ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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輝きのモーメント
プロローグ:同胞からの救難信号


 

 

―――夢を見た。いや、多分きっと夢なんだろう、夢にしては鮮明だったというかありえない存在が出てきたというか、まあ俺の中のアポロの記憶からとんでもない過去がぽろっと出てくるのはたまにあることだしきっと今回もそうなんだろう。

 

 

その日は新しい必殺技の『イジゲン・ザ・ハンド』を完成させるべく夜中までホロウに潜り、とにかく鍛錬をし続けていた。

体力もかなり消耗し、聖剣の力も根こそぎ使い果たしてしまったため帰ってすぐの入眠はたやすかった。

 

『―――つ、繋がった!?』

 

今回はいつもとは違ってアポロの記憶を見るときの暗闇の空間ではなく何というか、直接脳に信号が来ているみたいな感覚だった。

その通信は開口一番、まるで10年間釣果なしの釣り師が池の主を釣り上げたくらいの驚きの声を上げていた。

 

『え、っと――ふぁdsふぁdふぁsd――ッ、力を緩めるとこれか』

 

だが、何か言おうとするも向こう側の声は不安定でまるで一本の糸で長距離の糸電話でもしているような雰囲気だった。まあ、ただの夢だからあまり気にする必要もない。下手に興味を示せばとんでもない記憶が流れ込んでくる可能性もある。

そのため、ナナシは我関せずという感じに特にこの通信が勝手に終わるのを待とうとしていた。

 

『返事はない、か――とにかく誰に繋がったかわからないけど聞いてほしい』

 

相手は勝手に言葉を続ける。そこには興奮があり、焦りもあり、同時に辛さも感じられた。夢の記憶にしても一体どこの誰がアポロに連絡をしていたんだろうか、どうやら通信を続けるのは相当つらいようで息遣いが聞こえてきている。

 

『悔しいけど、もう肉体は無くて、魂だけの状態じゃ彼女を守ることも限界が近づいて来た。だから、頼みがある』

 

守る――その言葉に我関せずを貫こうとしていたナナシの心に揺らぎが生まれる。それにしても肉体はないとはどういう事だろうか、お化けの類かもしれないし、もしかしたらアポロを嵌められた時の記憶かもしれない。

 

『青溟剣っていう剣を探してほしい――今、聞いている貴方に渡せるものはないし、もしかしたら見つけても事態は好転しないかもしれない――けど、頼む。俺じゃあもう、彼女を――儀降を守れない』

 

儀降?アポロの記憶を軽く見た限りでは聞いたことがない名前――その子を救うために記憶の男はアポロに助けを求めたんだろうか――と言うか、剣なんて見つけたとしてそれがどうなるというのだろうか。

 

『万に一つでも助けられる可能性があるならと思って話してる。俺と言う人間の一生のお願い――いや、俺はクローンだしまともな人間じゃないか――まあ、そんなことはどうでもいい――とにかく!』

(クローン?それに、魂だけって――そういえば、ジ・アースって魂の貯蔵が出来たような、出来なかったような)

 

それ関係だと結論付けたナナシはまた目覚めて暇があった時にアポロの記憶の中で探してみようとさらに深い眠りにつこうとした。

それと同時に通信?記憶?とやらが途切れ始める。

 

『ッ、ここまでか――そうだ忘れてた、俺の名前は――』

 

 

 

 

そのまま、声は聞こえなくなった。だが、色々気になることはあった。クローンだとか儀降を助けてほしいなんて話いつものナナシなら何か怪しいと思って調査するだろう――しかし、必殺技の特訓で疲れ切っていたためすっかり話をアポロの記憶だと勝手に断定ししばらく思い出すこともなかった―――

 

 

「――ふぁあ、なんか変な夢を見たような――どうしたのアキラ、リン?そんな、今からホロウに潜るみたいな顔して」

 

軽くあくびをして一階に降りて工房に入ると雰囲気は戦闘準備中のようなアキラとリンがソファに腰かけ深刻そうにテレビを見ていた。

すると、テレビからなじみのある声が聞こえて来た――

 

