ビデオ屋に帰還し、助けた男の子は寝かせておいた。幸いにもエーテル浸食を抑えきったおかげか回復傾向にあるらしい。
だが、未だに彼の体から冷汗は滴るばかり、あの霧島という男が言っていた病気を食い止めるほどではないらしい。
「それで悠真、あの霧島ってやつのことを聞いてもいい?一応知り合いなんだろう」
「――そうだね、話しておこうか。名目上、僕には支障が一人いただけだ。あいつはその助手――まあ知り合いってだけなら、その通りなんだけど」
「あんまり芳しくないみたいだね」
「うん、僕はあの男を信じてないんだ」
「だろうね。だって二人とも見るからに仲良くなさそうだったもん――」
悠真が霧島を一目見た時の反応は完全に敵を見るものと同じだった。彼は敵意を隠さず大っぴらに出す方ではなかったのでその反応に実は驚いていた。
「で、悠真。俺の考えだと君たちが共通する『あの男』と怪しい薬物の件は繋がってると思うんだけど、どうかな?」
「当たりだよ、君の予想通りその二つは繋がってる。他でもなく、その薬を作ったのが『あの男』――僕のお師匠さん。確かに、彼の研究していた薬剤は短時間だけエーテル適性を上昇させられた。けど、強力な副作用を取り除くことができなかったし、他にも理由は色々あって――」
「そこら辺はどうせ聞いても理解できないしいいや。で、悠真はどうしたい?」
「――責めないんだね」
「確かに薬物は大っ嫌いだけど、悠真を責める必要はない。それよりも、今は悠真がどうしたいかが大事でしょ?」
すると、何か思うことがあったのか口元を抑えたままニヤリと笑う悠真。その顔を見てやらかしたと天を仰ぐナナシだったが、心配は杞憂に終わる。
「僕は師匠を見つけたい。なぜなら――まだ、彼には聞きたいことがあってその答えは、彼の口からしか得られないから。執行官になって、ずっとこの事件を追っていたけど残念ながら確実な手がかりがつかめないでいてね。そこへ最近になって、同じような違法薬物がまた出回り始めた――」
「――乗った!って、もう言ったか」
「ははっ、そう言うと思ってたよ。ナナシ――店長さんたちもそれでいいよね!!」
「―――」
ノリノリなナナシ、笑う悠真。しかし、店長――アキラとリンは黙ったまま腕を組んだまま考え続けていた。
「あ、アキラ?リン?どうしたの、顔が怖いけど――」
「フェアリー、例の映像の解析は終わった?」
『はい、マスターナナシに仕掛けられている小型カメラから霧島の視線を解析しました。
胸:70%
尻:20%
顔:5%
足:5%
即抹殺をおすすめします』
「よし、今から雅さんと朱鳶さん。後ライカンさんたちにも連絡して来るよ」
「まだ足りないよ、お兄ちゃん!!シーザー達に――そうだ!ニコたちにも連絡しよう!!」
「何しようとしてんのさ。それに、見られたって何か減るもんじゃないし――」
「ナナシには美女の自覚が足りなさすぎるよ!こうなったらリナさんも呼んで――」
「待ってほしいんだけど、これ――執行官の仕事なんかじゃなくて、僕の個人的な調査でしかないから、応援をたくさん呼ばれると困るんだけど」
最後まで霧島抹殺をごねていた二人を説き伏せるのに時間がかかったが発信機と盗聴器に何かあった時の防犯ブザーを装備することで決着がついた。
翌日――
悠真の誘いを受けてバイト終わりにそのまま合流を果たしていた。問題は、悠真の視線の先にいるのは見覚えのある姿。
それは先日悠真と久方ぶりの再開を果たした、あの『兄弟子』だ。彼の後ろには緊張した面持ちの三人の若者が控えている。
「待たせたな、悠真。それにこちらはいつぞやの――」
「ええ、ナアリと申しますわ」
「僕の友達でね、彼女が仕えてる主さんがあんたの開いた療養所に興味があるんだって」
まるで本当のメイドのようにスカートの裾を持ち上げ礼を見せる。確かに、フェアリーの言う通り霧島の視線が刺さってくる。
(みんなもこんな感じだったのかな?うーん、確かにいい気分はしないなぁ――これからは、意地でも胸に視線は行かせないようにしないと――)
「ははは、それは光栄だな。では、俺も自己紹介を――」
そう言うと、彼の後ろに控えていた三人が前に出てくる、全員そことなく暗い表情で特にツインテール?の少女は特に何かあるように見える。
