悠々と接近しその刃を――
「ここだ!!」
「ッ、引くしかない」
避けるために、ライはその場から跳躍し後退する。だが、今までの戦略的なものとは違い確かに焦っていた。今のような後退は次は通じない、いわばトランプゲームにおける一度しか使えないパスの権利を使用したようなものだ。
「二対一、甘くはないみたいね。でも、これならどうかしら」
もちろん、それは相手も理解している。そんな彼女の取った行動はあちらから攻め立てることだった。
「『ムゲン・ザ・ハンドG2!』」
「間に合わない、来るぞ!」
雷を思うそのスピードにムゲン・ザ・ハンドは当然のように間に合うわけもなく俺たちの周りを旋回し始める。じわじわと中央部に追い詰められていく、厄介な技巧というわけではなく相手が持つ圧倒的な身体能力によるものだ。
「雅、行ける?」
「――難しいな、せめて一瞬だけでも速度が緩めば対処できるのだが。下手すれば殺しかねない」
「殺せないと分かってるからこそだな――理の律者の力でどうにか――」
理の律者は構造を理解したものを無から生成する能力がある。それによって、ゴッドハンドやマジン・ザ・ハンドを生成しているわけなのだが、ふと思い出していた。
『――エデン――それが、第九の神の鍵『星海の諧調』か、重力を操る能力は健在みたいだな』
エデンと呼ばれた女性が使っていたあの球体。勇気の律者を一時的にだが、行動不能するほどの重力操作が可能になる物。あれを生成すれば、一瞬でもライの動きを止められるかもしれない。
「来い『星海の諧調』――ッ!」
「どうした、ナナシ!?」
「大丈夫――それよりも、ライへの警戒を――」
あの星海の諧調を作ろうとした瞬間、とてつもない頭痛がナナシを襲った。何が起こったのか一瞬で理解した。キャパを超えたのだ、あれは成ったばかりの俺が作れるほど単調なものではない。まさに、人知を超えた叡智を結集した人類の集大成と言っても過言じゃない代物だ。
(やっぱり、どうにかしてムゲン・ザ・ハンドで足止めするしかないか)
『待ってちょうだい、諦めるのはまだ早いわよ』
(エリシア!?――そっか、ジ・アースの中にいるんだから会話はできるか。それで、諦めるのはまだ早いってどういう事?)
『確かに、あなたの考え通り本物を作るのは今のあなたには難しいわ。けれど、同じ偽物ならどうかしら――今のあなたでも十分作れるはずよ』
(同じ偽物?)
さらに記憶を探る。確かに、エデンによって押さえつけられていた勇気の律者は無数の星海の諧調を生成していた。あれも同様に重力を操作し本物を押し返していた。
「雅、俺を信じて――これから、どうにかしてライの動きを一瞬止める。その隙をついてライから聖剣を手放させてほしい」
「わかった、任せろ」
「――ありがとう」
悩む様子も全くない彼女の全幅の信頼に思わず身震いしてしまうが、裏切るわけにはいかないと集中する。
『集中しなさい、手伝ってあげるから。そうね、偽物なんだから本物と同じ名前なんて合わないわ。――こう呼ぶといいわ『エデンの星』とね』
(うん――ありがとう、エリシア)
先ほどまで酷かった頭痛はエリシアの助けのおかげなのか徐々に引いていた。加えてより、イメージは鮮明になっていく――
「来い、第九の神鍵『エデンの星!』」
完璧に固まったイメージと共にナナシの手に現れたのは『星海の諧調』の模造品。特徴的な金属装飾が程化されている赤黒い球体。
「何をしても終わりよ。このまま、切り裂いて――」
「終わりはそっちだ!行け、エデンの星よ!」
「ッ、体が――」
重力、それは生きとし生けるものが等しく受ける力。もちろん、それはライも例外ではない。もしも、万全な状態であれば彼女の動きを遅くすることもできなかった――けど、ライが雅に言ったように集中力も体力も限界が近い。
「ッ、動きを止めた程度で私に勝てるとでも思ったの!!」
「ああ、我らなら勝てる」
だからこそ、ライの動きを完全に止めることができた。だが、そこ止まり別に彼女が振るう剣速を遅くしたわけではない。
互いに最後の一閃。
交錯する二人。
――パラパラと散る雅の髪。
「私は
「――そう、所詮私は偽物止まりなのね」
