ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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待たせたな!!


閑話・台風のような一日

 

 

今日は何もない日、ナナシはその平穏を享受するかのように自分の部屋で惰眠をむさぼっていた。あと少し日が落ちたくらいで缶チューハイでも買って一人で何となく過ごそうかなぁ――なんて思って、結局何もしない日になるだろうなあ、とか思ってみたり、とにかくナナシはベッドで横になっていた。

 

「ナナシ~いる~?」

「いない~」

「いるじゃん!」

 

そんな時、突然自分の部屋を勢いよく開けるものが現れた。まさしく、このビデオ屋を取り仕切る兄妹の一人、リンであった。

 

「どうしたのぉ~」

「少しお願いがあって――これ見て」

 

何だかいつにもましてだらんとしているナナシの布団を引っぺがして自身のノックノックの画面を見せる。

どうやら誰かとのチャットのようだが名前は『デタラメチャーハン』――うん、聞いたことがない相手で、一応『カチャコ』というボンプが助けを求めているらしい。

 

「――助けて来てってこと?」

「うん、察しがいいねナナシ!実は、私が行きたいのはやまやまなんだけど――実はこの後、ナナシのバイト先の店長に“お話”があってね。だから、ナナシに頼みたいんだけど――」

 

両手を合わせ懇願するリン。一体、うちの店長に何をするつもりなのかも少し気になるが――ともかく、どうせ一日無駄にするだろうと思っていたので、無駄になるくらいなら――と、ナナシは引き受けることになった。

 

 

 

ルミナススクエアの映画館にて――

 

「人、多いなぁ」

 

ビデオ屋を出たばかりで本調子ではないナナシはまだトロンとした寝起きの目のまま遠巻きに映画館を確認する。ここが、集合場所なのだがどうにも人が多い。

その時、劇場の路地裏辺りに赤いコート、赤いサングラス――あの『デタラメチャーハン』っぽい人がそこに立っていた。

 

彼女もこちらに気づいたのか手を振ってから、一見意味のなさそうな仕草をする。『黒服の注意をそらせ』と言う事なのだろう。

 

(――まあ、いいか)

 

俺は彼女との反対側に遠目から見たら彼女そっくりの人形を理の律者の力で作り出し、劇場に戻りこう叫んだ。

 

「見て!!あそこに誰か!!」

 

俺が叫ぶと同時に群がっていた人たちはもちろん、黒服たちの視線もそちらに向く。すると同時に群衆は『きゃあきゃあ!』と叫び出し、黒服も『なぜ、あそこにアストラ様が』と言って走り出してしまった。

 

(アストラ?)

 

残念ながらナナシはお世辞にも世情に明るい人物とは言えない。言い方を変えれば世間知らずと言うやつだ、だからこそ彼はアストラの名前を聞いてもピンと来ることはなかった。

そして、文字通りデタラメになった群衆と黒服たちをしり目に俺はそのアストラ?と言う人が待つ路地裏まで向かった。

 

「――デタラメ!」

「チャーハン――」

「パーフェクト!でも、何だか元気がないわね――さあ、ハイタッチしましょ!ふふっ、私こういうのにあこがれてたの!」

「そう、それで――どっか抜け出したんでしょ、いいの?」

 

まだ、寝起きからそこまで経っていないナナシはだるそうに言葉を返す。彼女からのハイタッチも受けるが表情筋は全くと言っていいほど動かない。

 

「大丈夫よ。大手を振って出られない事情があるの。決まってるでしょう?ルミナススクエアから出られたら、詳しく話すわ」

「――大丈夫かなぁ」

 

考えていた。とにかく、目の前の女性は普通じゃない。どう考えても一般人が身に着けるような布面積の装備じゃないしあの黒服は何者なんだ――色々、あるがここで俺が連れ出したら後々問題になるんじゃないかと色々交錯していた。

 

「私が大丈夫って言ったらきっと大丈夫よ!――もし、引き受けてくれるのなら火鍋、奢っちゃうわよ?」

「任せて!!俺が見事、このルミナススクエアから脱出させてみせるよ!!」

「急に元気が出たわね――でも、まずはあの群衆をどうかわすか考えないとね。特に、あの黒服の悪党ども――」

 