『スターループは私にとって意義深い場所よ。今まで、数えきれないアーティストがあの場所で歌声を披露してきた――かく言う、私が音楽の道を志すきっかけになったヨラン・デウィンターもその一人ね――』

「――アストラさん?」

 

そのテレビの中にはいつぞやに付き添いで色々なところを回ったアストラさんが映っていた。女優や歌姫なんて聞いてはいたが、いざテレビの中の彼女を見るとこの間会ったのとギャップを感じざるを得ない。

 

「おはようナナシ、君がアストラさんを知っているなんて珍しいね。てっきり興味がないと思ったけど――」

「――まあ、色々あってね」

 

アストラさんとの逃避行についてはアキラとリンには特に話していない。別に話す理由もないと思ったしイヴリンさんから口止めされているのもある。それ以上にアキラとリンがアストラさんのとてつもないファンだと言うことを知って言ったら言ったで後が怖かったのもある。

 

「それで――どうしたの?普段よりも気合が入っているような気がするけど」

「実はね、アストラさんがニューイヤーコンサートをするんだよ!テーマは『輝きのモーメント』だって!!」

「そ、そうなんだ――なるほどね。少しピリピリしてると思ったけどチケット競争ってことね」

「ああ――わかってるね?フェアリー、僕が合図をしたら始めるんだぞ」

『肯定。コマンドを受領後、直ちに販売サイトをハッキングし、チケットを入手します』

 

どうやら、アキラはフェアリーの力を借りる気満々らしい。ナナシは特にアストラさんのコンサートに情熱を傾けているわけではないのでそれを遠巻きにしながら朝ごはんを食べ、さっきまで見ていた夢について少し思い出してみる。

 

(――青溟剣ねぇ)

 

十中八九ろくでもないものだ。なんとなくわかる、この世界にある剣は大体何かしらのデメリットを抱えている。

それは、俺が使っている聖剣も例外じゃない。下手をすればライのように実質的に聖剣に主導権を乗っ取られたり、アポロのように人間性が欠落する可能性もある。

 

 

現状、律者化も明確なデメリットがあるわけじゃないが使わない方が良いのは一目瞭然だ。

そして、何よりもナナシが頭を悩ませていたのはその律者化を行う自身の中の中、すなわち聖剣内にいる謎の人物、エリシアについてだった。

 

 

 

時間はナナシがライたちの墓を作った後まで遡る――

 

 

 

そこは一面がピンクの花に囲まれた花畑まるで楽園のようなその光景――その中央に、花のように美しい少女は佇み彼の来訪を待っていた。その表情からは善良な雰囲気が伺えるがナナシは警戒心を解こうとはしない。

 

『――単刀直入に聞くよエリシア。君の目的は何?』

 

特にオブラートに包んだり、回り込んで聞く気もなかった。そもそも、相手は自分の中にいる存在だ、下手をすれば思考を読まれている可能性もある。

少なくとも“今現在”は彼女から俺への敵意はない。だからこそ、話せばわかるのかもしれない、そういう淡い期待もあった。

 

『もう、ナナシったら強引なのね。こういうのは――ほら、順序立てて行う物じゃないかしら――ふふっ、別に強引なのが嫌いなわけじゃないのよ』

『――はぐらかすのはいいから答えてほしい。正直に言って俺は君をそこまで信頼しているわけじゃない』

 

ナナシは強く言葉を紡いだ。その中には警戒、エリシアを信じたいという願望、そしてそれと相反する拒絶が含まれていた。すると、彼女の表情が一気に抜け落ちナナシの傍に駆け寄る。

 

『なッ』

 

急な動きにナナシも逃げようと試みるも自分よりもずっと早いエリシアはナナシの右腕を掴み思いっきり引き寄せ自身の右手を彼の頬に置いた。

右腕を振りほどこうと振るが到底ナナシが振りほどけるような力ではなかった。

 

『逃げられないわよ――だって、私強いもの』

『――なんのつもり、やっぱり君はてk――』

『やめて』

 

