「そして私は、彼女に出会った」
おかしくなった彼女の声帯から、身の毛もよだつような真実が聞かされた。
「彼女は闇市で手足のない私を買い取ると、お腹を切り裂いて、臓器を確認したの。知ってるでしょう?私たちには麻酔が効かない…ふふっ、痛すぎて死んじゃうかと思った」
いつの時代にも倫理観の欠如したヤバい奴は存在する。
おそらくツイッギーを買ったのはアポロが出会った悪辣の権化であるティーフェ博士のような存在だろう。
「その時、彼女は微笑んだ。今思うと…私の体の異常に気づいたんでしょうね」
彼女は軍医だった、軍を除隊させられてからは闇医者になりシルバー小隊のこともよく知っていたらしい。
その後も、何度も手術をつけて、今のような機械の体を手に入れた。それでも、彼女にとっては気にならなかった。
戦うつもりはなく、立って字を書いたり計算ができれば十分だと思っていたからだ。
「私の価値は…私の記憶。壊れてなかったのは脳だけだから。だから、覚えてるの。家の感覚、姉妹たちと過ごした日々、私たちにむけられる期待…全部覚えてる。体調がいれば、私たちシルバー小隊はずっと最強だって…」
その後も、闇医者の研究を手伝い。ついには、シルバーの技術を再現することすら可能になったことで自分自身の手で姉妹たちをこの世に迎えたことすらあった。
「全部覚えててよかった。生き残りで、全てを覚えてる私がシルバー小隊を復活させなくちゃ。それが使命。ここは私の、私たちの家だから」
同情も出来ない、それほど俺と彼女はかけ離れていた。おそらく、元々の製造理由やら何やらが違うからこそここまで運命が変わったのだろう。
だけれど、同じクローンである彼女が悲痛な人生を送っていることにナナシは確かにショックを受けていた。
「それで、私の計画、気に入ってくれた?アンビー隊長」
「…いつ気づいたの」
「……!」
アンビーがダクトから降りてくると、すぐそこには口がマスクで覆われたアンビーと同じ用紙をしていた少女から睨みつけられていた。
「私の子犬がとっくに気づいてたわ。指示を飛ばして、もう人を呼ばせてる。隊長が会いに来てくれて、本当に嬉しい。ちゃんと話しておかなきゃって、ずっと思ってたの」
「彼女を返して。そのあとで、ちゃんと話を聞くわ」
「欲しいなら奪りに来て」
アンビーはすぐさまラボを飛び出しナナシとトリガーとの合流先に向かった。
「ナナシ、トリガー!」
「分かってる、それも早急に片付けるだろ!『ムゲン・ザ・ハンドG2!』」
アンビーがダクトから脱出し始める、同時刻には俺たちは既に襲撃を受けていた。もちろん、奇襲なんて受けなかったし8本の手が的確に相手を吹き飛ばしていく。
「こいつら、あんまり強くない…どうして?」
ちらっとアンビーに似ているがシルバー小隊の制服に身を包んだ少女たちに目を向ける。
その二人の視線は完全にアンビーに注がれており俺たちは蚊帳の外と言う感じだ。
「トリガー!奥のをお願い!」
「わかりました!」
その後も、特に苦戦することなく敵を全滅させることができた。
「さっすが、アンビー隊長。こんなクズ共、あなたの剣の錆にしかならなかった」
「……?」
「うるさいわね、バカ。『どっちの味方か』なんて…私は私の味方に決まってるでしょう?」
どうやら、マスクをしている方の声を彼女だけは聞き取ることができるらしい。
そして、こちらにアンビーがいるからと言ってシルバーの復活を辞める気がないのもよく理解した。
「ただ、あなたは私が作ったからアンビー隊長の全盛期を知らないのね。あんなことが会ったんだもの。忘れると思っていたのに…はっきりと覚えてるわ。隊長、軍の制服はもう捨てちゃった?」
「ツイッギー…」
「私だったら、パジャマに使うわ。毎日、過去の栄光と苦悩に包まれながら眠るのよ。素敵でしょう?」
「ツイッギー、あなたが生きていること…今日まで知らなかった」
アンビーの気持ちは察するに余りあった。
俺からすれば、かつて旧都陥落で死んだと思われていたアポロ達に――兄弟が突然現れて自分を生産しようとしている――なんて、言っているようなものだ。
「私はいつも戦闘が一番苦手だったから。そんな私が生き残るなんて、隊長が予想できなかったのも当然ね」
「あなたは戦闘が苦手だったわけじゃない。たとえ力が足りなくても、それを補って余りある頭脳があったわ」
「そうね。あなたがそう言ってくれたこと、もちろん覚えてるわ。私を残すよう研究員を説得してくれたし、『自分の価値を正しく評価して』って励ましもくれた」
きっとアンビーはものすごく頼りになる隊長だったんだろう。ツイッギーがアンビーに向ける眼差しも言葉も確かに尊敬が感じられた。
「そう、私には価値がある。今になって、それを理解したわ。役立たずは簡単に死ねるけど、私は違う。私には大切な価値があるから。…そして、それを見出してくれる誰かがきっと現れるの。昔のあなたみたいに」
「……」
「時々、思うの…私がシルバー小隊じゃなかったら、って。ただの新エリー都市民だったら、今頃はホワイトスター学会にいたかも。『特定のホロウにおけるエーテルの三つの形態』とか、研究してたのかな?」
その言葉は、邪兎屋に入り今を謳歌しているアンビーに遠回しに告げられたようにも感じられた。
「私は確かに頭が回るけど、賢さにもいろんなタイプがあってね。利益を奪い合い、嘘を見抜き、限られたリソースでこの世界を生きて抜く知恵なんて、シルバー小隊で育った私は持ってなかった。全部…この数年で少しずつ学んだけどね」
「辛かったのね。それが、あなたがこんなことをする理由?」
「理由なんて必要ないわ。少なくとも、あなたを説得する必要はないもの。私はただスポンサーを納得させられたら、それでいいから」
(スポンサー?)
