ゼンレスゾーンゼロ ・ 聖剣   作:うどん米

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第104話・お前は欠陥品にすぎない

 

 

(初めてかもしれないな、リンとアキラ無しでホロウに潜るなんて…)

 

キャロットはあるから道に迷うことはないだろうが、それでも緊張してしまう。

そして、今回の依頼人の名前――いや、コードーネームは『トリガー』まさかの防衛軍絡みと来た。

 

そして、今回の目的は行方不明になり、連れ去られたトリガーさんの同僚である11号さんの救助――とのことらしい。

一体、どんな繋がりがあるかわからないが、そこも話のついでに説明してくれるらしい。

 

 

「今回の戦闘は私とナナシでやるわ。私たちが戦っている所を見てくれれば、それでいい」

「アンビーと戦うのは何だか久しぶりだね」

「わかりました。必要と判断した際には援護いたしますので、ご安心ください」

 

アンビーの言う通り、論より証拠。俺たちが戦っている姿を見て信用に値する人物なのか見極めるとのことらしい。

どちらかと言えば、トリガーの懸念は俺ではなくアンビーにあるように見える。

 

(それって、11号さんとアンビーの姿がそっくりなのと関係があるから…なのかな?)

「来た、ナナシ背中は任せるわ」

「俺も任せるよ!『真熱血パンチ!』」

 

現れたエーテリアスを、アンビーが電撃の纏った一線で、ナナシが炎を纏った拳で粉砕していく。

だが、思った以上に歯ごたえがなく俺たちが適当に突っ込んでいるだけでも戦闘は終了した。

 

 

「ダメ、敵が弱すぎる。この程度じゃ、私の戦いを披露した内に入らない」

「そうだね…ちょうど、ホロウも空気を読んでくれたみたい」

 

俺たちが強い敵をご所望と言うことで応えてくれたのか、先ほどまで出てきた小型のエーテリアスより一回り巨大なエーテリアスが二体出現した。

 

 

「アンビー!一体ずつで!」

「わかったわ」

 

相手の兵装はアピールしているのかと思うくらいわかりやすい近距離型。

こいつを相手にするならトリガーさんが担いでいるようなスナイパーライフルで狙った方がやりやすいだろう。

 

エーテリアスと視線が交差した瞬間、まっすぐスピードに任せて接近する。

 

「ムゲン・ザ・ハンドでもいいけど、なるべく技能で…ッ!!」

 

当然、それに合わせてエーテリアスも剣を振るうが、直前でブレーキをかけた俺の鼻先を掠める程度でからぶってしまう。

 

そして、そのまま重心が崩れた敵に向かって背後を取り、首と顔を掴み思いっきりねじ切った。

 

(懐かしいな、この戦い方。最初の方は、必殺技が熱血パンチしかなかったからなるべく節約してたんだっけ)

 

こんな戦い方をしていたら、アキラから元暗殺者じゃないかと疑われたり――まあ、実際はもっと酷かったのだが。

 

あの時は、ホロウについて何も知識がなかったから壁を前にして直進と言われて壁をぶち壊すの!?と少し驚いたのを思い出して感慨深さに浸っている内にアンビーも倒したらしい。

 

 

「なるほど…あなたは確かに、『あの』アンビーですね。間違いありません。個々の戦闘スタイルは、制止の狭間で本能的に醸成されるもの…履歴書や建前よりも、誤魔化しのきかないものでしょう」

「それはまるで、アンビーと似た戦い方をする人がいるみたいだね」

「ええ、その通りです。あなたと『11号』は…攻撃のパターンも、エーテルの使い方も…ほぼ、完全と言っていい程に一致しておりました。信じられません。まるで、貴方たちは…」

「姉妹よ。……もっとも『姉妹』と言う言葉の意味に、『同じ素体から作られたクローン』が含まれるなら、だけど」

「ん?」

 

突然、頭に入って来た単語に思わず思考が停止する。

整理しよう、まずアンビーが言ったこと『11号』の代わりに死んだのが私――そして、アンビーの言う通りなら11号さんとアンビーはクローンである。

 

