コンサートが終わって数日後も、イヴリンはしばらく治安局に留め置かれ調書を取られていた――
治安局に伝える情報は、かなり慎重に考える必要があった。
何しろこの件にはフーガ、デウィンター夫人、そして――『組織』が関わっているのだから。
なお、ナナシはコンサートが終わった後三日三晩熱に侵されることになり顔まで入った赤い線は数日たった今も完全には引いていない。
「ああもう、こんなことを隠してたなんて…イヴがいなくなって、私が心配しないわけないじゃない。お願い治安局の人たち、イヴは悪い人なんかじゃないの!」
そう祈りながら、治安局の奥に向かう。そこには、聴取を追えたであろうイヴリンと治安官さんの青衣がいた。
「うむ、事件のあらましは詳らかに記録させていただいた。イヴリン殿、ご協力に感謝する。ぬしが懸念しておったデウィンター夫人の安全についても、一際気に留めておくとしよう」
デウィンター夫人は役目を果たそうとしたとはいえ、組織から見れば自分たちごと殺そうしたものだ。
本件の首謀者が闇討ちしないとも限らないのだ。
「また、フーガ・ミュージック社に雇われた暴徒により、貴社は多大なる迷惑を被ったとあるが…奴らに動機らしいものはなく、現状はデウィンター夫人の差し金とみるが妥当。なれど、暴徒とフーガ社の上層部が通じている証拠をつかんだ暁には、貴社の弁護士に情報を引き渡すと約束しよう」
「青衣さんに、そして朱鳶さんにも…お二人の細やかな心遣いに感謝します。今回の件は複雑を極めていますから、治安局の助けが得られることは願ってもありません」
その時だった、明後日の方向から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「イヴ!」
「アストラお嬢様、どうして自らここへ?こちらの方は青衣さんだ。ここ数日、私のために頭を悩ませてくださっている」
「青衣さん、イヴを私に返してくれて、ありがとう!」
「イヴリン殿にはこのほど、ひっきりなしに調査へご協力いただいておった。礼を言うのはこちらであろう」
それに、あのコンサートが終わった後、治安局に対してまるでゾンビのような声でイヴリンさんは悪くないです。と言う連絡が入ったりしていたというのもあるのだが。
その声を聴いて一瞬で誰か理解した朱鳶は『ど、どうしたんですか!?』とものすごい驚いてダッシュでビデオ屋に向かって行った――なんて、こともあったりしたのだが、これは今関係のない事だろう。
「実は私、青衣さんに一つお願いごとができないかと思ってるだけど…この『ヨランの遺作』のオリジナル音源を、デウィンター夫人に届けてもらえないかしら」
「それは良いが…」
「私があの人の立場に立って、同じ高みを理解することはきっとできない。それわかってるの。でも、ヨランの歌声は数えきれない人々の孤独を癒してきた。いつの日か、あの人の絶望をも癒してくれるかもしれない」
かつて自分がそうだったように、彼を失った彼女が彼の歌声を思い出してかつての幸せな出来事を思い出してくれるかもしれない。
「あのラストコンサートで、ヨランはこんなことを言ってたわ。今でも私はよく覚えてる」
『過去にはたくさんのことが会った。そして未来は誰にも予測できない。せめて『今』を決めるのは、自分でありたい。今でも私をさせてくれたみんなも、自分の心に従って、けして『今』の自分を裏切らないで欲しい…』
「アルバムはもうリリースされて、今や全ての音楽ファンが伝説のラストコンサートを聞くことができる…それでもこのオリジナルは、彼女の物だから。あの人に伝えてほしいの、ヨランはずっとあなたの傍にいるって」
「あい分かった。ぬしの思いが、彼女の更生を後押しすることになればよいな」
治安局は二人を入り口まで送ると、去って行った。アストラはイヴリンの表情が随分とリラックスしていることに気が付いた。
そして、アストラのわがままによって二人は六分街のビデオ屋を訪ねることとなった――
「体痛いのも、頭痛いのも、気持ち悪いのも全部楽になったのになんで俺はベッドに拘束されているんだろう」
呆然と天井を見上げながらそう呟くナナシ。と言うのも、あの出来事からしばらくの間は『エデンの星』をフル稼働させた反動が体を襲っており動けなくなっていた。
しかし、ある程度回復して動けるようになった!!とアキラとリンに言った直後、どこからか現れた朱鳶さんと共に襲われベッドの支柱に手錠で括り付けられることとなってしまった。
「自分の胸の中に聞いてみたらいいんじゃないかい?」
「…反省ですね。また心配かけて申し訳ないと思ってるんだよ。でも、気づいたらやるしかないって空を飛んでたんだ!!」
「はあ、お兄ちゃん。やっぱり、ナナシの首に首輪でもつけておいた方が良いんじゃないかな?」
「名案だ、リン。と言いたいところだがナナシの腕力だと普通の首輪は引きちぎられてしまうからね」
俺を犬か何かだと思っているのではないだろうか、多少本能で動いているのは否定しないがそこまでではないと自負している。