「お、お会いできてうれしいです。あの――あたし達、ほとんどが病気のせいで家族に見捨てられちゃったけど、霧島先生のおかげで――」
「そ、そうなんですよぉ――タダで治療を受けさせてくれるばかりか、食い物や寝るところもくれて――霧島先生が居なかったら、帰る家もなかった。みんな、先生に感謝してるんです!」
「ははは、俺はすべきことをしているだけだからな。何せ、エーテル適性減退症候群は特殊で症例も少ない。そんなお前らの苦しみを理解できる人間は、さらに少ない」
「そうかな?僕の知る限り――その特定にかこつけて随分『ご理解』を得られてるように見えるけどね?」
悠真の言う通り、どうにもきな臭い。こちらのバックに金持ちがいるとわかるや否や目の色が変わった霧島。常におびえた表情のまま恐る恐る霧島をほめる少女。視線があっちらこっちら行って雑な演技の少年。
そして――常に暗い表情の何も言わない少女。
「佳奈様――でよろしかったでしょうか。先ほどまでからお静かになされていますが、体調が優れないようでしたら私が休めるところまでお連れ致しますが」
「わたし――」
「いえ、構わなくて結構です。この子は特に体が弱くて、普段から外出もしないし人見知りが激しいだけなんですよ」
自然に連れ出そうと思ったが残念ながら霧島に阻まれた。人見知りと言っていたが、そうは思えないむしろ何かしらの心労で暗い表情になっているように見える。
「さあ、こんなところで立ち話もなんだ。そこらで火鍋でも囲もうじゃないか」
その後は、霧島はひっきりなしに悠真の輝かしい過去について語った。確かに、悠真はやるときはやる奴だし、彼への誉め言葉を聞くのは悪い気分はしなかった。
ま、それはそれ悠真が下準備をこなしている中、何とか霧島を引き付けておく必要があった。
「ははは、それで悠真は小さい頃から天才の名を欲しいままにしてたんだ――おっと失敬」
「いえいえ、気にしておりませんわ」
だが、事件は起きた。話の最中、霧島はやたら肩を触ったり今は少し手が胸を掠めていた。
別にこんなことでナナシは気にしない。だが、問題はこの火鍋を囲んでいる向こう側。気配でわかる、アキラとリンがいる。そして、めちゃくちゃ怒っているのだ。
(――マズいな、今にも雅を呼びそうな構えだ。だが、マズいな。まだ霧島の情報も何も探れてない状況なんだけど)
その後も場は何とか切り抜けたが、子供たちの口数は少なくにぎやかとは言えず、向こう側からは殺気が飛んでいる中で表面上は穏やかに歓談は続いた。
悠真は度々『師匠』の話を振られたものの、巧みにかわすので結局霧島はその話題を最後まで続けることができなかった――
結局緊張状態のまま食事会は終了した。
「みんな、この後も空いてるか?よければ二次会でも――」
と霧島が言い終わらないうちに見覚えのある治安官が彼の前に立ちはだかった。
「霧島さん。またお会いできたのに、こんなことを言うのは心苦しいんですが――あなたが違法な行為に関わっていると、匿名の通報がありました。ご協力をお願いできますか?」
「違法行為だと?何かの間違いじゃないですか。俺は法を順守する、善良な市民ですよ!」
どうやら、俺たちがその場を後にした後セス君にも話を聞いていたらしい。と言っても少年はこちらで匿っているので知る由もないのだが。
「いいえ、間違いありません。それについてはご自分が一番よくわかっているんじゃないですか?」
「ちっ」
「ご安心ください。最近、署にいい茶葉が入りましたから。申し開きがあれば、向こうで何なりと」
「い、いや患者たちを療養所に連れ戻さないといけないし、彼らも病室を長く離れるのは――」
あからさまに怪しさを全身から放っている。しかし、それでもなお逃げようとする霧島、そこへ通行止めの看板を出したのは悠真だった。
「治安局に協力することは、新エリー都市民の基本的な義務ですからね。こんなマジメな治安官さんを前に、駄々をこねるもんじゃないですよ。霧島さん」
(――自分で通報したくせに)
「ご心配ございません。霧島様、こちらの皆様方は私共が責任を持って、療養所までお連れいたします」
「霧島さん、よろしいですか?」
「わかった――悠真、ナアリさん彼らをお願いします。ですが、療養所に近いポート・エルビスまでで構わない。その先はこっちで迎えを寄こす」