敵なのか、そう言おうとした時そっと頬に置かれていた手が離れ唇に指が置かれ阻まれる。その目には光がなくまるで今の一瞬で絶望したような雰囲気を纏っていた。

 

『ごめんなさい。こういう事をするつもりじゃなかったの――ただ、貴方に拒絶されるのはどうしても耐えられなくて――』

『――わかった、俺も強く言いすぎた。ごめん、エリシア』

『許してくれるの?』

『う、うん――でも、今度は教えてほしい。はぐらさないで君の目的を』

 

緩んだ彼女の手を振りほどき、しっかり目を見て話すナナシ。なぜ、彼女がそこまで自身の拒絶を拒むのかわからないが、一種の切り札のようになるとも考えていた。

 

『あたしの目的――それは――』

『それは――?』

 

 

 

 

エリシアは少し考えた素振りを見せた後、満面の笑みでナナシに向き直りこう言った。

 

『あなたを幸せにすることよ』

 

緊張するそぶりもなく、赤面もなく、まるで当たり前のようにそうあるべきだったように彼女はそう告げた。だが、そんなわけない――そうとも言いきれなかった。事実、エリシアの行動には何というか打算的なものを感じていた。

 

『――さらに信頼度が下がった。まさか、嘘をつかれるなんて――』

『う、嘘じゃないわよ!あたしの目的は!貴方を、ナナシを幸せにすることな・の・よ!!』

『俺を幸せにねぇ――』

 

やっぱり怪しい。信じて救われるのは残念ながら足元だけの世の中で真っすぐ自分自身の幸せを願う彼女は少しばかり眩しかったのもある。

 

『――どうして俺を幸せにしたいの?』

『ごめんなさい、今は言えないわ。あたしの中でまだ整理がついてないの――でも、その時が来たら絶対話すって誓うわ』

『―――そう』

『うっ、わかってるわ。あたしが怪しいなんて一目瞭然、ナナシの優しさに甘えてるのも分かってる』

『いや――つらい話ならゆっくりでいい――それを、話すって相当勇気がいるし、俺もそう簡単にできることじゃない』

 

顔を上げるエリシア。ナナシがこう言ったのはアルターエゴや母さんから自分が探していた真実を伝えられてそれを打ち明けるべきか悩んだ自身に重ねたのも大きい。

だけど――なぜか俺には、辛い表情をするエリシアを見てられなかったなんて言う感情もあった。

 

 

 

 

とにかく、エリシアの目的は俺を幸せにすること――らしい。何故かは言えない、自分の中での踏ん切りがついていないんだろう。

だが、推察はできる――彼女に拒絶のトラウマを与えるような出来事、例えば勇気の律者の自殺――とか。

まあ、情報がまとまっていない間にこんな考察をしても雲をつかむような感じなのだが――

 

「ナナシ仕事だよ」

「ん?――ああ」

 

考え事をしていたナナシの肩を叩いたのはアキラだった。だが、その表情はどこか暗い。

 

「チケットはどうやら失敗したみたいだね」

「――まあね、でもちょうど報酬のいい指名依頼をフェアリーが発見したからすぐ出撃しちゃおう――ところで、理の律者の力でチケットは作れたりは――」

「無理だねぇ」

『助手二号、私のマスターにそのようなことは頼まないでください。マスターナナシ、任務の詳細は助手二号から聞いてください』

「――早速僕を顎で使い始めた」

「まぁまぁ――じゃあ、行こうか」

 

そういう事で、チケットは結局手に入らなかったらしい。手元にある形態にはアストラさんとイヴリンさんの連絡先――でも、それだと正々堂々勝った人に悪いかとスマホをポケットにしまいいつものようにイアスを担いでホロウに向かった。

 

 

 




ナナシィ!多分、それ夢じゃないって!!絶対誰かしらの救難信号だって!!
と言うことで、隠す気も無いですがこの世界では儀玄の姉、儀降はギリギリ生きています。

ぜひ、俺のモチベのために感想とか気軽に書いて行ってくださいな!!

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