さて、なぜ俺の部屋に二人がいるのか――ま、もちろん監視もあるんだろうけど、現在、店はCLOSEしており、人が来るまで暇なのだ。
だから、手錠でベッドに繋がれた俺を見に来ているというわけだ。
「…あ、二人とも来たみたいだよ」
「ナナシのセンサーが反応したみたいだ。僕が下に行ってくるから、リンはナナシが手錠を引きちぎらないか見張っておいてくれ」
「了解!」
「俺をゴリラかなんかだと思っているのかな?」
出来るけど、だがそれも容易ではない。
相手は、パーティーグッズの手錠ではなく朱鳶さんからかけられたガチなもの。ちぎるのは少し時間がかかるし、その間にリンに近づかれたら力を緩めざるを得ない。
「リン、悪いけど脱獄させてもらうよ」
「腕力で、外そうとするなら私が馬乗りになってやるんだから!」
「ざんねーん『真ゴッドハンドW』」
完全に頬に走っていた赤い線、すなわち浸食が完全に消え去った俺に障害はもはやない。
手錠をされている手首を中心にグローブのような虹色の後光が入ったゴッドハンドが出現し手錠を内部から粉砕した。
「さて、と…アストラさんたちに会いに行きますかね~行くよ、リン!」
「ナナシ、絶対何も反省してないでしょ!!この後、絶対にお説教だからね!」
「き、聞こえないなぁ…」
リンからのありがたいお言葉を振り切るようにダッシュで一回に下り工房の扉を開けると、アストラさんに向かってなぜかペンライトを振っている映像を全画面に流しているフェアリーがいた。
「ど、どういう状況?」
「それはこちらのセリフだよ、ナナシ」
じと、という視線が俺の胸に突き刺さるのを感じながらその場に立ち止まっているとアストラさんから声がかかった。
「まあ、ナナシじゃない!体はもう大丈夫なの?」
「流石に全快じゃないけどね。手錠破れるくらいは回復したよ!」
「プリズンブレイク…アリね!」
「一体、アストラお嬢様は何役で出演するつもりなんだ?」
手錠を破ったのは必殺技で真似することはできないが、アストラさんが囚人になって逃げるというのは、少し見てみたい。
(いや、アストラさんが可愛すぎるし他の囚人から見ても浮くか)
女性刑務所に果たしてアストラさん級の美少女が収監されていたらそれは果たしてリアリティがあるのだろうか――否、あるはずがない。
「そういえば、聞いたよアストラさん!あの事件から人気はマイナスどころかドンドン上がってるんでしょ!やっぱり、すごいね!」
「ついでに、帝高エンターテイメントの株価も30%の高騰だ。時価総額はもうすぐ、5兆ディニーに迫る勢いだそうだぞ」
「んー…とはいえ全然足りないわ」
「た、足りない!?5兆ディニーなんて店長と何回お出かけしたら稼げるんだ‥‥?」
「ナナシ、ちょっと後でその話聞かせてね」
まるで、竜の逆鱗にでも触れた雰囲気で肩を掴むリンに思わず身じろぎする。
店長から、お金を上げる代わりにバイト終わりに少し夜に出かけていただけなのだが――
「帝高との契約解消には、まず十分な違約金を用意しないといけないもの」
「…ありがとう、アストラお嬢様」
「ええ!お金なんて無価値なもので、かけがえのない貴方が手に入るのよ。むしろお祝いしなくちゃ!」
「そういえば、全部話したらお祝いって話だったね。リンならいい店、知ってるんじゃない?」
「でも、どうせならナナシのバイト先の店長に“お話”をしに行きたいんだけど、そういう事なら協力するよ!」
そういえば、リンとアキラがした“お話”とは結局何だったんだろうか、店長に聞いても酷く怯えているようで何も話してくれないし――
(でも、その“お話”が会ったからこそアストラさんとイヴリンさんとの縁ができたんだよね)
何が起きたのかは知らないが、お話をするようなことをした店長に少し感謝を心の中で伝えながら、早速出発しようとドアノブに手を掛けた瞬間――
「アストラさん!一言頂いていいでしょうか!」
「この店にいらっしゃるのは、何か特別な理由が!?」
「言っただろう、『即興』もほどほどにしておけと」
考え事をしていたせいでセンサーが反応しているのにも気づかずに扉を開けてしまったことを後悔しつつ我先にとマイクを突き出してくる記者を前に勢いよく扉を閉めた。
「どどど、どうしましょう!?」
「こ、こうなったら全員『エデンの星』で吹っ飛ばしちゃう!?」
「それをやったら、記者の人たちが死んじゃうよ!」
慌てに慌てた俺は懐からとうに壊れた『エデンの星』を取り出し前に掲げようとする。
当然、何も起きないが――そんな、状況の中イヴリンさんだけはとても冷静だった。
「店長…裏口を開けてはもらえないか?」
「ごめんね!なんたって休暇中だから!」
「やったー説教、免除!!」
「後でやるからね」
「覚悟しておくといいよナナシ」
先ほどまで、天国への片道切符に見えた車内は急に地獄への切符に変わってしまったらしい。
心行くまで食事をして、アストラさん、イヴリンさんたちとカラオケにも行った。
それでも、満足できず、終わった後にまた食べた!
