少し時間の回った新エリー都の六分街、その人通りの少ない駐車場にナナシは呼び出されていた。
だが、少しきょろきょろと観察してみても待ち合わせをした彼女の姿はない。
そりゃそうだろう、俺を呼んだ“彼女”はとても注意深い性格で本気で探そうと思ったら話は別だが、適当に見回している程度では見つけることは不可能に近い。
そういう事で、待機していると――パーカーのフードを目深にかぶった少女が、ナナシの肩を突いた。
「久しぶり、ナナシ。元気そうでよかったよ」
「それはこっちのセリフだよ。レイン、結構ヤバい依頼をしてから音沙汰がなかったから心配してたんだよ」
「あはは、心配してくれてありがと。でも、本当に危険だって思ったら――ナナシが助けてくれるんでしょ?」
ニコッとあどけない本当にただの少女のような笑みを見せる彼女の名前はレイン。ヴィクトリア家政のみんなとバレエツインズを探索したときにつかまっていた少女である。
一見、ただの学生のように見える彼女だが正体は凄腕のハッカ―であり、白祇重工の記憶素子を解読してくれたのも彼女である。
「もちろんだけど、あんまり危険なことはやめてほしいかな。それに、俺の依頼だって危険だったら断っていいって言ったよね?」
「わかってるよ、でもナナシの頼みだからね少し危ない橋も渡りきって見せるよ」
「レインは俺の大切な人だからあんまり、危険なことをしてほしくないんだけどな――」
「ッ!!ナナシ、そういう事あまり言うものじゃないよ――」
俺が依頼した件と言うのは非常に危険なことで正直、レインじゃなくて最初はこっそり邪兎屋に依頼をするつもりだったがどこからか嗅ぎ付けてきたレインがあの恩を返したいと力を貸してくれることになったのだ。
それで、なぜか顔を真っ赤にしたレインに脛辺りを蹴られたが気にせず話を続ける。
「それでさ、レインはどうして俺を呼んだの?メールにも着いたら伝えるって書いてあるだけだったけど」
「ああ、そうそう伝えるね。私が調べた“讃頌会”についてね」
「正直、情報が集まるかは希望的観測だったけど、ばっちりそうだね」
そう、レインに情報収集を任せていたのはブリンガーの裏にいる存在についてである。調べたところ“讃頌会”と言う非常にろくでもない組織がバックにいることがわかった。
讃頌会とはその司教を倒したことで虚狩りとして任命されるほどやっべぇ組織であり、要するにホロウの浸食を大人しく受け入れることを選んだ集団であり、バカみたいな人体実験を繰り返し存在を知るものからすればテロリスト同然の危険な奴らである。
「だけど、面倒なことも分かった。ここからは遠いんだけど衛非地区ってところで何かやろうとしているみたい」
「衛非地区――それで、一体何をしようとしているの?」
「そこまではわからないけど、急に大量のエーテル爆薬の注文の履歴があったのと、もしかしたらホーデルメックスが讃頌会と繋がっているかもしれないの」
「ホーデルメックスが!?」
ホーデルメックスと言えばTOPSの企業の一つであり、要するに財閥である。もし、それが人体実験しまくる激やば手段の讃頌会と繋がっているとすればテロリストに巨大な資金源があるのと同じだ。
「でも、何で急にエーテル爆薬を?」
「わからない――けど、言い表せないような嫌な予感がするね」
「エーテル爆薬、ホーデルメックスと讃頌会の繋がり――」
『青溟剣っていう剣を探してほしい――』
何故か、急に思い出し溢れてきた夢で見た記憶。何か関係があるのかと記憶を探るも何も出てこない――ともかく、今はいくら考えても六分街にいる間はどうにもできない。
讃頌会の手がかりはつかめたが、それを生かしきれない現状に歯がゆさを覚えるのであった。
「大丈夫、役に立ちそう?」
「――うん、でもレインも気を付けてね。相手は、テロリストなんだから!」
「わかってる、わかってるよ。むしろ、私からすればナナシの方が危険なことしてると思ってるよ。ヴィクトリア家政の人から聞いたよ、また無茶したんだってね」
「―――そうだ!!レイン、この依頼はさレインが借りを返すってことでタダで受けてもらっちゃったけど本当にいいの?」
一応言っておくが逃げたわけじゃない。レインに対して実質的なタダ働きをさせたのが悪いと思っているからこそ、こう言っているのだ。
「ふーん、そういうことするんだ。でも、いいよちょうどいいし――お願いがあるの」
「受けるよ」
「ちょ!ちょっとくらい、悩みなさいよ――何だか調子狂うね、君といると」
「それ、褒めてる?それで、依頼って何かな?」
「――私の恩返しに付き合ってほしいんだ」
讃頌会の話をする時ですら余裕そうな顔をしていたらレインがいつになく真剣な表情と声色で伝えてくる。
もちろん、断るという選択肢はない可能な限りで全力を尽くすつもりだ。
「私には古い知人がいてね。その人が現在進行形で大ピンチみたいなんだ」
「へ~、それで知人さんの名前はなんていうの?」
「えっと、今は『イヴリン・シュヴァリエ』って名乗ってるはずだよ」
「――なるほどね」
彼女が出した名前を聞いただけですぐに合点が言った。