悲しきかな、花より団子の男には飯を引き合いに出されたら大抵のことは頷いてしまう習性があるのだ。

それだけじゃないナナシは気づいたのだ、なぜ自分がここまでやる気が出ないのか。

 

(――似てる、エリシアにしゃべり方とか声とか仕草とか、能天気具合ならエリシアの方が勝ってるか)

『はい!あたしを呼んだかしら?』

(呼んでない、引っ込んでて)

『もう、素直じゃないんだから』

 

「――要するにここから脱出できればいいわけでしょ?」

「ええ、そうよ。もしかしていい案があるのかしら?」

「ああ、そっちが問題ないならいつでも後、他言無用ね」

「問題ないわ。やってちょうだい!!」

 

ちと面倒な作戦だが火鍋のためだ、仕方あるまい。ナナシは変身!と向こうには聞こえないくらいの声量で叫ぶ。

しかし、変身は起こらなかった。

 

(あれ?)

『――どうせ、あたしは引っ込んでいればいいって思ってるんでしょ?なら、いいわよ!!ずっと引っ込んであげるんだから』

(――エリシア、早く理の律者にして)

『さっきは引っ込んでいてって言ったのに今度は出て来てってあたしを都合のいい女とでも思ってるのかしら?』

(―――はあ)

 

何だか、デタラメチャーハンにも不思議そうな目で見られているのでもういいやと、理の律者になるのは諦めて別の方法を模索しようとしたときだった。

 

『でも、どうしてもって言うなら力を貸してあげてもいいんだけど――』

(―――)

『待って、待ってちょうだい!!ちゃんと力を貸すから無視だけはやめて!!』

(―――)

『やめてって言ってるでしょ!?――わ、わかったわ執事服に変えなくても力を使っていいから』

(――わかった、エリシア。ありがとう)

『やっぱり、あたしのこと都合のいい女って思ってるでしょ!』

(オモッテナイヨー、ダイスキダヨー)

『よりにもよって他の女との交通手段として使われるなんて――』

 

内心ではちょろ、と思いつつその瞬間、全身から青白い光が溢れたかと思えば、力がみなぎる感覚が全身を包む。その姿を見て驚愕と言う言葉が目から零れてきそうなほど開くアストラ――ナナシは手のひらから第九の神の鍵『エデンの星』を生成する。

 

「もしかして、あなたは魔法使いだったのかしら?」

「種と仕掛けはあるからどうかな――それじゃ、行くよ!」

 

ナナシはエデンの星で自身とアストラさんを軽くして町の中を誰にも見られぬよう飛んで行った。幸いにも大根泥棒時代に人目につかない移動は朝飯前だ。

跳ぶたびにアストラさんが『わあ~!!』とか叫ぶためそれのせいで何回か見つかりそうになったが何事もなくルミナススクエアを去ることができた。

そして、俺の惰眠をむさぼる地もといビデオ屋に帰ってこれた。店長と“お話”に向かったリンはおらずアストラさんと二人になっていた。

 

「うん、悪党はついてきてないみたいね。これでやっとひと息つけるかしら――」

「――それじゃ、話してもらおうかな。なんで、ボディガードを撒かせたのか」

「そんなんじゃないわ。それに、私のボディガードは一人で十分――そうだ、あなたもなってみない、私のボディガード?」

「結構だよ。俺にはもう守るものがあるからね」

「ふーん、何だか妬いちゃうわ。とにかく、ようやくお礼が言えるわね!あなたがいなかったら、こんなにうまくはいかなかったもの。『チャーハンネッ友の会』、主席の栄誉を上げるわ」

「生憎だけど、俺はそのメールを受け取った本人じゃないんだ。だから、それは俺をあなたのとこに送り出したうちの店長に送ってくれ」

 

軽く背伸びした後、ナナシは身にまとった青白い光を内に留めるそれによって理の律者の姿は解除されエデンの星も虚空に消えた。

 