何だか、似たパターンをどこかで聞いたことがある気がする。

 

「それは、つまり…シルバー小隊に関する軍内部の噂は、全て事実なのですか…?」

「貴方はどこまで知ってるの?」

「シルバー小隊がもう存在しない、と言う事のみです。生物学的手段で、兵士を量産する?…そのようなことができるはずありません」

「…私が知る限りでは、知能構造体以外はみんな、生物学的手段で生まれてくるはずよ。コウノトリの伝説だってそう。それに、ここにはもう一人証人がいるもの」

「…そういう事かぁ!?」

 

これまでの謎が点と点で繋がり始めた。

まず、なぜ俺が連れてこられたのか、それは単純に俺がアポロのクローン。『アポロ十一号』だからだろう。

 

(でも、言ってないはずなんだけど…?)

 

俺がクローンだと知っているのは、アキラ、リン、対ホロウ六課のみんな、カリュドーンの子も何人か知っているはずだ――

 

 

「どういうことです?なぜここで、ナナシさんが反応するんですか?」

「…それは、俺がアポロって言う人間のクローン…『アポロ十一号』だからだと思うよ」

「あの子たち“以外”にもいるんですか…」

 

まず、クローンの基礎となった技術は人工聖剣の燃料とするためのチンパンジーと人間の遺伝子を交配させて生み出した存在だった。

 

その技術を応用して造られたのがアポロシリーズたちであり、アポロ一号~アポロ十号までが誕生し、全て旧都陥落で命を落とした。

 

そして、同時期に誕生したのがアンビーたちなのだろう。

 

(懲りねぇ、何でいつの時代も倫理を踏み外すかなぁ…)

 

追い詰められた状況だから、とりあえずチャレンジの精神でやってしまうのか。

人員が足りないなら生産しようぜ、なんて考え付いて実行に移した時点でもう人類の敗北な気がする。

 

「ですが、兵士の量産…そんなことが可能なのであれば、何故…」

「……クローンと言う肉の壁があるのに、どうして替えのきかない人間の兵士が死地に送られるのか…でしょう?」

「アンビー…もっと、オブラートに包まない?」

「大丈夫、私もナナシもこんなことで怒ったりはしないわ」

 

何故か、勝手に怒らない判定されたけど、確かに俺にはアポロ一号~十号までの面識はない。

それに、確かにトリガーの言う通りクローンをいっぱい送った方が良いのも事実なんだろう。

 

「クローンはコストが高いから…彼らは、きっとこう答えるでしょうね。一人で戦場を左右できるシルバー小隊の兵士…その一人当たりのコストは、優秀な将校を育成するのにかかる弔慰金を含めた全額と比べても、そう変わらないはずよ」

「………」

 

要するに、替わりのきかない人間の兵士を育成して、死んで家族に見舞金を出すのとそう変わらない費用が掛かるのであれば兵士を育成したほうがいいということだ。

 

「肉体や意識は重要じゃない。価値があるのは、抜きんでた身体能力や頭脳、反射神経。完全に解析されないまま研究が中止になったことで、それはより貴重になった。『量産』しても、優秀な素質が完璧に継承されるはとは限らなかったから」

「え?」

 

それは、初耳だった。なぜなら、アポロ一号~十号まではアポロの魂が入っていたとはいえ言語能力を失い、すべてを忘れたとしても自爆特攻していったのだ。

 

(どういう事?魂レベルと言うか、怨念レベルで体に染みついてるってこと!?)