「おやあ、僕たちを療養所に――痛っ、わかったよ。それじゃ、途中まで彼女らを送って迎えが来るのを待ちますよ」
余計なことを言いそうだった悠真を小突き、俺たちはポート・エルビスまで三人を連れていくこととなった。
「はい、とうちゃーく」
「悠真さん――ちょっとスピード出しすぎじゃない?オレ結構――」
「ゴメンゴメン、車酔いしちゃった?少し休んだ方がいいかな?」
悠真はいつもの笑顔を引っ込める。それと同時にナアリが脇腹辺りを小突き『異常なし』と告げる。すると気が抜けたのかほっと息をついた。
「君たちのお迎えとやらは、まだ来てないみたいだね」
「―――」
三人は沈黙。空気が重い、どうやら俺たちの嫌な予想は的中した可能性が高い。
「それじゃ――海を見に行こっか!」
「承知しました。では皆様方向かいましょう」
「――ちょっと、それはやめておいた方がいいんじゃない?霧島先生に怒られちゃう――」
提案をした悠真の言葉、しかしやはりというべきか療養所とは名ばかりの下手をすれば実験場の可能性すらあるだろう。
「そ、そうだよ!霧島先生が前に言ってたんだ。オレたちの体のためには、長時間外に出ない方がいいって。だから――」
「君達、アレの言うこと真に受けてるわけ?大丈夫だって、ここにいる全員が何も言わなければ、バレやしないだからさ」
「でも――」
「私は、海を見に行きたい」
「佳奈ちゃん――」
「はいはい、みんなあんまり深く考えない!何かあってもお兄ちゃんとお姉ちゃん?が何とかしてあげるからさ、今は黙ってついてくること!」
彼女らの表情は暗いまま、三人を海まで連れて行った。
「すごい、綺麗――」
「うん、こっち側から見るとこんなに綺麗だったなんて――」
この近くに住んでいると霧島は言っていたのに二人のこの反応。野暮なことは聞く必要がなかった。終始彼女らは、近くに飛んできたカモメを見たり、海風を浴びながらみんなで美しい景色を楽しんだ。
「――ずっとこうして居られたらいいのに」
佳奈のことばが 何かのスイッチを押したかのように、三人の表情が一気に重くなった。
そして、その時再びナアリが悠真の脇腹を小突き『迎えが来た』と合図する。方角は視線で知らせ、自然に悠真はそちらを確認し険しい表情を見せる。
「みんなちょっと提案なんだけど――今日は天気もいいし、せっかく人数も揃ってる。みんなで一緒にゲームでもするのはどうかな?」
「かくれんぼなんてよろしいのでは?」
「おっ、いい選択だ。じゃあ、僕とナアリで鬼をやるから君ら三人は隠れる側ってことで」
「え?なんで急にかくれんぼなんて――」
「たまには、遊ぶのも悪くないんじゃないかな」
「佳奈ちゃんがそう言うなら――わかった、じゃあ一緒に行こう!」
(――惚れてるな)
歴戦の勘で察知したナナシは緩んだ表情をすぐさま引き戻し、悠真と共に彼女らに背を向ける。無論、気配はわかっているので相当遠くなければ位置はわかる。
少したって振り向くと、三人はおらずその代わり迎えだけがきょろきょろと首を回していた。
「悠真、かくれんぼはよろしく。あいつにいい夢見せてやりに行くよ」
「了解、殺さないように気を付けてね」
「俺をなんだと思ってるんだ?」
とりあえず、かくれんぼは悠真に任せてお迎えにはしばらく眠ってもらうことにした。
もちろん、証拠は残さないし迎えにとっては一瞬で意識が暗転したように見えただろう。
瞬殺後、悠真の気配を追って向かってみると佳奈ちゃん以外は既に見つかったようだ。
「早いね、もう仕事は終わらせたのかい?」
「ああ、ぐっすりとね。疲れが溜まってたみたい――それで、佳奈ちゃんは?」
「まだ、だけど君のことだもう気配で場所はわかってるんだろう?――そうだ、二人から聞いた話を共有しておくね」
まず、俺が助けた少年の名前は『信也』くん。どうやら佳奈ちゃんと信也くんは幼馴染で彼のことがあってから元気をなくし、今の暗い彼女になったようだ。
「――それじゃあ、最後の一人は俺が探してくるよ」
「ああ、きっと今回はナナシの方がいいと思う」
悠真の後押しも受け、俺は佳奈ちゃんの気配を察知した灯台へ登って行った。
「こんな景色、久しぶりに見た――」
「でしたら、次はもっと素晴らしい景色が見える場所にご案内いたしますわ」