「そうなの?だったら、次会った時にまたお礼を言うわね」

「ああ、そうしてくれると助かるよ。そうだ、一応確認なんだけどあなたの名前ってアストラであってる?」

「な、何の事かしら?」

「いや、無理無理。警備の人が思いっきり言ってたから――でも、別に俺はあなたのことを知らないし、どうこうする気もないよ」

「うっ、って私のこと知らないの!?」

 

サングラス越しでもわかるぐらい両目をかっぴらきながらありえないという表情でナナシの肩を掴み揺らす。

 

「し、正体がバレないのはいいことだけど、私のことを知らないのも悔しいわね――ほ、ほら見てちょうだいこのポスターに映ってる女優!」

 

そう、アストラさんが指さすとその先には『ファミリー・スピード』と言う映画の限定ポスターが飾られていた。

ちゃんとクレジットには“アストラ”と印字されていた。

 

「――へえ~これがアストラさんなんだ、今度見てみるよこの映画」

「ええ、いい映画だから絶対に見て!――ってそうじゃないわ、本当に私のこと知らない人がまだ新エリー都にいたのね」

「ごめんごめん、後でちゃんと予習しておくから――それじゃ、後はどうぞご勝手に~」

 

そう言いナナシが自然とアストラをビデオ屋の出口の方に追いやり扉を開け追い出そうとしたその瞬間、ナナシの腕がガバッと掴まれ、ついでにビデオ屋を出てしまう。

 

「――行くわよ!!」

「え?こ、この後はそのままさよならバイバイじゃなかったの?」

「ふふ、流れはもう変わったの!貴方が只者じゃないってわかったから。それに、マネージャーと約束したの『一人で外出するときは、ばれないように変装する』って」

「――それを手伝えと?」

「ええ!いいじゃない、デートみたいなものよ」

 

もちろん、ナナシの腕力ならこの細腕につかまれようが秒で振りほどくことはできる。――ただ、流石女優さんと言うべきか彼女が持つ妙な魅力に少し魅了されている自分がいる。

 

「デートって、俺とあなたはさっき会ったばかりなのによく信用できるね」

「あら、私これでも人を見る目はあるのよ。それに、私が誘拐されてもイヴがすぐ助けに来てくれるもの」

「イヴ?」

「私のボディガードよ!とっても可愛くて頼りになるんだから!」

(その人にもう突き出そうかな)

 

この周辺にそのボディガードらしき気配は感じない。おそらく、俺がアストラさんと合流する前に撒いたのだろう。おそらく、そのボディガードも今やてんやわんやだろう。

 

「――わかったよ。どうせこのまま逃がしてくれない雰囲気だしな」

「いい返事ね、それじゃ行くわよ。私の一日脱走計画スタートよ!」

 

 

 

 

再び、理の律者に変わったナナシはエデンの星で二人を軽くしながらアストラをポート・エルビスまで運んで行った。

海風が挨拶代わりに吹き付け、空が一口での五込めそうな雲が差し出す――ついでに、俺が一度殺された場所でもあるポート・エルビス。

港に入るやいなや、アストラさんは釣り人のいるエリアへと嬉しそうに駆け出して行った。

ナナシもだるそうに、ついて行った。

 

「見て、釣りをしてるわ――釣り具から何から万全。さぞいっぱい釣れてるんでしょうね」

 

しかし、バケツの中をアストラが覗ぎこむと隣のバケツは満杯なのに、片方は全く入っていない。どうやら釣果はゼロらしい。

 

「おっと、お嬢ちゃんは辛らつだなあ――おっ、来た来た!こりゃあ大物じゃぞ!今度こそ――ちっ、逃したか」

「釣りかあ――懐かしいわ。もうずいぶんやっていないもの」

「釣りやったことあるのか?」

「うん、仕事で何度かやったわ。簡単で楽しいわよね!釣り糸を水に垂らしたら、心の中で10秒数えるでしょ――それからぐって引き上げると、魚がかかってるの!!」

 

それ、テレビスタッフが魚を持って潜ってアストラさんが糸を垂らしたら、針に魚をつけてるだけじゃと思ったが、アストラさんの口から真相が語られると案の定だった。

 