荒野を豆腐のように突き刺さる刀。
勝負は決した。最後の最後、苦難の連続であり勝機などほとんど見えない戦いだった――けれど、星見雅は確かに虚狩りとして皆の信頼に答えて見せたのだ。
「世界をもうすぐで救えたのに――」
「それが、君の目的だったね。ライ」
「――ええ、ホロウを消して苦しんでいる新エリー都の人々を救う――でも、こんなの私の願いじゃない」
敗北したというのに少し晴れ晴れとした表情のライ。おそらく、これが彼女の本心だろう。聖剣オーガの力を出し切ったかつ、手から離れた状態であるからこその状態だ。
「――君のことを教えてくれない?」
「もちろんよ、私が目覚めたのは、放棄された実験室の中――旧都陥落の時エーテリアスがもうすぐそこまで来ていたわ」
「そこで、聖剣オーガを手に入れたってこと?」
「そうよ、気づいたら手に納まってて――でも、おかしいの。それがあると、ずっと悪夢を見るの『殺せ』『救え』『戦え』って、それでもう怖くなって零号ホロウに放り投げたの」
「だから、探索チームによって聖剣が零号ホロウから出てきたわけだな」
それが、結果的にサラたちの手に渡った。ライがナナシに対して外出しないでといった理由は下手をすれば自分が斬ってしまいかねないから。
彼女はナナシを殺害するとき『私が、抑えられなくなっちゃうからァ!』と言って襲い掛かっていた。
「そう、だから――ある日から頭痛が酷くなって、力が流れ込んできたの――それで、気づいたら、戦わなくちゃ、救わなくちゃ、って思って気づいたらナナシを殺してた」
「――そっか」
「あなたにとってどうでもいい話よ。結局、私は抵抗できずにあなたを殺してしまったし、アルターエゴも殺したわ。許されないことをしたのは理解してる――」
「いや、それはいい。別に全然許す――あ、他のみんなが許さないなら許せないかも」
「我らはナナシが戻ってきたからな、許して構わない」
「は?そ、そんな簡単に許すつもりなの?それに、星見雅も――ナナシは帰ってきたけど、アルターエゴは死んだのよ!!」
ありえないという表情で二人を見つめるライ。まあ、確かにこの戦いでアポロ、アルターエゴ、サクラの三人が死んだ。と言っても、アポロやサクラはともかくアルターエゴはほぼ自爆のようなものだ。
「ああ、確かに苦しいし、悲しい――けど、アイツは最後の最後まで君を傷つけず後を雅に託した。言葉にはしなくてもアイツの行動が君を許すと示してる――だから、俺も君を許すよ」
「――バカね、でもそれじゃあ私が私を許せないわ」
「その気持ちが罰ってことで――罪悪感を感じてるならそれでいい」
甘いと言われればその通りだが、人によってはそれが十分罰になることもある。それよりも、考えるべきはあの特急呪物聖剣オーガだ。持っているだけで人を洗脳し、他の聖剣使いを殺めるために動き出すとかもうゴミ。
(燃える日のごみに出したら、いい感じに焼却されてくれないかな)
そんな程度で燃えるのであれば万々歳であるが、おそらく焼却炉を逆にぶっ壊して向こうの迷惑になるだけだろう。もし、また零号ホロウに放り投げたとしてもいつか見つかって堂々巡りになるだけだ。なら、保管しておくか――治安局にもブリンガーがいたくらいだ無意味だろう。
その時だった。急に、ライが動き出し雅を突き飛ばしたのだ。
「――ッ!」
「何を――」
何事かと思った瞬間、何かが接近してくる気配を感知した。すると、俺たちが出入りに使っていた裂け目が突然開く。
「あ」
弾けた。目の前で――ライの体を空気の層が通り過ぎ肉体を引き裂く。それによって、血しぶきは上がり辺りに内臓をまき散らしながら彼女は地面に叩き落とされた。
この必殺技は見覚えがある――「シュートコマンド01――『スピニングトランザム』」それが、裂け目を経由してライを撃ちぬいたのだ。
「雅、みんな!裂け目の奥だ、リンと一緒に探しに行って!」
「わかった!柳、プロキシ行くぞ!」
すぐさま雅に弾丸が来た場所へ向かわせる。だが、見つからないだろう相手が誰だかはわからない、ホロウの裂け目を経由した先まで計算して放てるスナイパーなんて撃った後すぐ退散しているに決まっている。