レインの古い仲間→何かしらの組織、もしくはバディ→イヴリンと言う名が偽名→組織などのエージェントである可能性がある→何らかの理由でアストラに取り入った。
と、俺の頭は導き出した。
「もうわかったの?」
「大体はね、知り合いだし――でも、何個か腑に落ちないかな」
「それなら話が早い。イヴリンが持ってきた通信機から得たデータの断片によれば――」
『音源――帝高の手に渡すわけには――切り離さないと――今はフ―?のことが露見するわけには――』
と途切れ途切れながらも音声が残っていた。
「それに、イヴリンがこう言っていた『フーガ』って――それで、暗号通信の発信元のIPアドレスが192.453.18.300――イヴリンには内緒で調べてみたらね」
俺の記憶が正しければイヴリンさんと途中で分かれたのは襲撃者たちの足取りを掴むためだ、タイミングから見てこの通信機が襲撃者たちの物であることは間違いないだろう。
そこで、俺のある考察が浮かび上がる――
「発信元はフーガ――ってところなんだけど――ナナシ?」
「――最悪だね。合点がついた」
アストラさんの行方をリークしたのは彼女の身内ではないが、関係がないわけじゃない。とはいえ、狙いはアストラさんではない可能性がある、だがあの場でアストラさん並に重要な宝と言えば『ヨラン・デウィンター』にまつわる音楽だろう。
それに、襲撃者たちの質の悪さも何となく予想がついた。あれは専門的な人間ではなく、あらかたアストラ、もしくはヨラン・デウィンターのファンをたきつけたことによって起こったものだろう。
「レイン、最後に一つだけ確認させて――イヴリンさんはフーガのスパイ?」
「――そこまで情報は渡していないつもりなんだけど」
「状況証拠を何とか組み上げて導き出した答えだよ。それで、今回の依頼はイヴリンさんがスパイだってことがアストラさんが所属する帝高にバレかけているから何とかしてくれってこと?」
イヴリンさんを一目見て違和感があった。確かに、アストラさんは素晴らしい女優であり歌手でもあるのだろう。
だが、その護衛にしては過剰すぎるというか隙のなさすぎる人だなと思っていた。
正直、ここまではやっぱり有名人の護衛ってそんな感じなんだとしか思っていなかったが、共にホロウに入って戦うと否が応でも察せられる、明らかにただものではないと。
ぶっちゃけ、暗殺者と言われた方が納得するようなほれぼれとした腕前だった。
「違うよ、私は一人で突っ走りそうな古い友達を助けてほしいていうだけ――彼女、守らなきゃいけない人がいるみたいだからさ」
「そっか、なら俺も全力で動かないとね」
「受けてくれてありがとう、ナナシ。そう言ってくれると思ってたよ」
そう、最初に何個か腑に落ちないと思っていたのはそこだった。確かに、最初はスパイとして入ってきたのかもしれないが、彼女のアストラさんへの気持ちは間違いなく本物だ。別に本物である証拠があるわけじゃないが、理屈を超えて俺はそう感じたのだ。
「でも、イヴリンさんの助けは頼まれたら全然するつもりだったし、レインは何か俺に頼みたいことないの?」
「――だったら、私とナナシの次の休みの日に――どこか行かない?」
「いいよ、そうだせっかくだしリンとアキラを誘ってもいいかな二人もきっとレインのこと心配してると思うし」
アキラとリンがレインと最後に会って話したのはバレエツインズが最後のためどこかでレインは大丈夫かなとぼやいていたのを覚えていたのだ。
しかし、どうやらお気に召しなかったらしく顔を真っ赤にしながら頬をふくらませている。
「もう、そういうじゃなくて―――その、ね――ナナシと二人で行きたいなぁ――って――ダメ?」
「そっか、もちろんいいよ!でも、レインと二人で遊びに行くなんて楽しみだよ」
「た、楽しみ――そっか、私も楽しみにしてるから!」
こうして、ここで解散となった。レインはまたセーフハウスに引っ込むようで顔を真っ赤にしながら足早に去っていった。
(それにしても、厄介なことになったな)
イヴリンさんがスパイだということがバレかけている可能性はかなり高い。なぜなら、フーガがさらに刺客を差し向けて来たということはイヴリンさん側に何か問題が起きたということに他ならない。
もちろん、アストラさんがイヴリンさんを手放すなんてことは到底起きるはずもないが、周りはそうはいかない。
そして、次奴らが襲撃するとすれば多くの客と注目が集まるコンサート本番の可能性が高いだろう。
だが、問題は俺たちはそのチケットの抽選に落ちてしまったためそもそも入れない可能性が高いということだ。
「――アストラさんに電話してみるか」
こういうことは本来したくはないがレインとの約束を守るためなら仕方なし、それにアストラさんだけでなくイヴリンさんにも危険が及ぶとなればなおさらだ。
そんなことを考えながらもゆっくりとナナシは帰路につくのであった。
さらっと、次章の伏線を残していくスタイルです。
当然ですが、ナナシの『大切な人』発言に深い意味はありません。文字通りです。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け