「お嬢ちゃん、釣りって人をひっかけるほうかい!映画の撮影じゃないか!」

「映画といやあ――おねーさん、あの有名人に似てるね?誰だっけ、友達が好きなんだよな~」

 

流石にサングラスだけでは隠せない雰囲気と一般人にはありえない布面積によってバレかけるアストラ。ナナシはそれをすぐ察知して何も釣れていない爺さんからちょっと釣竿を拝借して垂らす。

 

「お、若造。お前釣りができるのか?」

「まあ、やろうと思えば――ねっ!」

 

開始数秒、糸を垂らすとすぐさま魚が引っかかり釣り上げる。その光景に同じ場所で釣っている爺さんは驚愕と目と口をあんぐり広げている。

 

「――ほら、ほら!!」

「すげぇ、すげぇなお前!!釣りの達人かよ!いや、もう達人の域をこえてんな――!」

 

一匹、二匹三匹と次々釣り上げ行くナナシに興奮気味に反応する金髪の男。どうやら完全に興味はアストラさんから移ったようだ。それを確認して爺さんにナナシは釣竿を返しアストラさんの手を引いてその場を去った。

 

「一体、どういう仕掛けかしら?」

「ちょちょいとエデンの星でね」

「やっぱり、あなたって魔法使いなのね!そうだ、あそこの灯台って、上に登れるのかしら?」

「管理人に聞いてみないとな――あ、いたマックダンさーん」

 

灯台の足元まで行くと杖を使って歩く腰が曲がった爺さんが立っていた。彼はマックダンさん、悠真と一緒にエーテル適応減退症候群の子たちと一緒に来たのをきっかけに改めてナナシの姿で話して交流のある爺さんだ。

 

「ああ、どうした今日は――ってまた別の女の子を連れて節操がないのお――」

「人をなんだと思ってるのかな?今回は俺が巻き込まれたんだよ――それで、今日は灯台を登れる?」

「うーむ、登れるには登れるが、今日は風も強いし、大したものは見れんぞ――」

「ううん、そんなことないわ!私の直感が言ってるの――きっと港で一番の景色が、ここで見られるって!」

「本当に、そう思うのか?灯台の良さを分かってくれる若者が、まだいたなんてな――いいとも、好きなだけ登っとくれ!」

 

マックダンさんからの許可をもらった俺たちは灯台に入り上って行った。

アストラさんは静かに海面を眺めていて、一言も発さない。何か考え事をしてるのか、彼女の表情からは活発さが消えて、まるでポスターに映っているあの人のように――女王と呼ぶにふさわしい感じだった。

 

「どうしたの?」

「ふんふんふ~んふん――ふんふん~、ハッピーバースデー・トゥー・ユー」

「俺は今日誕生日じゃないんだけど――」

「違うわ、今日は私の誕生日。どうしても今日だけは、好きでもない人たちのために歌う気になれなくて。それに、こんな時なのにイヴはいないし、TOPSのお偉いさんたちが、私を贔屓にしてくれてるのはわかってる――あの黒服だって、本来立つべき場所に私を連れ戻そうとしてるだけ――それもわかってる」

「―――」

 

ナナシは無言で聞いていた。そして、考えてもいた――誕生日、一応俺の誕生日はいつかは知っている6月6日、悪魔の日とも呼ばれる日。それだけじゃない6月6日は『ヒトに関するクローン技術等に規制に関する法律』すなわちクローン技術規制法が施行された日なのだ。

皮肉にもほどがある。

自分の誕生日を素直に祝えないアストラさんも同じ気持ちなのだろうか――

 

「でも、私はわがままになりたかったの。――それか、そんな願望を口にできる勇気がまだあるか、試してみたかったのかも」

「――それじゃあ、俺は好きでもない人ってわけじゃないんだ」

「当然でしょう。私ね、今日自分で『やろう』って決めたこと、何もかも最高だったなって思ってるの。特に、あなたが助けに来たときは本当に王子様が来たのかってくらいね」

「大げさだよ。俺はたまたま暇だったから助けただけだ」

「そうだとしても、私はあなたに救われたわ。それに、空をあんなふうに飛ぶなんて初めてだもの――感謝のしるし、ごほうび――なんて呼んでもいいけど、貴方は今日、このアストラのたった一人の観客よ」