「なあ、ナナシはどうして私…私たちを助けようと思ったんだ?」
「え?」
一通り遊びつくした後、ついには帰路につこうとしたその時イヴリンさんからふとそう聞かれた。
「アストラさんが、いつぞやに誕生日に好きでもない人の前で歌いたくないって言っててさ…すごく、不自由だと思ったんだ」
「アストラお嬢様が、そうか…」
「そんな雰囲気を、イヴリンさんからも感じ取ったんだ。なんでだろうって、アストラさんが近くにいてどうしてこんな雰囲気になるんだろうって不思議だったんだ」
初対面でもすぐにわかった。アストラさんは度し難い善人でイヴリンさんはその善人に絆されている。
コンサートの途中なんてより、不思議に思った一生懸命に彼女を守るために頑張っているのにどこか引き目がある表情をしてたから。
「きっと、俺は笑って欲しかったんだと思う。何だか、いつも悲しそうな表情をしているから笑顔が見たかったんだ」
「…そうか、今の私は…その、笑えているか?」
もはや、見なくてもわかる気がするがあえてマジマジと彼女の表情を見よう。
「うん、すっごくね!!」
「ははっ、そうか…でも、アキラがナナシをアストラお嬢様に似ていると言った理由がわかる気がするよ」
「そう?全然似てない気がするけど、アストラさんの方が数倍純粋だよ」
「そういう事じゃない、在り方と言うか根っこの部分が似ているということだ」
最後までそれは理解できなかったが、それは良いだろう。
それよりも、夕焼けと共に赤く染まった頬をしたイヴリンさんのその笑顔を今はこの目に納めておこう。
『アインシュタイン博士!!第二、第三ブロックが完全に破壊されました。もう、持ちません!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!』
通信機越しに、男の叫び声が響く。
だが、そんなことは知らぬ存ぜぬと言う表情でぼさぼさの青髪をいじるこの研究所には似つかわしくない少女。
「そうか、なら僕も向かうとしよう。“彼”を放置していると一夜にして讃頌会が消滅…なんてギャグなようなことになりかねない」
彼女の目の前にある“空”のポッド――それを愛おしそうに撫でながら、その場を後にした。
「それで、どうするの?アインシュタイン…上の人たちはカンカンよ」
「だろうね、でもあいつらじゃ“彼”には勝てない。僕が動かないと、今日で讃頌会は滅亡だ」
「ふーん、確かに“アレ”が動いたなら相当な抑止力になるってことね」
壁にもたれかかりながらアインシュタインと話す女。
『聖剣オーガ』の使い手を殺害し、アルターエゴの力を奪い、ブリンガーを暴走させた、諸々の諸悪の根源であるサラであった。
『ほ、報告です!!司教様が動かれました!』
『あ、アインシュタイン博士!!ま、マズいです!司教様が接敵し、僅か3秒で撲殺されました!』
報告はまるでマシンガンのようにひっきりなしにやってくる。
その上、その被害報告は全て甚大でなおかつ全て同じ原因なのだ。
「司教様をあっさり瞬殺とは、やっぱり今日で讃頌会は滅亡かしらね」
「縁起でもないこと言わないでくれ、それを止めるために僕たちが動いているんだ」
ちなみに、冗談抜きで放っておくと讃頌会が滅亡するのは誇張ではない。
もし“彼”を武力で鎮圧しようと思ったら虚狩りクラスを7人集めてギリギリ勝負になるかどうか――なんて、ものなのだから。
『す、スピニングトランザムが拳でかき消されました!!』
『こ、こちら爆撃を開始していますが未だに対象は沈黙しません!!うわあぁぁぁぁぁ!!』
「尊い犠牲だ。さて、ここを曲がれば…」
「目が合ったら、殺しに来るとかないでしょうね?」
「気合でよけるんだ」
適当なアドバイスをしながら、気を引き締めて角を曲がるとボコボコとへこんだ地面、それは爆撃の余波だけではなく、その“男”が踏みしめたことによるものもある。
「‥‥‥」
「ッ!?」
沈黙、その圧倒的覇気を前にしてサラは自分が殺される走馬灯が頭を何十、何百、何千と流れたのを感じた。