今、サラっと聞き捨てならない発言がツイッギーから飛び出した。
スポンサーと言うことはつまり、このいかれた計画を支持する奴らがいるという事であり、さっきのお粗末な援軍もそこからであると考えられる。
「あなたは誰よりもシルバー小隊の罪深さを知っているはず。こんな技術は二度と使われるべきじゃない…」
「罪深い?あなたや私、そして姉妹たちが…みんな罪を背負ってるって言いたいの?」
「私“たち”は、罪そのものよ」
一瞬、ちらっとアンビーは俺の方に視線を向けた。それに対し、ただ頷くことしかできなかった。
ただ、それはツイッギーたちにとっては一番言われたくない言葉であっただろう。
「だから、私たちは滅ぶべきだって?」
「少なくとも、罪の中で生き続けてはいけないわ」
「ああ、なるほど。勉強になったわ、隊長‥‥ハンバーガーを食べて、映画を見て、仕事を見つけて、そこにいる奴とデートをするのが私たちのすべきことだった…手足を失くして、痛めつけられて、売り飛ばされて、必死に生き残るべきじゃなかったわけね?」
ギロっと俺を睨みつけながらツイッギーはアンビーと自身の境遇をすらすらと述べた。
「アンビー隊長、あなたのことは好きだし何があっても嫌いになんてなったりしないわ。でもね、だからって私の前で、そんなことを軽々しく口にしないで……」
「私の居場所はわかってる、そうでしょう?」
悲しみと少しの絶望が折り重なった声色で必死に伝えるツイッギーに対してアンビーはとても冷静に、平坦にそう言った。
「私がどこに住んでいて、どんなハンバーガーを食べて、どんな映画を見て、どんな人と会っているのか…全部知ってるんでしょう?なら、私を探しに来てツイッギー」
「……!」
「私はあなたの隊長。あなたにふさわしい罰を、私が直々に与えるわ。そして…一緒に罪を償う」
「隊長…」
「あなたが、更なる過ちを犯す前に…事態が深刻になる前に見つけられてよかった、ツイッギー。ちゃんと話さないといけないことがたくさんあるけど、それはまた今度にするわ。今は…」
言葉は遮られた。アンビーは呆然とした表情で、目の前に投げつけられた人の体を見つめる――それは青ざめた顔の『11号』だった。
幸い、体がまだわずかに動いており、呼吸をしている。
「お気に入りを返してあげる。これで貸し借りなしよ、アンビー」
「ツイッギー?」
「貸し借りなしって言ったの。今後、二度と隊長面してお説教なんてしないで」
ツイッギーはぐったりした『11号』を蹴り飛ばそうとする前に、ナナシが即座に前に出ると彼女を抱き上げトリガーに引き渡す。
そして、これは明確なアンビーとの決別であった。
「『11号!』ああ、起きてください、『11号』…アンビー、ナナシ。彼女の容体は極めて危険です。直ちにホロウから脱出いたしましょう」
「ツイッギー…必ず戻ってくるわ。あなたをひとりにはしない」
「気持ち悪い。やめてって言ったでしょ。私と同じ顔が、要らないお節介を焼いて来ようとするのは耐えられない」
「節介は焼いていないわ。顔は…慣れてくれたらいいのだけど」
――ツイッギーは去って行くアンビーの姿をじっと見つめていた。
だが、アンビーには悪いがツイッギーはもう手遅れに見えた――あの目は、もう超えちゃいけない一線を越えたように見えたのだ。
俺たちは、11号のために一度ビデオ屋に戻って来た。
「やあ、ナナシ。僕たちに何も言わず勝手にホロウに行った理由を聞かせてもらおうか」
「いや、その今回は俺は無実な気がするんですけど…」
11号を預けた後、案の定二人に何も言わずホロウに入った俺は工房の端っこで正座させられながら弁明していた。
アンビーも証人として俺の弁護を買って出てくれたようで二人は説明を聞いてうんうんとうなずいていた。
「でも、途中で連絡の一つはできたよね?」
「…はい」
「ごめんなさい、ナナシ。私は11号を見てるわ」
だが、弁護は失敗し今一度報連相の大切さを教え込まれる結果となった。
そして、数分経って11号の状態がわかったものの体温、心拍数、脈拍、どれを取ってみても安定しており、むしろ安定しすぎているほどだ。
だが、それでも彼女が目を覚ます様子はなく、不自然さを感じさせた。
だから、ソファに寝かされている11号に近づき――ある名前をそっと呼んでみた。
「……」
「‥‥これじゃダメみたい」
落胆して手を放した。立ち去ろうとしたその時――
「……ここは…どこ?…私は?」
11号が目を覚ましたのだ。
「…目が覚めたのね、ハ…」