「それは、楽しみ――もし、来年もアストラさんに勇気があるなら俺が連れ出そうか?」

「いいわね、今度はイヴも一緒に――あ、そうだその時はあなたの誕生日も祝わせてね!」

「――ああ」

 

その時まで俺が生きていればね――なんて言葉を飲み込みながら、俺はアストラさんの手を取って再び彼女を抱えリバーヴ・アリーナへ向かった。

リバーヴ・アリーナは相変わらず栄えていてどこかしこからどんちゃん騒ぎが聞こえてくる。その中でも、珍しく四人のボンプが集まった場所にアストラさんは興味を持ったのか駆け出して行った。

 

「見て。このボンプ達――面白いことをしてるみたいよ。翻訳機はある?」

 

アストラさんに言われた通り翻訳機を起動する。すると彼らの声が聞こえて来た。

 

「ンナ――ンナナ!(みんな揃ったようだな、始めよう!)」

「ンナ、ンナ、ナ!!!(月に一度の『アストラ様のものまねコンテスト』の開始を宣言します!)」

 

一体、ンナにどれだけの文体が込められているのかは知らないが、彼らの本気度は一目瞭然だ。それにしても、ボンプすら魅了するとはアストラさんは本当にすごい女優さんらしい。

 

「わあ、本当だったんだ!前にインターノットでスレッドが立ってて――生で見たかったの。ボンプしかいないとは思わなかったけど――」

「ンナナ、ンナンナ(本当なら参加者は人間だけです。今日はルミナススクエアでアストラ様応援イベントがあるので、誰も居ません)」

 

確かに見回してみれば、どんちゃん騒ぎは起こっているものの以前より活気が少ないように見える。そして、どうやらこの四人のボンプはアストラのファンのご主人様の名誉のために戦っているようだ。

 

「ンナ!(それではエントリーナンバー1番の方、お願いします!)」

 

審査員担当のボンプが号令を出すと、ものまねボンプがンナ!と叫ぶ。翻訳機にもンナとしか表示されていない。

だが――

 

「ンナナ!(なんと完璧なものまねでしょう!)」

 

うん、どうやらボンプの真似をするアストラさんらしい。だが、ボンプがボンプの真似をするのか――と言う疑問は置いておこう。

その後も、しなやかボンプが膝を抱えたポーズをしようとするも膝がないという致命的な欠点によって敗北をしたり、結局なりきりボンプがアストラの色を真似たことで優勝と成った。

ちなみにアストラさんは負けた。どうやら、サングラスの差で負けたらしい。

そのことに意を申し立てたいアストラさんはついに変装?のサングラスを――

 

「さあどう!?これで100点になったかしら!?」

「ああ。これであなたの脱走は、いまや新エリー都のすべてが知ることとなった」

「あっ、この声は」

 

声が聞こえた方に振り向くとこれまた一般人には到底できないような布面積で色々でかい、てきぱきとした女性が立っていた。

 

「目立たないようにして、変装もするという約束だったな――それがどうして、なけなしのサングラスすら放り投げているんだ?もっとも、それに大した効果はなかったが」

「イヴ!?どうしてここにいるの!」

「こっちのセリフだ。事務所は総出で貴方を探しているし、ネットの騒ぎは大きくなるばかり、そして当のあなたは、『ネットの友達とリバーブ・アリーナへ行く』と言い残して消えた――見つかったのはあなたに少し似た人形だけだ」

 

そして、とイヴと呼ばれた女性の鋭い視線は今度はナナシを向いた。まあ、そりゃ怒られるだろうなと覚悟を決める。

 

「一応、俺はこの人のネッ友本人じゃなくて代理なんだけど――まあ『チャーハンネッ友の会』ってのに入ってる」

「お初にお目にかかる、イヴリンだ。アストラお嬢様のマネージャーと身辺警護を兼任している――早速だが、お互いの認識を合わせておこう。本日、お嬢様の外出はあくまで仕事上のもので――」

