実は、以前にグレースがらみであんな感じのロボットと真正面から戦ったことがある。
あの時は、なるべく壊さないでと言うことで緊急停止ボタンを押すということでかなり苦戦したが今回はその限りではない。
「イヴリンさん!そいつを、一瞬止めて!」
「わかった、お嬢様は後ろに下がっていてくれ」
「ダメよ!私も、二人と一緒に戦うわ!」
こういう時、ジ・アースを発動することができればかなり便利な上にこんなでくの坊は一刀両断できるというのに、今の俺には発動ができない。
「止めたぞ、ナナシ!」
「ああ『真マジン・ザ・ハンド!!』」
「なっ!!」
「まあ、かっこいい!!」
デウィンター夫人の口から驚愕の声が漏れる。ナナシが出現させたのはあのロボットを超える巨体を持った魔神であった。
その上、渾身の拳によって現れたロボットはまるでジェンガでも崩れるかのように粉砕されていった。
「ちっ!」
「させないよ」
パァン!パァン!と、次々にデウィンター夫人はためらいもなくピストルをアストラさんの方に向けて発砲するもナナシが銃弾を素手で弾きその場に落とす。
「何よ、あんたは!!」
そこで、すかさずイヴリンさんが立ちはだかる――
「まだお芝居を続けるの?私の計画が、今この瞬間まで滞りなく進んでいるのは…貴方のおかげでもあるのよ?」
「うっ…」
痛いところをつかれたのか思わずその場でよろめくイヴリン。
(この状態のイヴリンさんを置いてデウィンター夫人を倒すのは簡単だけど、その隙に撃たれたらマズい。でも、エデンの星の射程から微妙に外れてるんだよな…)
じりじりと詰め寄りたいところだが、先ほど銃弾を素手で弾き飛ばしたり、魔神を出した俺は確実に警戒されている。
「イヴ!大丈夫?どこか怪我したの!?」
「アストラさん、あなた…その女に守られているつもりなの?可笑しいわね。あなた達の『絆』は、しょせんごっこ遊びに過ぎないのに」
(言うつもりか…こうなったら、俺が盾になって無理やりぶっ飛ばすしか)
「待て、ナナシ…」
必殺、俺が盾になる作戦を繰り出そうとしたその時、イヴリンさんから待ったがかかる。
「一緒に、渡ってくれるんだろう?」
「…もちろん」
彼女の方に振り返ると、何か決意した表情でこちらを見つめ、頷いた。それの意図を察した俺もまた彼女を見て頷き返した。
「どうしたのかしら?それとも、フーガのスパイであるあなたがそこの奴を止めてくれるのかしら?」
「止めはしない、ただアストラ。聞いてくれ」
「ええ、聞くわよ。イヴ」
「な、貴方何を!!」
どうやら、イヴリンさんは全てを話すことを決めたらしい。なら、俺もそれに付き合うだけだ。
「ッ、うんざりするわ。大資本の走狗いなり下がったあなた達には…ヨランが生きていた頃でさえ、貴方たちはヨランの才能に群がる虫のようだった。そして、あの人がいなくなった今、お金のために最後の歌まで奪って!ヨランは私の物よ。あの人の遺作を返して!!」
「貴方は思い違いをしているわ!スターループの協律コアは、確かに私の歌声で動いている。でも、それとヨランの遺作がここにあることは、無関係だわ!」
そうだ、アストラさんは言っていた。ヨラン・デウィンターの歌は魔法のようなもので、言葉では言い表せない感覚をもたらすものだった。
「私がこのアルバムを探したのは、彼の歌声に人と人の心を繋ぐ、不思議な声があるからよ。彼の声は一筋の懸け橋となって、あらゆるすれ違いや痛みを乗り越える手助けをしてくれた」
アストラさんは立ち上がる。目の前にいるデウィンター夫人にすらその魔法を届けるために――
「私たちが生きている、このてんでバラバラで、壁だらけの時代に…こういう歌声こそが亀裂を埋めて、ずっと忘れていた『響き合う』ことを思い出させてくれる」
そして、そのことを一番よく理解しているのは彼を最も愛したデウィンター夫人に他ならない。
「始まる前に、私は言ったでしょう。このコンサートをヨランに捧げるって。貴方は彼を『過去の人』だと言ったけれど…だからこそ、今、私が彼を未来へと連れていくの!」
「…そんな美辞麗句を並べて、事実を有耶無耶にしないで!あなた達は、あの人が味わった物を何一つわかっていない!」
「そうかもしれない。ヨランが、本当はどんな心境でいたのか、私は理解できてないかもしれない。あるいは…貴方も」
「…!!」
何か、図星でも疲れたのかデウィンター夫人はその場から二歩、三歩と下がる。
だが、その間にもスターループの墜落はますます速くなっている。アストラさんが残りの推進ユニットを動かせたとしてもスターループの再浮上は怪しいかもしれない。
おそらく落ちれば俺以外はここが棺桶になることだろう。
「でも、もう遅いわ。みんな、堕ちてしまえばいいわ!スターループは崩れ去り、偽りにまみれた夢の舞台も、消えてなくなる!アハハハハ!!」
テッサ・デウィンターが銃を投げ捨てると、その呪詛のような声は徐々に小さくなった。代わりに、涙が頬を伝う。
「ヨラン、私…星々の尽きる場所で待ってるわ。貴方は、そこにいる?」
銃を手放した彼女の両目は、憑りつかれたように怪しく輝いていた。そして、銃を捨てた隙をついて突っ込んだナナシの手によってその場に寝かされることとなった。