「――もう、ダメみたい」
「ダメじゃない!お、俺は理の律者なんだ――無から、創造する力がある――だから、だから!!」
血は止まらない。それどころか、あの一撃はライの上半身と下半身を完全に分けてしまっていた。それでも、彼女が生きているのは聖剣使い特有のやたら高い生命力のおかげだろう。
理の律者が創造できるのは構造を理解した物質だけ。自分の肉体は、お母さんが残してくれた設計図があるため作り直せるものの当然ライの設計図なんて存在しない。
「ッ、う――あぁぁぁぁ!!」
それでも、何とかしようと力を振り絞る。途端に体の血管に伸びていく赤い光、それが上がっていくたびに、明らかに血の気を失い、皮膚は蒼白になり始める。
「――ナナシ、私は君が羨ましかった。一目見て、同じクローンだってわかったの――けど、あなたは多くの仲間に囲まれていて、同じ聖剣使いなのにあんなに幸せそうで――」
「もう、喋らないで――これ以上血が流れたら」
「でも、たくさんお店に来て、くれて――話して、いる内に楽しくて、その時間が愛おしくなってた、気づいたらあなたのことを好きになってたの――」
「ッ、なら――ならさ、助けるから!!また、パンケーキ食べたいし、いろんなところにも一緒に行こう。だから――だから!!」
言葉が出ない。いくら必死になってもその手の隙間から砂が落ちていくように目の前の彼女の命が落ちていくのを感じ取っていた。
(エリシア!!エリシア!!――どうにかして、ライを救えないの!!お願い、臓器でも何でも使うから!!)
『――無理よ。多少の傷やケガなら直せたかもしれないけど、今のあなたじゃ何を代償にしても彼女を救えないわ』
エリシアに助けを求めてもいい返事は返ってこない。いつだって、何とかしてきたグランとの戦いだって自分の臓器を差し出したら何とかなったし、ブリンガーの時だって最終的には目覚めて勝ったし、殺されても蘇れたのに――
「俺は――救えないの?」
「泣かないで――私、あなたの苦しい顔は見たくないわ。笑顔が一番好きだもの」
「ッ、わかった」
歯を食いしばり何とか涙を止めようと踏ん張る。だが、止まりそうもない――そんな俺の頬にそっと彼女は手を伸ばした。
「――未来なんて見えなくてもわかるわ。あなたの、希望に満ちる未来が」
「うん――頑張るよ。俺、頑張るから――天の星からも見えるくらい――」
「ええ、きっと見える、わね。私はあなたの心の中にいるから――別れを恐れないで、それは未来に向かうためのものよ」
「――ありがとう、ライ。さようなら」
「さよう、なら――愛し、てるわ、な、ナシ―――――」
互いに別れを告げた瞬間、ナナシの頬を触れていた彼女の手がスッと地に伏す。それと同時に、誰の手にも渡っていない聖剣オーガは薄情にも主を捨て天へと飛び立った。
おそらく、次の主を探しに行ったのだろう――だが、そんなことを考えている余裕は今のナナシにはなかった。
「――ッ、うあぁぁぁぁぁぁッ!!」
決壊した涙は止まらないまま、ただでさえエネルギー補給をろくにしていない状態かつ、肉体が元通りになっていたナナシは電源が切れたように姿が戻り意識を失った。
自分の肉体作れても、相手の肉体を作れるはずがない。
ここで、まあ皆さんは理の律者が正直そこまで万能な存在ではないと理解していただけたと思います。
そして、ライをやりやがった犯人ですがいつぞやにやったアルターエゴvsサラ戦で頭を狙って撃ってきたスナイパーと同一人物です。
これは、完全に余談ですがアポロは勘づいていたような描写がありましたが、ライの能力は『未来予知」ではなく『未来予視」です。これは、意図して分けていました。
違いとしては、見える未来が自分の視界内しかないというところですね。そのため、未来を見ても死角で起きた出来事は見えません。
だから、矢での攻撃に大げさな回避をしていたわけです。未来の自分を見て、何か攻撃を受けたのを察知してよける、なんてことをしていたので戦っている相手からすれば未来を知っているんだ!!と思われるわけです。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け