「――私たちの病気のこと知ってるんですか?」
「ええ、信也様のことも全て存じ上げております――もちろん、あなた様方の境遇も多少ですが理解しています」
「――教えてください。もし生まれた時から短くて苦しい人生を送ることが運命づけられてるとしたら、私たちはどうして生き続けないといけないんでしょうか?」
どうして、悠真が俺を推したのか理解した。まさにこれは俺が返答するに相応しい、いや相応しすぎる問題と言っても過言じゃない。
「私――いや、俺はへ、変身――」
「え?」
その時、ナアリから風が吹きあれる。メイド服の姿から一転中から現れたのは、黒髪銀眼、そして理の律者の姿、すなわち執事服のような装いのナナシだった。
「ごめん、バイト先の店長の趣味が女装なんだ。やっぱり、本当の姿で返答したくてね。改めて自己紹介を――俺はナナシ、よろしくね」
「そ、そうなんですか――でも、本当に女性にしか見えませんでした」
「ふふっ、ありがとう――それで、さっきのことだけど――俺を例にすると『みんなに悲しんでほしくない』から、かな。俺は君らとは少し違うんだけど余命がもう1年もないって宣告されたりして正直自暴自棄になってたんだよね」
「余命1年――」
「でも、仲間がいたんだすっごく心配してくれる仲間がね――思いっきりパンチが飛んできたりしたけど――」
かつてのカリュドーンの子と清算の日。トドメの拳がマジンを砕き俺の頬に突き刺さったのを覚えている。全てを話した後、結局リンたちを泣かせてしまった。
「――その後も、色々あってね。最終的に仲間が命を懸けて助けてくれたんだ、だからこそもうみんなに悲しんでほしくないって思って今は――なるべく、きっと、多分、善処しながら自分を大切にしてるよ」
「――そうですか。ナナシさんはいい関係に恵まれたんですね」
「まあね、でもそれだけじゃないよ。悠真風に言うなら『いつかきっといいことがある』って信じるため、だね。それに、君だっていい縁に恵まれているみたいだ」
「え?」
ナナシが言い終わるとすぐさま先ほどのメイド服姿に着替える。その時、ようやく悠真、椿と涼介がやって来た。
「だ、大丈夫か?」
「私は大丈夫。ただ――この景色を目に焼き付けて、ちゃんと覚えておきたいと思っただけなの――」
「どうやら話はついたみたいだね、ナアリ。それじゃあせっかくこうして集まったんだから記念に写真を撮ろうよ」
「承知しました。では、私が撮らせていただきます」
何だか佳奈ちゃんからの視線が痛いが、悠真からスマホを受け取り悠真達は海をバックに灯台の上で写真を撮った。
「――あの」
「どうかしました?」
写真を撮り灯台を降りようとしたとき、佳奈ちゃんに呼び止められるナアリ。それに何か感じ取ったのか椿と涼介が彼女に駆け寄る。
「なな――ナアリさんは本当に生きていれば『いつかきっといいことがある』って思いますか?」
「ええ、私“達”はそのために最後まで抗うのですから――それに――」
ナアリは視線を悠真に向ける。意図を理解したようで深く頷いた。
「貴方様方にも当然いいことはありますわ――こちらを――」
「ッ、信也くん!?」
「うそでしょ!?だって、信也くんはもう――」
「その写真は本当さ、今頃六分街のビデオ屋でぐっすりかな。そこのメイドさん、実は魔法使いでねエーテリアスになりかけてた信也君を見つけて咄嗟に助けて霧島から隠したんだ」
彼女らは目をぱちくりと何度も瞬きをしてその写真を食い入るように見つめる。その写真の右端には取られた時刻も記載されたおり確かに昨日の夜、ナナシのベッドを占領した彼が映っていた。
「残念だけど、エーテル適応減退症候群を抑えるほどじゃない。あくまでエーテリアスになるのを止めただけ、でも今は命に別状はないことは保障するよ」
「ッ、ありがとう――ありがとうございます!!」
信也くんの写真を握りながらぽろぽろ涙をこぼす佳奈ちゃん。その光景を椿と涼介の二人も笑みを浮かべながら見つめていた。
生きる訳――まあ、実際にナナシ死んだからね!!
ちなみに、何で悠真の閑話をやるかと言うと単純に新たな絶望の引き金を引くからです。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け