 

自分のクローンにすら遺伝するその執念には若干、敬意を評するがそれによって俺の体が反射的に動きアキラとリンに大迷惑をかけているのも事実なのだ。

 

 

「知らなったの?まあ、ナナシは素質を十分継いでるんでしょうね。だけど、私たちの時は『欠陥品』に、兵士としての価値はない。彼らはこう言うでしょうね」

(欠陥品…)

 

それは違う、違うんだよ。俺は、間違いなく欠陥品だ。

アポロと同じ素養を持ちながら、これまでのアポロ達のようには戦えず、ろくに仲間も救えず、寿命も瞬きのようにしかない、欠陥品。

 

その失敗作が今の今まで生きていたのは、仲間たちと両親の愛があったからこそである。

 

 

「もしかして、今回の11号さんの連れ去りもそのシルバーの技術を悪用したい一つ達がした可能性があるってこと?」

「ええ、何者かが『シルバーの技術』を蘇らせたと私は思ってるわ」

「しかし、私が知る限りでは、当時の資料は全て焼却されたはずです。もしや防衛軍の内部に…いえ、違いますね」

「そんな回りくどい方法使う必要はない…そういう事だよね」

 

もし、本当に軍が秘密裏に技術を復活させようとしているならばわざわざ11号さんを攫うなんてせずとももっと方法がある。

それに、トリガーさんに異常を察せられている時点でどうにもお粗末に感じられた。

 

 

「ええ、仲間だからこそわかります。彼女は上層部からの命令であれば、大人しく手術台に横たわるでしょうから」

「…そう。今の彼女は…そういう感じなのね」

「彼女は忠実な兵士の規範です。あなたの記憶の中の『11号』とは違うのですか?」

「私の記憶に…『11号』と言う名前はないわ。あるのは…」

 

哀愁漂う表情で、何かアンビーが呟こうとしたその時、周囲からわらわらとエーテリアスが出現しだした。

 

違和感があるのが、このエーテリアスたちがまるで何かから追い立てられ、現れたように見えたからだ。

 

「このエーテリアスたちを追い込むような陣形…知ってるわ」

「アンビーが“知ってる”ていう事は…もしかして…」

「シルバー小隊の遺産の一つよ。前線で直接戦うよりも、高校事が得意な『姉妹』がいたの」

「とりあえず、エーテリアスはぶっ飛ばす!」

 

最後にアンビーはTW-CA参式――そう呟いていた。

もし、俺の予想が正しければシルバー小隊を復活させようと目論んでいるのはこの戦術を知っているもの、それを実行に移せる人物――

 

 

「なんて、今は考えている時間じゃないかっ!!」

 

勢いよくその場から跳躍し、密集したエーテリアスめがけて渾身の飛び蹴りを披露する。それをもろに食らった奴らはバランスを崩しその場によろめいた隙に首をねじ切り、核を粉砕した。

 

「まるで、ゴリラ…いえ、何でもありません」

「ナナシのその戦い方、久しぶりに見る気がするわ」

 

まるで、懐かしむように微笑むアンビーは彼の後に続きエーテリアスをバッタバッタと切り裂いていき、トリガーは少し後方から二人の援護を行った。

 

 

「あの盾持ち…厄介だな」

「どうする?私が囮になってその隙にナナシが攻撃する、それでどう?」

「それもいいけど、最近やっと回復して体が鈍ってるから正面から崩す!」

 

エーテリアスの首を刈り取った後、アンビーの近くまで跳躍する。

その後、まるで投擲のように足を180度振り上げ力強く踏みしめ、回転する拳と共に必殺技の名前を叫んだ。

 

 

『正義の鉄拳G4!!』

 

 

周囲の空気を巻き取りながら進んでいく、黄金の拳はエーテリアスの盾を貫き粉砕した。

ただ、その時たちを見つめる視線の一つが移動し、裂け目の中に消えていった。

 

(あの後姿…アンビーとそっくり)

「アンビーもしかしてあの恰好って」

「当時のシルバー小隊の制服よ」

 

既に状況証拠は揃ってしまった――アンビーの号令と共に俺たちは逃げた犯人らしき影を追って裂け目に入って行った。

 

 

 

ちょうど入ってすぐに、俺たちはラボらしき施設の外で霜で覆われた冷たい扉に体を寄せた三人は険しい表情で中の動向に耳を澄ませている。

 

「『11号』はここに閉じ込められているようですね。ここからのプランでは、どう動きますか?」

「待って、少し移動しよう」

 

視線だけでなんとなくここにいると話が聞こえる可能性があるから動こうと説明する。

それに応えてくれた二人を連れて足音を立てぬよう、隠密に徹してその場から離れた。

 