一瞬、サラは瞬きをした。それは、ほんの僅かな数秒の間だけであったが目の前にいる“彼”と対峙するには本当に致命的なミスだった。
「伏せるんだ、サラ!」
「……!!」
「ひっ!?」
ドカンッ!と背後からまるで爆竹が耳元で爆発したような音が響いた。
思わず、情けない声が口から漏れだすのすら抑えられず、全身に震えが走るのがわかる。
何とか、アインシュタインがサラの服を掴み無理やりしゃがませなければ、今頃彼女の首はサッカーボールのようにそこら辺をはねることになっただろう。
その証拠に“彼”が放った蹴りによって壁には抉られたような跡がついていた。
「ッ!キーパーコマンド03『ドーンシャウト』」
「ダメだ、それでは防げない!ディフェンスコマンド06!『マグネットドロー』」
彼女の両腕に装着された人工聖剣が共鳴し、音による壁が形成される。
普通なら、この壁を展開すればちょっとやそっとでは突破することは難しい。
「‥‥!!」
「うっ、がっ…」
自分の口からとは思えないほど、汚い声が漏れた。何が、起こったのかもはや理解することができなかった。
ただ、すぐに自分が壁に叩きつけられたことは理解した。
そう、しゃがんだ姿勢から動けなかったサラはドーンシャウトを起動した。
展開される音の壁――しかし、直後“彼”はそんなの関係ないと言わんばかりに彼女の頭に向かって蹴りを放つ。
その瞬間に、アインシュタインがディフェンスコマンド06を発動させ“彼”の放った蹴りの軌道を何とか変えることができた。
結果的に、蹴りは彼女の脇腹に命中しドーンシャウトも合わせて脇腹辺りの骨が全部折れる程度で済んだのだ。
「……!!」
“彼”は自身の蹴りの軌道を変えたアインシュタインに向かって攻撃を仕掛けようとしたが、彼女を前に停止した。
「そうだろう“アポロ”…君は決して仲間を傷つけられない。後は、暗示をかければ制御できるはずだ」
目覚めた瞬間、ポットを蹴破り讃頌会の基地を破壊し始めた諸悪の根源――
それは、かつて旧都陥落時に目を覚まし聖剣使い二人と人工聖剣使い500人の軍勢を一人で全滅させ、かつて讃頌会の前身となった組織の長を潰しに潰し回った上のものにとってはトラウマの根源のクローン体。
アポロ一号だった――
こんな感じに、讃頌会がものすごいアホな理由で滅びかけているとも知らずにナナシは嫌な予感と共に目を覚ましていた。
「…なんだろう」
頭の奥に何か引っかかっているような。夢を思い出せない時とおんなじくらい嫌な気分になっていた。
「バラ?…ああ、そっかアストラさんとイヴリンさんからもらったんだった」
白い花瓶の中にはまるでアストラさんのように輝く赤いバラが活けられていた。
アストラさんからは7本、イヴリンさんからは4本もらって合計11本も、もらっていた。
「ふわぁ…寝よ」
当然、バラの本数の意味なんて知らないナナシはそのままベッドに入り深い眠りに落ちていった。
アポロ一号
パンチ力(衝撃力): 80.0t
キック力(衝撃力): 100.0t
時速:230㎞
一応、これでも『聖剣ジ・アース』がないため弱体化している。
ちなみに、影山と戦った『最終決戦アポロ』よりも強い――と言うのも、もう30代後半でめちゃくちゃ体が衰えていた。
強さがわかりにくいかもしれないが、カタログスペックは仮面ライダークウガアルティメットフォームと同じ。
特殊能力ナシならン・ダグバ・ゼバと殴り合えるバカスペックとなっている。
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
-
読みたーい!(特にヤンデレ)
-
読みたーい!(ラブラブ!)
-
読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
-
いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
-
作者さんの自由で!
-
こんなアンケートする前に書け