もしかすれば、ヨラン・デウィンターの歌に最も魅入られたのは彼女だったのかもしれない。
「…イヴリンさん、言うんだね」
「ああ、既に覚悟は決めている。それに、一緒に渡ってくれるんだろう?」
「気づいたら、二人は何でこんなに仲良くなっているのかしら!?私が完全に置いてけぼりじゃない」
イヴリンさんの表情はてっきりもっと曇っているものかと思ったら以外に晴れ晴れとしている感じがしていた。
「じゃあ、俺はちょっと用事があるから俺の秘密を先に言うね」
「え、秘密?どういう事かしら?」
「赤信号みんなで渡れば怖くないそうだ…私に付き合ってもらっているだけだがな」
「安心して、嘘を言うつもりはないよ」
と言うことで、改めてアストラさんの方に振り返り話始める。
「俺は、普通の人間じゃないんだ」
「それは薄々わかってたわ。だって、普通の人間は空を飛べないもの」
「…そうだね、俺はかつての英雄アポロのクローン、人呼んでアポロ十一号と呼ばれる存在なんだ」
「えぇ!?アポロ、クローン!?い、イヴ…わ、私何言ってるか全然わからないわ」
「そ、それは私も同じだお嬢様。それに…いや、そういう事か…アキラとリンの喧嘩の原因はそれだな?」
まあ、実際はそれと加えて寿命のことも隠していたのだが大体そういう事なので頷く。
「アストラさん。俺がアポロと言う人間のコピーだからこそ伝えられることがあると思うからこの秘密を話したんだ…幻滅した?」
「そんなわけないわ、ナナシが誰かのクローンだろうと何だろうと私の大切な人であることは変わりないもの!」
「ありがとう…それでね、俺は最初アポロになるべきだし、なるんだと思ってた。けど、そうはならない…俺がアポロの代わりでもなく別の存在であるように誰しもが光を放っている」
記憶がそもそも存在しなくて自身がアポロのクローンだと知った際、彼の後姿をなぞるように成長しようとしていた。
けど、どうにも違いすぎるしそれができないことは死んだ後にやっと気づいた。
「だから、ヨランはヨランのアストラさんはアストラさんの光を放っている。俺ができるのは、その光が影を作らないように障害をぶっ飛ばすくらいだけど、アストラさんはその光は、多くの人の心を照らす力があるって俺は信じてる」
「ナナシ…」
「多くの人の幸福を分けてあげたい、心に寄り添ってあげたい。ヨランの歌を未来に届けたい…それはデウィンター夫人の言う通り、美辞麗句なのかもしれない」
だが、彼女の歌を聴いて俺は魂が震えたのを感じた。この、終末世界の中で色を失わない光が輝いているように見えたのだ。
「だけど、その理想は決して間違いなんかじゃない。それは、俺もイヴリンさんもアキラもリンも思ってる。だから、どうか‥‥その理想を諦めないで」
「ええ!!もちろんよ」
「ははっ、余計なお世話だったかな。でも、日々苛烈になるホロウは人類から娯楽を楽しむ心を奪っていき、あらゆるエンターテイメントは顧みられなくなっていく……そんな時代でも、きっとあなたの声は人々の心を癒し続けるわ」
「え、ナナシ?」
一瞬、ナナシの銀眼がピンク色に染まったような気がしたが彼が瞬きをするとすぐに元に戻る。
「…何でもないよ。それじゃあ、行ってくるね」
「待て、行ってくるとはどこに行くつもりなんだ?」
「色々頑張ってくるだけだよ」
もちろん、行き先は舞台の周りのフーガと帝高の連中をぶっとばすというわけではない。
「…私を信頼していないのか?」
「……スターループの落下を俺の『エデンの星』を使って、一秒でも長く落下を食い止める」
「エデンの星とは、その球体の奴か…だが、それを使ってどうやって?」
「このエデンの星は重力を操作することができる。これを使って下側からスターループに向かって落下を相殺するように重力を展開して食い止めるんだ」
「危険すぎるよ、ナナシ!!」
そうだ、これはあまりにも危険すぎる。一歩間違えばナナシはスターループに潰されてぺちゃんこになるか、空に投げ出されて落下死する可能性すらある。
「わかってるよ、でも…俺はアストラさんを信じてる…絶対、スターループを立て直すってさ!!」
「ナナシ、だけど…」
「言ったでしょ?アストラさんの光が届くようにその障害をぶっ飛ばすって…だから、俺に手伝わせて」
「‥‥わかったわ」
「アストラお嬢様!?」
「だけど、絶対に帰ってきてね。これで、食い止めて死ぬなんて映画だけにしてほしいわ」
「善処するよ。それじゃあ、一応これも渡しておくよ」
俺は理の律者の能力で最高品質とまでは行かないが真に迫ったエデンの星をアストラさんに渡す。
「使い方は、まあ何となくで動かせるはずだから……どうか、この魔法で未来を切り開いて」
「わかったわ…ナナシも無事に帰って来てね。まだ、火鍋奢ってないんだから!」
「お嬢様…それは、死亡フラグでは?」
「ああ、マズいわ!今のはやっぱりなしで、頑張って来てナナシ!」
「うん、頑張ってくる」
そう言い残し、ナナシはコンサートの舞台から降りていった。
タイムリミットはもう残り少ない。そんな中、ナナシはどこまで持たせることができるのだろうか。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け