車に乗り込んだアストラは大きく伸びをすると、車内に話し声のようなノイズが響いていることに気づく。よく見ると車載テレビで電話で一人の男性が怒号を上げている――
すると、イヴリンが鳴れた様子でミュートボタンを押した。音が無くなると、その男性の起こっている様はますます滑稽に見えてきた――
「ボブソン専務ったら、今度は何に怒鳴ってるの?」
「黙って逃げるな、コンサートを控えているのに何かあったらどうする――そのようなことを、彼なりの恨みを込めて抗議しているらしい」
どうやら、アストラはテレビで放送されていたようにコンサート前だったらしく見事抜け出してきたらしい。
ならば、ボブソン専務の怒りはもっともでありヨラン・デウィンターのCDの回収だってイヴリンに任せればよかったのだ。
「イヴ――怒ってる?」
「いいや、努めて冷静に、恨み節抜きの講義をしているだけだ」
「もう、怒んないでよ。私が何を見つけたと思う!?ヨラン・デウィンターの幻の音源よ!ほら、あの伝説のコンサート!」
アストラは熱のこもった言葉をイヴリンに向けるも、イヴリンからすれば堪ったものではない。そんなこともあって、イヴリンは呆れた様子で彼女を見ていた。
「――相も変わらず、軽率に他人を信じているんだな。ネット上のよくわからんプロキシだぞ。身元も、動機も、信頼に値するのかも――何一つ不明だというのに」
「よくわからんプロキシなんかじゃないわ!!なんと、この間知り合ったばかりの友達よ。貴方も知ってるでしょ、六分街のビデオ屋で働いているナナシとその店長たちよ!」
「ほう?彼が知り合いなら、なぜ直接ノックノックで依頼しなかった?わざわざインターノットで大々的にスレッドを立てる必要があった?」
じっと、イヴリンはアストラを睨みながら彼女の行動の穴を指摘する。確かにアストラがナナシをプロキシだと知ったのはついさっきだ。
知り合いのプロキシなどいないからこそスレッドを立てたのだ
賢明に言い訳を探そうとするも勘弁したのが両手を重ね合わせ謝罪する。
「えっと――それは、その――今のはつい反射的に出ちゃった言い訳っていうか――てへ、許して?」
「とはいえ、プロキシの身分をその時まで明かさず、受注にもボンプをかませるその要人さ、そして並大抵ではない戦闘力――あなたのお友達はやり手のようだ。その点は安心できる。いっそ、コンサートに呼んでおけば思わぬ助けになるかもしれないな――さて、どの席が良いか」
その後もアストラと軽口を交わしながら車は帰路を進んでいく、このまま何事もなく終わるはずだったアストラの逃避行は終わる――はずだった。
「――むっ」
イヴリンは素早く腕を伸ばすと、アストラの肩を掴んだ――そのまま彼女を座席と床の間の狭苦しい空間に押し込め、そこへ自分の体を覆うように重なる。
「イヴ?急にどうしたのよ?」
「つけられた。車が数台、私たちに張り付ている。ちょうど近くに共生ホロウがある。こいつで連中を撒いてもらおう!」
つけられた車を乗り捨て鮮やかな体捌きで共生ホロウに突入する。アストラに何か問題はないかと確認して、追ってが来る前に走り出そうとしたその時だった。
「ふん、ホロウの中に隠れれば逃げられるとでも思ったか?」
「イヴ、来たわ!!」
「ああ、下がっていろアストラ――私が相手をする」
ホロウに入ってなお追いかけてくる襲撃者たち、それを見て興奮するように叫ぶアストラ。だが、イヴリンはそれを襲撃者たちが来たと勘違いしていた。だが、アストラが“見上げて”いたのはそこではなかった。
「ううん、奴らじゃないわ!来たのよ!」
「そこから、動かないで!『ムゲン・ザ・ハンドG2!』」
アストラの興奮した姿に思わず襲撃者もイヴリンも天を見上げる。すると、そこには無数の手を出現させ襲撃者たちの元へ放ったナナシと肩にナナシの頭を掴んで立っているボンプがいた。
「な、なんだこりゃあぁぁ!!」
「知る必要はないかな、大人しくやられろ!」
襲撃者たちはなすすべなく空からの攻撃によって吹き飛ばされ地面に転がる結果となった。イヴリンは降りてきたナナシを警戒するようにアストラの前に出るがそれより前にアストラは出てきてしまった。
「ナナシ、さっきぶりね。あなたとそのボンプさんにまた会えるなんて幸運だわ!!」
「あはは――実は二人が車に乗り込んだ後、不審な車を数台確認してね。ここまで追ってきたって訳なんだけど、助けはいらなかったかな」
いつでも、彼女の武器であるワイヤーを出せるように構えているイヴリンに視線を向ける。だが、イヴリンも敵意を感じないナナシの表情に少し安堵したのか、そしてアストラに振り回されているのか少し苦笑いを見せている。
「だが、追ってきたと言ったが私たち以外に追ってきたのは襲撃者だけのはずだが――」
「ああ、だからそんな警戒してるんだね。えっと――どうやって追って来たのかって言うと――その、走って来た」
「は?私をバカにしているのか」
「いや、そんなことは全然ないよ。本当の本当に走って来たんだ、一応車くらいのスピードは出せるんだよね」
「すごいわね、ナナシ!!やっぱり、魔法使いじゃないのかしら!」
「――待ってくれ、アストラ。どうして、彼の言うことをそう簡単に信じられる」