 

「アンビー、これからのプランは?」

「簡単よ。『プロらしく』……地図がなくても説明できる。潜入して11号を助け出す」

「なるほど、では続きを」

「以上よ」

「確かに、この実質的に人質が取られているよう状況で隠密は良い作戦だと思うけどさっくりしすぎじゃない?」

「これは私一人で決着をつけないといけないの。完遂できる人がいるとしたら、それは私だけ…ナナシがぎりぎりってところかしらね」

 

彼女の瞳はギラギラと燃えているようだった。

もし、隠密中心で行くなら、行くべきはナナシだ。しかし、そう言った合理性を排除して感情で私が行くと言ったアンビーを見て、どうにも眩しく見えた。

 

 

「わかった、でもアンビー。もし、中で何かあったら…」

「大丈夫、ナナシが助けに来てくれるように全力で叫ぶわ」

「頼んだよ」

 

その会話を最後に、アンビーは見張りのいないダクトからラボに侵入した。

鉄製のダクトは骨の髄まで凍るように冷たく、彼女の肌に痛みが走る――

 

「…何だか、寒くないかこの辺り?」

「外からでもわかります。空気の匂いも妙ですね」

 

周囲にいる俺たちですらわかるほど冷え切っていた。まるで、熱されたコンピュータを冷やしているように、中にいるアンビーは冷蔵庫にでも入っている気分だろう。

 

 

「……!」

「ドンドドドンドン…」

 

その時、通信機越しからアンビーの物ではないが限りなく近い声が響いた。

 

「…誰か来たようですね。どこか隠れられますか?」

「…大丈夫、ここは暗いから…それに機械の音も大きし、気づかれないと思う」

 

 

 

「あら?まだ目が覚めていないの、『11号』?あなたの体からけっこう細胞を取ったし、薬の実験もしたけど…このくらいでギブアップなんてしないわよね?ね?」

 

だが、11号に反応はない。既に衰弱しきっており、まともに返答できないようだ。

 

「末っ子だから…甘えん坊なのね。でも、ダメ。ツイッギーお姉ちゃんと一緒に遊びましょう?」

「うっ…」

「そうそう、そうでなくっちゃ。話の続きをしましょう?私、どこまで話したかしら」

 

自信をツイッギーと名乗った少女は、その瞳にはその見た目からは想像もできない狂気が滲んでいた。

 

「…ああ、そうだった。手足を失くした私が、優しいゴミ漁りに拾われたってところね。ふふっ、優しい人たちだったなあ…」

 

彼女はまるで懐かしむかのように自身の人生を11号に語り続けた。

 

 

ゴミ漁りの人たちに拾われた彼女は、その後売られ、買われた――その後も、ツイッギーに使い道を見いだせなかった買い手はまた彼女を売った。

 

結果、闇市に流れて、色んな商品やいわくつきのブツ、特殊な改造を施されたボンプと一緒に、オークションにかけられたわ。

 

「あの時…シルバー小隊って、血と肉で出来たボンプみたいだなって気づいたの。肉と金属の唯一の違いは…もっと痛いってこと」

 

(……)

 

彼女の言葉は俺にも的確に命中した。だけど、同じはずなのにここまで境遇が俺と彼女で違うのは俺が本当に周りに恵まれたからだ。

 

 

両親から愛をもらい――返せないくせに

 

 

仲間から信頼を寄せられ――信頼できないくせに

 

 

皆から情を向けられた――それが、何なのか理解できないくせに

 

 

もし、俺とツイッギーの立場が逆だったら――両親からの愛を返し、仲間を信頼し、皆の情を理解し応えることができたのかもしれない。

 

そして、そんなことを思う俺はやっぱり――

 

(…欠陥品(失敗作)なんだな)

 

 

 




ナナシの心を的確にぶっ壊していくよ~!

皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?

  • 読みたーい!(特にヤンデレ)
  • 読みたーい!(ラブラブ!)
  • 読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
  • いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
  • 作者さんの自由で!
  • こんなアンケートする前に書け
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