「仕事じゃないわ。私、今日はサボったの。彼には全部話したから」

「くっ、ならこうだ。アストラお嬢様は本日急用で――」

「全部話したって言ったでしょ。当然、TOPSのお偉いさんのために歌う気はないってこともね」

 

その後、ギリギリまで戻りたくないと駄々をこねるアストラさんをイヴリンは見事説き伏せた。

 

「――そういえば、私あなたの名前を聞いてなかったわ」

「ナナシ、俺の名前はナナシだ」

「ナナシ、ナナシね!私行くわね――ここまでわがままに付き合ってくれてありがとう。今日のこと、きっと忘れないわ。さようなら」

「ああ――あ、そうだ。これあげる」

 

ナナシは懐から何かを出すふりをして手の中で理の律者の能力を発動させ“あるもの”を作成しアストラさんに渡す。

 

「これって――」

「ああ、一応言っておくけど爆発物とかじゃないから、要らないなら捨ててくれて構わない――アストラさん、誕生日おめでとう」

「ッ!!ありがとう、ナナシ。これ、一生大切にするわ」

「でも、それただのガラス玉だから魔法は使えないから注意してね」

「魔法?」

「な、何でもないのよ。イヴリン、私先に行ってるから!」

 

そう言い残して、アストラさんはナナシから渡されたエデンの星の姿をしたガラス玉を大切に抱え外にある車に向かって行った。

 

「待て、君にはまだ言っておくことがある」

「大丈夫、秘密は守るよ。ああ、アレ本当にガラス玉だけど危なそうと思ったらあんたがこっそり捨てといて」

「当然だ。秘密は厳守してもらう。それとあれは、お嬢様も気に入ったみたいだから持たせておく。それと、もう一つ――ありがとう。私は君に感謝しなければならない」

「感謝?」

 

正直アストラさんを連れて行ったから一発くらい殴られる覚悟でいたのだが拍子抜けと言っていいだろう。

 

「ああ、アストラの様子がおかしいことは、今朝から気づいていた――だが私には特別な仕事があり、彼女を映画館に送ってからはしばらく離れざるを得なかったんだ」

 

そして離れたあと、穴埋めのお祝いをするはずだったが『リバーブ・アリーナに行く』とDMが残っていたということだそう。

でも、それ以上にナナシはどうにも気になることがあった。

 

「――えっと、イヴリンさん。一つ聞いてもいい?」

「なんだ?」

「一応確認なんだけど――」

 

 

 

「貴方は何があってもアストラさんの味方?」

 

 

 

ナナシが言葉を紡いだ瞬間、イヴリンの表情に少し陰りが見えた。だが、すぐに晴れ「もちろんだ」と返してくれた――どうやら、余計な心配だったらしい。

 

「ありがとう、貴方がアストラさんの警護だったら安心だね」

「――何か、知ってるのか?」

「いや、勘かな。でも――」

 

ナナシが何か言う前にリバーブ・アリーナの扉が勢いよく開かれ、さっき車に戻ったはずのアストラさんが現れた。

 

「どうして戻って来た!?早く車に乗れ!」

「ナナシに聞き忘れたことがあって、はいスマホ出して!」

「え?」

 

困惑するナナシ。アストラさんはその隙とすらっとナナシのポケットからスマホを抜きとりロックのかけられていない画面を何やら操作しだす。

 

「はい、私の連絡先――また、遊びましょう!次会う時は、もっと素敵なプレゼントを持ってくわ。期待してて!!」

 

そう言い残すと、アストラさんは台風のようにその場を去って行った。

 

「――私の連絡先だ。お嬢様に何かあったら連絡をくれ」

「なんか、ごめんなさい」

 

 

 

こうして、台風のような一日は終わりを告げた。帰り際にナナシが思うのは――

 

(ファミリー・スピードだっけ、予習しておくか)

 

 

 

 

 

おまけ なんかナナシが幸せそうだからバッドエンド載せておきます

 

ルート分岐条件:奴が現れる

 

 

目の前にいる全身が沸騰したように赤いデュラハン。今、俺は白祇重工のプロトタイプと言う機体を探すためにパイルドライバー、すなわち中二野郎をグレースと共に行っていた。