確かに、車を使わず徒歩で移動していれば気づかれず追いかけることも可能かもしれない。だが、それは車と同等のスピードを出せることが前提となる、普通に考えて人は車よりも早く走れない。
そう結論付けるのが普通、疑いようのない常識である。
それでもなお、悩み続けているのはいつぞやにアストラが誕生日に脱走をしたときそれを手引きしたのがナナシであり、アストラ曰く超常的な力を使って移動していた――とのことらしい。
「魔法使いじゃないけれど、体は強いんだよね。最近、生まれ変わったおかげでね――大丈夫?」
『う、うん――はぁ、はぁ――ナナシ、早すぎるよ。私を脇に抱えて移動してたけど何度も景色が変わって――ふぅ、酔っちゃった』
「ごめんごめん、相手が手荒な真似をするつもりがないなら手を出す気はなかったんだけど、そうもいかないみたいだからね」
「――まあ、この際ナナシがどうやって私たちに追いついたかはどうでもいい。アストラが依頼したように私も依頼させてもらおう」
「内容は?」
「私たちをここから無事に脱出させること――」
確かに、アストラさんが超人気の歌姫と言ってもどうにも手荒すぎる。誘拐どころか命ごとを奪ってきそうな勢いだ、しかもその割にお粗末すぎる――何と言うか、囮と言うかまだこれで終わりじゃない、そんな感じがする。
「その依頼ならもう、受けてるよ。いいよね、リン」
『私も賛成だよ!アストラさんに危害を加えようとするやつらは私たちが許さないからね!!』
「そう言ってくれると思ってたよ――それじゃあ、イヴリンさん。よろしくお願いしますね」
「ああ、感謝する」
「また、ナナシ達と一緒にいれるのね!」
「お手柔らかにね――と、来たみたいだ」
そうこう喋っている内に大勢いた襲撃者たちの援軍が再び現れた。そんな中でもアストラさんは笑顔のまま、イヴリンさんは面倒そうに、ナナシは有無を言わさずムゲン・ザ・ハンドG2を放ち襲撃者たちをたちまち吹き飛ばした。
「わあ!ナナシって、あの不思議な玉以外にも色々できるのね」
「いや、俺からすれば歌で戦っているアストラさんの方がよっぽど不思議だよ」
「あら、そうかしら――そう言ってくれるなら嬉しいわ」
「ナナシ、先を急ごう。ここにいすぎるとまた奴らが追ってくるだろう」
「うん、とりあえず敵は一層したから、もう強引にも進んじゃおう」
これ以上いて足がつくのを防ぐため、道中のエーテリアスはナナシのムゲン・ザ・ハンドG2とエデンの星を使って無理やり退かせ、出来るだけ戦闘を避けて進んでいった。
そして、数分経った頃いかにもと言う黒服、黒サングラスの男と本当に普通車にしか見えない車が配備されていた。
「ナナシ、お嬢様の警護を引き継ぎたい」
「――別に、構わないんだけど普通に考えて大事なお嬢様をあまり素性が白くない人に任せるのはどうかと思うよ?」
「私も普段ならそういったことはしない。だが、お嬢様は君のことを信頼しているようだし、本当に危害を加える気があるならお嬢様の脱走の手助けなどしないはずだ」
「あはは、その節はご迷惑をかけました。以後は、きちんと連絡させていただければと――」
「わかればいい――お嬢様を頼んだぞ」
そう言い残し、イヴリンさんは襲撃者たちの足取りを掴むためにホロウへ戻っていった。アストラさんが乗った車が発進した瞬間だけこちらを振り向いたが、どうにもその姿がナナシには胸騒ぎを起こさせたのだった。
「――ねぇ、アストラさん。イヴリンさんはどういう人?」
「どうしたの急に――そうね、イヴは全ての不協和音から庇ってくれるパートナーで優しく、辛抱強く、私を守ってくれる人――本当に、本当に私の大切な人よ」
『アストラさんって本当にイヴリンさんのことが大好きなんだね』
「そっか――」
なぜ、イヴリンさんは襲撃者たちを探ろうとしたのだろう。奴らの装備、計画、それは圧倒的にお粗末と言ってもいい、俺のムゲン・ザ・ハンドG2で事足りてしまうことからもそれは頷ける。
状況的には、衝動的な犯行か、それにしては尾行ができすぎている――イヴリンさんは一体どこに引っかかったんだ?
(身内の犯行――?)
今回の尾行のおかしな所はどうしてアストラさんの居場所が奴らにバレたということだ。もちろん、バレる余地があったからこそイヴリンさんたちが出待ちしていたわけだが、襲撃者たちにまで伝わるほどお粗末とは考えにくい。
だとすれば、バレる口はそれほど多くはない盗聴器が仕掛けられていたか、アストラさんにGPSでも仕掛けられていたか――だが、イヴリンさんがいる以上これは現実的とは言えないだろう。
それほど、イヴリンさんは優秀だとすぐに気が付いた――歌姫の護衛にしては過剰なほどに
深く――深く――考察の海に落ちていくナナシ、それには特に気づかずここぞとばかりにアストラさんとの会話を楽しむリンとアキラ。
そんな、ナナシを引き戻したのは一通のメールだった。
なんと!前回の投稿から10日しか空いてないぜ!やったな!ちなみに、この章はそこまで長くはしない予定です。
輝きのモーメント→シルバーの復活→涙と過去を埋めて――ていう感じでやれたらなと思います。
後、みんなのおかげで総合評価600行ったぞ~!!目指せ、700!!
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け