「よかった。…心配しましたよ、『11号』…」
「『11号』、それが…私の名前?変な名前、『161051号』と間違えやすいし…そんな呼び方をするのは愚か者だけね」
だが、様子がおかしい。自分を11号と名乗っていたことは確かだし、彼女の名前が『161051号』だとは聞いたことがない。
「元気なのは何よりですが、自分のことをそのように言わないでください」
「もしかして、記憶障害?」
「ええ、見た目よりも怪我の具合が酷いみたい。――シルバー小隊のクローンが重傷を受けた時、真っ先に支障をきたすのは記憶だったから。昔の私も…何も思い出せない時期があったわ」
怪我によって、記憶に障害が残る。
それは確実に俺には存在しない欠点だ、その証拠にアフロディに腕をやられようが、片腕がぶっ飛ぼうが、一度死んだとしても記憶を俺は持ち続けている。
(…あれ?なんで、死んでも記憶を持ってるんだ?)
よくよく考えてみれば、それはおかしい。
記憶と言うのは魂に刻まれるものではない、脳に刻まれるのだ。だというのに、まるっきり肉体が変わったはずの俺にはちゃんと記憶が備え付けられている。
それどころか、体にはこれまでの戦闘経験がしっかりと刻み込まれている。
俺は、果たして本当にナナシなのか?ただのそっくりさんではないのか?
そもそも、俺って一体?
理の律者で作り出した俺は、果たして俺なのか?なら、全てが終わったあの日に埋めた自分自身は俺じゃなかったのか?
「…どういうことだ?」
「どういうことだもないよ、また考え事をしていたのかナナシ」
「あ、アキラ……あれ?アンビーとトリガーは?」
どうやら、結構な時間考え事をしていたらしい。工房を右往左往見渡しても、アンビーとトリガーの姿はそこにはなかった。
「二人ともチョップ大将の所に行って11号のためにラーメンを買いに行ったよ。それにしても、相当考え込んでたねナナシ」
「ああ、二人が何度呼んでもぼーっとしてたし、何かあったのかい?」
「…いや、すごい下らないことを永遠と考え続けちゃっただけ!二人には後で謝らないとね」
そう、実に下らない。結局のところ、あの日土に埋めたナナシも今生きているナナシも同じ存在であることに変わりはない。
記憶と魂が同じなのだし、特に困りごともないので気にすることもない。
そうこうしていると、先にアンビーが帰って来ていた。
「ナナシ…プロキシ先生にもすごく迷惑をかけたみたい」
「その通りだ。これは全部邪兎屋にツケておくべきだな」
「今の私は、邪兎屋のアンビーじゃないから」
「そう言われてもねぇ…歩き方だって、喋り方だって、それに見た目だって、ぜーんぶ『邪兎屋のアンビー』だよ。でしょ?」
リンの言う通りだ、いくら過去に何があろうともアンビーはアンビーだし俺たちが見損なうこともない。
「……」
「やっぱり、アンビー少し疲れてるみたいだね。ゆっくり休んだ方が良いよ……もし、まだ寝たくないなら気分転換くらいは付き合うよ」
「…最近の映画で、おすすめ…ある?」
「もちろん!アストラさんが出てる映画でね‥‥‥」
この日は、アンビーと一緒に今日の辛いことを少しでも忘れてもらえるように寝落ちするまで映画を楽しんだ――
アポロの仲間たちのコードネームの元ネタ
アポロ→『光龍騎神サジットアポロドラゴン』
タウラス→『金牛龍神ドラゴニック・タウラス』
エリシオン→『宝瓶神機アクア・エリシオン』
などなど、バトスピから取ってます。特に意味はない…ほんとだよ?
皆は閑話とか、IFの話とか読みたい?
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読みたーい!(特にヤンデレ)
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読みたーい!(ラブラブ!)
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読みたーい!(好感度測定器みたいなやつ)
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いや、読みたいのは本編だ!遅れてんぞ!
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作者さんの自由で!
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こんなアンケートする前に書け