 

突如として現れたそのデュラハンはこれまでとは異なる圧倒的なパワーで、ナナシ達を追い詰めた。

 

【$%&’()(‘&%$%&’)】

 

声にならない雄たけび、それと同時に奴の切っ先にとてつもないエネルギーが濃縮されていく。

だが、自分の持っている力に耐えきれていないのか体は徐々に崩壊を始めている。

 

「なるほど、最後の一撃ってわけね」

 

その剣の矛先はパイルドライバー。つまり、俺が避けるわけにはいかない。

 

「――来い、止めて見せる」

 

最適解を模索するため集中する。ゴッドハンドでは止められないだろう、だからと言って真熱血パンチでは話にもならない。

 

(正義の鉄拳)

 

 

「ナナシ!」

呼ばれた方向に向く。そこには親指を立てたグレースがいた。

(信じてくれるなら――それにこたえないとね)

 

 

頷く。

 

 

既に使う必殺技は決めている。俺は思いっきり足を振り上げ、ドンと踏み込む

 

「思いを!信頼を!力に変えろ!!『正義の鉄拳G3!!』」

 

我々を殺さんとする必殺の斬撃と正義の鉄拳が激突する。黄金のオーラを纏った拳は回転しながらもそのエネルギーを上昇させ続けている。

衝撃で腕が振るえる――でも、諦めるわけにはいかない

 

 

「『ヘブンズタイム!』」

 

 

そして、デュラハンの斬撃を押し返した直後だった。世界が――制止した。

 

「なっ、一体――どういう?」

「時を止めたのさ――ナナシ君」

 

声が聞こえた方に振りむくとそこには男性か女性かもわからない。中性的な見た目をしたもの、まるで神が利き手で書いたようなその姿に、一瞬見惚れてしまう。

 

「やあ、僕の名前はアフロディ。君と同じ聖剣使いの一人さ」

「聖――剣?俺が聖剣使い?悪いけど、人違いだ生憎剣なんて持ってないんだ」

「――そうみたいだね。だけど、それもすぐにわかることさ」

 

アフロディの手の中に光が集まる。思わず目がくらみ顔の前を遮ると――光がやがて納まりアフロディの手には弓が握られていた。

 

「これが僕の聖剣『ゼウス』さ」

「せ、聖剣――!?それ弓だろ!!」

 

神々しくマジで神の弓と言われたら信じてしまいそう、見た目自体は簡素だが感じるプレッシャーが段違い。

 

「少しくらい話すつもりだったけど――さっきの戦いを見て思った――君は弱すぎる」

「はぁ!?」

「だから、すぐに終わらせることにするよ」

 

奴の言葉に嘘はなかった。弓はたちまちに剣へと変わり、周囲の光がその剣に集約されていく。

その時、アフロディに光の翼が生え、天へと飛び立つ。

 

(――マズい、グレースが!)

 

明らかに範囲攻撃、それをグレースがいる場所に打ち込まれれば、彼女の命はない。

ナナシはグレースから反対方向に走り彼女に奴の魔の手が行かないようにする。

 

「神の本気を知るがいい!『ゴッドノウズ!』」

「くっ『ゴッドハンド!!』」

 

もはや正義の鉄拳を出す暇もない――放れた光の塊はゴッドハンドをまるで紙かなんかのように粉砕し、視界が白く覆われた――勝者は明白だった。

 

 

 

 

 

数秒後――とてつもない爆音と衝撃波を体感したグレースは突如として居なくなったナナシを探していた。

パイルドライバーたちの活躍によってプロトタイプの発見には成功しあとは救出だけなのだが――

 

「どこだ、どこだい!ナナシ!!」

 

グレースは嫌な予感を感じ取っていた。いくら叫んでも声は帰ってこない――

 

 

 

 

「――ッ」

 

 

やがて、それを見つけた。

 

 

エンディング6:あまりにも理不尽

 

 




他のバッドエンディングはゼンレスゾーンゼロ・聖剣!!IFとあらすじ保管庫から見てね~
無惨散々悲惨、ナナシには時折作者から理不尽な死が届けられるシステムになっています。

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
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